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臨床検査値のゆらぎ

臨床検査値のゆらぎ 1)
1.採血時の体位
採血時の体位(姿勢)は検査データに影響する、変化を起す機序には膠質浸透圧、毛細血管、血中物質の分子量等の関与がある。
臥位から立位・座位に姿勢を変えると下肢の毛細血管圧が上昇し、水分は血管内から細胞内に移行し、健常成人の血漿量は約11%減少する。
一方、直径4nm以上の物質は血管から細胞内に移行できない。
循環血漿量の変化が考えられる状態での検査の際は総蛋白、アルブミン、総コレステロール値の変動に注意する。変動幅は立位・座位>臥位で総蛋白、アルブミン、総コレステロールは5~15%とされる。
入院後臥位で採血した場合、外来通院時に比べ血清蛋白0.6g/dL、アルブミン0.53g/dL、クロールが1.3mEq/L低値になったとの報告もあり、特に蛋白の様に基準値の幅の狭い成分では、データを解釈する場合、平均0.6g/dLの変化は無視できない。
2.採血部位 2)
血糖値は毛細血管血が静脈血に比べ10~20mg/dL高くなるため、自己採血・自己測定している糖尿病患者には診療時のデータより高値になることを知らせておく。
3.抗凝固剤
抗凝固剤にEDTA 3)を使うと、時として血小板の凝集塊形成や、血小板が好中球に吸着する衛星現象が起こる。このため見かけ上血小板数は減少するが、白血球数は血小板凝集塊を白血球としてカウントするため見かけ上増加することがある。
この現象は採血から検査までの時間が長くなると起こり易くなる。
4.検体搬送
理想的には採血から遠心分離迄の時間は1時間以内である。特に赤血球の解糖系 4)が働いていると、血糖値は3時間で5~10mg/dL低下する。このため解糖阻止剤としてフッ化ソーダを加えるが、阻止剤が働くまでに1時間程度かかり、この間血糖値は1~5mg/dL程度減少するとされている。
5.検体保存
保存により検体が変化する要因は
 1)血液細胞成分による代謝
 2)水分の蒸発
 3)化学反応
 4)細菌による分解
 5)浸透圧による変化(凍結検体)
 6)光(紫外線)による分解
 7)ガス拡散
などが知られている。このため原則として全血保存は禁忌である。血清は冷蔵保存で1週間、血算検体は室温で2日を限度とする。
6.血清の分離
採血後30分間室温放置し、試験管内で凝固が完了した後に1000~1200gで10~15分遠心分離する。
7.溶血検体 5)
溶血により測定値が変動する項目としてはAST、ALT、LD、K、総コレステロール、HDL-コレステロール、中性脂肪などが知られている。ただし、中性脂肪と総コレステロールは臨床的判断を左右する程の変動はない。
8.混濁検体 6)
健常人の検体は採血前日に脂肪分の多い食事をした場合を除いては混濁することはないので混濁検体は臨床的意義がある。 混濁の原因は中性脂肪の増加で、その程度はリポ蛋白の組成で変わり、軽度(opaque)、半透明(translucent)、混濁(turbid)、ミルキー(milky)と表現される。
カイロミクロンが主成分の検体は中性脂肪濃度が300mg/dL以下でも混濁するが、中間密度リポ蛋白(IDL)が主体の場合は800mg/dL以上でも混濁は見られない。
混濁は分光光度分析値に影響し、尿酸、総蛋白、血糖値は高値、クレアチニンは低値になる。ただし、二波長分析は混濁の影響をキャンセルするので、臨床側は検査部の分析手法を知っておく必要がある。
9.内因性抗体 7)
高力価の寒冷凝集素が存在する検体は赤血球を凝集させることがあり、この場合赤血球数は低値、ヘモグロビンは正常、ヘマトクリットは低値となり、結果MCV、MCH、MCHCは大きくなる。また、白血球数や血小板数は見かけ上増加する。
EDTA存在下で作用するEDTA依存性抗体はしばしば見られ、見かけ上血小板数が減少する偽血小板減少症となる。
免疫グロブリンが酵素と結合し免疫グロブリン酵素結合体を作ると、酵素の半減期が延び、結果として血中酵素量が増え、酵素活性が上昇する。高齢者で観察されることが多いが時として、心筋梗塞、肝炎、膵炎等の誤診の原因となる。
10.生理的変動
  1. 年齢:年齢は新生児期、乳児から思春期、成人期、老年期の4グループに大別される。殆ど全ての検査項目で年齢差は有意であるが、各年齢グループ内での変動は小さく、臨床的判断に影響はない。
    ただし、20~50歳代と60歳以上の基準値の比較でコレステロール(女性)、アルブミン、クレアチニン(女性)、尿酸(女性)、ASTは年齢差が大きい。特に女性では閉経後にコレステロール値が20~40mg/dL上昇するので、閉経前後のデータ解釈は慎重に行う。
  2. 性差:少年・少女期、思春期、更年期前後で測定値に差を認める。性差を考慮してデータを読むものは赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値、クレアチニンである。
  3. 妊娠:患者が妊娠35週以後の妊婦の血漿量は2600mLから3900mLに増加するので血漿の希釈効果が見られることがある。
  4. 日内変動 8):変動を考慮すべき項目は中性脂肪、尿酸、クレアチニン、血糖、糖負荷試験があるが注意するのは糖負荷試験である。
    血糖値は血中のコルチゾールの影響を受けるので、採血は午前中に行う。コルチゾール値は午前6時に最高値になり12時を過ぎる頃から低下し夜中に最低値となり、最高値と最低値の差は180~200%にもなる。このため理想的な採血は7時から9時までとされる。食後は高値を示し、食後30~60分で最高値になり、健常人では20~60mg/dL位上昇するが、2時間後には空腹時の値に戻る。ある研究では、血糖値は食後3時間後に異常な低値になることがあるので、この時間帯に採血した検体のデータには注意したい。
    また、食事時間が不明の検体の場合はHbA1c値を参考にして値を解釈する。
11.食事による変動 9)
飲食は多くの検査データに影響するが、殆どの場合長期に亘る飲食習慣の影響である。
検査に際して注意する項目は中性脂肪と血糖である。中性脂肪値は高脂肪食と飲酒に大きく影響を受けるため、厳密に測定する場合の採血は飲食後12時間以上の絶食後に行う。
混濁した検体は一部を試験管に移し冷蔵庫に12時間4℃保存後に観察すると、上層にクリーム色の混濁層が見られればカイロミクロンの存在が示唆される。また均一な白濁はVLDLが原因である。この観察によりある程度高脂血症の分類が可能となる。
中性脂肪が高値を示した場合は、検査前日の飲食の内容と時間を聞き、必要なら12時間の絶食後に再検査する。
高蛋白食、核酸を多量に含む食物の摂取は、中・長期的には尿酸の増加を招く。
アルカリホスファターゼは血液型O型、B型の分泌型の患者からのものでは、脂肪食後に小腸からアルカリホスファターゼが分泌され、高知を示すことが知られている。
このほか、成長ホルモン、インスリン、アルドステロン、胆汁酸等が食事で変動する。
12.運動による変動
運動の影響を受ける代表的検査項目は血糖、AST、CK、LDである。
血糖は短時間の激しい運動後に高値を示し空腹時の2倍以上になることもある。カテコールアミンの関与が考えられ、運動時のエネルギー源としてブドウ糖が最優先で利用されたことを示唆している。マラソンなどの長時間の運動では血糖値は著しく低下し遊離脂肪酸が増加する。これはエネルギー源が糖質から脂質に移ったことを示している。
AST、CK、LDなどの酵素は運動後一過性に高値となる。登山やスキーではCKが男性で4.8倍、女性2.1倍、ASTは男性1.6倍、女性1.2倍、LDは1.3倍の増加を示したという報告もある。
野球ではALT、LDが運動直後に、AST、CKは翌日に最大値を示す。ALT、LDは運動時の肝の血流減少、AST、CKは筋肉からの逸脱が考えられている。プロの野球選手では日常のCKが一般人の10倍、ASTやLDは2倍をこえる。
このため、外来患者は日常の運動暦を詳細に聞き取らないと、生理的な変動を異常値と誤る恐れがある。
13.喫煙 9)と飲酒 10)による変動要因
1~5本の喫煙後1時間以内に血中の脂肪酸、エピネフリン、アルドステロン、コルチゾールなどの増加が知られているが、その機序は良くわかっていない。臨床の場では慢性的な影響として白血球数とCEA値の増加に注意する。
長期に亘る飲酒はGGT、ALT、ASTの活性上昇を招く。GGTの上昇はアルコールが肝細胞のマイクロゾーム中のGTTの生合成を促進するためで、一度高くなった値が基準範囲に戻るには1ヶ月程度かかる。ALTとASTはアルコールによる肝障害が原因である。
また、慢性のアルコール中毒者は中性脂肪の分解障害のため中性脂肪の上昇が知られている。ただし中性脂肪値は飲酒、喫煙、肥満と相互に関係しているので総合的な脂質検査データの解析が必要である。
このほか、飲酒で上昇するものとして、尿酸、HDL-コレステロールがある。血液検査ではMCVが上昇するが、原因は赤芽球系細胞に対するアルコールの直接作用と葉酸欠乏である。
14.服薬
多くの薬剤とその代謝・分解産物が分析に影響を与え、結果として検査データを変動させる。ただし薬剤については次々に新しい薬剤が登場するので、全ての薬剤と検査データの関連を知ることは困難である。
患者には漢方やサプリメントを含め服薬の有無を聞き、服用している場合は医薬品添付書で影響を受ける検査項目とその程度を確認することが必要である。
15.検査のタイミング
検査データは時間経過で変化するため、過去から未来に流れる時間変化と、ある時間帯の中で周期的に変動する周期変化に注意し、検査は日内周期、月内周期、年内周期のどのタイミングで検査をするか考える必要がある。
  1. 日内周期:スクリーニング検査項目で日内周期が臨床的な判断に影響を与える項目はない。基準値も日内周期を考慮して午前7時から9時の間に採取された検体で設定してある。
    ただし、検査データは患者の食習慣、運動、睡眠等の生活環境の影響を受ける。此れによる変動と生理的な日内周期を混同しない。
  2. 月経周期:血中ホルモンの影響により変動する。血中アルドステロンの値は排卵直前には排卵期の2倍高い。この影響で総コレステロール値は排卵期に有意に低下する。
    正しい検査データを得るための採血は
    ●採血は可能な限り午前7時から9時迄に行う
    ●採血前12時間 9)の絶食をし、空腹時に行う
    ●可能な限り日常服用している薬を飲む前に行う
    ●常に薬物の影響を頭に入れておく
    ●採血時間は必ずカルテに記載しておく
    ●血清や血漿分離後は溶血、混濁、色調の変化を観察する
16.異常値を見た場合チェックする関連検査
健診基本項目で異常値が見られたら、表1に示したように、他の関連項目の数値を参考にして解釈する。

表1 チェックすべき関連項目
  TP Alb AST ALT γ-GT Cre UA TC HDL-C LDL-C TG BS HbA1c RBC Hb Ht WBC CRP
TP                        
Alb                        
AST                            
ALT                            
γ-GT                            
Cre                                    
UA                                    
TC                              
HDL-C                              
LDL-C                              
TG                              
BS                                  
HbA1c                                  
RBC                                
Hb                                
Ht                                
WBC                                  
CRP                                  
17.生理的変動とその大きさ 1)
スクリーニング検査と各種生理的変動要因の関係を表2に示した。

表2 生理的変動とその大きさ
    個体差 性差 動静
脈差
駆血帯
の影響
食後 食習慣 飲酒
習慣
肥満
含窒素成分 TP + - ↑動   - -
A/G ++ ♂↑ - - -   - -
分画 ? -     -   - -
UN + ♂↑ - - +? - -
UA + ♂↑↑ - - + ↑? ♂↑
Crea ? ♂↑↑ ? - - -? - -
アンモニア ? -? - -? -?   - ?
TTT ++ ♀↑ - - + - -
ZTT +++ ♀↑ - - -? - - -
Bil - ♂↑ - ↓? + - -
電解質 Na - - - - ↑-?   - -
K +/- ♂↑? - -↓?   - -
Ca - ♂↑? - - - - - -
Mg ? - -   -   - -
血清鉄 -? ♂↑↑ ? ↑-?   ? -
Cl - - - - -   - -
iP +/- ♀↑? - - ↓↓   - ↓?
酵 素 AcP ? ♂↑ ? - -   - -
AlP ++ ♂↑ - - -↑?   ↑? -
ChE +++ ♂↑ -   -   ↑?
AST + ♂↑ - -  
ALT + ♂↑ - - -  
LD + ♀↑ -   ↓-?   - -
アミラーゼ ++ ♀↑ -   -   - -
CK +? ♂↑     ↑↑?   - -
GGT ? ♂↑     ↓?   ↑↑↑ ♂↑?
LAP +? ♂↑ ? -? -   ?
糖・脂質 グルコース +? -? ↑↑動   ↑↑ +? ? ?
コレステロール ++ - ? - ++ ♂↑? ↑?
総脂質 ++ ♂↑ ?   -
リン脂質 ++ -? ?   - +? -
TG + ♂↑ ?   ↑↑ + ↑↑ -
NEFA + ♀↑     ↓↓   - -
 
    立位 運動後 日内
変化
乳児 若年期
(除乳児)
老年期 妊娠後期
含窒素成分 TP ↑↑ + ↓↓↓ ↓↓ ↓↓
A/G - - - ↑↑↑ - - ↓↓
分画 - - - アルブミン↑
γグロブリン↓
- ? アルブミン↓
α1、α2、β↑↑
UN - -↑? +-? - ↑↑
UA - +-?   ↓↓ ♂ - ♀↑ ↑↑↑
Crea ? +-? ?
アンモニア ? +? ?   ↓?
TTT -? ↑? -
ZTT - - -
Bil ↑ or - - + ↑↑ ↓↓ ? -
電解質 Na - - +-?   ↓? -? ↓↓
K - ↓のあと↑ ++ ↓? ↑? ↑↑
Ca - - ↑↑ -? ↓-? ↓↓
Mg ? - - - -   ?
血清鉄 ? -? +++ ↓↓ - ↓↓
Cl - +-? ↑? - ↓-? -
iP - -+? ↑↑ - -
酵 素 AcP - - +-? ↑↑↑ ↑? ?
AlP - - ↑↑↑ ↑↑↑ ↑↑↑
ChE - - ↓↓ ↓↓
AST - ↑↑ - ↑↑↑ ↑↑ -
ALT - ↑↑ - ↑↑ ↑-↓ -
LD ↑↑ - ↑↑↑ ↑↑ - ↑↑↑
アミラーゼ -? - -+? ↓↓↓ ↓↓ ↑? -
CK   ↑↑↑ + ↑↑  
GGT   -   ↑↑↑  
LAP   ↑↑ - ↑ or - ↓?
糖・脂質 グルコース ? ↑↑ + ↓? - ↑?
コレステロール - ↓↓ - ↑↑
総脂質 + ↓↓↓ ↓↓ ↑~↓ ↑↑↑
リン脂質 - - ↓↓↓ ↑~↓ ↑↑↑
TG ↑のあとは↓↓ ++ ↓↓ ↑~↓ ↑↑↑
NEFA ↑? ↑↑ ++   ↑?
(図中の記号は変動の幅を示したもので↑、↓(または+)は確実に動くが正常値幅の1/4 以下、↑↑、↓↓(または++)は確実に動き正常値幅の1SD を超えるもの、↑↑↑(または+++)は正常値の1.5 倍またはそれ以上の変化である)
18.正しい検査の仕方に関しては文献11に詳しく述べられている。
文献
  1. 北村元仕. 化学分析と臨床的解釈の接点としての正常値、輪唱化学の進歩。P.182, 学会出版センター、1980
  2. NCCLS. Procedures for the collection diagnostic blood specimens by skin puncture. Villanova, Pennsylvania: Document H4-A3. July; 11: No.11
  3. Cornbllet J. Spurious results from automated hematology cell counters. Lab Med 1938; 14: 509-514.
  4. ChanAMW, et al. Effectiveness of sodium fluoride as a preservative of glucose in blood. Clin Chem 1989; 35: 315-317.
  5. Guder WG. Haemolysis as an influence and interference factor in clinical chemistry. J Clin Chem Clin Biochem 1986; 24:125-126.
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  7. KohseKP, et al. Antibodies as a source of analytical errors. Europ J Clin Chem Clin Biochem 1990; 28: 881-892.
  8. Touitou Y, Haus E, editors. Biologic Rhythms in Clinical and Laboratory medicine. New York: Springer, 1992.
  9. Yong DS. Effects of preanalytical variables on clinical laboratory tests. Washington: AACC Prss, 1933.
  10. Rico H. Alcohol and bone disease. Alcoholism 1990; 25: 348-352.
  11. W.G.Gader, et al. 濱崎直孝、濱崎万穂訳 正しい検査の仕方 ~検体採取から測定まで~ 日本べクトン・ディッキンソン株式会社 東京 1998
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