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微生物検査

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吸引痰からStreptococcus pneumoniae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pneumoniae
■培地名:-
■年 齢:71
■性 別:男性
■解 説

①右側スライド
 血液を含む粘液性の薄黄色を呈した吸引痰の画像を示した。

②左側スライド
 71歳、男性、抗菌薬投与の無い吸引痰のグラム染色像で、1000倍の強拡大にて多数のグラム陽性双球菌が観察され、かつ鮮明な好中球の背景が認められることより急性炎症のStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)感染症と推定された。


・肺炎球菌の薬剤耐性菌判定基準
疾患薬剤投与法S(感性)I(中程度)R(耐性)
非髄膜炎PC注射剤≦24≧8
PC経口剤≦0.060.12~1≧2
髄膜炎PC注射剤≦0.06 ≧0.12

μg/mL


喀痰からStreptococcus pneumoniae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pneumoniae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側下スライド 
 100倍の弱拡大にて、多数の好中球が認められ、Geckler分類では5群(白血球数>25個/視野、扁平上皮数<10個/視野)であった。

②右側上、左側上・下スライド
 1000倍の強拡大にて、多数のグラム陽性双球菌(菌体の周囲が白く抜けた莢膜も認める)が観察され、かつ鮮明な好中球とフィブリンが析出した背景が認められる事より、急性炎症のStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)感染症と推定された。

・ Geckler分類(100倍での鏡検)
群別白血球数扁平上皮数
1<10>25
210~25>25
3>25>25
4>2510~25
5>25<10
6<25<25

 ※数値は1視野あたりの細胞個数を表している。
 ※良質な検体と判断できる4~5群の喀痰を採取する。
急性炎症時の喀痰からStreptococcus pneumoniae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pneumoniae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上・下スライド
 鮮明な好中球と多数のグラム陽性双球菌が観察されたため急性炎症時のStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)感染と推定された。

②右側上・下スライド
 同一患者に抗菌薬が投与され結果、多数の好中球は認められるがS. pneumoniaeの菌体は認められなかった。
 抗菌薬投与が有効な場合には、すみやかに臨床材料から細菌が消滅するためグラム染色は抗菌薬の有効性を判断するには最も安価で迅速性に適した検査法のひとつと考えて良い。
 培養検査の結果、Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)と同定された。


吸引痰からStreptococcus pneumoniaeEnterobacter cloacae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pneumoniae
     Enterobacter cloacae
■培地名:-
■年 齢:8
■性 別:男児
■解 説

 1000倍の強拡大にて観察した結果、少数の好中球(急性から慢性への移行過程と推定)とグラム陽性双球菌が観察され、かつ細長いグラム陰性桿菌も認められた。グラム陽性双球菌はStreptococcus pneumoniae (肺炎球菌)を疑ったが、グラム陰性桿菌は細長い形態を呈していたことよりPseudomonas aeruginosa(緑膿菌)を推定した。
 培養検査の結果、 グラム陽性球菌はStreptococcus pneumoniaeであったが、グラム陰性桿菌はP. aeruginosaではなく、腸内細菌科細菌のEnterobacter cloacaeと同定された。

※腸内細菌科細菌は丸太いグラム陰性桿菌として認識されているが、本症例のように非発酵性グラム陰性桿菌と思わせる形態を示す場合もあるため起炎菌の推定には十分注意する必要がある。

抗菌薬投与後におけるStreptococcus pneumoniae の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pneumoniae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例では好中球の破壊像が観察されるため感染から時間が経過した喀痰と推定される。また、グラム染色像はStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)と推定される形態を示しているが、すべてグラム陰性双球菌として染色された。この要因としては抗菌薬の投与が原因と考えられる。全体的にはグラム陰性桿菌様の形態も観察されるためグラム陽性双球菌と陰性桿菌との混合感染を疑った。
 同患者の髄液および咽頭粘液、鼻汁分泌物からは多数のS. pneumoniaeが培養で検出された。本症例の血液培養では僅かにS. pneumoniaeのみが検出された。従って、グラム陰性桿菌様と思われた細菌はグラム染色の陰性化にてS. pneumoniaeをグラム陰性桿菌と見間違えた。このようにS. pneumoniaeは自己融解あるいは抗菌薬の投与によりグラム陰性化し易い傾向にあるため、十分に臨床背景を考慮しながら鑑別することが重要と言える。
喀痰からStaphylococcus aureus(MRSA)が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Staphylococcus aureus(MRSA)
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 グラム染色では好中球に貪食された多数のグラム陽性球菌を認めるが、一部の菌体では陰性化した像も認められた。
 貪食された菌体で陰性化する要因としては細菌が貪食されたことで細菌の増殖能力が低下し、かつ細胞壁の合成も阻害されるため細胞壁が薄くなったことが要因と考えられる。
 培養検査の結果、Staphylococcus aureus(MRSA)と同定された。
吸引痰から複数菌が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pneumoniae
     Moraxella(Branhamella)catarrhalis
■培地名:-
■年 齢:1
■性 別:男児
■解 説

①左側上(1000倍)、右側上(拡大)スライド
 好中球に貪食されたグラム陽性短桿菌様の形態が観察された。観察時点ではCorynebacterium spp.を最も疑った。
 培養検査の結果、Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)と同定された。

※グラム染色所見と培養結果が異なった要因としては、抗菌薬の使用(不明)により双球菌状の形態がフィラメント化したことで短桿菌様の形態に観察されたと考えられた。

②左側下(1000倍)、右側下(拡大)スライド
 好中球に貪食されたグラム陰性双球菌の形態が観察された。観察時点ではMoraxella (B) catarrhalisを最も疑った。
 培養検査の結果、 Moraxella (B) catarrhalisと同定された。

※喀痰のグラム染色所見で貪食されたグラム陰性双球菌の形態が観察された場合にはMoraxella (B) catarrhalisを念頭において検査することが重要と言える。

喀痰からMoraxella(Branhamella)catarrhalis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Moraxella(Branhamella)catarrhalis
■培地名:-
■年 齢:35
■性 別:女性
■解 説

①右側上、右左側下スライド
 喀痰の好中球に貪食された多数のグラム陰性双球菌が観察された。形態的にはNeisseria gonorrhoeae(淋菌)やNeisseria meningitidis(髄膜炎菌)と同様の染色像を呈するが、呼吸器外来の自然痰のため Moraxella (B) catarrhalis が疑われた。
 培養検査の結果、Moraxella (B) catarrhalisと同定された。

Moraxella (B) catarrhalis の特徴

  1. グラム陰性双球菌(直径1.0µm)で腎臓を2個接合した形態を呈する。
  2. 莢膜、芽胞、鞭毛は保有していない。
  3. 至適温度:37℃、偏性好気性菌で血液寒天培地および普通寒天培地に発育できる。
  4. カタラーゼ、チトクロムオキシダーゼ、Dnase産生能は陽性で硝酸塩を還元できる。
    ただし、糖の分解性は認められない。
  5. 健常者の鼻咽腔に常在するが、時に呼吸器感染症、中耳炎、結膜炎を起こす。
  6. 90%以上はペニシリナーゼ(β-ラクタマーゼ)を産生するためペニシリン系抗菌薬に耐性を示す。

※ペニシリナーゼはペニシリン系の抗菌薬を分解し、肺炎球菌やインフルエンザ菌を保護する作用がある。

※治療にはβ-ラクタマーゼ阻害剤との併用薬やセフェム系、カルバペネム系抗菌薬が有効である。

喀痰からCorynebacterium pseudotuberculosis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Corynebacterium pseudotuberculosis
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 ハの字形で短桿菌状のグラム陽性桿菌であるCorynebacterium spp.を推定した。Corynebacterium spp.は皮膚あるいは口腔内に存在する常在菌として考えられているが、免疫が低下した患者などでは日和見感染菌の起炎菌となる場合があるため患者の背景を参考に検査を進めることが重要である。グラム染色でCorynebacterium spp.の菌種を推定することは出来ない。
 培養検査の結果、Corynebacterium pseudotuberculosisと同定された。
喀痰からKlebsiella pneumoniae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Klebsiella pneumoniae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 喀痰のグラム染色では丸太い短桿菌がみられ、一般的には大腸菌などの腸内細菌科細菌が疑われるが、一部の菌体では菌体の周囲が白く抜けた莢膜と思われる像が観察された。Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)は太長いグラム陰性桿菌と教科書には記載されていることが多いが、実際には大腸菌と思われるような丸太い短桿菌として観察されることが多いので注意する必要がある。
喀痰からPseudomonas aeruginosa が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Pseudomonas aeruginosa
■培地名:-
■年 齢:61
■性 別:男性
■解 説
 喀痰のグラム染色では好中球に貪食されたグラム陰性桿菌の伸長化が観察された。本症例では好中球に貪食されたグラム陰性桿菌であることより起炎菌の可能性は極めて高い。
 本症例で貪食されたグラム陰性桿菌が腸内細菌科細菌か非発酵性グラム陰性桿菌かを鑑別するのは困難と言える。
 伸長化はスフェロプラストと呼ばれ、細胞壁合成阻害薬(主にβ-ラクタム系抗菌薬)によって起こる。通常、 β-ラクタム系抗菌薬は細胞壁の合成を阻害するため細胞壁が薄くなる。細胞壁が薄くなると菌体内の内圧が高いため細菌は伸長化しながら最終的には溶菌して死滅する。ただし、伸長化の過程で抗菌薬の影響が無くなると伸長化した菌体は回復し、数箇所に隔壁が形成され細菌の分裂がすぐに始まる。そのため、細胞壁合成阻害薬を使用したグラム陰性桿菌ではPAE(post antibiotic effect;ある抗菌薬が微生物に短時間接触した後に持続してみられる増殖抑制効果)は無いと言われている。
 培養検査の結果、 Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)と同定された。
喀痰からM型Pseudomonas aeruginosa が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Pseudomonas aeruginosa(M型)
■培地名:-
■年 齢:70
■性 別:男性
■解 説

①左右側スライド
 菌体の周囲にピンク色に薄く染まった物質はグリコカリックスと呼ばれ、アルギン酸と呼ばれる粘性の高いムコ多糖類で構成されている。このグリコカリックスが菌体を覆い込んで薄層を形成することをバイオフィルムと言う。バイオフィルムは消毒薬や白血球などの貪食にも抵抗性を示す性質がある。
 Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)のバイオフィルム形成は、遺伝性疾患である嚢胞性線維症患者に対する緑膿菌感染の原因となる。このバイオフィルムは気道内の粘液に形成され、P. aeruginosaの生息場所となる。
 M型のKlebseilla pneumoniaeでも菌体の周囲は莢膜の保有によりピンク色に染まるが、その染まり方は菌体周囲のみに対し、M型のP. aeruginosa はグリコカリックスが不規則に数個の菌体を覆うように存在している。
 培養検査の結果、M型Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)と同定された。

・多剤耐性P. aeruginosaの判定基準
 多剤耐性緑膿菌(MDRP)は5類感染症で定点把握の対象菌種である。

※IPM≧16µg/mL, AMK≧32µg/mL, CPFX≧4µg/mLの条件を満たした場合にMDRPと判断する。

喀痰からPseudomonas aeruginosa(M型)が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Pseudomonas aeruginosa(M型)
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

 菌体の周囲を覆うピンク色に薄く染まった物質はアルギン酸と呼ばれる粘性の高いムコ多糖類でグリコカリックスと呼ばれている。このグリコカリックスが菌体を覆い込んで薄層を形成することをバイオフィルムと言う。バイオフィルムは消毒薬や白血球などの貪食にも抵抗性を示す性質がある。本症例では菌体の湾曲化とグリコカリックス様の物質を認めた。
 培養検査の結果、M型Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)と同定された。
 P. aeruginosaのバイオフィルム形成は遺伝性疾患である嚢胞性線維症患者に対する緑膿菌感染の原因となる。このバイオフィルムは気道内の粘液に形成され、P. aeruginosaの生息場所となる。

・多剤耐性P. aeruginosaの判定基準
 多剤耐性緑膿菌(MDRP)は5類感染症で定点把握の対象菌種である。

※IPM≧16µg/mL, AMK≧32µg/mL, CPFX≧4µg/mLの条件を満たした場合にMDRPと判断する。

吸引痰から多剤耐性Acinetobacter baumanii を検出した症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Acinetobacter baumanii
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

 Acinetobacter baumanii はグラム陰性双球菌として一般的に観察されるが、本症例のように短桿菌として認められる場合もあるため本症例でA. baumanii を推定することは困難である。
 培養検査の結果、多剤耐性Acinetobacter baumanii と同定された。

Acinetobacter baumanii の特徴

  1. 土壌や下水などの自然界に広く生息し、病院内の環境からも検出される。
    ※院内感染菌として重要
  2. グラム陰性球桿菌(0.9×1.6~1.5×2.5µm)で芽胞・莢膜・鞭毛は保有していない。
    ※形態はMoraxella (B) catarrhalisに類似
  3. チトクロムオキシダーゼ:陰性、カタラーゼ:陽性の偏性好気性菌で5%ラクトース:陽性(黄色)である。
  4. 尿路感染症や血管留置カテーテルによるライン菌血症を起こす。
  5. 薬剤耐性アシネトバクター(MDRA)は5類感染症の定点把握対象菌種。
    ※IPM≧16µg/mL, AMK≧32µg/mL, CPFX≧4µg/mL を満たした場合をMDRAと判断する。
    ※MBLやOXA型(クラスD)β-ラクタマーゼ産生が多い。
  6. 医療従事者による接触感染が主流である。

喀痰からHaemophilus influenzae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Haemophilus influenzae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側スライド
 急性の気道感染を発症した患者の喀痰で新鮮な好中球が多数観察された。好中球のなかに小さなグラム陰性短桿菌が貪食されており、本症例ではHaemophilus influenzae(インフルエンザ菌)が最も強く疑われた。
培養検査の結果、Haemophilus influenzaeと同定された。

Haemophilus influenzae の特徴

  1. 主要な菌種には H. influenzae, H. parainfluenzae, H. ducreyi など14菌種が存在する。
  2. 発育にはX因子(ヘミン)とV因子(NAD)の両方が必要である。
  3. ウマ・ウサギ血液寒天培地には発育するが、ヒト・ヒツジ血液寒天培地には発育しない。
  4. 莢膜分類には6つの型があり、病原的にはb型(髄膜炎、敗血症の大部分)が重要で、喀痰由来株は型別不能が多い。
  5. ペニシリナーゼ産生株は約20%程度で、BLNARが急増(小児)している。
    ※BLNAR: β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(小児の約40%がBLNAR)菌である。
  6. 衛星現象: ヒト・ヒツジ血液寒天培地で黄色ブドウ球菌などの周囲に発育する現象である。

喀痰からHaemophilus influenzae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Haemophilus influenzae
■培地名:-
■年 齢:52
■性 別:女性
■解 説

①左右側スライド
 急性の気道感染を発症した患者の喀痰で粘液性を伴う新鮮な好中球が多数観察された。好中球のなかに小さなグラム陰性短桿菌が貪食されており、本症例ではHaemophilus influenzae(インフルエンザ菌)が疑われた。
 培養検査の結果、Haemophilus influenzaeと同定された。

Haemophilus influenzae の特徴

  1. 主要な菌種にはH. influenzae, H. parainfluenzae, H. ducreyi など14菌種が存在する。
  2. 発育にはX因子(ヘミン)とV因子(NAD)の両方が必要である。
  3. ウマ・ウサギ血液寒天培地には発育するが、ヒト・ヒツジ血液寒天培地には発育しない。
  4. 莢膜分類には6つの型があり、病原的にはb型(髄膜炎、敗血症の大部分)が重要で、喀痰由来株は型別不能が多い。
  5. ペニシリナーゼ産生株は約20%程度で、BLNARが急増(小児)している。
    ※BLNAR: β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(小児の約40%がBLNAR)菌である。
  6. 衛星現象: ヒト・ヒツジ血液寒天培地で黄色ブドウ球菌などの周囲に発育する現象である。

口腔内常在菌の混入が疑われた4症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 右側部分は慢性の呼吸器感染像が疑われるが、中央には多数の扁平上皮細胞のみが認められ、微生物検査には適しない検査材料と判断された。

②右側上スライド
 カルバペネム系抗菌薬使用で炎症は抑制されているが、フィブリンの析出が多いため強い炎症が起こったと推定される。なお、本症例でも扁平上皮細胞の混入が認められ、微生物検査には適しない検査材料と判断された。

③左側下スライド
 胃内容物が逆流し、喀痰に混入したでんぷんと思われる球状の物質が認められた。本症例も微生物検査には適しない検査材料と判断された。

④右側下スライド
 好中球と扁平上皮が入り混じった喀痰で、好中球のなかに貪食されたグラム陰性短桿菌や微小なグラム陽性球菌が観察された。本症例は唾液誤嚥の可能性があることが示唆された。この場合の起炎菌は口腔内常在菌が大部分である。

唾液誤嚥による誤嚥性肺炎が疑われた4症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側上スライド
 弱拡大(100倍)で観察した喀痰のグラム染色像で、好中球の集塊に扁平上皮の混入が僅かに認められる。Geckler分類では5群(白血球数>25個/視野、扁平上皮数<10個/視野)と推定され、微生物検査に適した検体と判断された。

②左側上スライド
 好中球のなかに形態が若干変化したグラム陰性短桿菌や微小なグラム陽性球菌の貪食像が観察された。本症例は唾液誤嚥による誤嚥性肺炎の可能性が示唆された。

③左右側下スライド
 フィブリンの析出した好中球のなかに貪食された僅かなグラム陽性球菌とグラム陰性双球菌様の形態が観察された。唾液誤嚥による誤嚥性肺炎では口腔内に常在する細菌が起炎菌となるため、培養検査では口腔内常在菌のみが検出されることが多い。

口腔内常在菌の混入が疑われた症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

・口腔内常在菌の混入が疑われた喀痰の症例を提示する。

 本症例では粘液成分を多数認めるが、好中球および扁平上皮細胞は認められない。Geckler分類では6群(白血球数<10個/視野、扁平上皮数<10個/視野)と推定された。
 一方、グラム陽性双球菌は多数存在し、特に川の流れのようにグラム陽性双球菌が観察された。このような染色像では口腔内常在菌の混入が極めて高いため観察する際には注意する必要がある。
喀痰からStreptococcus pneumoniae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pneumoniae
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

・喀痰からStreptococcus pneumoniaeが検出された症例を提示する。

①左側(血液寒天培地での発育像)スライド
 Streptococcus pneumoniaeは肺炎球菌と呼ばれ、ヒトに対しては髄膜炎、敗血症、中耳炎、肺炎の原因菌となる。通常、炭酸ガス環境下ではスライド左側の陥没型を呈するが、時にスライド右側のようにM型のタイプを形成することもある。一般的にM型を集落を形成させるためには嫌気培養が推奨される。

②右側スライド
 強拡大にて、菌体の周囲が白く抜けたグラム陽性双球菌が観察されるためS. pneumoniaeと推定された。
培養検査の結果、Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)と同定された。

Streptococcus pneumoniaeの特徴

  1. グラム陽性双球菌(0.5~1.0µm)の配列で莢膜は有するが、芽胞、鞭毛は保有しない。
  2. 通性嫌気性菌(炭酸ガスおよび嫌気培養の方が集落形成は大きい)である。
  3. 血液成分含有培地には発育するが、普通寒天、普通ブイヨンには未発育である。
  4. オプトヒン試験:感性 10µgオプトヒン含有ディスクで直径14mm以上の発育阻止。
  5. 胆汁溶解試験:陽性 10%デオキシコール酸ナトリウムを滴下すると菌液が透明となる。
  6. 自己融解作用が強いため集落の中央が陥没する。
  7. 薬剤耐性は細胞壁の変異による。

Mucoid状を呈した Staphylococcus aureus の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Staphylococcus aureus
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 グラム染色ではグラム陽性球菌の塊が観察された。本症例では菌体の周囲がピンク色を呈した莢膜様物質に覆われている。このピンク色を呈した莢膜様物質はStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)が産生するコアグラーゼによりフィブリノーゲンがフィブリンとして菌体周囲に付着した像と推定される。したがって、Staphylococcus spp.で菌体の周囲がピンク色を呈した場合にはStaphylococcus aureusの可能性が高いと判断できる。ただし、MRSAか否かの鑑別はできない。

②左側スライド
 ヒツジ血液寒天培地にて、35℃の炭酸ガス環境下で24時間培養した時のS. aureusの発育集落像を示した。通常のS. aureusではS型集落を形成するのが一般的であるが、本症例のようにM型を呈する集落は稀のため見落とさないように注意する必要がある。
 培養検査の結果、Staphylococcus aureus(MRSA)と同定された。

2分画培地に発育したHaemophilus influenzae の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Haemophilus influenzae
■培地名:チョコレート寒天培地
     ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 Haemophilus influenzae(インフルエンザ菌)の発育にはヘミンを含むX 因子およびV因子が必要である。 ヒツジ赤血球内にはV 因子を破壊する酵素であるdiphosphopyridin nuclease や nicotinamide adenine dinuclease が大量に存在するためヒツジ血液寒天培地では発育できない。そこで、NAD 含有のディスクを置くことでディスク周囲にH. influenzaeの発育が認められる。

②左側スライド
 チョコレート寒天培地に発育する理由は、V 因子破壊酵素が加熱処理により熱変性されることによって V 因子が破壊されなくなるためである。

Haemophilus influenzaeの特徴

  1. 通性嫌気性のグラム陰性短桿菌(小桿菌)で莢膜をもつ菌株も存在する。
  2. 発育にはX因子とV因子の両方が必要である。
  3. 5~10%炭酸ガス培養で発育が促進する。
  4. カタラーゼ・チトクロムオキシダーゼ試験は陽性、血液寒天培地は非溶血、ポルフィリン試験は陰性である。

    ※ポルフィリン試験:はⅩ因子非要求菌種はデルタ-アミノ-レブリン酸からポルフィリンを合成する酵素を有する。

  5. 莢膜分類には6つの型があり、病原的にはb型(髄膜炎、敗血症の大部分)が主体、喀痰由来株は型別不能が多い。
  6. 化膿性髄膜炎、咽頭炎、心膜炎、肺炎、骨髄炎などを起こす。
  7. ペニシリナーゼ産生株:約20%程度、PBPの変異による耐性菌:BLNARが急増(小児)。

喀痰からBacillus cereus が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Bacillus cereus
■培地名:マンニット卵黄寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 好気的環境下における35℃、24時間のマンニット卵黄寒天培地でのBacillus cereusの発育集落像を示した。 B. cereusはレシチナーゼ産生菌のため集落の周囲が白濁する特徴がある。 なお、Bacillus anthracisはレシチナーゼ非産生菌のためマンニット卵黄寒天培地では白濁を生じない。

②右側スライド
 強拡大にて大型の芽胞を有するグラム陽性桿菌が観察される。なお、本菌は形態のみで、Bacillus spp.かClostridium spp.の鑑別は不可能である。

Bacillus cereus の特徴

  1. 土壌、空気中などの自然界に広く存在する。
  2. 通性嫌気性の大きなグラム陽性有芽胞桿菌である。
  3. 周毛性鞭毛を有するため運動性はあるが、莢膜は保有していない。
  4. 普通寒天培地に良く発育し、血液寒天培地ではβ溶血を認める。
  5. 卵黄寒天培地ではレシチナーゼ産生が確認できる。
  6. カタラーゼ:陽性、硝酸塩を還元する。
  7. 腸管毒素による食中毒を起こす(外毒素)。
  8. 芽胞形成菌のため消毒薬に抵抗性を示す。
  9. ペニシリン、セフェム系には耐性傾向を示す。
  10. ヒトへの感染経路は接触感染が主体である。

喀痰からSerratia marcescens(色素産生株)が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Serratia marcescens
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
     ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 BTB乳糖加寒天培地に発育したSerratia marcescens の画像を示した。Serratia spp.は水溶性のプロジギオシンと呼ばれる赤色の集落を形成するのが特徴のひとつである。ただし、近年では色素を産生しない菌株も臨床現場では多く検出されている。

②右側スライド
 ヒツジ血液寒天培地に発育したS. marcescensの画像を示した。

Serratia spp.の特徴

  1. S. marcescens, S. liquefaciens を含む10菌種が存在する。
  2. グラム陰性小桿菌(0.5~0.8×0.9~2.0µm )で運動性有り。
  3. 水や土壌に広く分布し、病院内では排水口などの湿潤環境に多く生息している。
  4. 日和見感染や院内感染として、尿路感染・呼吸器感染・術後感染・血液感染・髄膜炎などを起こす。
  5. VP反応は陽性、クエン酸利用能は陽性、リジン・オルニチン脱炭酸反応は陽性、Dnase産生は陽性である。
  6. ESBL( Extended-spectrum β-lactamase )、メタロβ-ラクタマーゼ産生株がみられる。
  7. 院内感染は接触感染によって伝播する。

吸引痰からLegionella pneumophila が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Legionella pneumophila
■培地名:BCYE寒天培地
     GVPC寒天培地
■年 齢:54
■性 別:女性
■解 説

①左側上スライド
 本症例は基礎疾患に再生不良性貧血があり、カルバペネム系抗菌薬の投与を受けていた患者で、血液・生化学的検査ではCRPおよびCPKが極めて高値を示した。
 微生物検査に提出された検体はピンク色の漿液化痰であった。なお、ピンク色を呈した喀痰が提出された場合にはLegionella感染症も疑う必要がある。

②左右側下スライド
 Legionella spp.の選択培地である左:BCYE寒天培地、右:GVPC寒天培地での発育像を示した。培養は35℃の好気的環境下で5日間培養した。その結果、純培養状にLegionella spp.の発育が認められ、確認検査としてヒツジ血液寒天培地には未発育であることを確認した。
 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析の結果、Legionella pneumophilaと同定された。なお、尿中抗原検査でも陽性が認められた。

Legionella spp.の特徴

  1. グラム陰性桿菌(0.3×0.9~2.0×5.0µm)で1~2本の極鞭毛で運動し、莢膜・芽胞は保有しない。
  2. 発育にはL-システインと鉄化合物が必要である。
  3. 自然環境の水、空調の冷却水、温泉水、土壌から分離される。
  4. 血清型には15種類あるが、患者由来はセロタイプ1である。
  5. 迅速診断の尿中抗原はセロタイプ1のみ反応する。
  6. 患者由来検体はグラム染色では染まらないのでヒメネス染色を実施する。
  7. 肺炎型とポンテアック熱型があり、レジオネラ症は4類感染症に含まれる。
  8. 細胞内寄生菌であり、エリスロマイシン・リファンピシン有効、β-ラクタム薬は無効である。

血液培養からStaphylococcus aureus が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Staphylococcus aureus
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 グラム染色ではグラム陽性球菌の塊が観察された。本症例では菌体の周囲がピンク色を呈した莢膜様物質に覆われているのが特徴と言える。このピンク色を呈した莢膜様物質はStaphylococcus aureus (黄色ブドウ球菌)が産生するコアグラーゼによりフィブリノーゲンがフィブリンとして菌体周囲に付着した像と推定される。したがって、Staphylococcus spp.で菌体の周囲がピンク色を呈した場合にはStaphylococcus aureusの可能性が高いと判断できる。ただし、MRSAか否かの鑑別はできない。
抗菌薬の影響で形態が変化したStaphylococcus aureus(MRSA)の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Staphylococcus aureus(MRSA)
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(抗菌薬投与:無)スライド
 グラム染色では菌体の周囲がピンク色を呈した(コアグラーゼによるフィブリンの付着)グラム陽性球菌が観察されるため、Staphylococcus aureus (黄色ブド ウ球菌)と推定された。しかもグラム染色の染色性および形態が明瞭なため、抗菌薬の影響が認められない状況と判断できる。

②右側(抗菌薬投与:有)上スライド
 ①と同様な形態が推定されるが、菌体の一部が欠損した状況と判断できる。

③右側(抗菌薬投与:有)下スライド
 ①および②とは違い、菌体の周囲に認められたピンク色の莢膜様物質が消滅し、菌体の萎縮が認められる。ただし、形態的にはStaphylococcus spp.を推定できる。

④左側(抗菌薬投与:有)下スライド
 菌体の周囲に認められたピンク色の莢膜様物質が僅かに認められるが、抗菌薬の影響にて菌体の形態が変化し、グラム陽性球菌とは判断し難い。

Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 グラム染色では連鎖状のグラム陽性球菌と菌体の周囲がピンク色に染まったグラム陽性双球菌が観察された。培養検査ではStreptococcus dysgalactiae subsp. equisimilisのみ検出され、グラム陽性の双球菌は検出されなかった。本症例ではStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)が自己融解を起こし、培養検査では検出されなかったのか、あるいは連鎖球菌が短く千切れてグラム陽性の双球菌に見えたのか判断に苦慮した症例である。
Streptococcus pneumoniae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pneumoniae (PISP)
■培地名:-
■年 齢:4
■性 別:男児
■解 説
 本症例ではグラム陽性双球菌を1個のみ認め、全体的にはグラム陰性桿菌様の形態も観察されたため、グラム陽性双球菌と陰性桿菌との混合感染を疑った。
 同患者の髄液および咽頭粘液、鼻汁分泌物からは多数のStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)が培養で検出された。本症例の血液培養では僅かにS. pneumoniae のみ検出された。従って、グラム陰性桿菌様と思われた細菌は、グラム染色の陰性化にてS. pneumoniaeをグラム陰性桿菌と見間違えた。このように S. pneumoniae は自己融解あるいは抗菌薬の投与によりグラム陰性化し易い傾向にあるため十分に臨床背景を考慮しながら鑑別することが重要と言える。
 培養検査の結果、Streptococcus pneumoniae の中等度耐性肺炎球菌(PISP)と同定された。
グラム染色で菌種の鑑別が困難であった症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Enterococcus gallinarum
■培地名:-
■年 齢:52
■性 別:男性
■解 説
 グラム陽性桿菌はグラム陽性双球菌が合成抗菌薬および抗真菌薬の使用にてフィラメントした可能性が強く示唆されたが、グラム陽性双球菌の単独感染か否かの判断は困難であった。この理由としては、グラム陽性桿菌と判断できる形態も認められた。このような症例では抗菌薬の使用の有無が起炎菌推定に際して重要と言える。
 培養検査の結果、Enterococcus gallinarumと同定された。
Aerococcus viridans が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Aerococcus viridans
■培地名:-
■年 齢:87
■性 別:男性
■解 説

①右左側スライド
 多数のグラム陽性球菌が観察され、形態的にはStaphylococcus spp.が疑われた。
 培養検査の結果、Aerococcus viridansと同定された。

Aerococcus viridans の特徴

  1. グラム陽性球菌で4量体を形成し易い。
  2. グラム陽性双球菌が多く観察される。
  3. カタラーゼ陰性の点でStaphylococcus spp.と鑑別できる。
  4. 血液培養ではコンタミネーションとして検出される可能性が高い。
  5. 集落は小型でα溶血を示すため緑色連鎖球菌と類似している。

複数菌が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus mitis
     Bacillus cereus
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 グラム染色で多数のグラム陽性連鎖球菌とグラム陽性桿菌(太い台形状の形態)が観察され、本症例では2菌種による混合感染と推定された。
 グラム陽性連鎖球菌は長い連鎖状を形成し、かつ赤血球が溶血を呈していないことより非溶血性連鎖球菌が推定される。
 グラム陽性桿菌は形態的にBacillus spp.かClostridium spp.が推定される。これらの細菌属を鑑別するには好気培養と嫌気培養を実施し、好気培養で発育した場合にはBacillus spp.、嫌気培養のみ発育した場合にはClostridium spp.と判断する。
 培養検査の結果、StreptococcuS. mitisBacillus cereusが同定された。
複数菌が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Acinetobacter baumanii
     Propionibacterium acnes
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 多数のグラム陰性双球菌が観察され、形態的にはNeisseria spp.かMoraxella((B)catarrhalisを推定できるが、一部の菌体では短桿菌(楕円形)を呈するような形態も認められた。
 培養検査の結果、Acinetobacter baumaniiと同定された。

②左右側下スライド
 多数のグラム陽性桿菌が菌塊状に観察されたり、単在でも認められた。形態的にはPropionibacterium spp.やBifidobacterium spp.などが推定されるが、血液培養から検出された場合にはP. acnes が最も疑われる。
 培養検査の結果、 Propionibacterium acnes(ニキビ菌)と同定された。
P. acnes は嫌気培養のみ発育を示し、インドール反応は陽性である。

グラム染色性の異なるAcinetobacter baumanii が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Acinetobacter baumanii
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 赤血球の周りに多数のグラム陽性双球菌が観察された。形態的にはランセット型を呈するStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)やEnterococcus spp.とは異なり、Neisseria spp.に近い形態を示していた。右スライドではグラム陰性化した双球菌も観察された。

②左右側下スライド
 同一塗抹標本でありながら、①とは異なり、すべての細菌がグラム陰性双球菌として観察された。一部の細菌で短桿菌(楕円形)を呈するような形態も認められた。

Acinetobacter spp.では同一標本でも観察する場所により、染色性が異なる特徴を有している。
培養検査の結果、Acinetobacter baumanii と同定された。

Helicobacter cinaedii が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Helicobacter cinaedii
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
・培養2日目の好気ボトルからのみグラム陰性のラセン状を呈した細長い桿菌が観察された。形態的にはCampylobacter spp.およびHelicobacter spp.が推定され、観察時はHelicobacter cinaedii を強く疑った。
 血液寒天培地を使用し微好気培養を実施した結果、シート状の発育が観察された。
 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析および16S rRNA遺伝子解析の結果、Helicobacter cinaedii と同定された。

Helicobacter cinaedii の特徴
 H. cinaedii は小腸や大腸に定着するグラム陰性の螺旋菌で、酸素濃度が低い環境で発育する(微好気性)。感染経路は腸管から血流へのBacterial translocationと推定される。菌血症あるいは敗血症、蜂窩織炎、関節炎、髄膜炎などを起こし、大半は免疫不全患者に発症するが、免疫不全がない患者の報告もある。患者の年齢は生後まもなくして発症した例から高齢者まで幅広く認められる。本菌が疑われる場合の血液培養では最低7日間,可能であれば10日程度の培養期間が必要となる。ただし、血液培養ボトルの種類によっては検出されない場合があるので注意する。本症例はバーサトレックの血液培養装置を使用し、培養2日目で検出することができ本機器の有用性が確認された。

Capnocytophaga canimorsus が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Capnocytophaga canimorsus
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側スライド
 血液培養の嫌気ボトルからのみグラム陰性の細長い紡錘状の桿菌が観察された。形態的にはCapnocytophaga spp.かFusobacterium nucleatum が推定された。ただし、形態では鑑別困難なためブルセラHK(RS)寒天培地を使用し、嫌気培養と炭酸ガス培養を実施した結果、炭酸ガス培養にて細菌の発育が観察された。集落は薄い膜状様の形態を呈した。
 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析および16S rRNA遺伝子解析の結果、Capnocytophaga canimorsusと同定された。

Capnocytophaga canimorsus の特徴
 C. canimorsus 感染症は、イヌ・ネコ咬傷・掻傷感染症のひとつで、イヌ・ネコの口腔内に常在しており、国内のイヌ・ネコも高率に保菌している。本感染症の発症は極めて稀ではあるが、発症した場合は急激に敗血症に至ることが多く、致死率は約30%であるため注意が必要である。

Clostridium perfringens が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Clostridium perfringens
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Clostridium perfringens(ウェルッシュ菌)はグラム染色で大型のグラム陽性桿菌を呈するが、芽胞は観察できない特徴がある。
 培養検査の結果、Clostridium perfringensと同定された。

Clostridium perfringensの特徴

  1. ヒトや動物の消化管や土壌・泥中に混在する。
  2. 芽胞および莢膜を有するが、非運動性である。
  3. 本菌はα、βなど致死作用のある毒素を産生する。
  4. ヒトの疾患から分離されるのはA型菌が多い。
  5. 本菌による食中毒は感染型である。
  6. 嵐の発酵と呼ばれるように強いガス産生がある。
  7. 血液寒天培地で二重溶血帯を生じる。
    ※冷蔵庫保存で顕著に出現
  8. 逆CAMP試験は陽性である。
    Streptococcus agalactiaeを使用

Clostridium sordellii が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Clostridium sordellii
■培地名:-
■年 齢:70
■性 別:男性
■解 説
 Clostridium sordellii はガス壊疽菌のひとつで、Clostridium perfringens に比べやや小さなグラム陽性桿菌であるが、 C. perfringensと同様にグラム染色で芽胞は観察できない特徴がある。
 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析および16S rRNA遺伝子解析の結果、Clostridium sordellii と同定された。

・ガス壊疽菌
 ガス産生菌の感染により皮下内にガスがたまる進行性の感染症で、激痛と共に皮膚の水疱や血行障害を起こし、筋肉組織が壊死する。進行は急激で、頻脈、血圧低下、発汗を呈し、ショックなどを起こし死亡する事がある。

Haemophilus influenzae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Haemophilus influenzae
■培地名:チョコレート寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド(遠心前)
 血液培養の嫌気ボトルのみ陽性を示した。多数の赤血球の周囲に僅かにグラム陰性の連鎖状球菌の菌塊が観察され、この時点では菌種の推定は困難であった。

②右側上スライド(遠心後)
 嫌気ボトルの原液では菌数が少ないため遠心処理を実施した。グラム染色所見は遠心前と同様にグラム陰性の連鎖状球菌の菌塊が観察され、この時点でも細菌の推定は困難であった。

③左側下スライド
 起炎菌の推定が不可能であったためBTB乳糖加寒天培地、ヒツジ血液寒天培地、チョコレート寒天培地、 アネロウサギ血液寒天/PV寒天培地などを使用し、各培地に適した培養を実施した。その結果、ヒツジ血液寒天培地には未発育であったが、チョコレート寒天培地には多数のHaemophilus spp.を疑う細菌が発育した。
 培養検査の結果、Haemophilus influenzae(インフルエンザ菌)と同定された。

※本症例でのグラム染色所見ではH. influenzae を疑うことはできなかった。

Enterococcus faecium が検出した症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Enterococcus faecium
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
     ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 血液培養の症例で、短い連鎖状のグラム陽性球菌が観察されるためStreptococcus agalactiae(B群溶血連鎖球菌)などの細菌を推定したが、培養および同定検査を実施した結果、Enterococcus faeciumであることが判明した。 Enterococcus spp.の場合には本症例のように連鎖状の形態を示すことがある。

②右側スライド
 ヒツジ血液寒天培地とBTB乳糖加寒天培地にて、 35℃の好気的環境下で24時間培養した時のE. faeciumの発育集落像を示した。本症例ではヒツジ血液寒天培地にStaphylococcus spp.を疑うような白色の集落が観察され、 Enterococcus spp.特有の白灰色の形態は認められなかった。
 培養検査の結果、Enterococcus faeciumと同定された。

Enterococcus spp.の特徴

  1. グラム陽性球菌(0.5~1.0µm)で双球菌または短い連鎖状の配列を呈する。
  2. 血液寒天培地ではα~γ溶血を示すカタラーゼ陰性の通性嫌気性菌で、Lancefieldの分類ではD群に含まれる。
  3. 治療薬はE. faecalisの場合には ABPC、E. faeciumではVCMが基本とされている。
  4. 接触感染による院内感染が主流であり、耐性遺伝子にはVanA (プラスミド由来)、VanB(プラスミド・染色体由来)、VanC, VanD, VanE, VanG (染色体由来)などがある。
  5. VRE感染症は5類感染症(全数把握)に含まれる。

Enterococcus faecalis が検出した症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Enterococcus faecalis
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 血液培養の症例で、形態学的にはStaphylococcus spp.を推定するような丸みを帯びた双球菌様であり、かつ菌体の周囲がピンク色の色調を示したことより、S. aureusの存在を推定した。なお、左下スライドでは菌体の一部が欠けたような形態も観察されたため抗菌薬投与中の検体であると判断した。

②右側スライド
 ヒツジ血液寒天培地では検体を塗布した部分には細菌の発育は認められず、検体が希釈された部分にStaphylococcus spp.かEnterococcus spp.を推定する集落の発育が認められた。簡易検査としてブドウ球菌用ラテックスおよびカタラ-ゼ試験では弱陽性を呈したためStaphylococcus spp.を推定した。
 但し、VITEK2ではEnterococcus faecalisと同定された。

・本症例での注意点
 菌体の形態学的変化および検体塗布部分での細菌の未発育に関しては、電子カルテを調査した結果、セファロスポリン系の抗菌薬を投与中であることが判明した。そのため、形態学的には菌体の球状化が生じたと判断される。
 また、 Enterococcus spp.でブドウ球菌用ラテックスおよびカタラ-ゼ試験が弱陽性を示した理由としては、ヒツジ赤血球内に含まれる成分の反応と推定される。したがって、本症例のように簡易検査で弱陽性を示した場合には判断に留意することが重要である。

Streptococcus mitis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus mitis
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
     チョコレート寒天培地
■年 齢:19
■性 別:女性
■解 説

①上側スライド
 グラム陽性連鎖球菌は長い連鎖状の形態を示したことより、 Streptococcus spp.の推定は可能であったが、赤血球の溶血が不明瞭なため菌種の推定は出来なかった。

②下側スライド
 ヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地にて培養した結果、α溶血の連鎖球菌(緑色連鎖球菌)が検出された。

 本症例をVITEK2および確認試験を実施した結果、 StreptococcuS. mitisと同定された。

・緑色連鎖球菌(Streptococcus viridans Group)の特徴

  1. グラム陽性球菌(0.5~1.0µm)で連鎖球菌状の配列を呈する。
  2. 莢膜、芽胞、鞭毛は保有していない。
  3. ヒトの口腔や上気道に常在する細菌で非病原菌とされる。
  4. 至適温度は35~37℃、至適pHは7.0付近でα溶血を呈し、カタラーゼ試験は陰性である。
  5. 通性嫌気性菌(炭酸ガスおよび嫌気培養の方が集落形成は大きい)に分類される。
  6. 血液成分含有培地で発育し、普通寒天や普通ブイヨンでは未発育である。
  7. ヒトの抵抗減弱を来す緒条件で病原性を発揮する場合がある。
    ※感染性心内膜炎の原因菌のため、口腔内のケアが重要である。
  8. S. mitis, S. oralis, S. sanquis, S. salivarius, S. mutant などが含まれる。

Listeria monocytogenesが検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Listeria monocytogenes
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 血液培養液をグラム染色した結果、白血球に貪食されたグラム陽性桿菌が観察された。形態的にはCorynebacterium spp.が最も疑われた。

②左側下スライド
 培養集落でのグラム染色でもグラム陽性桿菌が観察された。

③右側下スライド
 ヒツジ血液寒天培地では弱いβ溶血が観察され、カタラーゼ試験は陽性のため Listeria monocytogenes を推定した。
 培養検査の結果、 Listeria monocytogenes と同定された。

Listeria monocytogenes の特徴

  1. 哺乳類、鳥類、魚類、甲殻類、昆虫類から分離される人畜共通感染症である。
  2. 0.4×0.5~0.5×2.0µmのグラム陽性無芽胞短桿菌である。
  3. 1~5本の周毛性鞭毛を保有する。:運動性有り(28℃)、芽胞、莢膜は保有しない。
  4. 通性嫌気性菌で、普通寒天培地には発育不良、BTB乳糖加寒天培地には微小に発育し、血液寒天培地には弱いβ溶血を呈する特徴がある。
  5. カタラーゼ:陽性、チトクロムオキシダーゼ:陰性、馬尿酸加水分解:陽性、硝酸塩還元能:陰性、VPテスト:陽性、CAMP試験:陽性である。
  6. 乳製品や果物(メロン)からの感染例有り。
  7. 胎児への垂直感染により胎児敗血症、髄膜炎、死産、流産の原因となる。
  8. アンピシリン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、エリスロマイシンが有効である。

肝臓癌を罹患した患者からKlebsiella oxytoca が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Klebsiella oxytoca
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
     ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:73
■性 別:男性
■解 説

①左右側上スライド
 血液培養のグラム染色では短い桿菌として観察された。 Klebsiella spp.は大型のグラム陰性桿菌として記載されている参考書が多いが、実際には短い形態を示した場合にはグラム染色で推定することは極めて難しい。

②左右側下スライド
  Klebsiella spp.の大部分は乳糖分解のため、BTB乳糖加寒天培地では黄色の集落を形成し、かつムコイド状を呈する特徴がある。なお、ムコイド状(>5mm以上の粘性糸で鑑別)を呈する菌株は肝膿瘍などを発症するリスクが高い。また、ヒトでは呼吸器、尿路感染の原因菌となる。ヒツジ血液寒天培地では粘性のある集落を形成する。
 培養検査の結果、 Klebsiella oxytocaと同定された。

※近年はESBL、KPCなどの耐性菌が院内感染として問題となっている。

Salmonella spp. O抗原:8群が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Salmonella spp.
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
     SS寒天培地
■年 齢:75
■性 別:男性
■解 説

①左側上・下スライド
 左上スライドは1000倍でのグラム染色像、左下スライドは拡大したグラム染色像を示した。グラム染色では腸内細菌科細菌と推定される形態を示したが Salmonella spp.を疑うのは困難であった。

②右側上スライド
 現疾患は下痢・発熱を伴っていたが、Salmonella spp.を疑わず、通常のBTB乳糖加寒天培地、ヒツジ血液寒天培地、ブルセラHK(RS)寒天培地などを使用し分離培養を実施した。 BTB乳糖加寒天培地では乳糖非分解の腸内細菌科細菌を推定したが、この段階ではSalmonella spp.とは考えなかった。VITEK2にて同定した結果、 Salmonella spp.が疑われたため血清学的に調べた結果、 O抗原:8群 に凝集した。

③右側下スライド
 VITEK2にて Salmonella spp.と同定されたため確認検査としてSS寒天培地にて培養を実施した。その結果、乳糖非分解で硫化水素産生の集落が認められた。
 培養検査の結果、 Salmonella spp. O抗原:8群と同定された。

Salmonella spp. O抗原:7群、H抗原:cが検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Salmonella spp.
■培地名:SS寒天培地
     MS2寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 一般的にSalmonella spp. は硫化水素を産生するが、本症例ではSS寒天培地で培養しても硫化水素の産生は認められなかった。そのため、最初はShigella spp.(赤痢菌)を疑い、VITEK2で同定した結果、Salmonella spp. が疑われた。運動性および血清学的検査を追加した結果、運動性を認め、抗血清ではO抗原7群、H抗原:cに凝集した。

②右側スライド
 発色合成基質培地のMS2寒天培地を使用した結果、 Salmonella spp.を疑うピンク色の集落を形成した。

・本症例での注意点
 一般的にSalmonella spp. は硫化水素を産生するが、硫化水素を産生しない菌株が存在することを知っておくことは重要である。

Acinetobacter burmanii が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Acinetobacter burmanii
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
     ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 グラム染色ではグラム陰性の双球菌あるいは短桿菌として観察される。染色の部分によってはグラム陽性の双球菌として観察されるので注意が必要である。

②左右側下スライド
 ヒツジ血液寒天培地では腸内細菌科細菌との鑑別は不可能である。BTB乳糖加寒天培地では腸内細菌科細菌の発育に比べ集落の形成が小さいのが特徴と言える。

Acinetobacter baumanii の特徴

  1. 土壌や下水などの自然界に広く生息し、病院内の環境からも検出される。
  2. グラム陰性球桿菌(0.9×1.6~1.5×2.5µm)で芽胞・莢膜・鞭毛は保有しない。
  3. カタラーゼ陽性の偏性好気性菌で、5%ラクトースは陽性(黄色)、チトクロムオキシダーゼは陰性である。
  4. 尿路感染症や血管留置カテーテルによるライン菌血症を起こす。
  5. 薬剤耐性アシネトバクター(MDRA)は5類感染症の定点把握対象菌種。
    ※IPM≧16µg/mL, AMK≧32µg/mL, CPFX≧4µg/mL を満たした場合をMDRAと判断する。
    ※MBLやOXA型(クラスD)β-ラクタマーゼ産生が多い。
  6. 医療従事者による接触感染が主流である。

Capnocytophaga canimorsus が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Capnocytophaga canimorsus
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 血液培養の嫌気ボトルからのみグラム陰性の細長い紡錘状の桿菌が観察された。形態的にはCapnocytophaga spp.かFusobacterium nucleatum が推定された。ただし、形態では鑑別困難なためブルセラHK(RS)寒天培地を使用し、嫌気培養と炭酸ガス培養を実施した結果、炭酸ガス培養にて細菌の発育が観察された。集落は薄い膜状様の形態が観察された。

②左側スライド
 血液培養にて陽性を示した培養液をヒツジ血液寒天培地に塗布し、35℃の炭酸ガス環境下で48時間培養した時の発育集落像を示した。発育集落の特徴は集落の周囲を遊走するような薄い膜状様の発育形態を示した。グラム染色ではグラム陰性の細長い紡錘状の桿菌が観察された。
 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析および16S rRNA遺伝子解析の結果、Capnocytophaga canimorsus と同定された。

Capnocytophaga canimorsus の特徴
 C. canimorsus感染症はイヌ・ネコ咬傷・掻傷感染症のひとつで、イヌ・ネコの口腔内に常在しており、国内のイヌ・ネコも高率に保菌している。本感染症の発症は極めて稀ではあるが、発症した場合は急激に敗血症に至ることが多く、致死率は約30%であるため注意が必要である。

Campylobacter gracilis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Campylobacter gracilis
■培地名:ブルセラHK(RS)寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 培養4日目の嫌気ボトルからのみグラム陰性のラセン状を呈した細長い桿菌が観察された。形態的にはCampylobacter spp.およびHelicobacter spp.が推定され、観察時はHelicobacter cinaedii を強く疑った。

②左側下スライド
 ブルセラHK(RS)寒天培地を使用し微好気培養を実施した結果、小さな薄い集落が観察された。
 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析および16S rRNA遺伝子解析の結果、Campylobacter gracilisと同定された。

Campylobacter gracilis の特徴
 Campylobacter spp.はグラム陰性でらせん状に湾曲した形態を示す真正細菌の一属の総称で、 17菌種 6亜種 3生物型が存在する。本菌は口腔内常在菌のひとつで、歯周病および胸膜炎感染に関与し、血液培養から検出され易い。

Clostridium perfringens が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:血液(血液培養)
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Clostridium perfringens
■培地名:ブルセラHK(RS)寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 血液培養の嫌気ボトルのみ陽性反応を示し、ツベルクリン用注射器にて培養液を採取する際、大量のガス産生が観察された。

②左右側下スライド
 白血球および赤血球は認められず、多数のグラム陰性桿菌と少数の大型のグラム陽性桿菌が観察された。この時点では大型のグラム陽性桿菌は嫌気ボトルのみから検出され、かつ芽胞が認められないことより Clostridium perfringens を強く疑った。また、グラム陰性桿菌は丸みを帯びた形態を呈していたため腸内細菌科細菌が推定された。
 培養検査の結果、 Clostridium perfringens と同定された。

③右側上スライド
 エタノール処理後にブルセラHK(RS)寒天培地に塗布して嫌気培養を実施した結果、 Clostridium spp.を疑うような集落の周囲が不均一性の形態を示した。

Clostridium perfringens の特徴

  1. ヒトや動物の消化管や土壌・泥中に混在する。
  2. 芽胞および莢膜を有するが、非運動性である。
  3. 本菌はα、βなど致死作用のある毒素を産生する。
  4. ヒトの疾患から分離されるのはA型菌が多い。
  5. 本菌による食中毒は感染型である。
  6. 嵐の発酵と呼ばれるように強いガス産生がある。
  7. 血液寒天培地で二重溶血帯を生じる。

Bacillus cereus が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:髄液
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Bacillus cereus
■培地名:-
■年 齢:62
■性 別:男性
■解 説
 本症例は白濁した髄液であるため、細菌性髄膜炎が強く疑われた。グラム染色の結果、多数の好中球のなかに大型のグラム陽性桿菌が観察された。形態的にはBacillus spp.かClostridium spp.が推定される。これらの細菌属を鑑別するには好気培養と嫌気培養を実施し、好気培養で発育した場合にはBacillus spp.、嫌気培養のみ発育した場合にはClostridium spp.と判断する。
 本症例では白濁した髄液より培養検査でBacillus cereus が検出され、起炎菌と判断される可能性は高い。しかし、一般的には血液培養や髄液検査でBacillus spp.が検出された場合にはコンタミネーションと判断される傾向がある。
Streptococcus pneumoniae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:髄液
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pneumoniae
■培地名:-
■年 齢:74
■性 別:女性
■解 説
 本症例は白濁した髄液であるため、細菌性髄膜炎が強く疑われた。グラム染色の結果、多数の好中球のなかに僅かに貪食されたグラム陽性双球菌が観察された。ただし、形態的にはStreptococcus pneumoniae (肺炎球菌) の特徴であるランセット型とは異なっていたため判断に苦慮した。髄液を用いた迅速診断キットではS. pneumoniae は陽性であったが、培養検査は近医にてペントシリン(PIPC)の投与が実施されていたため細菌の検出はできなかった。しかし、 S. pneumoniae の尿中抗原を実施した結果は陽性であり、最終的にはS. pneumoniae による髄膜炎と診断した。
Haemophilus influenzae b型が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:髄液
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Haemophilus influenzae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 薄く白濁した髄液の画像で、白濁した髄液は細菌性髄膜炎かCryptococcus spp.による髄膜炎が疑われる。細菌性髄膜炎では髄液中の糖および蛋白質の低下が認められるため、鑑別には重要と言える。

②右側スライド
 僅かな好中球と小さなクラム陰性短桿菌が観察された。
 培養の結果、Haemophilus influenzae と同定された。

Haemophilus influenzae の特徴

  1. 主要な菌種にはH. influenzae, H. parainfluenzae, H. ducreyi など14菌種が存在する。
  2. 発育にはX因子(ヘミン)とV因子(NAD)の両方が必要である。
  3. ウマ・ウサギ血液寒天培地には発育するが、ヒト・ヒツジ血液寒天培地には発育しない。
  4. 莢膜分類は6つの型があり、病原的にはb型(髄膜炎、敗血症の大部分)が重要で、喀痰由来株は型別不能が多い。
  5. ペニシリナーゼ産生株は約20%程度で、BLNARが急増(小児)している。
    ※BLNAR: β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(小児の約40%がBLNAR)菌である。
  6. 衛星現象: ヒト・ヒツジ血液寒天培地で黄色ブドウ球菌の周囲に発育する現象である。

壊死組織からAeromonas hydrophila が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:組織
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Aeromonas hydrophila
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 赤血球の周囲に多数のグラム陰性桿菌が観察され、形態的には腸内細菌科細菌のように丸みのある短桿菌と推察された。
培養検査の結果、Aeromonas hydrophilaと同定された。

Aeromonas hydrophila の特徴

  1. グラム陰性桿菌(0.3×1.0~1.0×3.5µm)の極単毛菌で芽胞は保有しない。
  2. 通性嫌気性菌、37℃でも発育するが至適温度は22~25℃である。
  3. 普通寒天、普通ブイヨン、SS寒天およびDHL寒天培地に発育する。
    ※TCBS寒天培地には発育しない。
  4. チトクロムオキシダーゼ:陽性、ブドウ糖を発酵、リジン・オルニチン脱炭酸反応:陰性、アルギニン水解反応:陽性、 Dnase産生:陽性である。
  5. 下痢症や食中毒、稀に壊死性筋膜炎を起こす。
  6. 淡水に生息し、魚類の皮膚病を引き起こす。

Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis G群が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:組織
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上(血液寒天培地での発育像)スライド
 Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilisStreptococcus pyogenesと同様に血液寒天培地では完全溶血のβ溶血を呈するため集落の観察のみでは鑑別は難しい。Lancefieldの分類ではA,C,G,L群に含まれるため S. pyogenesと鑑別するにはバシトラシン試験、PYR試験およびLancefieldの群別検査を実施する必要がある。なお、 Streptococcus dysgalactiaeにはLancefield のC群に含まれるStreptococcus dysgalactiae subsp. dysgalactiae が存在する。この2菌種も集落の観察のみでは鑑別は難しい。

②中央側下(グラム染色像)スライド
 強拡大にて、連鎖状のグラム陽性球菌として観察される。本菌は強い溶血毒を産生するため、赤血球は融解する特徴がみられ、 グラム染色ではS. pyogenesとの鑑別は難しい。

Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis の特徴

  1. 血液培養のみならず、皮膚・軟部組織から分離される。
  2. 時に壊死性筋膜炎を呈することがある。

Fusobacterium nucleatum が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:組織
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Fusobacterium nucleatum
■培地名:ブルセラHK(RS)寒天培地
■年 齢:48
■性 別:男性
■解 説

①左側上スライドおよび右側(拡大)スライド
 胸部由来の組織からグラム陰性の細長い紡錘状の桿菌が観察された。形態的にはCapnocytophaga spp.かFusobacterium nucleatum が推定された。ただし、形態では鑑別困難なためブルセラHK(RS)寒天培地を使用し、嫌気培養と炭酸ガス培養を実施した結果、嫌気培養のみに細菌の発育が観察された。

②左側下スライド
 嫌気培養にてブルセラHK(RS)寒天培地に発育した集落はパンくず状の形態を示していた。

 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析および16S rRNA遺伝子解析の結果、Fusobacterium nucleatum と同定された。

Fusobacterium nucleatum の特徴

  1. Fusobacterium spp.にはF. nucleatum, F. necrophorum, F. varium, F. mortiferumが含まれる。
  2. ヒトや動物の口腔、膣あるいは消化管固有細菌叢を形成する。
  3. グラム染色は紡錘形の陰性桿菌で、集落はパンくず状を呈する。
  4. 歯周病原因菌のひとつである。

皮膚組織からNocardia asteroidesが検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:組織
■その他:-
■染色法:グラム染色
     キニヨン染色
■菌種名:Nocardia asteroides
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
     チョコレート寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 皮膚組織のグラム染色ではフィラメント状のグラム陽性桿菌が観察された。このような形態を示す菌種としては、 Nocardia spp., Actinomyces spp., Streptomyces spp.を疑う必要がある。

②右側上スライド
 皮膚組織をKinyoun染色(抗酸菌染色)を実施した結果、赤いフィラメント状の桿菌が認められたため、Nocardia spp.が推定された。

③左右側下スライド
 左:ヒツジ血液寒天培地、右:チョコレート寒天培地におけるNocardia spp.の発育集落を示した。培養は35℃の好気的環境下で5日間培養した時の発育像である。集落の特徴はラフ型の培地に食い込んだ特徴があり、集落の臭いは土壌臭を呈する。
 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析の結果、 Nocardia asteroidesと同定された。

Nocardia spp.の特徴

  1. この属には11菌種があり、N. asteroidesN. brasiliensisがヒトに感染を起こし易い。
  2. 0.5~×1.2µmの大きさで、分岐したフィラメントの多形成を示すグラム陽性桿菌である。
  3. 好気性菌で普通寒天培地や血液寒天培地に発育するが、選択培地としてはサブロー寒天培地、小川培地、BCYE寒天培地などがある。
  4. 非運動性でカタラーゼ試験は陽性、尿素分解性は陽性である。
  5. 肺炎、肺膿瘍、脳・皮膚ノカルジア症などを起こす。
  6. ミノサイクリン、ST合剤が第一選択薬である。

胆汁での混合感染の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:胆汁
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Enterococcus faecalis
     Klebsiella pneumoniae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 胆汁が臨床検体であるため、一般的にはグラム陽性双球菌はEnterococcus spp.(腸球菌属)を推定するが、本症例では菌体の周囲に赤く染まった染色像があるためStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)も同時に疑った。ただし、 S. pneumoniae は胆汁にて溶解する特徴を有しているため最終的にはEnterococcus spp.を起炎菌と判断した。グラム陰性桿菌は腸内細菌科細菌を推定させる形態を示していたが、この染色像でKlebsiella spp.を推定することは困難と言える。
 培養検査の結果、 Enterococcus faecalisKlebsiella pneumoniae が同定された。
菌体が伸長化した混合感染の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:胆汁
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Aeromonas hydrophila
     Klebsiella pneumoniae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 グラム染色で伸長化したグラム陰性桿菌が観察された。伸長化はスフェロプラストと呼ばれ、細胞壁合成阻害薬(主にβラクタム系抗菌薬)によって起こる。通常、 βラクタム系抗菌薬は細胞壁の合成を阻害するため細胞壁が薄くなる。細胞壁が薄くなると菌体内の内圧が高いため、細菌は伸長化しながら最終的には溶菌して死滅する。ただし、伸長化の過程で抗菌薬の影響が無くなると伸長化した菌体は回復し、数箇所に隔壁が形成され細菌の分裂がすぐに始まる。そのため、細胞壁合成阻害薬を使用したグラム陰性桿菌ではPAE(post antibiotic effect;ある抗菌薬が微生物に短時間接触した後に持続してみられる増殖抑制効果)は無いと言われている。
 培養検査の結果、 Aeromonas hydrophilaKlebsiella pneumoniae が同定された。ただし、グラム染色では2菌種の存在は判断できなかった。
胆汁に含まれていた抗菌薬の影響を示した症例
■分 類:一般細菌
■材 料:胆汁
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Escherichia coli
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 BTB乳糖加寒天培地に臨床検体の胆汁を塗布した結果、塗布した部位にはEscherichia coliの発育阻止作用が認められた。本症例の患者背景を調査した結果、抗菌薬投与中の検体であることが判明した。胆汁を白金耳にて画線培養すると、塗布部位から離れるに従い、抗菌薬が希釈されるため E. coli は正常な形態の発育を示した。なお、塗布部位のなかに存在する微小な集落を薬剤感受性検査した結果、薬剤耐性傾向が確認された。

・ 本症例での注意点
 微生物検査を依頼する場合には抗菌薬投与前の臨床検体を提出するのが基本である。ただし、抗菌薬投与中の臨床検体を提出する場合には抗菌薬の血中濃度が最も低い時期に検体を採取し提出することが望ましい。

正常な膣分泌物におけるグラム染色像の4症例
■分 類:一般細菌
■材 料:膣分泌物
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Döderlein's bacillus
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
①左右側上、左右側下スライド
 正常な膣分泌物では扁平上皮細胞と乳酸菌であるグラム陽性桿菌のデーデルライン桿菌のみが観察された。

・膣の細菌叢
 膣の細菌はエストロゲン(女性ホルモン)に強い影響を受け、エストロゲンが存在すると膣粘膜上皮細胞にグリコーゲンが蓄積する。グリコーゲンは酵素により分解され、乳酸が産生されるために膣内は酸性化することで乳酸桿菌が増加する。

※乳酸菌はデーデルライン桿菌と呼ばれ、膣内の正常状態を表している。

・細菌性膣症の判断(Nugent score)

菌数/視野(100倍)

菌種0<11-45-30>30
Lactobacillus Type43210
Gardnerella Type01234
Mobiluncus Type01122

合計7点以上を細菌性膣症と判断する。

Gardnerella vaginalis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:膣分泌物
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Gardnerella vaginalis
■培地名:ガードネレラ寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 Gardnerella vaginalis の嫌気的環境下で35℃、48時間のガードネレラ寒天培地における発育集落像を示した。 G. vaginalis はβ溶血の微小な集落を形成する特徴がある。

②右側スライド
 膣分泌物のグラム染色を強拡大にて観察すると、本症例では好中球に貪食された小さなグラム陰性桿菌が認められる。

Gardnerella vaginalisの特徴

  1. この属にはGardnerella vaginalis 1菌種のみが存在する。
  2. 微小なグラム陰性桿菌(1.5 ~2.0×0.5µm)で非運動性である。
  3. 炭酸ガス培養で発育促進、ヒトまたはウサギ血液寒天培地では弱いβ溶血を呈する。
  4. カタラーゼおよびチトクロムオキシダーゼ試験は陰性である。
  5. 細菌性膣症の原因菌である。

Mobiluncus spp.が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:膣分泌物
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Mobiluncus spp.
■培地名:ブルセラHK(RS)寒天培地
     ガ-ドネレラ寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 グラム染色では三日月状のグラム陰性桿菌として観察される。膣および子宮分泌物から三日月状のグラム陰性桿菌が認められた場合には Mobiluncus spp.が推定できる。

②左側上スライド
 ブルセラHK(RS)寒天培地では微小な集落を形成する。集落は特異的な形態がみられないため Mobiluncus spp.の集落を鑑別することは困難である。

③左側下スライド
 対象的にGardnerella vaginalis をガードネレラ寒天培地に培養した発育画像を示した。 G. vaginalisはガードネレラ寒天培地にて弱いβ溶血が観察されるため容易に推定することができる。

Mobiluncus spp.の特徴

  1. 細菌性膣症の原因菌のひとつである。
  2. グラム染色ではグラム陰性またはグラム染色不定の弯曲した桿菌として観察される。
  3. M.curtisii とM.mulieris の2菌種を含み、M.curtisiiにはsubsp. curtisiiとsubsp. holmesii が存在する。

Neisseria gonorrhoeae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:眼分泌物
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Neisseria gonorrhoeae
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
     チョコレ-ト寒天培地
     サイヤー・マーチン寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 臨床検体が眼分泌物であることより、膿瘍の分離培養手順に準じてBTB乳糖加寒天培地、ヒツジ血液寒天培地およびブルセラHK寒天培地(RS)などを使用して培養を実施した。その結果、ヒツジ血液寒天培地に極めて微小な発育集落が認められた。簡易検査にてグラム陰性球菌であり、チトクロムオキシダーゼ試験とカタラーゼ試験が陽性であったことより、 Neisseria spp.を疑った。
 同定検査の結果、 Neisseria gonorrhoeae(淋菌)と同定された。

②右側上スライド
 本症例菌株を継代培養後にチョコレート寒天培地と③左右側下スライドのThayer-Martin寒天培地にて発育性を確認した結果、 N. gonorrhoeae を疑わせる集落の発育が観察された。

Neisseria gonorrhoeae の特徴

  1. グラム陰性の双球菌(0.6~1.0µm)で、腎臓を2個接合した形態を示す。
  2. 莢膜、芽胞、鞭毛は保有していない。
  3. 至適温度は35~36℃、30℃以下および38.5℃以上では発育できない。
  4. 3~10%炭酸ガス培養が必須で、24~48時間で良好に発育する好気性菌。
  5. チョコレート寒天培地、GC寒天培地、サイヤー・マーチン寒天培地、ニューヨークシティ寒天培地で発育、普通寒天および普通ブイヨンには未発育。
  6. カタラーゼおよびチトクロムオキシダーゼは陽性、グルコースのみ陽性(他糖:陰性)を示し、硝酸塩還元能は陰性である。
  7. ヒトにのみ寄生し、性行為感染症(尿道炎、前立腺炎、精巣上体炎、膣炎、子宮内膜炎など)を発症する定点把握の5類感染症である。

Staphylococcus aureus(MSSA)が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:尿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Staphylococcus aureus(MSSA)
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 グラム染色ではブドウの房状を呈したグラム陽性球菌が多数観察された。本症例はStaphylococcus spp.を推定できる基本的な染色像である。なお、グラム染色でStaphylococcus spp. は推定できるが、Staphylococcus aureusか否かの鑑別やMRSAの判断はできない。
 培養検査の結果、Staphylococcus aureus(MSSA)と同定された。

【CLSIにおけるMRSA判定基準】

  • 遺伝子学的検出法:PBP2'を産生するmecA遺伝子を持つStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)を検出する。
  • 薬剤感受性試験法:MPIPC≧4µg/mLまたはCFX≧8µg/mLを示す黄色ブドウ球菌を検出する。

※黄色ブドウ球菌を対象にオキサシリン(MPIPC)とセフォキシチン(CFX)の両方を薬剤感受性試験した場合、どちらかの薬剤に耐性の時はMRSAと報告する。

Staphylococcus epidermidis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:尿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Staphylococcus epidermidis
■培地名:-
■年 齢:75
■性 別:男性
■解 説
 僅かな好中球の周りに多数のグラム染色球菌が観察された。グラム陽性球菌の形態からStaphylococcus spp.が最も疑われたが、連鎖状を呈した菌体も一部認められたためEnterococcus spp.の可能性も示唆された。
 培養検査の結果、StaphylococcuS. epidermidis(表皮ブドウ球菌)と同定された。

【CLSIにおけるMRCNS判定基準】

  • 遺伝子学的検出法:PBP2'を産生するmecA遺伝子を持つStaphylococcus aureus 以外のStaphylococcus spp.を検出する。
  • 薬剤感受性試験法:オキサシリン(MPIPC)≧0.5µg/mLを示すcoagulase negative Staphylococcus を検出する。

Staphylococcus lugdunensis ではMPIPC≧4µg/mL の時にMRCNSと報告する。

カルバペネム系抗菌薬の影響が疑われた症例
■分 類:一般細菌
■材 料:尿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Escherichia coli
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Escherichia coli はグラム陰性桿菌の腸内細菌科細菌に含まれ、ラクビーボール様の形態を呈する。カルバペネム系抗菌薬の投与を受けたグラム陰性桿菌の場合にはバルジ状の形態が時に観察されることがある。バルジ状を示すにはPBP2およびPBP3の細胞壁に阻害があると認められる。

PBP2:細胞形態の維持に必要な蛋白
PBP3:隔壁形成に関する蛋白

 培養検査の結果、Escherichia coli(大腸菌)と同定された。
Salmonella enteritidis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:尿
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Salmonella enteritidis
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
     ヒツジ血液寒天培地
     SS寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 BTB乳糖加寒天培地/ヒツジ血液寒天培地に発育したSalmonella enteritidis は乳糖非分解のため、当初はSerratia spp.などの腸内細菌科細菌を疑った。

②右側スライド
 同定検査の結果、 Salmonella spp.が疑われたので、SS寒天培地にて確認検査を追加した。集落の中央は硫化水素により黒色、周囲は透明の色調を呈した。O抗原とH抗原を調べた結果、 O抗原:9群、 H抗原:g,mに凝集し、 Salmonella enteritidis と最終判断した。

・ 本症例での注意点
 尿は初期から後期を通じて検出されるため Salmonella spp.も念頭において検査を進めることが重要である。

Proteus mirabilis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:尿
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Proteus mirabilis
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Proteus vulgarisP. mirabilis では寒天培地上を遊走するスウォーミング現象がみられる。このスウォーミングは菌株の相同性の確認にも利用され、同一菌株の場合にはスウォーミングの融合が起こり、菌株間の境界領域が不明瞭となる。

Proteus spp.の特徴

  1. P. vulgaris, P. mirabilis, P. penneri, P. myxofaciens の4菌種が存在する。
  2. グラム陰性桿菌(0.4~0.8×1.0~1.3µm )で運動性がある。
  3. 遊走する菌株でインドール反応陽性はP. vulgaris, 陰性はP. mirabilis を疑う。
  4. インドール陰性株は薬剤に感性、インドール陽性株は薬剤に耐性を示す傾向にある。
  5. 日和見感染や院内感染として尿路・呼吸器・創感染などを起こす。
  6. 院内感染ではP. mirabilis のESBL ( Extended-spectrum β-lactamase )が問題となる。

Streptococcus dysgalactiae subp. equisimilis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:非開放性膿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus dysgalactiae subp. equisimilis
■培地名:-
■年 齢:58
■性 別:女性
■解 説
 非開放性膿の好中球のなかに小さなグラム陽性球菌が多数貪食されていた。このような形態を示す細菌にはStreptococcus milleri group ( S. anginosusS. constellatusS. intermedius)および嫌気性グラム陽性球菌(Peptostreptococcus spp.)などが推定されるため培養検査で確認する必要がある。
 培養検査の結果、Streptococcus dysgalactiae subp. equisimilis と同定された。

Streptococcus dysgalactiae subp. equisimilis の特徴
 ヒトの感染症と関わりを示すStreptococcus pyogenicグループ (炎症性化膿性疾患の原因菌) に属する 細菌には

  1. Streptococcus pyogenes (A群溶血連鎖球菌: GAS と略称)
  2. Streptococcus agalactiae (B群溶血連鎖球菌: GBS と略称)
  3. Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis (C, G 群溶血連鎖球菌: SDSE と略称)
の3菌種が症例数も多く,最も重要であり、いずれも血液寒天培地にてβ溶血を呈する。

Streptococcus anginosus が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:非開放性膿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus anginosus
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 検体採取した時の非開放性膿で、全体的に黄色の膿汁で呈していた。ただし、悪臭は認められなかった。

②右側上・下スライド
 非開放性膿の好中球のなかに小さなグラム陽性球菌が多数貪食されていた。このような形態を示す細菌にはStreptococcus milleri group ( S. anginosusS. constellatusS. intermedius)および嫌気性グラム陽性球菌(Peptostreptococcus spp.)、Streptococcus pyogenicグループなどがあるため培養検査で確認する必要がある。
 培養検査の結果、Streptococcus anginosus と同定された。

Streptococcus anginosus の特徴
 S. anginosus はStreptococcus milleri groupに含まれ、口腔、上気道、腸管、膣などに常在する微好気性のグラム陽性連鎖球菌でoral streptococciに分類される。検査材料としては膿汁、喀痰、胸水、胆汁、膣分泌物、血液などから比較的分離され易い。

Peptostreptococcus anaerobius が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:非開放性膿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Peptostreptococcus anaerobius
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 非開放性膿の好中球のなかに小さなグラム陽性球菌が多数貪食されていた。このような形態を示す細菌にはStreptococcus milleri group ( S. anginosusS. constellatusS. intermedius)および嫌気性グラム陽性球菌(Peptostreptococcus spp.)、Streptococcus pyogenicグループなどがあるため培養検査で確認する必要がある。
 培養検査の結果、Peptostreptococcus anaerobius と同定された。


モダンメデイア:56号12号 2010:グラム陽性嫌気性球菌群より引用

Streptococcus anginosus およびS. anginosusPrevotella spp.が検出された4症例
■分 類:一般細菌
■材 料:非開放性膿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus anginosus
     Prevotella spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 非開放性膿の好中球のなかに小さなグラム陽性球菌が観察された。このような形態を示す細菌にはStreptococcus milleri group ( S. anginosusS. constellatusS. intermedius)および嫌気性グラム陽性球菌(Peptostreptococcus spp.)などがあるため培養検査で確認する必要がある。
 培養検査の結果、Streptococcus anginosus と同定された。

②左右側下スライド
 非開放性膿の好中球のなかに小さなグラム陽性球菌とクラム陰性の短桿菌が観察された。このような形態を示すグラム陽性球菌は上記に記載したが、グラム陰性短桿菌では嫌気性グラム陰性桿菌が検出されることが多い。本症例で検出されたPrevotella spp.は血液成分を含む寒天培地で集落が黒色を形成する嫌気性グラム陰性短桿菌で、歯科感染症から高頻度に分離される。
 培養検査の結果、Streptococcus anginosus とPrevotella spp.が同定された。

口腔外科からActinomyces israelii が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:非開放性膿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Actinomyces israelii
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 100倍の弱拡大にて、多数の好中球のなかにドルーゼ(硫黄状顆粒)と思われる菌塊が認められる。

②右側上・下、左側下スライド
 1000倍の強拡大にて、菌塊のなかに放射状に伸びるグラム陽性の桿菌が認められる。
 本症例は嫌気培養後にActinomyces israelii(放線菌)と同定された。

・本症例での注意点
 本症例のように放射状に伸びるグラム陽性桿菌にはActinomyces spp.以外にNocardia spp.とStreptomyces spp.がある。これらの3菌属を塗抹検査で鑑別するには抗酸菌染色のひとつであるKinyoun染色を実施する。その結果、石炭酸フクシン液によって赤色に染まった桿菌が認められた場合にはNocardia spp.が推定できる。

・ Kinyoun染色法
 前染色:石炭酸フクシン液
 脱色:1%硫酸水
 後染色:メチレン青液
 ※加温染色は必要としない。

膿汁から複数菌が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:非開放性膿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Eschrichia coli
     Klebsiella pneumoniae
     Enterobacter cloacae
     Enterococcus faecalis
     Enterococcus faecium
     Clostridium perfringens
     Bacteroides fragilis
     Bacteroides thetaiotaomicron
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 腹腔内膿瘍の検体で、悪臭を伴う褐色の膿汁であった。

②右側(グラム染色像)スライド
 好中球には複数の貪食された細菌が多数認められ、周囲にもグラム陽性球菌からグラム陰性桿菌、グラム陽性桿菌などが多数観察された。

③左側下スライド
 培養検査の結果、好気性菌はEschrichia coli, Klebsiella pneumoniae, Enterobacter cloacae, Enterococcus faecalis, Enterococcus faecium と同定された。
 嫌気性菌はClostridium perfringens, Bacteroides fragilis, Bacteroides thetaiotaomicron と同定された。なお、 Clostridium spp.は周囲が不均一性の集落を形成する特徴がある。

・ 嫌気性菌を疑うポイント

  1. 悪臭のある臨床検体
  2. 閉鎖性の膿瘍(脳膿瘍、肺膿瘍、皮下膿瘍など)
  3. 腹腔内感染症(肝膿瘍、横隔膜下膿瘍など)
  4. 婦人性器感染症(膣炎、付属器炎など)
  5. 塗抹検査陽性、好気培養陰性の検体
  6. アミノグリコシド系薬が無効な感染症
  7. 抗菌薬投与後の下痢症
  8. ABPCやCEZが無効な感染症
  9. 壊疽、土で汚染された壊死組織
  10. 膿汁中のドルーゼ(硫黄顆粒、菌塊)

口腔内膿瘍の混合感染症例
■分 類:一般細菌
■材 料:非開放性膿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Prevotella corporis
     Fusobacterium nucleatum
     Peptostreptococcus spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 口腔内膿のグラム染色を強拡大にて観察すると、本症例では好中球に貪食された小さなグラム陰性桿菌(Prevotella corporis)と菌体が紡錘形のグラム陰性桿菌であるFusobacterium nucleatum が認められる。ただし、グラム染色所見のみで菌種を推定するのは非常に困難である。

②左側スライド
 口腔内膿をブルセラHK(RS)寒天培地に塗布し、35℃の嫌気的環境下にて48時間培養した時の発育集落像を示した。 多数の常在菌と共に嫌気性菌であるP. corporis :1+、 Fusobacterium nucleatum:少数、 Peptostreptococcus spp.:極少数が検出された。 P. corporis は歯肉の裂け目など各種臨床材料から検出され、数日で軽度の色素(黒色)を産生する。旧名はBacteroides corporis で、起源は Bacteroides melaninogenicus subp. intermedius である。 F. nucleatum は細長い菌体を呈するため紡錘菌と呼ばれている。特にFusobacterium spp.は歯周病やレミエール症候群、局所的な皮膚潰瘍などの病気に関わる。

腹腔内膿瘍の混合感染症例
■分 類:一般細菌
■材 料:非開放性膿
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Klebsiella pneumoniae
     Escherichia coli
     Enterobacter cloacae
     Enterococcus faecalis
     Staphylococcus aureus (MRSA)
     Bacteroides fragilis
     Bacteroides thetaiotaomicron
     peptostreptococcus spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 腹腔内膿をBTB乳糖加寒天培地に塗布し、35℃の好気的環境下で24時間培養した時の発育集落像を示した。 多数の細菌の発育が観察される。Klebsiella pneumoniae:2+は粘液性に富んだ細菌で、乳糖分解性のためBTB乳糖加寒天培地では黄色の集落を形成し、白金線などで集落に触れると糸を引く菌株もある。 Escherichia coli:2+は乳糖分解性のためBTB乳糖加寒天培地では黄色のR型集落を形成し易い。Enterobacter cloacae:1+は菌種により乳糖分解性がことなる。 集落はE. coliに比べてS型の集落を形成する。なお、本症例ではグラム陰性桿菌以外にヒツジ血液寒天培地にてEnterococcus faecalis:少数とStaphylococcus aureus(MRSA):少数が検出された。

②右側スライド
 腹腔内膿をブルセラHK(RS)寒天培地に塗布し、35℃の嫌気的環境下で48時間培養した時の発育集落像を示した。ブルセラHK(RS)寒天培地には嫌気性菌のみならず通性嫌気性菌も発育するため多数の細菌の発育が観察される。このような症例では嫌気性菌の検出は難しくなるため必要に応じて選択培地の併用が望ましい。今回、嫌気性菌を検索した結果、グラム陰性桿菌のBacteroides fragilis:3+、 Bacteroides thetaiotaomicron:3+とグラム陽性球菌のPeptostreptococcus spp.:1+が検出された。

Vibrio vulnificus に感染した患者の皮膚所見
■分 類:一般細菌
■材 料:皮膚分泌物
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Vibrio vulnificus
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 Vibrio vulnificus 感染後、2~3日程度で四肢に発疹が出現した後、水泡を形成する。

②右側上スライド
 水泡形成後、壊死性筋膜炎に移行する。

Vibrio vulnificus の特徴
 V. vulnificus の菌体側因子としては宿主の免疫機構に抵抗する莢膜多糖体と動物に毒性を示す内毒素のリポポリサッカライドを保有している。菌体外産生物には赤血球膜を破壊してヘモグロビンを放出する作用や細胞の破壊および血管透過性の亢進に関与するヘモリジン、蛋白の分解、血管透過性亢進、肥満細胞顆粒やフィブリンの分解に関与するプロテアーゼ、脂肪酸の切り出しや細胞膜の破壊に関与するホスホリパーゼ、感染宿主の鉄結合蛋白より鉄を獲得するシドロフォアが存在する。
 V. vulnificus の感染経路は全患者の約7割が発病半日から数日前に生鮮魚介類を摂取した既往があり、経口感染によるものと考えられ、そのほとんどが原発性敗血症を起こす。患者は約9割の何らかの肝臓疾患を有しており、そのなかでも肝硬変を基礎としたものが約7割を占める。感染後の予後では7割が死亡する致死率の極めて高い感染症である。そのため、本菌の迅速検出・診断は患者の予後に影響する。

Vibrio vulnificus が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:皮膚分泌物
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Vibrio vulnificus
■培地名:TCBS寒天培地
     チョコレート寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 三日月状のグラム陰性桿菌が観察された。臨床背景は肝障害のある患者の水泡分泌物で発赤から水泡性に移行し、一部は紫色に変色した壊死部分が観察された。このような背景を考慮し Vibrio vulnificus を最も疑った。

②右側上スライド
 TCBS寒天培地に発育したV. vulnificus の画像で、白糖非分解のため深緑色の集落を形成した。

③右側下スライド
 チョコレート寒天培地に発育したV. vulnificus の画像で、集落は黄金色を示す集落を形成した。
 培養検査の結果、 Vibrio vulnificus と同定された。

Clostridium tetani が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:皮膚分泌物
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Clostridium tetani
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 皮膚分泌物のグラム染色では先端に芽胞を有するグラム陽性桿菌(太鼓のバチ状)が認められる。一般的にClostridium tetani が推定されるが、断定することは難しい。

②右側スライド
 GAM半流動培地にて増菌したC. tetani のグラム染色像を示した。臨床材料では先端に芽胞を認めたが、増菌培養では亜先端芽胞の形態を示した。したがって、培養法によっては、C. tetani 特有の太鼓のバチ状を呈さないことを知っておく必要がある。
 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析および16S rRNA遺伝子解析の結果、Clostridium tetani と同定された。

Clostridium tetani の特徴

  1. 土壌に広く分布する。
  2. 形態は太鼓のバチ状を示し、周毛性の鞭毛にて運動する。
  3. ブルセラHK(RS)寒天培地などでは遊走したフィルム状の発育を呈する。
  4. 血液成分添加では溶血帯を認める。
  5. 強直性麻痺を起こす神経毒:テタノスパスミンを産生する。
    ※後弓反射が特徴
  6. 破傷風ヒト免疫グロブリンによる血清療法が用いられる。

Clostridium tetani のグラム染色とウィルツ染色の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:皮膚分泌物
■その他:-
■染色法:グラム染色
     ウィルツ染色
■菌種名:Clostridium tetani
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 皮膚分泌物のグラム染色では先端に芽胞を有するグラム陽性桿菌(太鼓のバチ状)が認められる。一般的にClostridium tetani が推定されるが、断定することは難しい。

②右側スライド
 純培養後のC. tetani におけるWirtz(ウィルツ)染色像を示した。芽胞はマラカイト緑液にて緑色、菌体はサフラニンにて薄い赤色に染まる特徴がある。

・ Wirtz(ウィルツ)染色法
 標本は火炎又はメタノール液にて固定を行い、5%マラカイト緑液を十分に塗抹の上に添加し、継続的に2〜5分程度加温染色を実施する※(加温の際マラカイト緑液を沸騰させないよう注意し、液面から湯気がでたら火を引き、塗抹上の染色液が少し冷めてから、必要に応じて5%マラカイト緑液を少し追加し、再度加温する)。その後、水洗を行い、 0.5%サフラニン液を塗抹の上に十分添加して約30秒程度染色する。染色後は水洗を実施し、顕微鏡にて観察する。

代表的な腸管感染症における糞便の肉眼的所見
■分 類:一般細菌
■材 料:便
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 サルモネラ腸炎の糞便である。水分の多い粘血便が多いが、緑色を呈する粘液便のこともある。

②中央側上スライド
 カンピロバクター腸炎の糞便である。古典的な粘血便が多いが、水様性の粘血便や血液が少ない泥状便のこともある。

③右側上スライド
 ベロ毒素産生性大腸菌腸炎の糞便である。鮮血便が多いが、粘血便を示すこともある。

④左側下スライド
 腸炎ビブリオの糞便である。多くは黄褐色の水様便であるが、急性期には水様血便を示すこともある。

⑤中央側下スライド
 コレラの糞便である。大量の水様便で、米のとぎ汁様便を呈するのが特徴である。

⑥右側スライド
 軟便の糞便である。軟便・硬便では感染性腸炎の原因菌は検出されないことが多い。

腸管出血性大腸菌(O157)感染患者の糞便
■分 類:一般細菌
■材 料:便
■その他:-
■染色法:-
■菌種名: Eschrichia coli( EHEC:enterohemorrhagic E. coli 
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 腸管出血性大腸菌感染患者の糞便では、血液の混入した鮮血便が観察される。

・腸管出血性大腸菌( EHEC:enterohemorrhagic E. coli )の特徴

  1. 大腸粘膜に付着して増殖する際にベロ毒素(2種類)を産生する。この毒素は志賀赤痢菌が産生する毒素と同一ためShiga toxin(Stx)とも呼ばれる.そのため、ベロ毒素産生大腸菌(VTEC)や志賀毒素産生大腸菌(STEC)とも言われる。
  2. 溶血性尿毒症症候群や脳症などの合併を起こし、死亡することがある。
  3. 血清型はO157:H7が有名、その他 O26:H11、O111:H2、O128:H7、O145:H8などがある。
  4. 鮮血便を伴う下痢を起こす。血液像では赤血球の破壊した破砕赤血球像が観察される。
  5. ウシの常在細菌となる事が多く、牛肉や便で汚染された野菜なども原因食品になる。
  6. 選択培地にはソルビトールマッコンキー寒天培地などがある。

粘血便からCampylobacter jejuni が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:便
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Campylobacter jejuni
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側スライド
 スキロー寒天培地に発育した集落のグラム染色像を示した(右側:拡大)。 Campylobacter spp.はラセン形のS字状グラム陰性桿菌を呈する特徴があり、糞便の直接塗抹検査でラセン形のS字状グラム陰性桿菌が認められた場合にはCampylobacter spp.の存在が推定される。
 培養検査の結果、Campylobacter jejuni と同定された。

Campylobacter spp.の特徴

  1. グラム陰性の”らせん状”細菌で、酸素濃度は3~15%の微好気条件で発育する。
  2. この属にはヒトに病原性を示すC. jejuni, C. coli, C. fetus など15菌種が含まれる。
  3. ブドウ糖などのすべての炭水化物を酸化的・発酵的にも分解しない。
  4. チトクロムオキシダーゼ試験は陽性で、硝酸塩を還元する人畜共通感染菌である。
  5. C. jejuni は25℃:未発育、37℃:発育、42℃:発育する。
  6. C. fetus は25℃:発育、37℃:発育、42℃:未発育である。
  7. C. jejuni は馬尿酸塩加水分解:陽性である。
  8. C. jejuni は粘血便が特徴で、感染型食中毒を起こす。
  9. C. fetus は敗血症や心内膜炎、関節炎、髄膜炎などを起こす。

ソルビトールマッコンキー寒天培地に発育した腸管出血性大腸菌の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:便
■その他:-
■染色法:-
■菌種名: Eschrichia coli( EHEC:enterohemorrhagic E. coli )
■培地名:ソルビトールマッコンキー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 ソルビトールマッコンキー寒天培地はマッコンキー寒天培地の乳糖の代わりにソルビトールを添加して作製した培地で、腸管出血性大腸菌はソルビトール利用能がない性質を利用した選択培地である。そのため、集落は無色から薄いピンク色の色調を呈する。

②右側スライド
 病原大腸菌をソルビトールマッコンキー寒天培地にて培養した集落の色調を示した。病原大腸菌はソルビトール利用能があるためピンク色の色調を呈する。

・マッコンキー寒天培地の主な組成
 乳糖 1%、胆汁酸 0.1%、NaCl 0.5%、指示薬:ニュートラルレッド

・SS寒天培地の主な組成
乳糖 1%、胆汁酸 0.9%、クエン酸Na 0.85%、チオ硫酸Na 0.55%、
クエン酸第二鉄 0.1%、ブリリアントグリーン、指示薬:ニュートラルレッド

・DHL寒天培地の主な組成
乳糖 1%、白糖 1%、デオキシコール酸Na 0.1%、クエン酸Na 0.1%、
チオ硫酸Na 0.23%、クエン酸鉄アンモニウム 0.1%、指示薬:ニュートラルレッド

SS寒天培地に発育したSalmonella spp.の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:便
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Salmonella spp.
■培地名:SS寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 SS寒天培地はSalmonella spp.とShigella spp.の選択培地として使用される。 Salmonella spp.は一般的に硫化水素産生、乳糖非分解菌のため集落の中央は硫化水素により黒色、周囲は透明の色調を呈する。 Shigella spp.は硫化水素非産生、乳糖非分解菌のため硫化水素は認められず、集落は透明の色調を呈する。本症例では硫化水素産生で周囲が透明の集落と乳糖を分解したピンク色の集落が観察されるため、硫化水素産生の集落をSalmonella spp.疑いとして検査を進める必要がある。

・SS寒天培地の組成
 水 1000mLに対して肉エキス 5g、ペプトン 5g、乳糖 10g、デオキシコール酸ナトリウム 8.5g、クエン酸ナトリウム 8.5g、チオ硫酸ナトリウム 8.5g、クエン酸鉄 1g、ブリリアントグリーン0.00033g、中性紅 0.025g、寒天末 13.5gが含まれる。

子児の糞便からYersinia pseudotuberculosis が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:便
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Yersinia pseudotuberculosis
■培地名:YER寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 培養菌のグラム染色像を示した。形態的には腸内細菌科細菌と推定されるが、菌種の推定は出来ない。

②右側スライド
 YER寒天培地に発育したYersinia pseudotuberculosis の画像を示した。選択培地を使用したため比較的容易に検出することができた。なお、本症例は小児科医師のYersinia spp.検出の依頼にて実施した。

Yersinia spp.の特徴

  1. 1894年に北里柴三郎によってペスト菌を発見した。
  2. 人畜感染症のため動物・環境中にも存在する。
  3. ヒトの病原体には Y. pestis, Y. enterocolitica, Y. pseudotuberculosis の3菌種がある。
  4. Y. pestis:グラム陰性桿菌(0.5~0.8×1.5~1.7µm )の小桿菌で非運動性、菌体の両端が濃染する特徴がある。
  5. Y. enterocolitica :グラム陰性桿菌(0.5~0.8×1.0~3.0µm )の桿菌である。
    ※30℃以下でのみ運動性有り(37℃:非運動)。
  6. Y. pseudotuberculosis は仮性結核菌と呼ばれる。
  7. Yersinia spp.の分離にはCIN寒天培地などが使用される。

Campylobacter jejuni が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:便
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Campylobacter jejuni
■培地名:スキロー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 スキロー寒天培地に発育した集落のグラム染色像を示した。 Campylobacter spp.はラセン形のS字状グラム陰性桿菌を呈する特徴があり、糞便の直接塗抹検査でラセン形のS字状グラム陰性桿菌が認められた場合にはCampylobacter spp.の存在が推定される。

②左側スライド
 糞便をスキロー寒天培地に塗布し、42℃の微好気環境下で48時間培養した時の発育集落像を示した。スキロー寒天培地にC. jejuniのみ発育した集落が観察された。
 本症例はMALDI Biotyterによる質量分析の結果、 C. jejuni と同定された。

Campylobacter spp.の特徴

  1. グラム陰性の"らせん状"細菌で、酸素濃度は3~15%の微好気条件で発育する。
  2. この属にはヒトに病原性を示すC. jejuni, C. coli, C. fetus など15菌種が含まれる。
  3. ブドウ糖などのすべての炭水化物を酸化的・発酵的にも分解しない。
  4. チトクロムオキシダーゼ試験は陽性で、硝酸塩を還元する人畜共通感染菌である。
  5. C. jejuni は25℃:未発育、37℃:発育、42℃:発育する。
  6. C. fetus は25℃:発育、37℃:発育、42℃:未発育である。
  7. C. jejuni は馬尿酸塩加水分解:陽性である。
  8. C. jejuni は粘血便が特徴で、感染型食中毒を起こす。
  9. C. fetus は敗血症や心内膜炎、関節炎、髄膜炎などを起こす。

Clostridium difficile の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:便
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Clostridium difficile
■培地名:CCFA寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 大型のグラム陽性桿菌が観察される。芽胞については培養条件により出現の有無が異なる。なお、 Clostridium difficile は形態のみでは推定できない。

②左側スライド
 嫌気的環境下における35℃、48時間のCCFA寒天培地でのC. difficile の発育集落像を示した。 C. difficile は黄白色の集落を形成し、集落の周囲は不均一性の形態を示した。

Clostridium difficile の特徴

  1. 抗菌薬投与中に発症した下痢便が検査対象となる。
  2. 亜端在性の芽胞を有するが莢膜は保有しない。
  3. 周毛性鞭毛にて運動する。
  4. 抗菌剤のサイクロセリンやセフォキシチンを含むCCFA培地、CCMA培地などを使用する。
  5. 毒素にはトキシンA:腸管毒、トキシンB:細胞毒の2種類が存在する。
  6. ヒトの消化管に生息する。
    ※1歳以下の乳児:約90%、成人:約7~14%保有
  7. 偽膜性大腸炎や抗菌薬関連下痢症の原因菌となる。
  8. 代表的な院内感染の菌種である。
  9. 治療薬はバンコマイシンやメトロニタゾールが有効である。
  10. 検査法にはイムノクロマト法、ELISA法、PCR法、培養法などがある。

Staphylococcus aureus(MRSA)が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:胸水
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Staphylococcus aureus(MRSA)
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 グラム染色ではグラム陽性の双球菌が多数観察された。ただし、 双球菌の形態はStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)やEnterococcus spp.(腸球菌属)のようなランセット型ではなく、球形の双球菌である。このような形態を呈するのはStaphylococcus spp.が最も多い。 Staphylococcus spp.はブドウの房状をした画像が教科書などに掲載されているが、実際の微生物検査では本症例のような形態を呈するのが多い。なお、グラム染色でブドウ球菌属は推定できるがStaphylococcus aureus か否かの鑑別やMRSAの判断はできない。
 培養検査の結果、Staphylococcus aureus(MRSA)と同定された。

【CLSIにおけるMRSA判定基準】

  • 遺伝子学的検出法:PBP2'を産生するmecA遺伝子を持つStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)を検出する。
  • 薬剤感受性試験法:オキサシリン(MPIPC)≧4µg/mLまたはセフォキシチン(CFX)≧8µg/mLを示す黄色ブドウ球菌を検出する。

※黄色ブドウ球菌にMPIPCとCFXの両方を薬剤感受性試験した場合、どちらかの薬剤が耐性の時はMRSAと報告する。

水泡滲出液からStreptococcus pyogenes が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:滲出液

■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pyogenes
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 連鎖状のグラム陽性球菌が観察され、かつ赤血球も認められないためStreptococcus pyogenes(A群溶血連鎖球菌)あるいはS. agalactiae (B群溶血連鎖球菌)などのβ溶血連鎖球菌が推定される。本症例のように水泡滲出液からS. pyogenesが検出された場合には劇症型A群溶血連鎖球菌感染症の可能性があるため、主治医に連絡しながら検査を進めていく必要がある。
 培養検査の結果、Streptococcus pyogenes と同定された。

Streptococcus pyogenes の主な特徴を記載する。

  1. グラム陽性球菌(0.5~1.0µm)で双球状や連鎖状の配列を呈するが、芽胞や鞭毛は保有していない。
  2. ヒアルロン酸からなる莢膜をつくり、白血球の食菌作用に抵抗する。
    ※多くの菌株では莢膜は認められない。
  3. 至適温度:35~37℃、至適pH:7.0~7.8、β溶血でカタラーゼは陰性である。
  4. 血液成分含有培地で発育する。
  5. Lancefield: A群、M蛋白・T蛋白で約60型に分類される。
  6. バシトラシン感性、B, C, D群などは耐性である。
  7. 溶血毒(ストレプトリジン)を産生する。
  8. 発赤毒素(ディック毒素)を産生する。
  9. ストレプトキナーゼやDnase分解酵素を産生する。
  10. ヒトに対する病原性:腎炎、猩紅熱、リウマチ熱などを発症する。
  11. ペニシリン系に対する耐性菌は認められていない。

Streptococcus pyogenes が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:咽頭粘液
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pyogenes
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側(血液寒天培地での発育像)スライド
 Streptococcus pyogenes はA群溶血連鎖球菌、化膿連鎖球菌と呼ばれ、ヒトに対しては咽頭炎、腎炎、猩紅熱、リウマチ熱などの原因菌となる。血液寒天培地では完全溶血のβ溶血を呈し、Lancefieldの分類ではA群に含まれる。

②右側スライド
 強拡大にて、連鎖状のグラム陽性球菌として観察される。本菌は強い溶血毒を産生するため、赤血球を融解する特徴がみられる。
 培養検査の結果、Streptococcus pyogenes(A群溶血連鎖球菌)と同定された。

Streptococcus pyogenes の特徴

  1. グラム陽性球菌(0.5~1.0µm)で双球状や連鎖状の配列を呈するが、芽胞や鞭毛は保有していない。
  2. ヒアルロン酸からなる莢膜をつくり、白血球の食菌作用に抵抗する。
    ※多くの菌株では莢膜は認められない。
  3. 至適温度:35~37℃、至適pH:7.0~7.8、β溶血でカタラーゼは陰性である。
  4. 血液成分含有培地で発育する。
  5. Lancefield: A群、M蛋白・T蛋白で約60型に分類される。
  6. バシトラシン感性、B, C, D群などは耐性である。
  7. 溶血毒(ストレプトリジン)を産生する。
  8. 発赤毒素(ディック毒素)を産生する。
  9. ストレプトキナーゼやDnase分解酵素を産生する。
  10. ヒトに対する病原性:腎炎、猩紅熱、リウマチ熱などを発症する。
  11. ペニシリン系に対する耐性菌は認められていない。

Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis G群が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:関節液
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側上(臨床検体)スライド
 細菌検査に提出された関節液の膿汁を示した。関節液は透明の液体で無菌の体液であるが、細菌感染が疑われる場合には黄色に着色した液体が観察される。

②左側上・下スライド
 グラム染色を強拡大にて観察すると、好中球に貪食された短い連鎖状のグラム陽性球菌あるいは双球菌様の微小な形態が観察された。グラム染色では連鎖球菌か嫌気性グラム陽性球菌などが推定されるが鑑別は難しい。

③右側下スライド
 Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis Streptococcus pyogenes と同様に血液寒天培地では完全溶血のβ溶血を呈するため集落の観察のみでは鑑別は難しい。Lancefieldの分類ではA,C,G,L群に含まれるためS. pyogenes と鑑別するにはバシトラシン試験、PYR試験およびLancefieldの群別検査を実施する必要がある。なお、 Streptococcus dysgalactiae にはLancefield のC群に含まれるStreptococcus dysgalactiae subsp. dysgalactiae が存在する。この2菌種も集落の観察のみでは鑑別は難しい。

Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis の特徴

  1. 血液培養のみならず、皮膚・軟部組織から分離される。
  2. 時に壊死性筋膜炎を呈することがある。

ブルセラHK寒天培地(RS)に発育したClostridium tetani の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:ドレーン廃液
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Clostridium tetani
■培地名:ブルセラHK(RS)寒天培地
■年 齢:83
■性 別:女性
■解 説
 本症例は83歳女性、腹部膨満と下血により当院に救急搬送された。腹部CTにより小腸ガス、腸液貯留像を認め、イレウスとの診断にて緊急手術が行われ、ダグラス窩にドレーンが留置された。同日、採取されたドレーン廃液の培養検査が提出され、遠心分離後の沈渣をアネロウサギ血液寒天/PV寒天培地を用い、35℃嫌気条件下で分離培養した。2日後、フィルム状に遊走発育した極少量の集落が観察され、集落のグラム染色ではClostridium spp.が推定されたため迅速同定を目的に質量分析計MALDI Biotyper を使用した結果、C. tetani(破傷風菌)と同定された。画像はフィルム状に遊走発育した極少量のC. tetani をブルセラHK(RS)寒天培地に再分離した時の発育像である。

Clostridium tetanii の特徴

  1. 動物の腸管や土壌中に広く分布する偏性嫌気性のグラム陽性桿菌である。
  2. 神経毒であるTetanospasminを産生し、破傷風を引き起こす。
  3. 破傷風は罹患すると急激な臨床経過を辿り、極めて致死率が高い。
  4. 破傷風の診断ではC. tetani が分離・同定されることは珍しく、筋緊張亢進と強直性痙攣などの臨床症状から診断する場合が多い。

代表的な菌種のグラム染色像
■分 類:一般細菌
■材 料:複数材料
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Staphylococcus spp.
     Streptococcus spp.
     Streptococcus pneumoniae
     Moraxella(B) catarrhalis
     Haemophilus influenzae
     Esherichia coli
     Klebsiella pneumoniae
     Pseudomonas aeruginosa
     Campylobacter jejuni
     Candida spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

・微生物検査において最初に実施されるのが、塗抹標本によるグラム染色である。
下記にグラム染色の手順を示す。

① 臨床検体をスライドグラスに塗布する
 ↓
② 自然乾燥後、火炎固定またはメタノール固定を実施する
 ↓
③ 自然乾燥後、前染色液であるクリスタル紫液にて染色する
 ↓
④ 水洗後、媒染液のルゴール液を滴下する
 ↓
⑤ 水洗後、純アルコール液かアルコール・アセトン液にて脱色する
 ↓
⑥ 水洗後、後染色液であるサフラニン液にて染色する
 ↓
⑦ 水洗後、光学顕微鏡にて観察する。

・本アトラス集は、著者が佐賀大学医学部附属病院検査部にて経験した症例を中心に掲載し、実際に判断に迷った症例や臨床微生物学を学習するうえで必要な資料を解説と共に掲載した。

・臨床検体からのグラム染色による細菌の推定では、貪食像や抗菌薬投与による形態変化、さらには検体の保存期間による染色性の劣化など多くの要因が関与する。従って、実際には光学顕微鏡にて判断した推定菌種と培養検査で発育した菌種の間で乖離がみられることがある。

・臨床検体から起炎菌を推定する場合、多くの細菌は属レベルでの判定に留まることが多い。例えば、ブドウ球菌とは推定できても、その細菌が黄色ブドウ球菌かコアグラーゼ陰性のブドウ球菌かを鑑別することは経験者でも非常に難しい。そのため、本アトラス集を参考に出来る限り起炎菌の推定が普及することを期待している。

Streptococcus agalactiae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:[複数材料]血液培養・尿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus agalactiae
■培地名:-
■年 齢:90
■性 別:男性
■解 説

・90歳、男性の血液培養および尿からStreptococcus agalactiae が検出された症例を提示する。

①左側上・下スライド
 血液培養からグラム陽性の短い連鎖状球菌と双球菌の形態が観察された。形態的にはStreptococcus agalactiae(B群溶血連鎖球菌)かEnterococcus spp.との混合感染が推定された。S. agalactiae は弱いβ溶血を呈する特徴があるため、赤血球の完全溶血が認め難いのが特徴と言える。

②右側下スライド
 尿からグラム陽性の短桿菌か球菌の伸長化による桿菌状形態が認められた。本症例でS. agalactiae を推定することは困難である。
 培養検査の結果、Streptococcus agalactiaeと同定された。

血液培養・髄液・ドレーン廃液から検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:[複数材料]血液培養・髄液・ドレーン廃液
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Enterococcus faecalis
     Streptococcus dysgalactiae subp. equisimilis
     Streptococcus pneumoniae
     Acinetobacter baumanii
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 血液培養の症例で、連鎖状のグラム陽性球菌が観察されたためStreptococcus pyogenes (A群溶血連鎖球菌)あるいはS. agalactiae(B群溶血連鎖球菌)などの細菌を推定したが、赤血球は正常の形態を示していた。そこで、緑色連鎖球菌の可能性も疑いながら培養および同定検査を実施した結果、Enterococcus faecalis であることが判明した。E. faecalis の場合には本症例のように連鎖状の形態を示すことがあることを認識して頂きたい。

②右側上スライド
 血液培養の症例で、連鎖状のグラム陽性球菌が観察され、かつ赤血球も完全溶血を呈したためStreptococcus pyogenes あるいはS. dysgalactiae などの細菌を推定した。本症例を培養および同定検査を実施した結果、Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis であることが判明した。 本症例のように連鎖状の形態を示し、かつ赤血球の完全溶血が観察される場合には本菌も念頭にいれて検査を進めて行くことが重要と言える。

③左側下スライド
 髄液からの典型的なStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)を疑う症例で、グラム陽性双球菌の周囲には白く抜けてみえる莢膜が観察され、本症例を培養および同定検査を実施した結果、Streptococcus pneumoniae であることが判明した。

④右側下スライド
 ドレーン廃液の本症例では、グラム陰性の双球菌が多数観察されるためNeisseria spp.の感染が疑われるが、標本を良く観察すると、一部の細菌において短桿菌を呈する形態が観察された。本症例を培養および同定検査を実施した結果、Acinetobacter baumanii であることが判明した。

複数材料からKlebsiella pneumoniae が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:複数材料
     吸引痰・血液培養
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Klebsiella pneumoniae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 吸引痰のグラム染色では丸太い大型のグラム陰性桿菌を呈し、菌体の周囲には薄いピンク色に染まった莢膜が多数認められた。

②左右側下スライド
 血液培養のグラム染色では丸太い短桿菌がみられ、一般的には大腸菌などの腸内細菌科細菌が疑われるが、一部の菌体では長い桿菌状の形態を示し、かつ菌体の周囲は白く抜けた莢膜と思われる像も観察された。

・本症例での注意点
 本症例は同一患者よりKlebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)を検出したが、臨床材料によってグラム染色像が異なることを示した貴重な症例と言える。グラム染色で起炎菌を推定する場合には、個々の菌体の特徴を詳細に観察して判断することが重要である。

複数材料から検出された菌種の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:複数材料
     血液培養・喀痰・眼脂
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus agalactiae
     Haemophilus influenzae
     Streptococcus pneumoiae
     Prevotella intermedius
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 血液培養からグラム陽性の連鎖球菌と双球菌の形態が観察された。形態的にはStreptococcus agalactiae(B群溶血連鎖球菌)かEnterococcus spp.などのStreptococcus 科が推定された。なお、赤血球の溶血が認められたことよりStreptococcus spp.の可能性が高いと判断された。
 培養検査の結果、Streptococcus agalactiae(B群溶血連鎖球菌)と同定された。

②右側上スライド
 喀痰からグラム陰性の短桿菌のみが多数観察された症例であり、本症例ではグラム染色によりHaemophilus influenzae(インフルエンザ菌)が起炎菌と推定された。
 培養検査の結果、Haemophilus influenzae と同定された。

③左側下スライド
 喀痰で好中球に貪食されたグラム陽性双球菌とグラム陰性短桿菌の2種類が観察され、起炎菌としての意義は高い。ただし、本症例では貪食された菌体も小さいため起炎菌の推定は出来なかった。
 培養検査の結果、Streptococcus pneumoniae とPrevotella intermedius が同定された。

④右側下スライド
 眼脂からH. influenzae が推定される症例で、多数のグラム陰性短桿菌が認められた。眼脂からはH. influenzae も高頻度で検出される。
 培養検査の結果、Haemophilus influenzae と同定された。

複数材料から検出された菌種の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:複数材料
     喀痰・眼および膣分泌物
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Corynebacterium spp.
     Haemophilus influenzae
     Mobiluncus spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 ハの字型または短桿菌状のグラム陽性桿菌であるCorynebacterium spp.が推定された。 Corynebacterium spp.は皮膚あるいは口腔内に存在する常在菌として考えられているが、免疫が低下した患者などでは日和見感染菌として起炎菌となる場合があるため患者の背景を参考に検査を進めることが重要である。
 培養検査の結果、Corynebacterium spp.と同定された。

②右側上スライド
 グラム陰性の短桿菌のみが多数観察された症例であり、本症例ではグラム染色によりHaemophilus influenzae が起炎菌と推定された。
 培養検査の結果、Haemophilus influenzae(インフルエンザ菌)と同定された。

③左側下スライド
 本症例は眼分泌物の症例で、①と同様な形態を示したCorynebacterium spp.が推定された。 Corynebacterium spp.は涙腺などに存在する常在菌のため、起炎菌の判定は極めて困難と考えられる。
 培養検査の結果、Corynebacterium spp.と同定された。

④右側下スライド
 細菌性膣症が推定される症例で、扁平上皮細胞に三日月状の細いグラム陰性桿菌が多数認められた。正常な膣分泌物のグラム染色ではグラム陽性桿菌のLactobacillus spp.で占められているが、細菌性膣症ではLactobacillus spp.が減少し、グラム陰性桿菌を中心とした細菌が占める特徴がある。
 培養検査の結果、Mobiluncus spp.と同定された。

複数材料からClostridium perfringens が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:複数材料
     血液・尿・胆汁
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Clostridium perfringens
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 患者の血液を採取した結果、右の採血管では血清成分と赤血球層は認め難く、左の採血管に比べ大部分が溶血を呈していた。

②右側上スライド
 尿および胆汁からもClostridium perfringens(ウェルッシュ菌)が検出された。

③左側下スライド
 血液の直接グラム染色で菌体が認められることは極めて稀なことである。本症例では血液中に多くのC. perfringens が存在していたことを意味する。
 培養検査の結果、 Clostridium perfringens と同定された。

※一般的に菌血症あるいは敗血症を呈する菌量は≦1cfu/mLと言われているため、血液量は約20mLを採血し、2セットの血液培養を実施することが推奨されている。

④右側下スライド
 尿のグラム染色では多数のグラム陽性双球菌(腸球菌疑い)のなかにグラム陽性桿菌の存在が観察される。 C. perfringens はグラム染色で芽胞は観察できない特徴がある。一般的に尿検体では嫌気培養を実施しないが、本症例では血液培養および胆汁からC. perfringens が検出されたため嫌気培養を実施した結果、C. perfringens が検出された。

複数材料から検出された菌種の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:[複数材料]喀痰・水泡分泌物
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Staphylococcus aureus(MRSA)
     Pseudomonas aeruginosa
     Vibrio vulnificus
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

・吸引痰からMRSA とPseudomonas aeruginosa および水泡分泌物からVibrio vulnificusが検出された症例を提示する。

①上側スライド
 僅かな好中球の周囲に細いグラム陰性桿菌と菌体の周囲がピンク色に染まったグラム陽性球菌が観察された。本症例では吸引痰の臨床背景を考慮すると、細いグラム陰性桿菌はPseudomonas aeruginosa、グラム陽性球菌はStaphylococcus spp.を最も疑った。
 培養検査の結果、 Pseudomonas aeruginosa とMRSA が同定された。

②下側スライド
 水泡性の分泌物のなかに、三日月状のグラム陰性桿菌が観察された。臨床背景は肝障害のある患者の水泡分泌物で、発赤から水泡性に移行し、一部は紫色に変色した壊死部分が観察された。このような背景より、 Vibrio vulnificus を最も強く疑った。
 培養検査の結果、Vibrio vulnificus と同定された。

Vibrio vulnificus の特徴

  1. 海水および海産物の魚介類に分布し、ヒトには経口感染による敗血症と創傷感染がある。
    ※有明海に多く、致死率の高い感染症、ヒトには壊死性筋膜炎を呈する。
    ※基礎疾患:肝硬変、肝癌、糖尿病で併発し易い、発育には鉄成分が関与する。
  2. 好塩菌で3%塩化ナトリウム添加で良く発育する。
    ※0%では発育できない。

代表的な菌種の発育像
■分 類:一般細菌
■材 料:複数材料
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Staphylococcus aureus
     Staphylococcus epidermidis
     Streptococcus pneumoniae
     Streptococcus pyogenes
     Streptococcus agalactiae
     Haemophilus influenzae
     Eschrichia coli
     Klebsiella pneumoniae
     Salmonella spp.
     Serratia marcescens
     Pseudomonas aeruginosa
     Campylobacter spp.
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
     チョコレート寒天培地
     BTB乳糖加寒天培地
     SS寒天培地
     スキロー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

・微生物検査においてグラム染色の次に実際されるのが培養検査である。
 下記に培養検査に関する概要を記載する。

① 分離培地

  • 分離培地には水、肉水・肉エキス、ペプトン、寒天、増強成分、化学薬品・指示薬などが含まれている。
     分離培地には選択分離培地と非選択分離培地の2種類があり、臨床材料から分離される細菌の種類によって使い分けられている。特に選択培地は目的菌以外の細菌の増殖を抑制し、特定菌種の発育を目的とする場合に使用される。
    (例)非選択分離培地:BTB乳糖加寒天培地、血液寒天培地など
       選択分離培地:SS寒天培地、TCBS寒天培地など

②培養条件

  • 酸素の要求性により、偏性好気性菌、通性嫌気性菌、偏性嫌気性菌、微好気性菌に大別される。
    (例)偏性好気性菌:緑膿菌、炭疽菌など(遊離酸素濃度:21%必要)
       通性嫌気性菌:大腸菌、ブドウ球菌など(酸素の存在は関係ない)
       偏性嫌気性菌:破傷風菌、ボツリヌス菌など(酸素がない条件が必要)
       微好気性菌:ヘリコバクター、カンピロバクターなど
       (遊離酸素濃度:3~15%必要)
  • 至適温度:35~37℃が大部分
  • 至適pH:6~7が大部分

複数材料からStreptococcus pyogenes が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:複数材料
     血液培養・水泡滲出液
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Streptococcus pyogenes
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①上側スライド
 連鎖状のグラム陽性球菌が観察され、かつ赤血球も認められないためStreptococcus pyogenes(A群溶血連鎖球菌)あるいはStreptococcus agalactiae(B群溶血連鎖球菌)などの細菌を推定した。本症例を培養および同定検査を実施した結果、 S. pyogenes であることが判明した。 本症例のように水泡滲出液からS. pyogenes が検出された場合には劇症型A群溶血連鎖球菌感染症の可能性があるため、主治医に連絡しながら検査を進めていく必要がある。

②下側スライド
 S. pyogenes はA群溶血連鎖球菌、化膿連鎖球菌と呼ばれ、ヒトに対しては咽頭炎、腎炎、猩紅熱、リウマチ熱などの原因菌となる。血液寒天培地では完全溶血のβ溶血を呈し、Lancefieldの分類ではA群に含まれる。

Streptococcus pyogenes の特徴

  1. グラム陽性球菌(0.5~1.0µm)で双球状や連鎖状の配列を呈するが、芽胞や鞭毛は保有していない。
  2. ヒアルロン酸からなる莢膜をつくり、白血球の食菌作用に抵抗する。
    ※多くの菌株では莢膜は認められない。
  3. 至適温度:35~37℃、至適pH:7.0~7.8、β溶血でカタラーゼは陰性である。
  4. 血液成分含有培地で発育する。
  5. Lancefield: A群、M蛋白・T蛋白で約60型に分類される。
  6. バシトラシン感性、B, C, D群などは耐性である。
  7. 溶血毒(ストレプトリジン)を産生する。
  8. 発赤毒素(ディック毒素)を産生する。
  9. ストレプトキナーゼやDnase分解酵素を産生する。
  10. ヒトに対する病原性:腎炎、猩紅熱、リウマチ熱などを発症する。
  11. ペニシリン系に対する耐性菌は認められていない。

グラム染色像でのBacillus anthracis(炭疽菌:栄養型)の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Bacillus anthracis(炭疽菌)
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 血液寒天培地で35℃、24時間好気培養した時のグラム染色像はグラム陽性の芽胞を有する桿菌で連鎖状の配列(竹の節状)を作る特徴がある。グラム染色でも芽胞は白く抜けた卵状の形態として観察できる。

※本標本は元岐阜大学医学部微生物学講座の薮内英子医学博士より菌株を分与頂き作製した。

グラム染色像でのBacillus anthracis(炭疽菌:芽胞型)の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Bacillus anthracis(炭疽菌)
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 血液寒天培地で35℃、1週間好気培養した時のグラム染色像は芽胞のみ形成する特徴がある。グラム染色でも芽胞は白く抜けた卵状の形態として観察できる。

※本標本は元岐阜大学医学部微生物学講座の薮内英子医学博士より菌株を分与頂き作製した。

スピロヘータが疑われた症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:口腔内常在菌
■染色法:グラム染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 口腔内常在菌は歯周病を起こす可能性が高く、特にCandida spp.とspirochaeta spp.が注目されている。ただし、本症例では炎症細胞を示す好中球もみられず、 spirochaeta spp.と少数の細菌が観察されることより微生物検査の検査材料としては不適と判断した。
マウスに感染した肺組織からLegionella pneumophila が検出された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:ヒメネス染色
■菌種名:Legionella pneumophila
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 マウスに感染させた肺組織のスタンプ標本では好中球に貪食された桿菌が多数観察された。本症例をGimenes(ヒメネス)染色した結果、石炭酸フクシン液にて赤色に染まった桿菌がみられた。なお、マウスに感染させた細菌はLegionella pneumophila を使用した。

Legionella pneumophila の特徴

  1. グラム陰性桿菌(0.3×0.9~2.0×5.0µm)で1~2本の極鞭毛で運動し、莢膜・芽胞は保有しない。
  2. 発育にはL-システインと鉄化合物が必要である。
  3. 自然環境の水、空調の冷却水、温泉水、土壌から分離される。
  4. 血清型には15種類あるが、患者由来はセロタイプ1である。
  5. 迅速診断の尿中抗原はセロタイプ1のみ反応する。
  6. 患者由来検体はグラム染色では染まらないのでヒメネス染色を実施する。
  7. 肺炎型とポンテアック熱型があり、レジオネラ症は4類感染症に含まれる。
  8. 細胞内寄生菌であり、エリスロマイシン・リファンピシン有効、β-ラクタム薬は無効である。

血液像から破砕赤血球が観察された症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:ギムザ染色
■菌種名: Eschrichia coli( EHEC:enterohemorrhagic E. coli )
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 主に溶血性尿毒症症候群(HUS)は小児に発症し、腸管出血性大腸菌(O157など)や赤痢菌に感染した際、ベロ毒素が腎臓の毛細血管内皮細胞を破壊する。その結果、そこを通過する赤血球が破壊されることで溶血がおき、並行して急性腎不全となり尿毒症を発症する。

・腸管出血性大腸菌( EHEC:enterohemorrhagic E. coli )の特徴

  1. 大腸粘膜に付着して増殖する際に、ベロ毒素(2種類)を産生する。この毒素は志賀赤痢菌が産生する毒素と同一ためShiga toxin(Stx)とも呼ばれる。そのため、ベロ毒素産生大腸菌(VTEC)や志賀毒素産生大腸菌(STEC)とも言われる。
  2. 溶血性尿毒症症候群や脳症などの合併を起こし、死亡することがある。
  3. 血清型はO157:H7が有名、その他 O26:H11、O111:H2、O128:H7などがある。
  4. 鮮血便を伴う下痢を起こす。血液像では赤血球の破壊した破砕赤血球像が観察される。
  5. ウシの常在細菌となる事が多く、牛肉や便で汚染された野菜なども原因食品になる。

Bacillus spp.におけるウィルツ染色像の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:ウィルツ染色
■菌種名:Bacillus spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Wirtz染色はBacillus spp.およびClostridium spp.を対象に芽胞の有無と位置を把握するために実施される染色法である。芽胞はマラカイト緑により緑色、菌体はサフラニンにより淡赤色に染色される。

・染色法
 固定標本に5%マラカイト緑液を添加し、湯気がでるように加温を1~2分程度実施する。その後、水洗を行い、0.5%サフラニン液にて菌体を染色する。

Corynebacterium diphtheriae のグラム染色およびNeisser染色の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:グラム染色
     ナイセル染色
■菌種名:Corynebacterium diphtheriae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

① 左側スライド
 Corynebacterium spp.はグラム染色で柵状・松葉状・V状の配列を呈するグラム陽性桿菌が形態的な特徴である。

② 右側スライド
 Corynebacterium diphtheriaeのNeisser(ナイセル)染色像を示した。
 Neisser染色は細菌の菌体顆粒である異染小体の染色に用いられる。異染小体はC. diphtheriaeが保有するDNA から成る顆粒である。ジフテリア菌は他の菌種に比べ菌体当たりの異染小体の数が多いことから、グラム染色と併用し、ジフテリア診断の迅速検査として用いられる。通常は患者の偽膜(咽頭など)の擦過物を用いて検査する。 Neisser染色で異染小体部分は黒褐色に染まる。

Corynebacterium diphtheriaeの特徴

  1. 普通寒天培地には発育不良、血液または血清を含む寒天培地に発育する。
    ※レフレル培地、荒川培地(重要)、HBジフテリア培地
     これらの培地には亜テルル酸カリウムを含むため黒色の集落を形成する。
  2. 易熱性の外毒素を産生する。
  3. 主な感染経路は飛沫感染である。
  4. ペニシリン、エリスロマイシンが有効である。

BTB乳糖加寒天培地に発育する主要な菌種の鑑別ポイント
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:菌種の鑑別ポイント
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

① 集落の大きさ、色調、形態、推定菌種、鑑別ポイントの順に示した。

Escherichia coli, Citrobacter spp.
※インドール反応で鑑別可能
E. coli はESBL, CREの耐性菌に 注意する
Citrobacter spp.は薬剤耐性株が多い
Klebsiella spp.
※菌体は粘液質であり、釣菌時には糸を引く菌株もある
※ペニシリン系には自然耐性
※ESBL, CREの耐性菌に注意する
Pseudomonas aeruginosa, Pseudomonas spp.
※チトクロ-ムオキシダーゼは陽性
※緑膿菌は線香臭
※集落の外側は不規則
※M型緑膿菌はKlebsiella 様の粘液質
※キングA,Bおよびアシルアミダーゼ反応は陽性
P. aeruginosa の場合、IPM, AMK, CPFXの3薬剤に耐性の時はMDRPと判断する
Stenotrophomonas maltophilia, Burkholderia cepacia, Pseudomonas spp.
S. maltophilia はカルバペネム系抗菌薬に自然耐性
B. cepaciaはヒビテンに耐性
Acinetobacter spp., Serratia spp., Pseudomonas spp.
Acinetobacter spp.はチトクロ-ムオキシダーゼ陰性
Acinetobacter spp.の場合、 IPM, AMK, CPFXの3薬剤に耐性の時はMDRAと判断する
Serratia spp. は赤色の色素を産生する株がある
Staphylococcus spp.
※カタラ-ゼ反応は陽性
※VCM,TEICが耐性の時は医師に連絡する
※MRSAが疑わしい時はMRSAスクリーニング培地に純培養する
Staphylococcus aureusの場合、オキサシリン(MPIPC)で4µg/ml以上の場合はMRSAと判断する
Enterococcus spp.
※カタラ-ゼ反応は陰性
※VCM,TEICが耐性の時は医師に連絡する
ヒツジ血液寒天培地に発育する主要な菌種の鑑別ポイント
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:菌種の鑑別ポイント
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

① 溶血性、集落の大きさ、色調、推定菌種、鑑別ポイントの順に示した。

Streptococcus pyogenes
※カタラ-ゼ反応は陰性
※バシトラシンに感性
※PCGに感性
Streptococcus agalactiae
※カタラ-ゼ反応は陰性
※CAMPテストは陽性
Staphylococcus aureus
※カタラ-ゼ反応は陽性
※コアグラーゼ試験の凝集反応で確認:陽性
※MRSAが疑わしい時はMRSAスクリーニング培地などに純培養する
※オキサシリン(MPIPC)に4µg/ml以上の場合はMRSAと判断する
※VCM,TEICが耐性の時は医師に連絡する
Staphylococcus spp., Candida spp.
※カタラ-ゼ反応は陽性
※コアグラーゼ試験の凝集反応で確認:陰性
Candida spp.はクロムアガ-寒天培地に培養して確認する
Micrococcus spp.
※カタラ-ゼ反応は陽性
※集落の色調は黄白色を呈する
Moraxella (B) catarrhalis, Neisseria spp.
※カタラ-ゼ反応は陽性
M. catarrhalisは鼻汁からの検出が多い
※VCM,TEICが耐性の時は医師に連絡する
Neiserria spp.は釣菌時に培地から菌体ごと剥れる
Enterococcus spp.
※カタラ-ゼ反応は陰性
※VCM,TEICが耐性の時は医師に連絡する
Streptococcus pneumoniae
※カタラ-ゼ反応は陰性
※集落の中央が陥没又M型を呈する
※オプトピンに感性
Staphylococcus aureus およびS. epidermidis の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Staphylococcus aureus
     Staphylococcus epidermidis
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側(Staphylococcus aureus)スライド
 Staphylococcus aureus は黄色ブドウ球菌と呼ばれ、ヒトに対しては化膿症、膿痂疹(とびひ)、ブドウ球菌表皮剥離症、創感染、結膜炎、中耳炎、乳腺炎、リンパ節炎、骨髄炎、食中毒、腸炎、毒素性ショック症候群、尿路感染などの原因菌となる。血液寒天培地では溶血毒の影響にて溶血の集落を形成することが多い。

②左側(Staphylococcusepidermidis)スライド
 Staphylococcusepidermidis は表皮ブドウ球菌と呼ばれ、美肌の要因のひとつと言われている。 S. epidermidis は皮膚の常在細菌叢を構成する菌種で、血液寒天培地では非溶血の集落を形成する。集落の形態的観察では他のcoagulase negative Staphylococcus spp.との鑑別は困難である。

Staphylococcus aureus の特徴

  1. コアグラーゼ陽性菌で、細胞壁にクランピング因子とプロティンAを保有する。
  2. 耐熱性の外毒素であるエンテロトキシン (A~Eなど)を産生する。
  3. TSST-1(toxic shock syndrome toxin-1)を産生する株は毒素性ショックの原因となる。
  4. 皮膚剥脱毒素(エクソフォリアチン)を産生する株もある。
  5. 溶血毒素(Hemolysin) は溶血性の違いからα、β、γ の3型に区別される。

Streptococcus pneumoniae およびEnterococcus faecalis の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Streptococcus pneumoniae
     Enterococcus faecalis
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側(Streptococcus pneumoniae)スライド
 Streptococcus pneumoniae は肺炎球菌と呼ばれ、ヒトに対しては髄膜炎、敗血症、中耳炎、肺炎の原因菌となる。血液寒天培地ではα溶血を呈し、かつ自己融解作用が強いため集落の中央が陥没する特徴がある。なお、嫌気培養を実施すると集落の自己融解作用は認められずM型のタイプを形成するため S. pneumoniae の検出には嫌気培養の実施が推奨される。

②右側(Enterococcus faecalis)スライド
 Enterococcus faecalis は腸球菌属に含まれ、腸内細菌叢のひとつである。通常は非病原性であるが、時にヒトの尿路感染症、感染性心内膜炎、菌血症などの原因菌となる。

Enterococcus spp.の特徴

  1. グラム陽性球菌(0.5~1.0µm)で双球菌または短い連鎖状の配列を呈する。
  2. 血液寒天培地ではα~γ溶血を示すカタラーゼ陰性の通性嫌気性菌でLancefieldの分類ではD群に含まれる。
  3. 治療薬はE. faecalis の場合には ABPC、E. faecium ではVCMが基本とされている。
  4. 接触感染による院内感染が主流であり、耐性遺伝子にはVanA (プラスミド由来)、VanB(プラスミド・染色体由来)、VanC, VanD, VanE, VanG (染色体由来)などがある。
  5. VRE感染症は5類感染症(全数把握)に含まれる。
  6. 表現系からの耐性菌推定
     耐性遺伝子  VanA(プラスミド由来)  VCM:耐性  TEIC:耐性
     VanB(プラスミド・染色体由来)  VCM:耐性  TEIC:感性
     VanC, VanD, VanE, VanG  VCM:軽度耐性  TEIC:感性

Lancefieldの群別検査の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Streptococcus pyogenes
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上(血液寒天培地での発育像)スライド
 Streptococcus pyogenes はA群溶血連鎖球菌、化膿連鎖球菌と呼ばれ、ヒトに対しては咽頭炎、腎炎、猩紅熱、リウマチ熱などの原因菌となる。血液寒天培地では完全溶血のβ溶血を呈し、Lancefieldの分類ではA群に含まれる。

②左右側下( Lancefieldの群別検査)スライド
 S. pyogenes はLancefieldの群別検査ではA群に含まれるためA群のラテックス試薬に凝集する。

・Lancefieldの群別

CAMPテスト陽性の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Streptococcus agalactiae
     Staphylococcus aureus
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 CAMPテストはCAMP因子(cAMP:サイクリックAMP)の作用により、Staphylococcus aureus のβ溶血毒がヒツジ赤血球の変化を完全溶血にまで進める反応で、CAMP因子の作用により矢じり状の溶血帯として観察され、この矢じり状の溶血帯が認められた場合に陽性と判定する。ただし、この作用はβ溶血毒を産生する菌株が対象であり、S. aureus の菌株のなかにはα溶血毒の強い菌株もあるため菌株の選択が重要となる。

・CAMPテストが陽性となる代表的な菌種

  1. Streptococcus agalactiae
  2. Listeria monocytogenes
  3. Clostridium perfringens(逆CAMPテスト:陽性)

選択培地に発育したVREの症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:VRE
■染色法:-
■菌種名:Enterococcus faecalis
■培地名:VREスクリーニング培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 VREスクリーニング培地はエスクリンの成分を含むため本症例のように黒色の集落を形成する特徴がある。エスクリン反応に陽性を示す代表的な菌種にはEnterococcus spp.とBacteroides fragilis group がある。

Enterococcus spp.の特徴

  1. グラム陽性球菌(0.5~1.0µm)で双球菌または短い連鎖状の配列を呈する。
  2. 血液寒天培地ではα~γ溶血を示すカタラーゼ陰性の通性嫌気性菌でLancefieldの分類ではD群に含まれる。
  3. 普通寒天、普通ブイヨンでも発育可能(レンサ球菌と異なる)である。
  4. 6.5%NaCl加ブレーンハートインフュージョン(BHI)ブロスに発育する。
  5. 胆汁エスクリン培地に発育し、集落の周りが黒色に変色する。

Corynebacterium diphtheriae の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Corynebacterium diphtheriae
■培地名:荒川変法寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 発育までに1週間以上の培養を必要とし、発育自体も弱い傾向が認められた。

・荒川変法寒天培地の組成
 ハートエキス:500mL ペプトン:10g ブドウ糖:2g NaCl:5g
 活性炭末:0.5g 寒天:15g 精製水:1L

  1. pHを7.6に調整後、精製水で960mLに調製し滅菌する。
  2. 滅菌した1 % 亜テルル酸カリウム溶液を40 mL加え、1Lとする。
  3. 亜テルル酸塩はグラム陰性菌の発育を阻害し、陽性菌には発育を抑制する。
  4. C. diphtheriaeが生育すると、亜テルル酸が還元され、生成した金属テルルが菌に吸収され、集落が黒色を呈する事により識別が可能となる。

Corynebacterium diphtheriae の特徴

  1. ジフテリアの原因菌で、ジフテリア患者の偽膜より検出される。
  2. 0.4×0.5~0.5×2µmのグラム陽性無芽胞桿菌、形態は細長く、柵状・松葉状・V状の配列を呈する。
  3. 本菌は異染小体を有するためナイセル染色で異染小体部分は黒褐色に染まる。
  4. 好気性または微好気性の細菌で、発育温度は35~37℃培養である。
  5. 普通寒天培地には発育不良、血液または血清を含む寒天培地に発育する。
    ※レフレル培地、荒川培地(重要)、HBジフテリア培地
     これらの培地には亜テルル酸カリウムを含むため菌の還元により黒色の集落を形成する。
  6. カタラーゼ:陽性、運動性:有、尿素:非分解、白糖・乳糖:非分解でガス産生はない。
  7. 外毒素による全身的な中毒症状を呈し、感染経路は飛沫感染である。
  8. ペニシリン、エリスロマイシンが有効である。

Bacillus spp.のレシチナーゼ産生における比較症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Bacillus cereus
     Bacillus subtilis
■培地名:卵黄寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 好気的環境下における35℃、24時間の卵黄寒天培地でのBacillus cereus の発育集落像を示した。 B. cereus はレシチナーゼ産生菌のため集落の周囲が白濁する特徴がある。

②右側スライド
 好気的環境下における35℃、24時間の卵黄寒天培地でのBacillus subtilis の発育集落像を示した。B. subtilis はレシチナーゼ非産生菌のため集落の周囲は白濁しない。

Bacillus subtilis の特徴

  1. 枯草菌と呼ばれる。
  2. 土壌、空気中などの自然界に広く存在する。
  3. 周毛性鞭毛を有するため運動性はあるが、莢膜は保有していない。
  4. 偏性好気性菌の大きなグラム陽性有芽胞桿菌である。
  5. 普通寒天培地に良く発育し、血液寒天培地では非溶血である。

Bacillus spp.のレシチナーゼ産生における比較症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Bacillus cereus
     Bacillus subtilis
■培地名:ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 好気的環境下における35℃、24時間のヒツジ血液寒天培地でのBacillus cereus の発育集落像を示した。 B. cereus は赤血球を溶血される毒素を産生するため集落の周囲がβ溶血を示す特徴がある。

②右側スライド
 好気的環境下における35℃、24時間のヒツジ血液寒天培地でのBacillus subtilis の発育集落像を示した。
 B. subtilis は非溶血のため集落周囲の溶血は認められない。

BTB乳糖加寒天培地に発育した複数菌の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Klebsiella pneumoniae
     Eschrichia coli
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
①左側(K. pneumoniae)スライド
 Klebsiella pneumoniae の大部分は乳糖分解のためBTB乳糖加寒天培地では黄色の集落を形成し、かつムコイド状を呈する特徴がある。

Klebsiella pneumoniae の特徴

  1. 莢膜を保有するグラム陰性桿菌(0.3~1.0×0.6~6.0µm)で非運動性、肺炎桿菌と呼ばれる。
  2. ムコイド状(>5mm以上の粘性糸で鑑別)を呈する菌株は肝膿瘍などを発症するリスクが高い。
  3. ヒトでは呼吸器、尿路感染の原因菌となる。
    ※近年はESBL、KPCなどの耐性菌が院内感染として問題となっている。

②右側( E. coli )スライド
 E. coli の大部分は乳糖分解のためBTB乳糖加寒天培地では黄色のS型集落を形成する。

Eschrichia coli の特徴

  1. グラム陰性桿菌(0.4~0.7×1.0µm)で周毛性鞭毛を持ち運動する。
    ※鞭毛を欠いて非運動性でガス非産生の菌株も有り。
  2. ヒトや動物の腸管内常在菌である。
  3. 遺伝子学的相同性では赤痢菌と鑑別できない。
  4. 土壌や水の中では数カ月生存可能で、自然界には比較的抵抗性がある。

Eschrichia coli(M)型およびAlkalescens-Dispar の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Eschrichia coli(M型)
     Alkalescens-Dispar
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

・BTB乳糖加寒天培地に発育したEschrichia coli のムコイド型(M型)およびAlkalescens-Dispar の症例を提示する。

①左側(Eschrichia coli のムコイド型:M型)スライド
 Eschrichia coli の大部分は乳糖分解のためBTB乳糖加寒天培地では黄色のS型集落を形成するが、Klebsiella pneumoniae と見間違えるM型集落を形成する場合があるので注意する。

②右側(Eschrichia coli のAlkalescens-Dispar )スライド

  1. Shigella spp.の生物学的反応に類似したE. coli をAlkalescens-Disparと呼ぶ。
  2. ガス非産生, 非運動性および乳糖非分解または遅発酵性である。
  3. O抗原がE. coli と密接な関係を持つ。
  4. 下痢症で分離されることが多い。

運動性の確認方法およびHafnia alvei の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Klebsiella pneumoniae
     Eschrichia coli
     Hafnia alvei
■培地名:SIM培地
     BTB乳糖加寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側(運動性の確認)スライド
 腸内細菌科細菌の運動性を確認する場合には無染色生鮮標本およびSIM培地による方法が実施されている。SIM培地で運動性を確認する場合、穿刺の状況によっては判定に苦慮する場合を経験する。そこで簡易に運動性を確認する方法を紹介する。

  1. SIM培地を2本用意し、湯煎にて寒天を溶かす。
  2. 滅菌シャーレに溶かしたSIM培地を注いで固める。
  3. 対象菌種を寒天の中層部まで接種し培養する。
結果:運動性が無いKlebsiella pneumoniae では接種した周囲のみ発育する。
   運動性が有るEschrichia coli では培地全面に広がる特徴がある。

②右側スライド
 Hafnia alvei は腸内細菌科細菌に属するグラム陰性の通性嫌気性桿菌で、30℃までは運動性を認めるが、それを超える温度では運動性を失うことが多い。土壌や水中、動物の腸管内に存在し、ヒトにおける日和見感染の原因菌のひとつである。

形態的にEschrichia coli と見間違えたRaoultella ornithinolytica の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Raoultella ornithinolytica
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 BTB乳糖加寒天培地でEschrichia coli に極めて類似した黄色のS型集落を形成した。
 培養検査の結果、Raoultella ornithinolytica と同定された。

Raoultella ornithinolytica の特徴

  1. 以前、Raoultella spp.はKlebsiella spp.に分類されていた。
  2. 遺伝子学的にはKlebsiella oxytoca と極めて類似している。
  3. ヒスタミンを産生しscombroid 中毒(サバ中毒)を引き起こす細菌として知られる。
  4. 腸内細菌科細菌に分類されるが、汽水域や虫・魚といった環境に存在する。

Acinetobacter spp.とPseudomonas aeruginosa の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Acinetobacter spp.
     Pseudomonas aeruginosa
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側
 Acinetobacter spp.はブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌に含まれる。本菌は5%BTB乳糖加寒天培地では黄色の集落を形成する特徴がある。

②右側
 Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)はブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌に含まれる。本菌の集落は扁平、かつ辺縁不整であり、線香のような特有な臭いが特徴である。

Pseudomonas aeruginosa の特徴

  1. グラム陰性桿菌(0.5×0.8~1.3×3.0µm)の極単毛菌で、芽胞・莢膜は存在しない。
  2. 偏性好気性菌で37℃および41℃では発育できるが、4℃では発育できない。
  3. 普通寒天、BTB乳糖加寒天培地(緑色)およびNAC寒天培地(緑~褐色)に発育する。
  4. ブドウ糖を酸化的に分解し、チトクロムオキシダーゼおよびアシルアミダーゼは陽性で、ピオシアニン(青緑色)の産生が確認できればP. aeruginosa と同定できる。
  5. 呼吸器・尿路感染症、重症熱傷感染、創傷感染、敗血症、髄膜炎を起こす日和見感染症で、院内感染菌の代表的な菌種である。
  6. 多剤耐性緑膿菌(MDRP)は5類感染症の定点把握対象菌種である。
    ※IPM≧16µg/mL, AMK≧32µg/mL, CPFX≧4µg/mL
  7. P. aeruginosa は酸素の存在しない嫌気条件でも嫌気呼吸の一種である異化型硝酸呼吸(脱窒)によって生育する。

Salmonella typhimurium の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Salmonella typhimurium
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
     SS寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 BTB乳糖加寒天培地に発育したS. Typhimurium は乳糖非分解のため青色の集落を形成した。

②右側スライド
 SS寒天培地に発育したS. Typhimurium は硫化水素産生、乳糖非分解菌のため、集落の中央は硫化水素により黒色、周囲は透明の色調を呈する。

Salmonella spp.の特徴

  1. グラム陰性桿菌(0.5~0.8×1.0 ~3.5µm)で、S. Gallinarium 以外は周毛性の鞭毛にて運動性有り。
  2. 乳糖、白糖は非分解、ガス産生は有り、インドールは陰性、シモンズのクエン酸利用能・硫化水素・リジン脱炭酸反応は陽性( S. Typhi, S. Paratyphi Aは除く)。
    Citrobacter freundii :乳糖は陽性、リジン脱炭酸反応は陰性の点で鑑別できる。
  3. 検査材料:血液は感染初期、糞便は中期~後期、尿は初期から後期を通じて検出される。
  4. 症状:飲食物からの経口感染で下痢、腹痛、発熱を呈する。
    S. Typhi, S. Paratyphi Aは全身感染症である。
  5. 選択培地にはSS寒天培地、DHL寒天培地、マッコンキー寒天培地などがある。
  6. 増菌培地にはセレナイト培地、胆汁培地などがある。

Shigella flexneri の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Shigella flexneri
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
     SS寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 BTB乳糖加寒天培地に発育した Shigella flexneri は乳糖非分解のため青色の集落を形成した。

②左側スライド
 SS寒天培地に発育したS. flexneri は硫化水素非産生、乳糖非分解菌のため、集落は透明で硫化水素は認められない。

Shigella spp.の特徴

  1. O抗原の違いによりShigella dysenteriae(A群) S. flexneri(B群), S. boydii(C群)、S. sonnei(D群)の4菌種が含まれ、細菌性赤痢として3類感染症に分類される。
  2. グラム陰性桿菌(0.4~0.6×1.0 ~0.6×3.0µm )で鞭毛を欠くため非運動性である。
  3. 乳糖、白糖:非分解、ガス:非産生、インドール:不定、硫化水素・リジン脱炭酸反応・VPテストは陰性であり、D群は24時間以降に乳糖遅分解を示す特徴がある。
  4. マンニット非分解はA群、マンニット分解はB,C,D群である。
  5. 臨床検体は糞便のみ ※食品関連では食品と飲料水が対象となる。
  6. 臨床症状ではしぶり腹が特徴、その他:水様性下痢、腹痛、膿粘血便を呈する。
  7. S. dysenteriae は志賀毒素(Stx)を産生し、溶血性尿毒素症候群(HUS)を併発する。
  8. 選択培地にはSS寒天培地、DHL寒天培地、マッコンキー寒天培地などがある。
  9. 遺伝子では大腸菌との鑑別は不可能で、耐性遺伝子はプラスミド性である。

Aeromonas hydrophila の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Aeromonas hydrophila
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
     ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 BTB乳糖加寒天培地に発育したAeromonas hydrophila は乳糖非分解のため青色の集落を形成した。

②左側スライド
 ヒツジ血液寒天培地に発育したA. hydrophila は溶血性を示し、集落は黄金色を呈する特徴がある。

Aeromonas hydrophila の特徴

  1. 主要な菌種には A. hydrophila, A. sobria, A. caviae などがある。
  2. 淡水に分布し、淡水魚や爬虫類などの病原菌である。
  3. 通性嫌気性のグラム陰性桿菌(0.3×1.0~1.0×3.5µm)で極単毛にて運動する。
  4. 普通寒天培地、SS寒天培地、DHL寒天培地には発育するが、TCBS寒天培地には発育しない。
  5. チトクロムオキシダーゼ:陽性、ブドウ糖:発酵、リジン・オルニチン脱炭酸反応:陰性、アルギニン水解反応:陽性、Dnase産生:陽性である。
  6. 下痢症や食中毒、稀に壊死性筋膜炎を呈する。

Burkholderia pseudomallei の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Burkholderia pseudomallei
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Burkholderia pseudomallei の特徴は東南アジアの水、土壌などの自然環境に生息し、時にヒトに感染し類鼻疽を起こす。バイオセイフティレベル3で、3種病原体に分類され、4類感染症に指定されている。BTB乳糖加寒天培地では緑色のR型集落を形成する。
※日本での発症は稀であるが、東南アジア地域では頻繁にみられる感染症である。
Haemophilus influenzae の衛星現象
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Haemophilus influenzae
■培地名:チョコレート寒天培地
     ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側スライド
 Haemophilus influenzae の発育にはヘミンを含むX 因子およびnicotinamide mononucleotide, nicotinamide adenine dinucleotide (NAD) または NAD phosphate (NADP)の V 因子が必要である。 ヒツジ血液寒天培地に発育できない理由は、ヒツジ赤血球内にV 因子を破壊する酵素であるdiphosphopyridin nuclease や nicotinamide adenine dinuclease が大量に存在するためである。ヒツジ血液寒天培地に発育させるためにはStaphylococcus spp.などから放出されるNADが必要であり、H. influenzae はStaphylococcus spp.などの周囲に微小な集落を形成するようになる。この現象を衛星現象と呼ぶ。

②左側スライド
 チョコレート寒天培地に発育する理由は、V 因子破壊酵素が加熱処理により熱変性されることによってV 因子が破壊されなくなるためである。

Haemophilus spp.の特徴

  1. 主要な菌種には H. influenzae, H. parainfluenzae, H. ducreyi など14菌種が存在する。
  2. 通性嫌気性のグラム陰性短桿菌で多形性を示す。
  3. 鞭毛は無く非運動性で、芽胞は保有してない。
  4. ヒトや動物に寄生性で上気道に常在する。
    H. ducreyi は性感染症に関与する。
  5. 発育には耐熱性のX因子とV因子の両方または一方のみを必要とする。

Bordetella pertusis の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Bordetella pertusis
■培地名:ボルデー・ジャング培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①上側スライド
 保存菌株からBordetella pertusis(百日咳菌)の選択培地であるボルデー・ジャング培地に発育した集落像を示した。 B. pertusis は非常に小さな集落を形成する特徴がある。

②下側スライド
 B. pertusis のグラム染色像では小さなグラム陰性の球桿菌状形態を示す。

Bordetella pertusis の特徴

  1. 好気性のグラム陰性球桿菌(0.2×0.5~0.5×1.0µm)で極染色性を示す。
  2. 莢膜はS型菌で認められるが、芽胞や鞭毛は保有していない。
  3. 35~37℃の好気的環境下で、ボルデー・ジャング培地にて3日以上培養すると弱いβ溶血を呈する小さな集落が観察される。
  4. カタラーゼ・チトクロムオキシダーゼは陽性、炭水化物の分解性およびウレアーゼは陰性である。
  5. 耐熱性のO抗原、易熱性のK抗原を有し、Ⅰ相菌は莢膜を保有する。
  6. 患者からの飛沫感染で百日咳を起こす。生後1~5歳に多くみられ、5類感染症の定点把握対象に含まれる。
  7. 毒素には百日咳毒素(内毒素)など種々の毒素がある。
  8. DPT3種混合ワクチンはD:ジフテイリアトキソイド、P:Ⅰ相菌の成分ワクチン、T:破傷風トキソイドで構成されている。
  9. エリスロマイシン、テトラサイクリンが有効である。

海水から検出されたVibrio spp.の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Vibrio alginolyticus
     Vibrio vulnificus
■培地名:TCBS寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Vibrio alginolyticus の特徴は白糖分解菌のためTCBS寒天培地では黄色の集落を形成する。海水に分布し、ヒトには中耳炎や創傷感染を起こすことがある。好塩菌で3~10%塩化ナトリウム添加で良く発育する。

Vibrio vulnificus の特徴は海水および海産物の魚介類に分布し、ヒトには経口感染による敗血症と創傷感染がある。好塩菌で3%塩化ナトリウム添加で良く発育する。
※0%では発育できない。
※有明海に多く、致死率の高い感染症、ヒトには壊死性筋膜炎を呈する。
※基礎疾患:肝硬変、肝癌、糖尿病で併発し易い、発育には鉄成分が関与する。

・TCBS寒天培地での集落の特徴
 黄色集落形成菌:V. cholerae, V. alginolyticus, V. fluvialis, V. furnissii
 青色集落形成菌:V. parahaemolyticus, V. mimicus, V. vulnificus

Vibrio spp.の食塩含有アルカリペプトン水による鑑別症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Vibrio parahaemolyticus
     Vibrio alginolyticus
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 Vibrio parahaemolyticus(腸炎ビブリオ)は3%~8%の食塩含有アルカリペプトン水に発育する。

②右側上スライド
 Vibrio alginolyticus は3%~10%の食塩含有アルカリペプトン水に発育する。

・食塩含有アルカリペプトン水による鑑別

紫外線照射によって発光するLegionella dumoffii の症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Legionella dumoffii
■培地名:BCYE寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Legionella spp.のなかには、長波長(365nm)の紫外線によって発光する菌種が含まれる。Legionella bozemanii, L. dumoffii, L. gormanii, L. anisa, L. parisiensis, L. cherrii, L. ateigerwaltii, L. brunensis:青白色、L. erythra, L. rubrilucens:赤色である。
Clostridium spp.を効率良く検出するための症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Clostridium spp.
■培地名:ブルセラHK(RS)寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 糞便をエチルアルコール処理なしで、嫌気性菌用培地であるブルセラHK(RS)寒天培地に分離した時の発育集落の状況を示した。本培地には通性嫌気性菌から偏性嫌気性菌まで多くの細菌が発育した。 Clostridium spp.の発育も認められるが、純培養状に発育した集落は認められなかった。

②右側スライド
 糞便をエチルアルコール処理した結果、芽胞を保有しない細菌はエチルアルコールで殺菌されるため純培養状にClostridium spp.のみ発育が認められた。

Clostridium difficile のE-テストによる薬剤感受性試験
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Clostridium difficile
■培地名:ブルセラHK(RS)寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Clostridium difficile は嫌気性菌のため薬剤感受性試験も嫌気的環境下で実施する必要がある。現在、我が国では嫌気性菌も含め微量液体希釈法で実施している施設が多い。 C. difficileも微量液体希釈法で実施可能ではあるが、治療薬についてはバンコマイシンとメトロニタゾールに限定されるため、簡易法としてE-テストによる薬剤感受性試験を実施している施設もある。

・ E-テストによる薬剤感受性試験
 E-テストは寒天培地上において抗菌薬の拡散を利用した測定法であり、簡易的にMICを測定できる利点がある。 E-テストは細長いストリップの上部から各抗菌薬の濃度目盛りが記載され、MICの判定はストリップの周囲に生じる発育阻止帯を目盛りより読み取りMIC値を求める。

クラブラン酸配合ディスクを用いたESBL確認試験
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名: Klebsiella pneumoniae
■培地名:ミュラーヒントン寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Klebsiella pneumoniae の薬剤感受性試験を実施した結果、第2世代セファロスポリン系のCPDX、第3世代のCAZおよび第4世代のCFPMに耐性を示し、セファマイシン系のCMZとカルバペネム系のMEPMに感性を示したためESBL産生のK. pneumoniae が疑われた。

・ESBLの確認試験
 クラブラン酸配合ディスクを用いたESBL確認試験では、単剤のCPDXおよびCAZには耐性を示したが、クラブラン酸配合ディスクを用いた結果、阻止円が5mm以上拡大したためESBL産生のK. pneumoniae と判断した。なお、ESBLはAmblerの分類ではClassAに属し、クラブラン酸のβ-ラクタマーゼ阻害剤にて発育阻止の拡大が観察される特徴がある。なお、 クラブラン酸を用いたESBLの判定では、ディスク法の場合は単剤に比べ、合剤で5mm以上の発育阻止の拡大、MICでは8倍以上のMICの回復が基準となっている。

Clostridium perfringens による嵐の発酵
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Clostridium perfringens
■培地名:スキムミルク
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Clostridium perfringens は大量のガスを発生させ、かつ組織を壊死される種々の酵素を産生するためガス壊疽菌に含まれている。そのため、スキムミルクなどの乳性品を使用すると蛋白が凝固し、かつ吹き上がるような状態を嵐の発酵と呼ぶ。

・ガス壊疽菌
 ガス産生菌の感染により、皮下内にガスがたまる進行性の感染症である。激痛とともに皮膚の水疱や血行障害を起こし筋肉組織が壊死となる。進行は急激で、頻脈、血圧低下、発汗を呈し、ついにはショックとなり死亡する。
 代表的な菌種にはウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、ノービイ菌(C. novyi)、スポロゲネス菌(C. sporogenes)、セプチクム菌(C. septicum)などがある。

頸部リンパ節からMycobacterium tuberculosis が検出された症例
■分 類:抗酸菌
■材 料:リンパ節
■その他:-
■染色法:チール・ネルゼン染色
■菌種名:Mycobacterium tuberculosis
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 採取時の頸部リンパ節を示した。組織の一部に黄白色の乾酪壊死が観察された。

※乾酪壊死とは軟らかく白いタンパク質に富んだ死細胞の塊であり、 肉眼的にチーズ(乾酪)のような外観を呈することから名づけられた生物組織の壊死の一形態である。

②右側スライド
 頸部リンパ節のスタンプ標本を Ziehl-Neelsen(チール・ネルゼン)染色した結果、赤色の桿菌が認められた。

・Ziehl-Neelsen染色

  1. 標本をメタノール固定する。
  2. 石炭酸フクシン液を標本の全面に滴下する。
  3. スライドグラスの下からアルコールランプなどで加熱し、標本面から軽く湯気がでるまで加温する(1分程度)。
  4. 水洗後、1%塩酸アルコールにて脱色する(1分から数分)。
    ※石炭酸フクシン液が脱色するまで行う。
  5. 水洗後、メチレン青にて30秒程度後染色する。
  6. 水洗後、光学顕微鏡にて観察する。

グラム染色からMycobacterium tuberculosis が疑われた症例
■分 類:抗酸菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
     チール・ネルゼン染色
■菌種名:Mycobacterium tuberculosis
■培地名:-
■年 齢:80
■性 別:女性
■解 説

①左右側上スライド
 吸引痰をグラム染色した結果、白く抜けた"く"の字形の桿菌が観察された。白く抜けた要因としては Mycobacterium spp.の細胞壁構造の外側にミコール酸が存在するためである。このミコール酸は総炭素数80前後の超高級分岐オキシ酸であり、特有の脂質に富んだ成分であるため、親水性のグラム染色では染まらない特徴がある。

②左側下スライド
 臨床検体からのMycobacterium spp.はグラム染色で白く抜けた"く"の字形の桿菌が観察されるが、グラム染色でも加温処理を実施することで、ミコール酸の一部が溶けてグラム陽性桿菌として観察される場合がある。

③右側下スライド
 頸部リンパ節のスタンプ標本を Ziehl-Neelsen(チール・ネルゼン)染色した結果、赤色の桿菌が認められた。

・Ziehl-Neelsen染色

  1. 標本をメタノール固定する。
  2. 石炭酸フクシン液を標本の全面に滴下する。
  3. スライドグラスの下からアルコールランプなどで加熱し、標本面から軽く湯気がでるまで加温する(1分程度)。
  4. 水洗後、1%塩酸アルコールにて脱色する(1分から数分)。
    ※石炭酸フクシン液が脱色するまで行う。
  5. 水洗後、メチレン青にて30秒程度後染色する。
  6. 水洗後、光学顕微鏡にて観察する。

蛍光染色によるMycobacterium spp.の検出症例
■分 類:抗酸菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:オーラミン・ローダミン染色
     チール・ネルゼン染色
■菌種名:Mycobacterium spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 マイクロ波を利用した吸引痰のオーラミン・ローダミン染色像を示した。オーラミン・ローダミン染色では黄緑の蛍光を示す桿菌として観察される。左側は200倍の染色像であるが、黒い背景に黄緑色の桿菌が多数認められ、右側の400倍ではより鮮明に観察できる特徴がある。

②中央下側スライド
 ①と同じ臨床材料を Ziehl-Neelsen染色した結果、青い背景に赤色の桿菌が多数観察された。

・マイクロ波を利用したオーラミン・ローダミン染色

  1. 染色標本をメタノール固定する。
  2. 石炭酸フクシン液を標本の全面に満載する。
  3. 電子レンジにて600Wの20秒間マイクロ波を照射する。
  4. 水道水で水洗後、0.5%塩酸アルコールで色素が溶け出さなくなるまで脱色する。
  5. 水道水で水洗後、レフレルのメチレンブルー液を満載する。
  6. 水道水で水洗後、自然乾燥または冷風ドライヤーで乾燥する。
  7. 顕微鏡にて200倍でスクリーニングし、菌体の確認は400倍にて実施する。

マイクロ波を利用した蛍光染色の有用性
■分 類:抗酸菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:オーラミン・ローダミン染色
■菌種名:Mycobacterium spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 吸引痰の一般的なオーラミン・ローダミン染色による200倍の染色像を示した。オーラミン・ローダミン染色では黄緑~緑色の蛍光を示す桿菌として観察される。

・通常のオーラミン・ローダミン染色

  1. 染色標本をメタノール固定する。
  2. 石炭酸フクシン液を標本の全面に満載する。
  3. 室温で15分間染色する。
  4. 水道水で水洗後、0.5%塩酸アルコールで色素が溶け出さなくなるまで脱色する。
  5. 水道水で水洗後、レフレルのメチレンブルー液を満載する。
  6. 水道水で水洗後、自然乾燥または冷風ドライヤーで乾燥する。
  7. 顕微鏡にて、200倍でスクリーニングし、菌体の確認は400倍にて実施する。

②右側スライド
 ①と同じ臨床材料の部位をマイクロ波を利用したオーラミン・ローダミン染色を実施した。その結果、①の黄緑~緑色の蛍光を示す桿菌に比べ、②では黄緑色を呈したMycobacterium spp.が多数染色され、マイクロ波を利用した有用性が確認された。

・参考文献
 Microwaveを利用した抗酸菌群の迅速染色法に関する検討 船島 由美子他 JARMAM Vol 27(1) 33-41 2017

液体培養で発育したMycobacterium avium の症例
■分 類:抗酸菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:チール・ネルゼン染色
■菌種名:Mycobacterium avium
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 BacT/ALERT MPは液体ブロスを使用して抗酸菌群を自動的に培養する装置である。本症例では BacT/ALERT MPの液体培養で発育したMycobacterium avium の染色像を示した。M. avium は非結核性抗酸菌群に含まれる。

・非結核性抗酸菌
 非結核性抗酸菌にはきわめて多くの菌種が存在する。これらは環境中、例えば池、沼、腐葉土などに生息しているが、結核菌群以外の抗酸菌はヒトの病気の原因となるとは考えられていなかった。非結核性抗酸菌がヒトに重篤な病気を起こす最初の報告は1950年代になってからである。
 わが国の非結核性抗酸菌症の70%程度はMAC(M. avium complex)と呼ばれる M. avium かM. intracellulare のいずれかであり、次に多いのがM. kansasii で10~20%程度と報告されている。

・結核菌群
 結核菌は抗酸菌属の中の一つの菌種である。結核症の原因となる結核菌群にはM. tuberculosis(結核菌)、M. bovis(ウシ型結核菌)、M. africanum(アフリカ型結核菌)、M. microti(ネズミ型結核菌)およびM. canettii の5種があるが、M. canettii はヒトに病原性がないので、これを除いた4種類のいずれかによって起こる病気を結核症と呼ぶ。

Mycobacterium tuberculosis の発育症例
■分 類:抗酸菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Mycobacterium tuberculosis
■培地名:変法小川K培地
     ビット培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 結核菌群にはMycobacterium tuberculosis(結核菌)、M. bovis(ウシ型結核菌)、M. africanum(アフリカ型結核菌)、M. microti(ネズミ型結核菌)およびM. canettii の5種があるが、M. canettii はヒトに病原性がないので、これを除いた4種類のいずれかによって起こる病気を結核症と呼ぶ。上段は変法小川K培地、下段はビット培地に発育したM. tuberculosis を示した。M. tuberculosis は35℃の好気的環境下で4~8週間の培養を必要とする。発育集落の特徴はR型の形態を示す。

Mycobacterium spp.とは
 Mycobacterium spp.は形態学的に長さが2~4μm で,幅が0.3~0.6 μm程度の非運動性の好気性グラム陽性桿菌で,芽胞,鞭毛,莢膜は保有しない。菌体は棍棒状,分岐状,長短不同などの多形性を示す。Mycobacterium spp.は脂質に富む疎水性の細胞壁を有し,酸やアルコール処理に対して抵抗性を示すことから抗酸菌と総称されている。厚いペプチドグリカンの外側には多糖(アラビノガラクタン)に共有結合した長鎖脂肪酸(ミコール酸)が密に存在し,さらに最表層に存在するトレハロースジミコール酸(trehalosedimycolate)やグルコースモノミコール酸(glucose monomycolate)などの糖脂質群が存在し,ミコール酸の炭素鎖と非共有的に結合することにより高度の疎水性を保持し、大部分は沼、土などの環境中に存在する。

Mycobacterium spp.の分類
 大きく分類すると、培養に1週間以上かかる遅発育菌群と、7日以内で培養できる迅速発育菌群に分けることができる。また、別の分類法としては結核菌群と非結核性抗酸菌群に分ける方法があり、特に非結核性抗酸菌群では遅発育菌を培養集落の発色性によりⅠ群(光発色菌)、Ⅱ群(暗発色菌)、Ⅲ群(非光発色菌)の3群に分け、Ⅳ群の迅速発育菌を含めて四つのグループに分類される。

遅発育菌であるMycobacterium spp. Ⅰ群(光発色菌)の症例
■分 類:抗酸菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Mycobacterium kansasii
     Mycobacterium marinum
■培地名:変法小川K培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 遅発育菌であるⅠ群(光発色菌)にはMycobacterium kansasiiM. marinumM. simiae などが含まれる。 Ⅰ群の光発色菌は暗所で培養した集落は無色であるが、光を照射することで集落が黄色に着色する特徴がある。培養は35℃の好気的環境下で2~3週間の培養を必要とするが、 M. marinum は海水由来の抗酸菌であるため30℃での培養が望まれる。発育集落の形態はM. kansasii :R~S型、 M. marinumM. simiae: S型を示し易い。
遅発育菌であるMycobacterium spp. Ⅱ群(暗発色菌)の症例
■分 類:抗酸菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Mycobacterium szulgai
     Mycobacterium scrofulaceum
     Mycobacterium gordonae
■培地名:変法小川K培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 遅発育菌であるⅡ群(暗発色菌)にはMycobacterium szulgaiM. scrofulaceumM. gordonae などが含まれる。 Ⅱ群の暗発色菌は暗所で培養した時でも集落は橙色に着色し、光を照射しても橙色に着色した集落の色は変化しない特徴がある。培養は35℃の好気的環境下で2~3週間の培養を必要とし、集落の形態はS型を示し易い。
遅発育菌であるMycobacterium spp. Ⅲ群(非光色菌)の症例
■分 類:抗酸菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Mycobacterium avium complex
■培地名:変法小川K培地
     ビット培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 遅発育菌であるⅢ群(非光色菌)にはMycobacterium aviumM. intracellulareM. xenopiM. ulceransM. gastriM. nonchromogenicum などが含まれる。 Ⅲ群の非光色菌はM. xenopi のみが暗所で培養した時でも集落は黄色に着色するが、他のⅢ群は暗所および光照射でも無色の集落である。培養は35℃の好気的環境下で2~8週間の培養を必要とし、集落の形態はS型を示し易い。

Mycobacterium avium complex(MAC)とは
 M. avium とM. intracellulare は生物学的性状(ナイアシン試験、硝酸塩還元、耐熱カタラーゼ、ウレアーゼなど)では区別出来ないためにMycobacterium complexと表記されている。ただし、最近では遺伝子検査にてM. avium とM. intracellulare は鑑別できるようになった。

・MAC感染症の現状
 わが国の非結核性抗酸菌症の70%程度はMAC(M. avium complex)と呼ばれる M. aviumM. intracellulare のいずれかであり、次に多いのがM. kansasii で10~20%程度と報告されている。

Mycobacterium tuberculosis の薬剤耐性検査
■分 類:抗酸菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Mycobacterium tuberculosis
■培地名:結核菌感受性ビットスペクトルーSR
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Mcobacterium tuberculosis の薬剤感受性試験には、一濃度比率法を利用したビットスペクトル-SRや微量液体希釈法を利用したマイクロプレート法がある。本症例ではビットスペクトル-SRについて解説する。

・一濃度比率法を利用したビットスペクトル-SR

  1. 小川培地で発育した集落を白金耳または滅菌綿棒にて約1/2白金耳量採取し、前培養用液体培地の試験管壁に擦り付けながら、培地中の菌魂を懸濁させる。
  2. 前培養後の菌液を攪拌し、菌魂が沈むまで静置(15分程度)する。静置後、上層の均質な菌液を用いて、530nmO.D.=0.1(1mg/mLに相当)に調製する。
  3. 調製菌液を滅菌蒸留水4.5mL入滅菌試験管に0.5mL添加し、チューブミキサーでよく攪拌して10倍希釈液を作製する。
  4. 10倍希釈菌液は陽性コントロールおよび各薬剤含有ウエルに0.02mLずつ接種する。
  5. 35±1℃の好気的環境下で培養し、 7日、10日、14日目に観察を行い、陽性コントロールの3/4以上が赤く呈色している時点で判定を行なう。

・多剤耐性結核菌
 多剤耐性結核菌はイソニアジド(INH)とリファンピシン(RFP)の両剤に対して同時に耐性を獲得した結核菌が該当する。さらに近年では MDR-TBのうちキノロン系薬に耐性かつアミカシン、カナマイシン、カプレオマイシンのどれかに耐性を持つ菌株を超多剤耐性結核菌(extensively drug-resistant tuberculosis:XDR-TB)と定義されている。

真菌のスライドカルチャー法(1)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側下スライド
 【器具】
  1)シャーレ、2)スライドグラス、3)カバーグラス、
  4)U字型ガラス棒または爪楊枝、5)滅菌生食水または滅菌精製水、
  6)剃刀、7)白金線、8)濾紙、9)ピンセットなど

②右側下スライド
 真菌の染色液組成を表示した。
 ラクトフェノール・コットンブルー染色液は真菌が青色に染まり、全体的に見易い。

真菌のスライドカルチャー法(2)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライドおよび左側下スライド

  • 滅菌した剃刀またはアルコール消毒したカバーグラスを使用し、培養に使用するコンミール寒天培地またはポテト・デキストロース寒天(目的の真菌により異なる)から1cm前後の正方形に寒天を切り取る。

②右側下スライド

  • 滅菌シャーレに濾紙を円形または半円形に切り取り入れる。
  • 濾紙に滅菌生食水または滅菌精製水を湿潤状態になるように添加する。
  • 濾紙の上にU字型ガラス棒または爪楊枝(2本を並行に置く)を置く。
  • 培養のために切り取った寒天培地をスライドグラス中央に置く。

真菌のスライドカルチャー法(3)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 滅菌した白金線などでスライド右のように、新しく切り取った寒天培地に真菌を接種する
 (糸状菌と酵母菌では接種の方法が異なる)。
 ※酵母菌ではカバーグラスを使用し、対角線に少し切れ込みを入れると接種し易い。

②左側下スライド
 正方形に切り取った寒天培地(1cm前後)の上にカバーグラスを載せ、シャーレに蓋をして、糸状菌は27~30℃、酵母菌は35℃前後の好気的環境下で培養する。

③右側下スライド
 培養中は適時、濾紙の湿潤状態を確認し、乾燥している場合には滅菌生食水または滅菌精製水を添加する。カバーグラス全面に真菌の発育が認められたらガバーグラスを外す。

真菌のスライドカルチャー法(4)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 新しいスライドグラスにラクトフェノール・コットンブルー染色液を1滴滴下し、真菌が付着したガバーグラスを静かに染色液の上に載せ、顕微鏡(100倍~400倍)にて観察する。

②左側下スライド
 真菌の培養で主に使用するポテト・デキストロース寒天培地およびサブロー寒天培地の特徴を記載した。

③右側上スライド
 糸状菌の検査で主に使用する簡易のセロファンテープ法を示した。セロファンテープ はスライドグラスより長めに切り取る。切り取ったセロファンテープの粘着部分を静かに糸状菌の表面に押し付ける。

④右側下スライド
 新しいスライドグラスにラクトフェノール・コットンブルー染色液を1滴滴下し、その上に切り取ったセロファンテープの粘着部分を静かに付着させて、顕微鏡(100~400倍)で観察する。

尿から検出された主要なCandida spp.の症例
■分 類:真菌
■材 料:尿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Candida albicans
     Candida glabrata
     Candida parapsilosis
     Candida tropicalis
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 Candida albicans はヒトの口腔、消化管、膣、皮膚などに常在する真菌であるが、ストレスあるいは免疫抑制、化学療法などにより宿主の抵抗力が低下した場合に日和見感染を起こす。C. albicans は酵母形の形態と仮性菌糸が観察される。なお、仮性菌糸は一端からの出芽により長い娘細胞が連なった酵母形と菌糸形の中間的形成様式を示すものである。

②右側上スライド
 Candida glabrata は酵母形の形態のみを形成し、仮性菌糸は認められない。なお、酵母形の形態はC. albicans に比べて小さいのが特徴である。

③左右側下スライド
 Candida parapsilosis Candida tropicalis C. albicans と同様に酵母形の形態と仮性菌糸が観察される。ただし、酵母形は長い楕円形のような形態を示す特徴がある。

抗真菌薬投与中の臨床検体からCandida albicans が検出された症例
■分 類:真菌
■材 料:[複数材料]
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Candida albicans
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 血液培養から検出されたCandida albicans のグラム染色像を示した。抗真菌薬無使用のC. albicansの酵母様形態に比べ、抗真菌薬のファンガード使用においては酵母が膨化した球状の形態が観察された。

②左右側下スライド
 同一患者の喀痰のグラム染色では紫色が脱色し、かつ膨化した球状の酵母様形態と仮性菌糸の一部が観察された。

・真菌のグラム染色
 真菌のグラム染色では紫色のグラム陽性を呈するような記載が多く認められるが、臨床材料を対象にグラム染色を実施すると、スライド下段のように紫色が脱色されたような形態を示すためグラム染色では真菌の存在を見逃してしまう恐れがある。そのため、真菌の蛍光染色を実施することを推奨する。

吸引痰からCandida albicans の仮性菌糸が検出された症例
■分 類:真菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Candida albicans
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Candida glabrata(酵母形のみ)以外のCandida spp.では酵母形と仮性菌糸を形成する特徴がある。本症例では酵母の形態は認められず、菌糸のみ確認されたため糸状菌を推定した。

※糸状菌では菌糸の厚さが均等なのに対し、仮性菌糸では厚さが不均一である点が鑑別のポイントである。

 培養検査の結果、 Candida albicans と同定された。
Trichosporon asahii が検出された症例
■分 類:真菌
■材 料:開放性膿
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Trichosporon asahii
■培地名:-
■年 齢:30
■性 別:男性
■解 説
 もともと環境中とくに土壌や腐朽樹木などに広く生息する担子菌系の不完全酵母である。 Trichosporon spp.はヒトの咽頭、消化管、皮膚などに一過性に定着することがあり、宿主側の条件が重なると侵襲型の全身感染、すなわち深在性トリコスポロン症や夏型過敏性肺炎を発症する。そのため、喀痰や血液などの臨床検体から分離される機会が多い。
 現在、Trichosporon spp.には病原性を持つT. asahiiT. asteroidesT. cutaneumT. inkinT. mucoidesT. ovoides が存在する。
Aspergillus fumigatus の形態学的特徴
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:ラクトフェノール・コットンブルー染色
■菌種名:Aspergillus fumigatus
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
Aspergillus spp.の特徴
  1. 世界各地の空中・土壌・穀物から高頻度に分離され、不完全菌門に属する。
    ※不完全菌門:無性的に産生される分生子により繁殖する。
  2. A. fumigatus は病原的意義が高い。その他にはA. niger, A. terreus, A. flavus, A. nidulans などが存在する。
  3. Aspergillus spp.は主に呼吸器関連の部位を侵す。
    ※組織・臓器も侵すため深在性真菌症の原因となる。
    ※肺で増殖しアスペルギローマを形成する。
  4. A. flavusは発癌物質であるアフラトキシンを産生する。
  5. カンジダ症に次いで第2位の発生率であり、大部分は日和見感染症である。
  6. 選択培地にはツァペック・ドックス寒天培地がある。
    ※培養温度:30℃ ※A. fumigatus は45℃での発育も可能である。
  7. 治療にはアンホテンシンB、イトラコナゾールが有効である。

Aspergillus spp.の形態学的特徴

  1. 菌糸状の分生子柄の先にはフラスコ型の頂嚢が存在する。
  2. 頂嚢には梗子(メツラ)とフィアライドを形成する。
  3. フィアライドの先には分生子が形成される。

主要なAspergillus spp.の形態学的特徴
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:ラクトフェノール・コットンブルー染色
■菌種名:Aspergillus fumigatus
     Aspergillus flavus
     Aspergillus terreus
     Aspergillus nidulans
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 菌糸状の分生子柄の先にはフラスコ型の頂嚢が存在し、頂嚢には梗子(メツラ)とフィアライドを形成する。フィアライドの先には分生子が形成される。なお、Aspergillus niger 以外のAspergillus spp.を形態学的に鑑別するには経験を有する。
グラム染色でAspergillus fumigatus が検出された症例
■分 類:真菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Aspergillus fumigatus
■培地名:-
■年 齢:61
■性 別:男性
■解 説
①左右側スライド(右側は拡大像)
  真菌のグラム染色では紫色のグラム陽性を呈するような記載が多く認められるが、臨床材料を対象にグラム染色を実施すると、糸状菌では特に紫色が脱色されたような形態(白く抜けた模様)を示すためグラム染色では真菌の存在を見逃してしまう恐れがある。そのため、真菌の蛍光染色を実施することを推奨する。
Aspergillus spp.は菌糸状の形態を示し、分枝角度は60度前後を示す特徴がある。

 培養検査の結果、 Aspergillus fumigatus と同定された。

チール・ネルゼン染色で抗酸菌と菌糸が確認された症例
■分 類:真菌
■材 料:気管支洗浄液
■その他:-
■染色法:チール・ネルゼン染色
■菌種名:Aspergillus fumigatus
     Mycobacterium avium
■培地名:-
■年 齢:79
■性 別:男性
■解 説
・Ziehl-Neelsen染色
 Ziehl-Neelsen染色した結果、 Mycobacterium spp.を疑う赤色に染まった桿菌が認められると同時に、分岐角度が60度前後で隔壁を保有する菌糸もみられた。
 培養検査の結果、抗酸菌はMycobacterium avium、真菌はAspergillus fumigatus と同定された。
メチレン青染色でAspergillus spp.が検出された症例
■分 類:真菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:メチレン青染色
■菌種名:Aspergillus fumigatus
■培地名:-
■年 齢:61
■性 別:男性
■解 説
①左右側スライド
 喀痰をメチレン青染色した結果、菌糸と頂嚢を疑う形態が確認されたため Aspergillus spp.を推定した。

 培養検査の結果、Aspergillus fumigatus と同定された。

Aspergillus spp.におけるグラム染色とHE染色の比較症例
■分 類:真菌
■材 料:[複数材料]喀痰、組織
■その他:-
■染色法:グラム染色
     HE染色
■菌種名:Aspergillus spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側(喀痰)スライド
 真菌のグラム染色では紫色のグラム陽性を呈するような記載が多く認められるが、臨床材料を対象にグラム染色を実施すると、糸状菌では特に紫色が脱色されたような形態(白く抜けた模様)を示すため、グラム染色では真菌の存在を見逃してしまう恐れがある。そのため、真菌の蛍光染色を実施することを推奨する。
Aspergillus spp.は菌糸状の形態を示し、分枝角度は60度前後を示す特徴がある。

②右側(組織)スライド
 HEの染色像を示した。拡大画像で理解できるように菌糸の分岐した形態および菌糸の均等な厚さの存在が確認された。

Aspergillus fumigatus とCandida albicans が検出された症例
■分 類:真菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Aspergillus fumigatus
     Candida albicans
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 喀痰をグラム染色した結果、菌糸と頂嚢を疑う形態が確認されたため Aspergillus spp.を推定した。
 培養検査の結果、Aspergillus fumigatus と同定された。

②左右側下スライド
 喀痰をグラム染色した結果、酵母形と仮性菌糸の形態が確認された。
 培養検査の結果、Candida albicans と同定された。
※仮性菌糸は活動期に形成されると言われている。

Aspergillus spp.が検出された蛍光染色とグラム染色の比較症例
■分 類:真菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:"KBM" GPフルオファンギー染色
     グラム染色
■菌種名:Aspergillus spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
・喀痰からAspergillus spp.が検出された蛍光染色とグラム染色の比較症例を提示する。

①右側スライド
 真菌のグラム染色では紫色のグラム陽性を呈するような記載が多く認められるが、臨床材料を対象にグラム染色を実施すると、糸状菌では特に紫色が脱色されたような形態(白く抜けた模様)を示すためグラム染色では真菌の存在を見逃してしまう恐れがある。
Aspergillus spp.は菌糸状の形態を示し、分枝角度は60度前後を示す特徴がある。

②左側スライド
 フルオファンギー蛍光法は蛍光染色液で塗布面を覆うように直接2~3滴滴下し,2分間染色後,水洗,乾燥させ,観察は蛍光顕微鏡UV励起(波長365nm)にて100倍~400倍の倍率で観察する。蛍光染色陽性は蛍光染色にてY字状で青~黄緑色に発色した菌糸として明瞭に観察できる利点がある。

Cryptococcus neoformans が検出された症例
■分 類:真菌
■材 料:髄液
■その他:-
■染色法:グラム染色
     墨汁染色
■菌種名:Cryptococcus neoformans
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 髄液のクラム染色像を示した。中央にある核の周囲に莢膜と推定される形態が観察された。

※真正細菌の一部が保有する構造物で、細胞壁の外側に被膜状の構造を形成する。白血球による食作用などの宿主の免疫機構によって排除されることを回避する役割を持ち、病原菌の病原性に関与している。

②右側スライド
 髄液の墨汁染色像を示した。細胞壁の外側に被膜状の構造を形成するため墨汁が細胞内に浸透できない。そのため、莢膜部分が白く抜けたような像が観察される。
 培養検査の結果、 Cryptococcus neoformans と同定された。

・墨汁染色

  1. スライドグラスに髄液を滴下する(1滴程度)。
  2. 墨汁を髄液の横に滴下する(1滴程度) 。
  3. 白金耳か爪楊枝などにて、墨汁を少しずつ髄液に混ぜる。
  4. 適度な墨汁混合液ができれば、カバーグラスをかける。
  5. 光学顕微鏡にて観察する(100倍~400倍)。

Cryptococcus neoformans と見間違えた好中球の症例
■分 類:真菌
■材 料:髄液
■その他:-
■染色法:墨汁染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 髄液の墨汁染色像を示した。細胞壁の外側に存在する莢膜部分が白く抜けたような像が観察され、Cryptococcus neoformans を疑った。ただし、良く観察すると核の周囲が不均一であることが認められた。
 培養検査の結果、 Cryptococcus neoformans の発育は認められなかった。

・本症例での注意点
 髄液の墨汁染色で莢膜部分が白く抜けたような像が観察された場合には、さらに核の周囲が均等に形成されているか否かを確認してC. neoformans を推定することが重要である。

Cryptococcus neoformans の特徴

  1. 世界中に広く分布し、 クリプトコッカス症を起こす。
    ※新分類ではFilobasidiella neoformans である。
  2. ハト・ニワトリなどの鳥類の糞とそれに汚染された土壌より高頻度に分離される。
  3. 細胞の周囲には厚い莢膜を有する。
  4. 集落は粘稠のクリーム状集落を形成、尿素分解菌、日本ではA型が主流である。
  5. 検査材料は膿汁、喀痰、分泌物、髄液が対象となる。
  6. 白血病、エイズ、結核など抵抗力が低下したヒトから検出され易い。
  7. 肺クリプトコッカス症、クリプトコッカス性髄膜炎、皮膚粘膜クリプトコッカス症を起こす。
  8. 治療にはアンホテンシンBが有効である。

Aspergillus fumigatusCandida albicansCryptococcus neoformans の検出症例
■分 類:真菌
■材 料:[複数材料]喀痰、髄液
■その他:-
■染色法:ファンギー・フローラ染色
     グラム染色
     墨汁染色
■菌種名:Aspergillus spp.
     Candida albicans
     Cryptococcus neoformans
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(喀痰)スライド
 糸状菌では特に紫色が脱色されたような形態(白く抜けた模様)を示すため、グラム染色では真菌の存在を見逃してしまう恐れがある。真菌を確実に観察するには蛍光染色を実施することが推奨される。本症例はFungi-Fluor(ファンギ・フローラ)染色での画像を示した。菌糸は明瞭に黄色の蛍光を示し、分枝の角度も60度前後のため Aspergillus spp.の存在が推定された。
 培養検査の結果、Aspergillus fumigatus と同定された。

②右側上(喀痰)スライド
 Candida albicans はヒトの口腔、消化管、膣、皮膚などに常在する真菌であるが、ストレスあるいは免疫抑制、化学療法などにより宿主の抵抗力が低下した場合に日和見感染を起こす。C. albicansは酵母形の形態と仮性菌糸が観察される。なお、仮性菌糸は一端からの出芽により長い娘細胞が連なった酵母形と菌糸形の中間的形成様式を示すものである。
 培養検査の結果、 Candida albicans と同定された。

③左側下(髄液)スライド
 髄液のクラム染色像を示した。中央にある核の周囲に莢膜と推定されるピンク色の形態が観察された。

④右側下(髄液)スライド
 髄液の墨汁染色像を示した。細胞壁の外側に被膜状の構造を形成するため、墨汁が細胞内に浸透できない。そのため、莢膜部分が白く抜けたような像が観察される。
 ③④を対象とした培養検査の結果、Candida albicans と同定された。

Candida albicans を検出した患者の剥離皮膚標本
■分 類:真菌
■材 料:皮膚
■その他:-
■染色法:KOH処理法
■菌種名:Candida albicans
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
①左右側スライド
  IVH先端からCandida albicans を検出した患者の剥離皮膚標本のKOH(水酸化カリウム)処理による顕微鏡像 (皮膚炎の疾患有り)を示した。 C. glabrata(酵母形のみ)以外のCandida spp.では酵母形と仮性菌糸を形成する特徴がある。本症例では酵母と菌糸の形態が観察されたことより、C. glabrata 以外のCandida spp.が推定された。
 培養検査の結果、 Candida albicans と同定された。
真菌の主要な分生子についての解説(1)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(アネロ型分生子)スライド
 菌糸、分生子柄あるいはアネライド、アネリド(分生子形成細胞の一種)の一定の成長点から、次々と分生子を生じるごとに同部が少しずつ伸び、前の分生子が離れた蹟が環状(環紋)に残る。また、産生されたアネロ型分生子は粘性に包まれてアネライド先端にダンゴ状に集まる特徴がある。

②右側上(アレウリオ型分生子)スライド
 この分生子は菌糸の先端あるいは側柄が球形、円筒形に肥大して生じる。また、細胞壁も厚くなり、しばしば横隔壁も生じる。分生子を保持している菌糸との間にくびれはない。しかし、分生子直下の細胞が乾枯した場合には分生子は離断される。

③左側下(シンポジオ型分生子)スライド
 菌糸、分生子柄あるいはシンジュラ(分生子形成細胞の一種)の小突起上に1個づつ並列して生じる分生子である。この分生子形成は分生子柄の先端の分生子形成部位が移動するため、分生子はジグザグに屈曲したり、ニワトリのとさか状の配列に観察されることがある。

④右側下(フィアロ型分生子)スライド
 フィアライドと呼ばれる分生子形成細胞の先端開口部より産生される分生子である。また、フィアライド開口部に細胞壁の一部がえり状に付着している部分をカラレットと呼ぶ。この分生子にはダンゴ状になる菌種と求基的連鎖を示す菌種が存在する。

真菌の主要な分生子についての解説(2)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(出芽型分生子)スライド
 最初に菌糸、分生子柄に小突起が生じる。この小突起が大きくなり分生子を形成すると同時に母胞との接着面が狭くなる、形成された分生子は次々に出芽して分生子の連鎖を形成する。

②右側上(厚膜分生子)スライド
 菌糸先端あるいは中間で細胞質が凝集し、厚い壁でかこまれている一種の耐久形で、多くの菌に共通してみられる。

③左側下スライド
 Aspergillus spp.の形態学的特徴は1)菌糸状の分生子柄の先にはフラスコ型の頂嚢が存在する。2)頂嚢には梗子(メツラ)とフィアライドを形成する。3)フィアライドの先には分生子が形成される。Penicillium spp.の形態学的特徴は1)パンやお餅に発育する糸状菌で、集落は青緑~灰緑の緑色系統が多い。 2)頂嚢は"ほうき状"の形態を示すためAspergillus spp.との鑑別は容易である。

④右側下スライド
 Mucor spp.の胞子嚢柄は菌糸に対して垂直に形成し、仮根は認められない。Rhizopus spp.の胞子嚢柄は菌糸に対して垂直に形成し、仮根は分生子柄を形成した菌糸の直下に形成する。Absidia spp.の胞子嚢柄は菌糸に対して垂直に形成し、仮根は分生子柄を形成した菌糸から離れて形成する。頂嚢の周囲は球形の胞子嚢を形成し、このなかには多数の胞子嚢胞子が存在する。

主要な黒色真菌の形態学的特徴(1)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:無染色
■菌種名:Exophiala jeanselmei
     Exophiala dermatitidis
     Rhinocladiella atrovirens
     Phialophora verrucosa
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 Exophiala jeanselmei(左)とExophiala dermatitidis(右)の顕微鏡像を示した。 E. jeanselmei はクロモミコーシスの原因菌で世界の各地で高頻度に分離されている。 E. jeanselmei の発育は27℃で14日間程度培養すると集落の直径は2cm程度となる。色調は黒色か灰色を呈し、表面は灰色の気生菌糸が密生する。分生子はシンポジオ型とCladosporium 様の出芽型が見られる。 E. dermatitidis も皮膚クロモミコーシスなどを起こす原因菌である。 27℃で14日間程度培養すると、集落の辺縁が湿潤し、平坦で黒色の気生菌糸を形成する。37℃培養では黒色酵母様集落を形成するため、二形性黒色真菌に含まれる。分生子は淡褐色でアネロ型を形成し、菌糸先端に集まって球状集塊を作る。

②左側下スライド
 Rhinocladiella atrovirens の顕微鏡像を示した。菌糸、分生子柄あるいはシンジュラ(分生子形成細胞の一種)の小突起上に1個づつ並列して生じる分生子である。この分生子形成は、分生子柄の先端の分生子形成部位が移動するため、分生子はジグザグに屈曲したり、ニワトリのとさか状の配列に観察されることがある。

③右側下スライド
 Phialophora verrucosa の顕微鏡像を示した。 P. verrucosa は木材腐朽菌として知られ、クロモミコーシス、皮下膿瘍、角膜真菌症から分離される。発育速度はやや遅く、 27℃で14日間程度培養すると、集落は黒褐色、黒色に着色し、表面は灰色で短い気生菌糸が密生する。フィアライドはフラスコ形で先端に暗褐色、カップ状のカラレットを形成するため、全体としては徳利形にみえる。

主要な黒色真菌の形態学的特徴(2)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:無染色
     ラクトフェノール・コットンブルー染色
■菌種名:Cladosporium bertholletia
     Fonsecaea pedrosoi
     Alternaria alternata
     Sporothrix schenckii
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 Cladosporium bertholletia の顕微鏡像を示した。最初に菌糸、分生子柄に小突起が生じる。この小突起が大きくなり分生子を形成すると同時に母胞との接着面が狭くなる、形成された分生子は次々に出芽して分生子の連鎖を形成する。

②右側上スライド
 Fonsecaea pedrosoi の顕微鏡像を示した。多連続性のシンポジオ型分生子形成細胞が認められ,その他Cladosporium 型,Rhinocladiella 型,Phialophora 型の分生子形成も認められることがある。黒色真菌の原因菌としてはF. pedrosoi が大部分を占める。

③左側下スライド
 Alternaria alternata の顕微鏡像を示した。 分生子柄は濃褐色で隔壁が多く、時にジグザグしたり、分枝したりする。分生子はポロ型で卵円形、倒棍棒形、濃褐色で表面は粗であり、隔壁が石垣状に認められる。

④左側下スライド
 Sporothrix schenckii の顕微鏡像を示した。分生子柄の先端に花弁状に生じる洋梨状の分生子を形成する。37℃で培養した場合にはクリーム色、湿性の酵母様集落を形成する二相性真菌のひとつである。

主要な皮膚糸状菌とFusarium solani の形態学的特徴
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:ラクトフェノール・コットンブルー染色
■菌種名:Trichophyton rubrum
     Microsporum gypsem
     Microsporum canis
     Fusarium solani
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 Trichophyton rubrum の顕微鏡像を示した。白癬の原因菌として高頻度に分離される。大分生子は円筒形から葉巻形で菌糸と鑑別し難い場合もある。3~11細胞性で、細胞外壁と隔壁は薄い。小分生子は卵円形や棍棒形、洋梨形である。

②右側上スライド
 Microsporum gypsem の顕微鏡像を示した。大分生子は紡錘形、表面は粗造で、3~9細胞性であり、細胞壁は薄く、基端に環状の縁飾りをもつ。小分生子は単性、有茎性で棍棒形を呈する。

③左側下スライド
 Microsporum canis の顕微鏡像を示した。大分生子は紡錘形であり、表面は粗造で6~15細胞性で、細胞外壁は厚く、隔壁はやや薄い。小分生子は単性、有茎性で棍棒形を呈する。

④右側下スライド
 Fusarium solani の顕微鏡像を示した。大分生子は三日月状から湾曲した円筒形を呈する。小分生子は卵形で、隔壁はない。

主要な接合菌類とCandida albicans の形態学的特徴
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:ラクトフェノール・コットンブルー染色
■菌種名:Mucor spp.
     Rhizopus spp.
     Candida albicans
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 Mucor spp.は世界中に普遍的に存在する土壌および空中真菌である。 Mucor spp.の胞子嚢柄は菌糸に対して垂直に形成し、菌糸には仮根は認められない。

②左側下スライド
 Rhizopus spp.の胞子嚢柄は菌糸に対して垂直に形成し、仮根は分生子柄を形成した菌糸の直下に形成する。

③右側下スライド
 菌糸先端あるいは中間で細胞質が凝集し、厚い壁でかこまれている一種の耐久形で、多くの菌に共通してみられる。厚膜胞子の形成はC. albicans の特徴のひとつである。

Pneumocystis jirovecii の各種染色法における形態学的特徴
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:ディフクイック染色
     ギムザ染色
     グロコット染色
     ファンギーフローラ染色
■菌種名:Pneumocystis jirovecii
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 Diff-Quick染色での顕微鏡像を示した。Wright染色やGiemsa染色と同様な染色が得られる簡便、迅速、低コストな染色法で、嚢子ではなく、栄養体を染色する方法である。嚢子を染色するGrocott染色より、本法の方が鋭敏で陽性率が高い。染色時間は遠心の時間を入れても5分程度ですみ、検査後すぐに結果が確認できるため、気管支洗浄液の採取が可能な施設では非常に有用な染色法と考えられている。

②右側上スライド
 Giemsa染色での顕微鏡像を示した。 栄養型と嚢子小体が染まる。栄養型の核は紫色に染まり、その周囲に淡い青色~やや不染性の細胞質が観察できる。栄養体では集隗がみられ、内部に白く抜けてみえる類円形構造物は嚢子である。

③左側下スライド
 Grocott染色での顕微鏡像を示した。染色時間は長いが、嚢子を最もきれいに染める利点がある。過染しすぎると嚢子全体が黒く染まり、真菌の胞子との鑑別が難しくなる。黒灰色の類円形に染まった嚢子の内部には、 2 箇所の肥厚部が濃く染め出され,括弧状構造物と呼ばれる特徴的な所見がみられる。

④右側下スライド
 fungi-Fluor染色での顕微鏡像を示した。嚢子壁に含まれる多糖に蛍光色素が結合して嚢子壁が染まる。特に嚢子壁の二か所の肥厚部分が、いわゆる括弧状構造物として明瞭に染まる。操作は簡単で約3分程度で染色が終わる迅速染色法である。

CHROM寒天培地に発育したCandida spp.の症例
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Candida albicans
     Candida tropicalis
■培地名:CHROM 寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①右側(Candida albicans)スライド
 CHROM寒天培地は特異性の高い特殊酵素基質によって、 Candida spp.の主要菌種を色分けして推定できる。分離培養の段階で菌種の推定ができれば、検査の迅速化・省力化を図ることができる。 C. albicans は緑色のスムース型集落を形成する。

②左側(Candida tropicalis)スライド
 C. tropicalis は中心部が濃青色のスムース型集落で周囲にハローを形成する。

・CHROM寒天培地の組成(1L)
 ペプトン:10g、特殊酵素基質混合物:22g、クロラムフェニコール:0.5g、
 寒天:15g、pH:6.1±0.2

Cryptococcus neoformans が検出された症例
■分 類:真菌
■材 料:髄液
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Cryptococcus neoformans
■培地名:CHROM 寒天培地
     サブロー寒天培地
     ヒツジ血液寒天培地
■年 齢:57
■性 別:男性
■解 説

①左側上スライド
 髄液からの分離は出来なかったが、ブルセラHKの増菌培養では発育が認められた。そこで、ブルセラHKの増菌培養に発育した真菌を選択培地であるCHROM寒天培地に接種した結果、粘稠のクリーム状集落を形成した。

②左側下スライド
 ①と同様にサブロー寒天培地に接種した結果、粘稠のクリーム状集落を形成した。

③右側下スライド
 ①と同様に血液寒天培地に接種した結果、粘稠のクリーム状集落を形成した。

培養検査の結果、Cryptococcus neoformans と同定された。

BTB乳糖加寒天培地に発育したAspergillus fumigatus の症例
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Aspergillus fumigatus
■培地名:BTB乳糖加寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 気管支鏡にて採取された気管支洗浄液をBTB乳糖加寒天培地にて培養した結果、培地上の上部に菌糸状(ビロード状)の発育が観察された。本症例の同定は45℃での発育性および頂嚢の形およびメツラの形成などを総合的に判断し、 Aspergillus fumigatus を疑った。
 なお、MALDI Biotyterによる質量分析の結果、 Aspergillus fumigatus と同定された。

Aspergillus spp.の集落性状

  1. 集落の大きさ:5~8cm程度
  2. 表面性状:ビロード状、粉状、平坦、放射状
  3. 色:A. fumigatus では濃緑色、 A. flavusA. nidulansA. terreus では黄緑色~緑色、 A. niger では黒褐色~黒色
  4. 菌糸:有隔壁で無色
  5. 胞子:分生子、単細胞、球形、粗面、無色~緑色や黒色
  6. 頂嚢:フラスコ型~球状
  7. 培養期間:7~10日程度

Aspergillus fumigatus における巨大集落の症例
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Aspergillus fumigatus
■培地名:サブロー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 糸状菌ではサブロー寒天培地やポテト・デキストロース寒天培地などでの発育性状(集落 の大きさ、発育温度、表面性状、集落の色調、胞子、頂嚢など)を基に同定するため、集落は純培養の条件で、かつ性状を判断するための大きさが必要となる。
※巨大集落は目的に適した寒天培地の中央に白金線にて1箇所接種して作製する。
喀痰からAspergillus fumigatus が検出された症例
■分 類:真菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Aspergillus fumigatus
■培地名:サブロー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側スライド
 喀痰をグラム染色した結果、菌糸と推定される形態が確認されたが、分岐角度についてはグラム染色の背景の色調と重なるため判断は難しかった。

②右側上スライド
 スライドカルチャーにて菌糸の形状を確認した結果、フラスコ上の頂嚢形成および45℃での発育などを総合的に判断し、 Aspergillus spp. を疑った。

③右側下スライド
 喀痰の分離培地に発育した菌糸をポテト・デキストロース寒天培地にて巨大集落を形成した像を示した。本症例では集落の色調などが明瞭でないため菌種の推定は難しかった。
 培養検査の結果、Aspergillus fumigatus と同定された。

サブロー寒天培地に発育したTrichosporon asahiiCandida albicansNocardia farcinica の症例
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Trichosporon asahii
     Candida albicans
     Nocardia farcinica
■培地名:サブロー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 気管支鏡にて採取された気管支洗浄液をサブロー寒天培地にて培養した結果、 Trichosporon asahiiCandida albicansNocardia farcinica の発育が観察された。

Nocardia spp.の特徴

  1. この属には11菌種が存在し、N. asteroidesN. brasiliensis がヒトに感染を起こし易い。
  2. 0.5~×1.2µmの大きさで分岐したフィラメントの多形成を示すグラム陽性桿菌である。
  3. 好気性菌で普通寒天培地や血液寒天培地に発育する。
    ※選択:サブロー寒天培地、小川培地、BCYE寒天培地などがある。
  4. 肺炎・肺膿瘍・脳・皮膚ノカルジア症などを起こす。
  5. ミノサイクリン、ST合剤が第一選択薬である。

主要な黒色真菌の培養集落(1)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Exophiala jeanselmei
     Exophiala dermatitidis
     Fonsecaea pedrosoi
     Phialophora verrucosa
■培地名:サブロー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 Exophiala jeanselmei(左)とExophiala dermatitidis(右)のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。 E. jeanselmei はクロモミコーシスの原因菌で世界の各地で高頻度に分離されている。 E. jeanselmei の発育は27℃で14日間程度培養すると集落の直径は2cm程度となる。色調は黒色か灰色を呈し、表面は灰色の気生菌糸が密生する。分生子はシンポジオ型とCladosporium 様の出芽型が見られる。 E. dermatitidis も皮膚クロモミコーシスなどを起こす原因菌である。 27℃で14日間程度培養すると、集落の辺縁が湿潤し、平坦で黒色の気生菌糸を形成する。37℃培養では黒色酵母様集落を形成するため二相性黒色真菌に含まれる。分生子は淡褐色でアネロ型を形成し、菌糸先端に集まって球状集塊を作る。

②左側下スライド
 Fonsecaea pedrosoi のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。培養開始後1∼2 週以内に黒色調のコロニーが観察されるが、菌株によっては発育が遅いものがあるため、少なくとも4週間は観察を続け発育の有無を判定する。F. pedrosoi ではスライド・カルチャーにて多連続性のシンポジオ型分生子形成細胞が認められ、その他Cladosporium 型、 Rhinocladiella 型、 Phialophora 型の分生子形成も認められることがある。黒色真菌の原因菌としてはF. pedrosoi が大部分を占める。

③右側下スライド
 Phialophora verrucosa のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。 P. verrucosaは木材腐朽菌として知られ、クロモミコーシス、皮下膿瘍、角膜真菌症から分離される。発育速度はやや遅く、 27℃で14日間程度培養すると、集落は黒褐色、黒色に着色し、表面は灰色で短い気生菌糸が密生する。フィアライドはフラスコ形で先端に暗褐色、カップ状のカラレットを形成するため、全体としては徳利形に見える。

主要な黒色真菌とSporothrix schenckii の培養集落(2)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Cladosporium carrionii
     Cladosporium trichoides
     Sporothrix schenckii
■培地名:サブロー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 Cladosporium carrionii(左)とCladosporium trichoides(右)のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。 Cladosporium spp.はクロカビと呼ばれ、最も身近な糸状菌のひとつである。菌糸の太さは一定で成長も一般的な速さである。顕微鏡下で観察すれと、分生子柄の先端から分枝した分生子の鎖が展開し、サンゴの様な形を形成する。胞子形成はコロニー形成から数日中には始まる。分生子柄は培地上の菌糸から出て直立し、その先端から分生子を作る。柄が分枝を出す場合もある。 分生子形成型は出芽型であり、分生子柄の先端の細胞の一カ所、または複数箇所から出芽するようにして分生子が形成される。

②中央側下スライド
 Sporothrix schenckii のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。ヒトの皮膚、皮下組織に潰瘍性の病変を生じる疾患であり、日本において深在性皮膚真菌症としてはもっとも発生率が高い人獣共通感染症のひとつである。 25℃の環境下でサブロー寒天培地に培養すると、5~8後に白色~灰色の湿性の絨毛状の集落を形成する。顕微鏡下での観察では分生子柄の先端に花弁状に生じる洋梨状の分生子を形成する。37℃で培養した場合にはクリーム色、湿性の酵母様集落を形成する二形性真菌のひとつである。

主要な皮膚糸状菌の培養集落(3)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Trichophyton mentagrophytes
     Trichophyton rubrum
     Microsporum canis
     Epidermophyton floccosum
■培地名:サブロー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左右側上スライド
 Trichophyton mentagrophytes(左)とTrichophyton rubrum(右)のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。 T. mentagrophytes の発育速度は中等度であり、集落は偏平あるいは粉状、綿毛状、放射状の形態を示す。色調は淡褐色から黄色、褐色を呈し、裏面での観察では黄赤褐色、褐色、クリーム色などを呈する。大分生子は比較的少なく、3~8細胞性棍棒状形から葉巻形を形成する。細胞壁は薄く、表面は平滑で、小分生子は豊富に産生される。 コイル状やラセン状の菌糸が認められる特徴がある。T. rubrum は白癬の原因菌として高頻度に分離される。発育は比較的遅い。発育形態はT. mentagrophytes に類する。大分生子は円筒形から葉巻形で菌糸と鑑別し難い場合もある。3~11細胞性で、細胞外壁と隔壁は薄い。小分生子は卵円形や棍棒形、洋梨形である。

②左側下スライド
 Microsporum canis のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。 Microsporum canis はポテト・デキストロース寒天培地に比べサブロー寒天培地での発育は遅い。集落の表面は羊毛状や綿状で平坦あるいは放射状の皺が見られる。色調は白く、淡褐色から褐色を呈することもある。大分生子は紡錘形であり、表面は粗造で6~15細胞性で、細胞外壁は厚く、隔壁はやや薄い。

③右側下スライド
 Epidermophyton floccosum のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。ヒトの陰股部、足、爪白癬の原因菌である。発育は遅く、ビロード状から羊毛状を呈する。色調は薄いオリーブ色でやや黄緑色を帯びている。大分生子は棍棒形で、3~5細胞性、細胞外壁は薄く、表面は平滑である。単生またはバナナの房状に群生するが、小分生子を形成しないのが特徴である。

代表的な糸状菌の培養集落(4)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Fusarium solani
     Rrhizopus oryzae
     Penicillium spp.
     Aspergillus fumigatus
■培地名:サブロー寒天培地
     ツアペック・ドックス寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 Fusarium solani のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。 F. solani は世界中に広く分布する土壌真菌のひとつである。本来は植物病原菌であるが、ヒトに対しては角膜真菌症の主要な菌種である。 F. solani の発育速度は速く、集落は白い羊毛状で気生菌糸は長く伸びる。色調は発育が進むと菌糸体は緑色に変化する。大分生子は三日月状から湾曲した円筒形を呈する。小分生子は卵形で、隔壁はない。

②右側上スライド
 RRhizopus oryzae のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。 R. oryzae は世界中に分布するが、特に熱帯や亜熱帯地方を中心に存在する土壌真菌であり、穀物や果実、野菜にも腐生する。 R. oryzae は接合菌種に分類され、集落は褐色を帯びた灰色、クモの巣状を形態を呈する。発育温度は42~44℃まで可能である。胞子嚢柄と仮根が節をはさんで対生する。

③左側下スライド
 Penicillium spp.のCzapek-Dox寒天培地における巨大集落像を示した。 Penicillium spp.はパンやお餅に発育する糸状菌で、集落は青緑~灰緑の緑色系統が多い。 Penicillium spp.の頂嚢は"ほうき状"の形態を示すため、Aspergillus spp.との鑑別は容易である。

④右側下スライド
 Aspergillus fumigatus のCzapek-Dox寒天培地における巨大集落像を示した。 A. fumigatus はアスペルギルス症の主要な菌種であり、自然界から分離される。発育速度は速く、集落はビロード状から綿毛状を呈する。培養初期は白色、青緑色を呈し、時間の経過と共に暗青緑色から暗灰色に変わる。発育温度は45℃でも発育できるため他のAspergillus spp.との鑑別には有用である。頂嚢はフラスコ形を呈する。

Aspergillus fumigatus以外のAspergillus spp.の培養集落(5)
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Aspergillus flavus
     Aspergillus terreus
     Aspergillus nigar
     Aspergillus nidulans
■培地名:サブロー寒天培地
     ツアペック・ドックス寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上スライド
 Aspergillus flavus のCzapek-Dox寒天培地における巨大集落像を示した。 A. flavus の発育速度は速く、集落は羊毛状から綿毛状で放射状の溝を作る場合がある。培養初期は黄色であるが、次第に黄緑色あるいは緑色に着色する。A. flavus は発癌性のあるアフラトキシンを産生する。頂嚢は亜球形で、メツラとフィアライドが頂嚢全体を覆う。

②右側上スライド
 Aspergillus terreus のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。 A. terreus の発育速度は速く、集落はビロード状から粉状で、浅い放射状の溝や表面扁平の場合がある。色調はシナモン色、黄褐色から赤褐色を呈し、土壌に広く分布する。ヒトには耳鼻科領域で分離される。頂嚢は亜球形で、メツラとフィアライドが頂嚢の2/3を覆う。

③左側下スライド
 Aspergillus niger のCzapek-Dox寒天培地における巨大集落像を示した。 A. niger は黒麹菌と呼ばれ、環境に普遍的に存在する。A. niger の発育速度は速く、集落は黒色の羊毛状から綿毛状を呈し、分生子頭も黒色を形成する特徴がある。頂嚢は球形でメツラとフィアライドが頂嚢全体を覆う。

④右側下スライド
 Aspergillus nidulans のサブロー寒天培地における巨大集落像を示した。 A. nidulans は自然の環境中に広く分布し、稀に耳真菌症や内蔵真菌症を起こす。 A. nidulans の発育速度は速く、集落はビロード状から粉状で、シナモン色、黄褐色から緑色を呈する。頂嚢は褐色のフラスコ形で、メツラとフィアライドが頂嚢の上半分を覆う。

腸内細菌科細菌の試験管による同定法(1)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Eschrichia coli
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はEschrichia coli の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応は陰性、硫化水素(H2S)産生およびシモンズのクエン酸利用能も陰性である。この段階では、Eschrichia spp.かShigella spp.、Salmonella Paratyphi Aが推定される。 TSI寒天培地で高層部が黄色(乳糖か白糖、あるいは乳糖と白糖の分解性有り)で陽性、ガスの産生も認められた。SIM寒天培地ではインドール反応が陽性、運動性も認められた。リジンおよびオルニチン脱炭酸反応は陽性であることより、 Eschrichia coli と同定された。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(2)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Shigella flexneri
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はShigella flexneri の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応は陰性、硫化水素(H2S)産生およびシモンズのクエン酸利用能も陰性である。この段階では、Eschrichia spp.かShigella spp.、Salmonella Paratyphi A が推定される。 TSI寒天培地では高層部が赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、ガスの産生は認められなかった。SIM寒天培地ではインドール反応が陰性、運動性も認められない。リジンおよびオルニチン脱炭酸反応は陰性で、O抗原の凝集反応でB群に凝集を示したことより、Shigella flexneri と同定された。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(3)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Klebsiella pneumoniae
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はKlebsiella pneumoniae の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性である。この段階では、Klebsiella spp.かSerratia spp.、Enterobacter spp. などのVP反応陽性菌が推定される。 TSI寒天培地で高層部が黄色(乳糖か白糖、あるいは乳糖と白糖の分解性有り)で陽性、ガスの産生も認められた。 SIM寒天培地ではインドール反応が陰性、運動性も認められない。リジン脱炭酸反応は陽性、オルニチン脱炭酸反応およびDnase産生、アルギニン水解反応は陰性を示したことより、Klebsiella pneumoniae と同定された。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(4)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Klebsiella oxytoca
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はKlebsiella oxytoca の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性である。この段階では、Klebsiella spp.かSerratia spp.、Enterobacter spp.などのVP反応陽性菌が推定される。 TSI寒天培地で高層部が黄色(乳糖か白糖、あるいは乳糖と白糖の分解性有り)で陽性、ガスの産生も認められた。 SIM寒天培地ではインドール反応は陽性、運動性は認められない。リジン脱炭酸反応は陽性、オルニチン脱炭酸反応およびDnase産生、アルギニン水解反応は陰性を示したことより、Klebsiella oxytoca と同定された。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(5)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Enterobacter cloacae
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はEnterobacter cloacae の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性である。この段階では、Klebsiella spp.かSerratia spp.、Enterobacter spp.などのVP反応陽性菌が推定される。 TSI寒天培地で高層部が黄色(乳糖か白糖、あるいは乳糖と白糖の分解性有り)で陽性、ガスの産生も認められた。 SIM寒天培地ではインドール反応は陰性、運動性は認められた。リジン脱炭酸反応およびDnase産生は陰性、オルニチン脱炭酸反応およびアルギニン水解反応は陽性を示したことより、 Enterobacter cloacaeと同定された。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(6)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Enterobacter aerogenes
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はEnterobacter aerogenes の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性である。この段階では、Klebsiella spp.かSerratia spp.、Enterobacter spp.などのVP反応陽性菌が推定される。 TSI寒天培地で高層部が黄色(乳糖か白糖、あるいは乳糖と白糖の分解性有り)で陽性、ガスの産生も認められた。 SIM寒天培地ではインドール反応は陰性、運動性は認められた。リジン脱炭酸反応およびオルニチン脱炭酸反応は陽性、Dnase産生およびアルギニン水解反応は陰性を示したことより、 Enterobacter aerogenes と同定された。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(7)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Serratia marcescens
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はSerratia marcescens の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性である。この段階では、Klebsiella spp.かSerratia spp.、Enterobacter spp.などのVP反応陽性菌が推定される。 TSI寒天培地では高層部が赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、ガスの産生は認められない。SIM寒天培地ではインドール反応は陰性、運動性は認められた。リジン脱炭酸反応およびオルニチン脱炭酸反応、Dnase産生は陽性、アルギニン水解反応は陰性を示したことより、 Serratia marcescens と同定された。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(8)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Hafnia alvei
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はHafnia alvei の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性である。この段階では、Klebsiella spp.かSerratia spp.、Enterobacter spp.などのVP反応陽性菌が推定される。 TSI寒天培地では高層部が赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、ガスの産生は認められない。 SIM寒天培地ではインドール反応は陰性、運動性は認められた。リジン脱炭酸反応およびオルニチン脱炭酸反応は陽性、Dnase産生およびアルギニン水解反応は陰性を示したことより、 Enterobacter aerogenes と類似するが、追加試験でイノシット分解性が陰性のことより、Hafnia alvei と同定された。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(9)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Salmonella spp.
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はSalmonella spp.の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応は陰性、硫化水素(H2S)産生は陽性であった。この段階では、Salmonella spp.かCitrobaccter spp.が推定される。 TSI寒天培地では高層部が赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、ガスの産生は認められた。SIM寒天培地ではインドール反応は陰性、運動性は認められた。VP反応は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性であった。リジン脱炭酸反応およびオルニチン脱炭酸反応は陽性、Dnase産生およびアルギニン水解反応は陰性を示したことより、腸管感染症を起こすSalmonella spp.と同定された。なお、 Citrobaccter spp.との鑑別では、TSI寒天培地では高層部が赤色、リジン脱炭酸反応は陽性の点で判断できる。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(10)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Salmonella Typhi
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はSalmonella Typhi( Salmonella enterica subsp. enterica serover Typhi)の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応は陰性、硫化水素(H2S)産生はTSI寒天培地の接種部分にのみ認められ、ガスの産生は無く、高層部は赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性を示した。SIM寒天培地ではインドール反応は陰性、運動性は認められた。VP反応およびシモンズのクエン酸利用能は陰性であった。リジン脱炭酸反応は陽性、オルニチン脱炭酸反応およびDnase産生、アルギニン水解反応は陰性を示したことより、全身感染症の腸チフスを起こすSalmonella Typhiと同定された。Salmonella Typhiの最終判断には血清学的検査を実施する必要がある。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(11)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Salmonella Paratyphi A
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はSalmonella Paratyphi A( Salmonella enterica subsp. enterica serover Paratyphi A)の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陰性であった。TSI寒天培地では高層部は赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、ガスの産生は認められた。SIM寒天培地ではインドール反応は陰性、運動性は認められた。VP反応およびシモンズのクエン酸利用能は陰性であった。リジン脱炭酸反応およびDnase産生、アルギニン水解反応は陰性、オルニチン脱炭酸反応は陽性を示したことより、全身感染症のパラチフスを起こすSalmonella Paratyphi Aと同定された。 Salmonella Paratyphi Aの最終判断には血清学的検査を実施する必要がある。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(12)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Citrobacter freundii
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はCitrobacter freundii の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応は陰性、硫化水素(H2S)産生は陽性であった。この段階では、Salmonella spp.かCitrobaccter spp.が推定される。 TSI寒天培地では高層部が黄色(乳糖か白糖、あるいは乳糖と白糖の分解性有り)で陽性、ガスの産生は僅かに認められた。SIM寒天培地ではインドール反応は陰性、運動性は認められた。VP反応は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性であった。リジン脱炭酸反応およびオルニチン脱炭酸反応、Dnase産生、アルギニン水解反応は陰性を示したことより、Citrobacter freundii と同定された。なお、Salmonella spp.との鑑別ではTSI寒天培地では高層部が黄色、リジン脱炭酸反応は陰性の点で判断できる。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(13)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Citrobacter koseri
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はCitrobacter koseri の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性であった。 TSI寒天培地で高層部が黄色(乳糖か白糖、あるいは乳糖と白糖の分解性有り)で陽性、ガスの産生は認められなかった。SIM寒天培地ではインドール反応が陽性、運動性も認められた。VP反応は陰性、リジン脱炭酸反応およびDnase産生、アルギニン水解反応は陰性、オルニチン脱炭酸反応は陽性であることより、Citrobacter koseri と同定された。なお、本菌種はEschrichia coli と類似しているが、シモンズのクエン酸利用能は陽性、リジン脱炭酸反応は陰性の点で鑑別できる。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(14)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Proteus vulgalis
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はProteus vulgalis の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陽性であった。この段階でPreteus spp.が推定される。 TSI寒天培地では高層部が赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、大量の硫化水素(H2S)産生とガスの産生は認められた。SIM寒天培地ではインドール反応が陽性を示したことより、 Proteus vulgalisと同定された。なお、 Proteus vulgalis とProteus mirabilis は血液寒天培地などでスウォーミング現象がみられる特徴がある。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(15)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Proteus mirabilis
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はProteus mirabilis の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陽性であった。この段階でPreteus spp.が推定される。 TSI寒天培地では高層部が赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、大量の硫化水素(H2S)産生とガスの産生は認められた。SIM寒天培地ではインドール反応は陰性、オルニチン脱炭酸反応は陽性であることより、Proteus mirabilis と同定された。なお、 P. mirabilis ではVP反応が陽性を呈する菌株が多い。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(16)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Morganella morganii
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はMorganella morganii の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応は陽性、硫化水素(H2S)産生は陰性であった。この段階では、Morganella spp.とProvidencia spp.が推定される。 TSI寒天培地では高層部が赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、硫化水素(H2S)の産生は無いが、ガスの産生は認められた。SIM寒天培地ではインドール反応は陽性、シモンズのクエン酸利用能は陰性、オルニチン脱炭酸反応は陽性であることより、Morganella morganii と同定された。
腸内細菌科細菌の試験管による同定法(17)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Providencia rettgeri
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はProvidencia rettgeri の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応は陽性、硫化水素(H2S)産生は陰性であった。この段階では、Morganella spp.とProvidencia spp.が推定される。 TSI寒天培地では高層部が赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、硫化水素(H2S)の産生は無いが、ガスの産生は認められた。SIM寒天培地ではインドール反応は陽性、シモンズのクエン酸利用能は陽性であった。 リジン脱炭酸反応およびオルニチン脱炭酸反応、Dnase産生、アルギニン水解反応は陰性であることより、 Providencia rettgeri と同定された。
Vibrio spp.の試験管による同定法(17)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Vibrio cholerae
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はVibrio cholerae の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応は陰性、硫化水素(H2S)産生およびシモンズのクエン酸利用能も陰性である。TSI寒天培地で高層部が黄色(乳糖か白糖、あるいは乳糖と白糖の分解性有り)で陽性、ガスの産生は認められなかった。SIM寒天培地ではインドール反応が陽性、運動性も認められ、リジンおよびオルニチン脱炭酸反応も陽性であることより、チトクロームオキシダーゼ陽性菌のVibrio cholerae と同定された。 V. cholerae の最終判断には血清学的検査を実施する必要がある。なお、 V. cholerae の場合にはコレラ毒素産生の有無が重要となる。
Vibrio spp.の試験管による同定法(18)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Vibrio parahaemolyticus
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はVibrio parahaemolyticus の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応は陰性、硫化水素(H2S)産生およびシモンズのクエン酸利用能も陰性である。TSI寒天培地で高層部が赤色(乳糖および白糖非分解)で陰性、ガスの産生も認められなかった。SIM寒天培地ではインドール反応が陽性、運動性も認められ、リジンおよびオルニチン脱炭酸反応も陽性であることより、チトクロームオキシダーゼ陽性菌のVibrio parahaemolyticus と同定された。V. parahaemolyticus の最終判断にはTCBS寒天培地での集落の発育性と色調および食塩含有アルカリペプトン水による鑑別が必要である。
Aeromonas spp.の試験管による同定法(19)
■分 類:確認培地
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Aeromonas hydrophila
■培地名:TSI培地
     SIM培地
     VP培地
     シモンズのクエン酸塩培地
     リジン液体培地
     オルニチン液体培地
     DNA培地
     アルギニン液体培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 本症例はAeromonas hydrophila の生物学的性状を示した。
 インドールピルビン酸(IPA)反応および硫化水素(H2S)産生は陰性、シモンズのクエン酸利用能は陽性である。TSI寒天培地で高層部が黄色(乳糖か白糖、あるいは乳糖と白糖の分解性有り)で陽性、ガスの産生は認められた。SIM寒天培地ではインドール反応が陽性、運動性も認められ、VP反応およびDnase産生、アルギニン水解反応は陽性、リジンおよびオルニチン脱炭酸反応は陰性であることより、チトクロームオキシダーゼ陽性菌のAeromonas hydrophila と同定された。特に本菌種の同定検査ではDnase産生の有無がポイントとなる。
代表的な寄生虫卵の症例(1)
■分 類:寄生虫
■材 料:便
■その他:虫卵
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(蛔虫受精卵)スライド
 蛔虫は世界に広く分布し、特に温湿・湿潤な熱帯地方の農村地帯に多い。日本では第二次世界大戦後に集団検便や集団駆除により減少し、日本での感染率は0.02%程度である。ただし、有機栽培野菜による感染例は増加傾向にある。形態的特徴はヒトの腸に寄生する線虫類のなかでは最も大きく、頭部には3個の口唇を有する。症状では出血性の回虫肺炎やレフレル症候群、PIE症候群 、腸閉塞、急性腹症、胃痙攣などを起こす。虫卵の特徴は単細胞でコンペイ糖状の蛋白膜を有し、大きさ(µm)は45~75×35~50程度であり、卵殻と細胞との間には三日月状の隙間がある。1日の産卵数は20万個以上のため直接塗抹法(3回程度)での観察でみつけることができる。

②右側上(蛔虫受精卵)スライド
 蛔虫受精卵で蛋白膜が剥がれた時の虫卵画像を示した。

③左側下(蛔虫不受精卵)スライド
 蛔虫の概要は上記と同じ。虫卵の特徴は左右非対称で油滴状の顆粒を認める。受精卵に比べ卵殻、蛋白膜ともに発育が悪く、薄い。大きさ(µm)は65~95×40~60程度であり、不受精卵を飲み込んでも感染しない。不受精卵は雌のみの単独寄生時に生じ易い。

④右側下(鉤虫卵)スライド
 鉤虫は十二指腸より最初に検出されたため、以前は十二指腸虫と呼ばれた。ヒトは固有宿主であり、主にズビニ鉤虫とアメリカ鉤虫が寄生する。流行地域は世界に広く分布し、特に熱帯・亜熱帯に多い。形態的特徴ではズビニ鉤虫の場合:口腔には2対の歯牙を保有する。アメリカ鉤虫の場合:口腔には1対の歯板を保有する。症状ではズビニ鉤虫の方が重篤であり、喘息発作のレフレル症候群や鉄欠乏性貧血などを起こす。虫卵の特徴は4~8細胞を有し、大きさ(µm)は56~61×35~40程度で、両端が丸み持っている。なお、虫卵ではズビニ鉤虫とアメリカ鉤虫を鑑別することは出来ない。しかも産卵数が少なく、比重も小さいので集卵には飽和食塩水浮遊法が適している。種を確定するには、濾紙培養法を実施し、幼虫での形態にて鑑別する必要がある。

代表的な寄生虫卵と糞線虫の症例(2)
■分 類:寄生虫
■材 料:便
■その他:虫卵
     糞線虫
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(東洋毛様線虫卵)スライド
 主として韓国、中国などの東アジアに分布し、寒さや乾燥に強い性質を保有するため、日本では東北・北海道地方で多く認められる。形態的特徴では毛様繊細で白色の光沢を有し、肉眼でやっと認めれる程度の大きさである。症状は好酸球の増加、腹痛、下痢、食欲不振、四肢倦怠感を呈する。虫卵の特徴は無色で、8~16細胞を呈するが、卵割が進むと桑実期となる。虫卵はほぼ楕円形で一端は反対側よりやや尖っており、大きさおよび卵殻は鉤虫より大きく、厚いのが特徴である。

②右側上(鞭虫卵)スライド
 世界に広く分布し、特に熱帯・亜熱帯の高温多湿な地域に多い。老人施設や心身障害施設などでは濃厚感染がみられる。形態的特徴では体形がムチ状で、体の前部3/5は極めて細く、後部2/5は太い特徴がある。症状は下痢、腹痛、食欲不振を呈する。虫卵の特徴はレモン形あるいは岐阜提灯様の形態で、大きさ(µm)は40~50×22~25程度で、卵殻は厚く、1個の卵細胞が隙間無く詰り、褐色を呈し、両端に無色の栓を有する特徴がある。

③左側下(蟯虫卵)スライド
 地域差や生活程度に関係なく、世界各地に分布し、日本では幼児から低学年に多くみられる。形態的特徴では白色の小線虫、体長は雌:約1cm、雄:2~5×0.2mm程度であり、頭部には3個の口唇と頭部膨大部がある。症状は肛門部周囲の"かゆみ"がある。虫卵の特徴は無色半透明、卵殻は厚く、左右非対象で"柿の種状"を呈し、大きさ(µm)は45~50×20~30程度である。なお、産卵は夜間睡眠時に肛門周囲で起こり、6~7時間後には幼虫包蔵卵になり、ヒトにはこの虫卵を経口摂取して感染する。

④右側下(糞線虫)スライド
 熱帯・亜熱帯地方に分布し、日本では南九州、奄美大島、沖縄に多くみられる。形態的特徴では寄生世代成虫:雌のみで単為生殖を行い、大きさは小さく、2.2~2.5×0.04~0.05mm程度である。自由世代成虫:大きさは雄:0.7mm、雌:1mm程度である。ラブジチス型幼虫:食堂は短く、大きさは250~380µmであり、他の線虫のラブジチス型幼虫と区別不可能である。フィラリア型幼虫: 体長は約600µm 、尾端には逆V字の切れ込みがある。症状は頑固な下痢、幼虫が全身に散布され播種性糞線虫症を起こす。虫卵は小腸粘膜付近に産卵するが、約6時間でラブジチス型幼虫となるため虫卵の検出は難しい。

代表的な寄生虫卵の症例(3)
■分 類:寄生虫
■材 料:便
■その他:虫卵
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(肝吸虫卵)スライド
 アジア地域に広く分布し、メタセルカリアは十二指腸で脱嚢し、最終的には胆管内で成虫となる。日本では岡山県南部、琵琶湖沿岸、利根川流域に多い。形態的特徴では成虫は約10~20×2~4mmで柳の葉状を呈している。症状は胆管炎、肝機能障害を起こし、腹水・浮腫・黄疸・貧血・肝硬変へと悪化する。虫卵の大きさ(µm)は27~35×12~20程度で淡黄色、小蓋と小突起があり、殻表面には亀甲模様がみられ、内容物はミラシジウムである。

②右側上(横川吸虫卵)スライド
 アジア各地にみられ、メタセルカリアは体内移行せず、直接小腸に寄生する。日本では西~南日本に多い。形態的特徴では成虫は約1.5×0.5mmで、ゴマ粒大の小さな吸虫であり、腹吸盤は生殖器と一緒になって生殖腹吸盤を形成する。症状はほとんどないが、多数寄生すると腸カタル炎を起こす。虫卵の大きさ(µm)は28~32×15~18程度で淡黄色、小蓋と小突起はあるが、卵殻表面には亀甲模様はみられない。内容物はミラシジウムである。

③左側下(日本住血吸虫卵)スライド
 東南アジアに分布し、門脈系の静脈内に寄生する。特に中国、フィリピンでは流行が著しい。以前は筑後川下流域(福岡県)などで認められたが、現在では感染例はない。形態的特徴では成虫は雌雄異体であり、前端には口吸盤、後方側面に腹吸盤がある。症状は急性期に貧血、肝腫、発熱、下痢、粘血便、白血球増多、好酸菌増多がみられ、慢性期には虫卵結節、肝硬変、腹壁静脈の怒張、食道静脈瘤、腹水貯留を起こす。虫卵の大きさ(µm)は楕円形で70~100×50~70程度、淡黄色で小蓋がない。卵殻周囲にはゴミや粘液が付着し易いので小突起を認め難い。卵殻内にはミラシジウムがみられる。

④右側下(ウエステルマン肺吸虫卵)スライド
 東南アジアに広く分布し、小腸で脱嚢し、最終的には肺に入り寄生する。形態的特徴では成虫は約1cmのコーヒー豆様である。症状は腹痛、胸痛があり、肺内に虫嚢結節を形成する。肺以外に脳、皮下、胸膜腔などに異所寄生する。虫卵の大きさ(µm)は蛔虫よりやや大きく、80~90×46~52程度で卵形の黄金色を呈し、左右非対象で小蓋がある。小蓋の反対側の卵殻が肥厚している特徴があり、内容物は卵細胞と卵黄細胞の複合卵である。

代表的な寄生虫卵の症例(4)
■分 類:寄生虫
■材 料:便
■その他:虫卵
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(マンソン住血吸虫卵)スライド
 アフリカ、中東、カリブ海沿岸、南米などを中心に分布する。形態的特徴では成虫は雌雄異体で、雄虫が6〜10 mm、雌虫が7〜16 mm程度である。セルカリアは約0.3 mmの長さで二分した尾部を持つ。虫卵の大きさ(µm)は115 ~180 ×45~75程度で、淡黄色透明の長楕円を呈する。卵蓋は無く、一側に著明なトゲ状の突起が認められる特徴がある。卵内容はミラシジウムで虫卵表面には顆粒状物の付着が認められる。

②右側上(宮崎肺吸虫卵)スライド
 日本では北海道以外の地域に広く分布する。形態的特徴ではウエステルマン肺吸虫に類似するが、卵巣の分岐が複雑である点にて鑑別できる。虫卵はウエステルマン肺吸虫卵より小さく、卵殻は薄く、左右対称で無蓋端は肥厚していない特徴がある。生活史では第1中間宿主はホラアナミジンニナ、第2通間宿主はサワガニが有名で、サワガニの生食で感染する。

③左側下(マンソン裂頭条虫卵)スライド
 北米を除きほぼ世界中に分布し、イヌやネコなどの小腸に寄生している。形態的特徴では成虫の場合、体長は1-2m、体幅約1cm程度で、ストロビラは1000個以上であり、その前方は未熟片節、後方は成熟片節からなる。虫卵の大きさ(µm)は50~70×30~45程度で、褐色の左右非対称のラグビーボール状を呈し、一端に小蓋を有し、1個の卵細胞と多数の卵黄細胞を含有する。生活史では第1中間宿主はケンミジンコ、第2中間宿主はカエル、ヘビなど、終宿主はネコ、イヌ、タヌキ、キツネなどである。

④右側下(無鉤条虫卵)スライド
 世界に広く分布し、特に牛肉を食べるイスラム教徒の国に多い。形態的特徴では虫体は白く、頭節には額嘴や棘はなく、4つの強力な吸盤がある。成虫の全長は4 ~ 10m程度が多いが、稀に12mを超えることもある。片節数は1,000~2,000程度である。 虫卵の大きさ(µm)は30~45 × 30 ~40 程度で、暗褐色の円形を呈する。内容はコラシジウム(六鉤幼虫)であり、虫卵では有鉤条虫卵、アジア条虫卵との鑑別は困難である。虫体を鑑別するには虫体片節の子宮分枝数(20~24)で鑑別する。なお、糞便とともに排泄される片節は肉厚で運動性を有する。

代表的な寄生虫卵と旋毛虫の症例(5)
■分 類:寄生虫
■材 料:便
■その他:虫卵
     旋毛虫
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(小形吸虫卵)スライド
 世界に広く分布し、ネズミ類に寄生して生息している。形態的特徴では小形で10~30×1mmで、頭部には4つの吸盤と小鉤のある額嘴がみられる。成熟片節は横に平で、中に2個の卵巣と3個の精巣、1個の子宮が存在する。虫卵の大きさ(µm)は45~55×40~45程度で、淡黄色から無色の楕円形を呈し、卵殻は薄く、なかには数本のフィラメントが卵殻との間のゼリー状物質のなかに認められる。幼虫被殻のなかは六鉤幼虫である。生活史ではネズミまたはヒトの糞便に排出された虫卵を直接経口摂取して感染する。

②右側上(縮小条虫卵)スライド
 世界に広く分布し、ネズミ類に寄生して生息している。形態的特徴では成虫は50~80cm、頭部には4つの吸盤と痕跡程度の額嘴がみられる。虫卵の大きさ(µm)は60 ~80程度で、卵殻は厚く、幼虫被殻は球形でフィラメントはみられない。発育は小形条虫とは異なり、ノミ類や甲殻類、ゴキブリ類の中間宿主が必要である。ヒトへの感染は中間宿主を経口摂取して感染する。

③左側下(筋肉内の旋毛虫)スライド
 ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、アジアに分布する。形態的特徴では雄虫は1.5×0.05mm、雌虫は3〜4×0.06 mm程度で、極めて細い糸状の線虫である。成虫はヒト以外にブタ、クマ、イヌ、ウマ、ネズミなどの小腸粘膜内に寄生し、体長約100 µmの幼虫を産出する。この幼虫が血液・リンパ液を通じて、同じ宿主の全身の横紋筋に運ばれて被嚢を形成する。

④右側下(日本海裂頭条虫卵)スライド
 日本近海のサケ属魚類(サクラマスなど)の生食により感染し、小腸上部で腸壁に頭節を吸着させて寄生する。従来は広節裂頭条虫と呼ばれていたが、遺伝子学的に異なる。形態的特徴では成虫は数mに及ぶ。片節は横が広く3000~5000個を超え、頭部はこん棒状で背腹には長い吸溝がある。症状はほとんどないが、時に軽度の消化器症状を呈する。虫卵の大きさ(µm)は60~70×40~50程度で楕円形、淡褐色、小蓋を有する。内容は1個の卵細胞と多数の卵黄細胞からなる。

各種寄生虫の症例
■分 類:寄生虫
■材 料:便
     血液
     胆汁
■その他:イヌのミクロフィラリア
     無鉤条虫の受胎節
     トキソプラズマ栄養型
     ランブル鞭毛虫嚢子
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
・代表的な寄生虫卵、条虫、原虫の症例を提示する。

①左側上(イヌのミクロフィラリア)スライド
 日本では関東地方以西からの報告が多く、特に高齢者で認められる。 形態的特徴では成虫の雄虫は12〜20cm、雌虫は25〜30cm程度、体幅は1mm程度の細長い線虫である。イヌに感染した糸状虫の血液をキムザ染色すると、150〜330µm程度のミクロフィラリアが認められる。感染経路は蚊が感染したイヌの血液を吸血してミクロフィラリアを取り込むと、蚊の体内で感染型幼虫になり、この感染型幼虫が蚊の吸血時にヒトの血液に注入されて感染する。媒介蚊としてはトウゴウヤブカ、ヒトスジシマカ、アカイエカが有名である。

②右側上(無鉤条虫の受胎節)スライド
 世界に広く分布し、牛肉を食べる回教徒の国で多く、摂取した嚢虫は小腸上部の粘膜に吸着して成虫となる。形態的特徴では成虫は3~6m、片節は1000~2000個、頭部には4個の吸盤があり、子宮側枝は有鉤条虫より多く20~24本の分枝を有し、片節は乳白色、肉厚で活発に運動する。症状はほとんどなく、時に消化器症状を呈する程度である。虫卵には小蓋がなく、卵殻に相当する被膜は薄く、内部はゼリー状で、内部には幼虫被殻があり、このなかに六鉤幼虫が存在する。なお、虫卵での有鉤条虫卵との鑑別は不可能である。

③左側下(トキソプラズマ栄養型)スライド
 世界に広く分布している。日本人のトキソプラズマ抗体保有率は10~30%で、海外に比べ低く、若年層では減少傾向にある。成人の大部分は不顕性感染であるが、時に妊婦のトキソプラズマ感染による先天性トキソプラズマ症を起こす。形態的特徴では栄養型の大きさ(µm)は3~7×2~3程度で、1個の核を有する半月型が特徴である。症状は網脈絡膜炎、水頭症、脳内石灰化象、神経・運動障害を起こす。

④右側下(ランブル鞭毛虫嚢子)スライド
 世界に広く分布し、特に熱帯・亜熱帯地域に多く、ヒトの小腸に寄生する。形態的特徴では栄養型の大きさ(µm)は12~15×6~8程度で、西洋梨の形態(モンキーフェイス)を呈し、核は2個で左右対称、中央にカリオソームが存在し、虫体中央上方より4対8本の鞭毛がある。嚢子型の大きさ(µm)は8~12×6~8程度で楕円形、成熟嚢子には4個の核を保有する。症状は上腹部痛、下痢が主症状である。

マラリア原虫の症例
■分 類:寄生虫
■材 料:血液
■その他:マラリア原虫
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上(三日熱マラリア原虫の輪状体)スライド
 アフリカ西部を除く世界の熱帯~温帯地域に分布し、ヒトのマラリアでは最も広く分布する。古くはオコリと呼ばれていた。発熱が48時間毎に起こり、肝内休眠体が肝細胞から赤血球に寄生する時に再発する。形態的特徴では輪状体(リングホーム):メロゾイトが赤血球に感染した初期に出現し、感染赤血球は膨大する特徴がある。アメーバ体:原形質がアメーバ状に不規則な形を呈し、赤血球内には多数の赤いシュフナー斑点が出現する。分裂体:アメーバ体が次第に核分裂を始め、12~18個のメロゾイトを作る。生殖母体:雄性は雌性より小さく、核は中央に位置していない。症状は発熱、貧血、脾腫である。

②右側上(熱帯熱マラリア原虫の輪状体)スライド
 熱帯地方に限定し、特にアフリカに多い。死亡率は高く、肝内休眠体がない。形態的特徴では輪状体:小さく、赤血球の1/5程度で核は2個のものがみられるが、感染赤血球は膨化せず、モーラー斑点が認められる。アメーバ体および分裂体:流血中には現れない。生殖母体:鎌状(半月型)を示す特徴がある。症状は発熱、貧血、脾腫である。

③左側下(四日熱マラリア原虫の帯状体)スライド
 熱帯地方に分布するが、感染率は三日熱および熱帯熱より低率である。肝内休眠体がなく、少数の原虫が血中に存在するので長期に渡り再発する。形態的特徴では流血中に輪状体、アメーバ体、分裂体、生殖母体が認められる。感染赤血球は大きくなく、時にチーマン斑点がみられ、帯状のアメーバ体を呈する特徴がある。

④右側下(熱帯熱マラリア原虫の生殖母体)スライド
 ②と同様である。

クリプトスポリジウムの症例
■分 類:寄生虫
■材 料:便
■その他:クリプトスポリジウム
■染色法:キニヨン染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 世界に広く分布する。日本やアメリカでは水道水や井戸水に混入し、多数の感染例が報告されている。ヒトでは小腸粘膜上皮細胞の微絨毛に寄生し、糞便中にオーシストを排泄し、このオーシストは感染力が強く、1個でも摂取することで感染を起こす。なお、クリプトスポリジウムは水道水に含まれる塩素に抵抗性を示す特徴がある。形態的特徴ではオーシストの大きさ(µm)は4.5~5程度の類円形でかなり小さく、内部に4個のスポロゾイトと1個の残体がある。症状は激しい腹痛と水様性下痢を呈する。診断にはKinyon染色により糞便からオーシストを検出する方法が推奨される。
膣トリコモナスの症例
■分 類:寄生虫
■材 料:膣分泌物
■その他:膣トリコモナス
■染色法:ギムザ染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 世界に広く分布し、日本人女性では5~10%の感染率である。ヒトの膣・尿道などに寄生し、性的接触による性感染症のひとつで、栄養型のみ検出され、嚢子は存在しない。形態的特徴では栄養型の大きさ(µm)は10~15×6~12程度、洋梨形で前鞭毛の4本は遊離鞭毛である軸索は体の中央を貫いている。症状では男性の場合には不顕性感染者が多く、時に尿道炎・前立腺炎を起こす。女性の場合には膣炎の原因となる。
蛔虫の症例
■分 類:寄生虫
■材 料:胃の嘔吐物
■その他:蛔虫
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 蛔虫は世界に広く分布し、特に温湿・湿潤な熱帯地方の農村地帯に多い。日本では第二次世界大戦後に集団検便や集団駆除により減少し、日本での感染率は0.02%程度である。ただし、有機栽培野菜による感染例は増加傾向にある。形態的特徴はヒトの腸に寄生する線虫類のなかでは最も大きく、頭部には3個の口唇を有する。 雌成虫の体長は20~30×0.3~0.6cm、体前部1/3に交尾する交接輪が存在する。雄成虫の体長は15~20×0.2~0.4cm、尾端が腹側に曲がり、先端に針状の交接刺がある 。幼虫の体内移行時には肺に侵入するため出血性の回虫肺炎を起こすことがある。成虫の迷入に伴う症状では、腸閉塞や急性腹症を発症し、時に胃内に迷入した場合は胃痛・吐気・嘔吐などの胃痙攣性症状を起こす。
東洋眼虫の症例
■分 類:寄生虫
■材 料:眼分泌物
■その他:東洋眼虫
■染色法:-
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:79
■性 別:女性
■解 説
 現病歴では1カ月前から両眼充血と眼脂があり 近医眼科を受診したところ、右下眼瞼結膜に1cmほどの白い虫体を認めたため、精査目的にて佐賀大学医学部付属病院眼科を受診された。問診では、みかん栽培をしており小バエが多く、異物がよく眼に入るとのことであった。虫体検査の結果、東洋眼虫と同定した。東洋眼虫はメマトイ(小バエ)の媒介により目の中に寄生する虫体で、体長は8~16mmの白色の小線虫である。イヌやネコの結膜に寄生するが、ヒトにも寄生することがあり、虫体は複数のことが多い(20匹以上いることもある)。3~5週間で幼虫が成虫になり動き回る。感染は幼虫をもったメマトイが涙液を吸う瞬間に感染し、結膜などに寄生する。症状は眼ヤニ、異物感がり、放っておくと結膜炎や視力減退が起こる可能性がある。治療には直接虫体を摘出することが推奨される。 
ピロリン酸カルシウム結晶の症例
■分 類:微生物以外
■材 料:関節液
■その他:偽痛風
■染色法:グラム染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:79
■性 別:女性
■解 説
 ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(calcium pyrophosphate dehydrate deposition disease;CPPD症)は、ピロリン酸カルシウム結晶が関節内に析出して炎症が起こる関節炎の総称で、一般的に"偽痛風"と言われている関節炎を意味し、このCPPD症の中でも急激に関節炎を起こして、痛風と似た経過をたどる疾患である。X線写真では関節に石灰化がみられることが多く、慢性の経過で関節炎を起こすこともある。
 本疾患の原因となるピロリン酸カルシウム結晶は、血液中の無機ピロリン酸濃度は高くなくても、関節局所でこれらが過剰に存在することで結晶化し、沈着すると考えられている。膝関節や手関節によくみられるが、肩関節、足関節、あるいは椎間板や黄色靱帯でもみられることがある。
抗酸菌染色にて癌細胞が認められた症例
■分 類:微生物以外
■材 料:胸水
■その他:腺癌細胞
■染色法:チール。ネルゼン染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:78
■性 別:男性
■解 説
 本症例では細胞の核が大きく、細胞質に占める割合も高いことから、胸水由来の腺癌細胞が疑われた。腺癌細胞は立体形成をするためピントの調整が必要である。癌細胞は病理検査のみならず、微生物検査での各種染色にて発見される可能性がある。
たばこのタールが沈着した症例
■分 類:微生物以外
■材 料:喀痰
■その他:タール沈着
■染色法:グラム染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:65
■性 別:男性
■解 説
 タバコの煙に含まれているタール(発癌物質)の量は、1日に20本のたばこを吸うと1年で110g~150g、コップに軽く1杯分に相当する。また、タールは油のようにベタベタしているので、喉や肺に良く付着するため癌を誘発する可能性が高い。
嫌気ポータで認められた死菌の症例
■分 類:微生物以外
■材 料:髄液
■その他:嫌気ポータ
■染色法:グラム染色
■菌種名:-
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説

①左側上下スライド
 嫌気ポーターは、膿や胸水、腹水、その他嫌気性菌の検出を目的とする場合に用いられる検体容器で、容器内には炭酸ガスが充填されており嫌気的に保たれている。容器底部の寒天層には指示薬が添加されており、嫌気条件下では無色を示すが、酸素が混入するとピンク~赤色に発色する。本症例は容器底部の寒天層をグラム染色した時の染色像である。染色性に乏しいグラム陰性桿菌が多数認められるが、培養では発育が見られないことより、死菌と推定される。したがって、嫌気ポーターから標本を作製する場合には、寒天層を含まないように作製する必要がある。

②右側上下スライド
 同検体を滅菌スピッツで保存すると、嫌気ポーターで認められたグラム陰性桿菌は存在していなかった。したがって、嫌気ポーターで認められた細菌は検体に含まれているものではなく、嫌気ポーターの容器底部にあった寒天層に含まれていた死菌と推定された。

Mycoplasma pneumoniae の発育症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:-
■菌種名:Mycoplasma pneumoniae
■培地名:PPLO寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 Mycoplasma 科は細胞壁のない自己増殖微生物で最も小さな微生物であり、Mycoplasma spp.とUreaplasma spp.の2種類が含まれる。
 培養にはPPLO寒天培地が用いられ、発育にはコレステロールが必要である。培養は35~37℃の炭酸ガスで数日間培養し、発育の有無は肉眼では観察できないため100~400倍の倍率で確認する必要がある。集落の染色にはDienes(ディーネス)法が行われる。
※PPLO寒天培地(ウマ血清、酵母エキス、高濃度ペニシリンなど)

Mycoplasma pneumoniae の特徴

  1. 原発性異型肺炎(マイコプラズマ肺炎)などの上気道感染症の原因菌となる。
  2. 集落は桑の実状、炭酸ガス培養で35~37℃、5~14日間実施する。
  3. ブドウ糖を分解、アルギニン加水分解:陰性、尿素試験:陰性。
  4. モルモットまたはヒツジ赤血球:溶血、ニワトリ赤血球:凝集。
  5. 飛沫感染:小児、若年成人に多く、家族内・学校内感染がみられる。
  6. PCRなどの遺伝子診断、培養検査、血中抗体の検出、補体結合反応、粒子凝集反応、酵素抗体法、寒冷凝集反応がある。

Eschricha coli の鞭毛染色による症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:レイフソン染色
■菌種名:Eschricha coli
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 鞭毛は菌の運動器官で、その位置や数により単毛菌、両毛菌、叢毛菌、周毛菌に分類される。鞭毛は非常に細い器官であるため電子顕微鏡での観察が理想と言えるが、鞭毛にタンニン酸を付着して太くし、それを染めることで光学顕微鏡でも観察することができる。ただし、染色液の取り扱いや染色手技が難しく、また鞭毛の発育状態も大きく影響するため経験ある施設以外での実施は難しい現状にある。

・レイフソン(Leifson)染色

組成① 色素混合液:パラローズアニリン酢酸塩0.9g、パラローズアニリン塩酸塩0.3g、95%エタノール 100mL
※色素と95%エタノールを混合後、室温にて一晩放置して完全に溶解させる。
組成② 1.5%塩化ナトリウム水溶液
組成③ 3.0%タンニン酸水溶液

 ①②③を等量ずつ混合し、室温に2時間放置後濾過せずに冷蔵庫にて保存する。室温放置では数日で使用不能になるが、冷蔵庫では2ヶ月、-20℃の冷凍庫では1年以上は安定である。

手順 1) 脱脂洗浄済みのスライドグラスを使用する(重要なポイント)。
手順 2) 被検菌液を1白金耳採り、スライドグラスの端につけ、直ちにスライドグラスを立てて菌液を自然に流し広げる。
※被検菌作製では鞭毛が菌体から剥がれないようにすることがポイント
手順 3) 自然乾燥後固定せずに室温に戻した染色液をスライドグラス全面に載せる。
手順 4) 数分時間が経過すると、染色液の表面に金色の光沢ある膜が生じ、それ以降やや遅れて染色液中に沈殿物が析出し軽く白濁してくる(10分程度)。
手順 5) 直ちに水洗し、染色液表面の膜を浮き上がらせるように上から静かに水を流す。
手順 6) 乾燥後に顕微鏡にて観察する。
Corynebacterium diphtheriae のナイセル染色による症例
■分 類:一般細菌
■材 料:その他
■その他:-
■染色法:ナイセル染色
■菌種名:Corynebacterium diphtheriae
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
 細菌の菌体顆粒である異染小体の染色に使用される。異染小体はCorynebacterium diphtheriae(ジフテリア菌)などのCorynebacterium spp.の一部の菌種が保有するDNA から成る顆粒である。
 C. diphteriae は他の菌種に比べ、1菌体に2個以上の異染小体を有する菌が多くみられる。

・ナイセル(Neisser)染色

組成① メチレン青 0.1g、アルコール 2mL、精製水 95mL、氷酢酸 3mL(ナイセルⅠA液)
組成② クリスタル紫 0.1g、純アルコール 1mL、精製水 30mL(ナイセルⅠB液)
組成③ クリソイジン 0.3g、精製水 100mL(ナイセルⅡ液)
※ナイセルⅠA液:ナイセルⅠB液を2:1の割合で混合し使用する(使用時に調製する)。
手順 1) 塗抹、自然乾燥、メタノールか火炎固定を行う。
手順 2) ナイセルⅠ液にて20秒間染色する。
手順 3) 軽く水洗する。
手順 4) ナイセルⅡ液にて20秒間染色する。
手順 5) 軽く水洗する。
手順 6) 乾燥後に顕微鏡にて観察する。
喀痰より検出されたMucor spp. のグラム染色像
■分 類:真菌
■材 料:喀痰
■その他:-
■染色法:グラム染色
■菌種名:Mucor spp.
■培地名:-
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
・喀痰からMucor spp.が検出されたグラム染色を提示する。

 ムコール症は接合菌属Zygomycetes による真菌症の総称で、ヒトにはMucor ramosissimus, Rhizomucor pusillus, Rhizopus oryzae が代表菌種で11種8科が感染する。
 土壌や食品に広く生息するケカビ類で、抵抗力の低下した状態で感染が成立する。臨床病型には、皮膚型・皮下型・全身型・鼻腔脳型の4種がある。
 Mucor spp.は菌糸を伸ばし、空中に胞子嚢柄を形成し、その先端に胞子嚢をつくる。菌糸体は隔壁がなく、胞子嚢柄は菌糸から垂直に伸び、仮根を形成しないのが
特徴である。
 グラム染色では薄い白色を呈した胞子嚢柄と胞子嚢が観察できる。

培養集落でのMucor spp. のラクトフェノール・コットンブルー染色像
■分 類:真菌
■材 料:その他
■その他:培養集落
■染色法:ラクトフェノール・コットンブルー染色
■菌種名:Mucor spp.
■培地名:サブロー寒天培地
■年 齢:-
■性 別:-
■解 説
・培養したMucor spp.のラクトフェノール・コットンブルー染色を提示する。

 ムコール症は接合菌属Zygomycetesによる真菌症の総称で、ヒトにはMucor ramosissimus, Rhizomucor pusillus, Rhizopus oryzae が代表菌種で11種8科が感染する。
 土壌や食品に広く生息するケカビ類で、抵抗力の低下した状態で感染が成立する。臨床病型には、皮膚型・皮下型・全身型・鼻腔脳型の4種がある。
 Mucor spp.は菌糸を伸ばし、空中に胞子嚢柄を形成し、その先端に胞子嚢をつくる。菌糸体は隔壁がなく、胞子嚢柄は菌糸から垂直に伸び、仮根を形成しないのが特徴である。
 ラクトフェノール・コットンブルー染色では菌糸から垂直に伸び胞子嚢柄と胞子嚢が観察され、仮根はみられない。

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