検査前プロセスでの誤差要因 > 第1回:患者準備_生理的変動_個体間変動と個体内変動
索 引
[第1回]患者準備 >> 生理的変動 >> 個体間変動と個体内変動
1.個体間変動
1)年齢(加齢に伴う変動)
現象 | 性別特徴 | 検査項目 |
加齢に伴い緩やかに上昇 | 性差なし | UN、CRE、AST、AMY、CEA、Span-1抗原、 エラスターゼ1、CA15-3 |
男性のみ | LD、STN抗原(女性より顕著) | |
女性のみ | ɤGT、ALT、NCC-ST-439(閉経前) | |
加齢に伴い緩やかに減少 | 性差なし | RBC、PLT、Hb、Ht,Ca |
男性のみ | ALB、IP | |
50歳位まで上昇、 以後、徐々に減少 |
男性特有 | ɤGT、ALT、ChE、T-Cho |
20~40歳位までほぼ一定、 50歳前後(閉経後)に急激な上昇、 以後、緩やかに上昇 |
女性特有 | T-Cho、ALP、LD、ChE、UA、Na、IP |
新生児で高値 | 性差なし | AFP(出生時著高、生後8~10か月で成人値)、CK |
小児で高値 | 性差なし | ALP、K、LD、NSE |
小児で低値 | 性差なし | GLU、UA |
文献1~3)より改変引用
2)性差
① 男性>女性検査項目 | 特徴 |
CRE、CK | 筋肉量の違いを反映 女性は男性の約0.8倍 高齢者では差が縮まる |
Fe、RBC、Hb、Ht | 生理的な鉄喪失 若い年齢層で差は明瞭 加齢とともに差は縮小 |
UA、UN | 代謝量の差 |
ɤGT、ALT、ChE、TG | 男性の過食に伴う肥満頻度高値による 高齢では差が縮まる |
T-Cho、LD、ALP | 若年層に特有 加齢(60歳以降)に伴い「女性>男性」の傾向 T-Cho;若年層での食習慣の男女差 LD;運動量の男女差 ALP;原因不明 |
WBC、CRP (Hb、Ht) |
喫煙率の差(慢性的な炎症反応)? (喫煙の有無により程度がより強くなる) |
文献1~2)より改変引用
② 女性>男性検査項目 | 特徴 |
HDL-C | エストロゲンが、T-Choを減少、HDL-Cを上昇させる |
IgG | 喫煙率の違い(喫煙により低下) |
その他 (Cl、IgM、プロラクチン、CA19-9(特に若年層)、CA125(特に閉経前)、CA602(特に閉経前)、Span-1抗原、など) |
文献1~3)より改変引用
3)生活習慣
① 過食・肥満現象 | 検査項目 | 特徴 |
増加 | ALT、TG、インスリン | BMIに比例して明瞭に増加 |
ɤGT、ChE、C3、C4、 CRP、TTR、など |
肝臓で産生される蛋白成分の殆ど | |
UA、Cys-C、Hb | BMIとの相関あり 肥満による睡眠時無呼吸症候群例では睡眠中の慢性的酸欠状態により、Hbが増加し易い |
|
低下 | HDL-C、 テストステロン、 アディポネクチン |
文献1)より改変引用
② 喫煙現象 | 検査項目 | 特徴 |
増加 | Hb | CO-Hbの増加に伴う代償的増加 Htの上昇を伴う |
MCV、MCH | ||
WBC、 CRP、CEA、SCC抗原 |
煙中のシアン化水素の影響 慢性的な気管支や肺胞の炎症を反映 |
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低下 | IgG | |
TP | IgG低下に伴う現象 | |
HDL-C | 軽微 |
文献1~3)より改変引用
③ 飲酒現象 | 検査項目 | 特徴 |
増加 | ɤ-GT | 肝細胞からの誘導 (個人差あり、飲酒量に比例しない) |
HDL-C | 飲酒習慣により管での産生増加 | |
ALT、ChE、TG、UA | 過食傾向の結果の脂肪肝 | |
Hb、MCV | 過栄養 | |
低下 | AMY | 機序は不明 |
文献1)より改変引用
④ 運動現象 | 検査項目 | 特徴 |
増加傾向 | CK、AST、LD | 運動習慣のある人はない人より安静時でも高値を示す傾向あり |
増加 | UA | 無酸素運動(激しい運動)習慣のある人。 有酸素運動(軽めの運動)では上昇しない。 |
文献1)より改変引用
4)血液型
現象 | 検査項目 | 特徴 |
増加 | ALP | B型・O型分泌型の人はA型・AB型より10%ほど高値(食後により顕著)。小腸型ALPに由来。 |
文献2)より改変引用
2.個体内変動
1)日内変動
検査項目 | 特徴 |
プロラクチン、アルドステロン | 夜明け前に最高値、日中は低値 |
ACTH、コルチゾール、hANP | 早朝に最高値、夕~晩に最低値 |
Fe、T-Bil、Zn | 午前中に最高値、夕~晩に最低値 |
UA、CRE | 昼高く、夜低い |
無機リン、PTH | 午前中に最低値、夕方高くなるが徐々に減少、深夜から再び上昇し夜明け前に最高値 |
TP、グルコース、TG、尿素窒素 | 午前中に低い、夕~晩に最高値 |
TSH、GH | 深夜に最高値、日中は低値 |
文献1~2)より改変引用
2)季節
現象 | 検査項目 | 特徴 |
増加 | TP、ALB | 冬>夏。TP値は約0.5g/dLの差がある。 |
文献2)より改変引用
3)体位
現象 | 検査項目 | 特徴 |
増加 | TP、ALB | 冬>夏。TP値は約0.5g/dLの差がある。 |
仰臥位<座位・立位 | TP、ALB、ChE、LD、HDL-C(大分子成分)、 RBC、Hb、Hct、など |
座位や立位では血液が下肢に溜まり、水圧により血管内の水や小分子成分が血管外に漏出。血管壁を自由に通過できない血球、蛋白成分などが濃縮される。 |
Fe、T-Cho、TG、Ca、Mg、など(血中で蛋白と結合して存在する物質) | ||
ノルエピネフリン、レニン、アンギオテンシンⅡ、アルドステロン、ADH | 起立性低血圧を補正するための交換神経系の活動更新。 起立後30分以内に上昇する。 |
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仰臥位>座位・立位 | CRE | 座位・立位による心拍出量(腎血流量)の低下 |
文献1)より改変引用
4)運動
① 強い全身運動(有酸素運動)検査項目 | 特徴 |
GLU、遊離脂肪酸 | 運動エネルギー源が糖質から脂質に移行すると血糖低下し、遊離脂肪酸は上昇する。 |
CK、AST、LD | 長期的上昇がみられ、運動習慣のない個体で顕著。 上昇の持続は運動習慣のない個体の方が長期に渡る。 |
UA、乳酸、UN | 運動による新陳代謝の亢進、エネルギー消費増大による。 翌日まで高値を示すこともある。 有酸素運動(軽めの運動)では起こらない。 |
尿蛋白 | 運動に伴う腎への負担増加(血流量の減少、血液濃縮など)のため、尿中への蛋白排泄が増加する。 |
血液凝固能(Fib、第Ⅷ因子、など) 線溶能(α1-AT、など) |
凝固能、線溶能ともに亢進する。 カテコールアミン分泌に伴う血管内膜からのプラスミノゲン・アクチベータの放出による。 |
文献1~3)より改変引用
② 軽めの運動(無酸素運動)検査項目 | 特徴 |
GLU | 運動エネルギー源として糖質を利用するため上昇。 激しい運動(有酸素運動)では弱に低下する。 |
無機リン | 運動エネルギーとしてのATP消費増大のため上昇。 |
WBC | 運動に伴うコルチゾール分泌により上昇。 |
BNP、NT-proBNP | 運動に伴う心負担の増加のため上昇。運動後1時間程度の安静で戻る。 |
文献1~2)より改変引用
③ 採血時の前腕運動(クレンチング)検査項目 | 特徴 |
K | 筋細胞の脱分極中に細胞内電気陰性度が弱まり、能動輸送によるK取り込みより放出が優位となるため上昇。 2.0mmol/Lの高値を示したとの報告例もある。上昇の程度は個体差あり。前腕運動停止後、速やかに基に戻る。 |
Na、Ca | 軽度に上昇傾向を示す。 |
乳酸 | 前腕運動停止後も5~10分程度、上昇が持続する。 |
文献1)より改変引用
5)性周期、妊娠など
① 性周期検査項目 | 特徴 |
LH | 思春期前は低値。徐々に増加し、20歳代前半でピーク値。 性周期により変動し、排卵期に高値を示す。 閉経後、標的臓器の機能低下に伴い急速に上昇する。 |
FSH | 性周期により変動し、卵胞期~排卵期に高値を示す。 閉経後、標的臓器の機能低下に伴い急速に上昇する。 |
プロラクチン | 閉経前に高値傾向。 |
E2 | 性周期により変動し、排卵期~黄体期に高値を示す。 閉経後、急速に低下。 |
文献3)より改変引用
② 妊娠検査分野 | 検査項目 | 現象 |
血液検査 | WBC | やや上昇 |
RBC、Hb、Hct、PLT | やや減少 | |
血液凝固検査 | Fib、TAT、HPT、 | 上昇 |
凝固因子活性 (Ⅱ、Ⅴ、Ⅶ、Ⅷ、Ⅹ、Ⅺ、Ⅻ因子) |
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凝固因子活性(ⅩⅢ因子) | 低下 | |
線溶系検査 | t-PA、D-ダイマー | 上昇 |
生化学検査 | ALP(後期)、LD(後期)、ChE、 T-Cho、TG、GLU、AMY、TIBC、CRP、C3、CH50 |
上昇 |
TP、ALB、UN、CRE、UA、Fe、フェリチン、IgG | 低下 | |
内分泌ホルモン | コルチゾール、インスリン | やや上昇 |
プロラクチン | 著明に上昇 | |
PTH | 低下 | |
腫瘍マーカー | AFP、TPA、NCC-ST-439(初期)、BCA225(後期)、SCC抗原(経過とともに上昇)、CA125(前期)、CA602(前期)、CA72-4(中~後期) | 上昇 |
文献2~4)より改変引用