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 HOME > 健康を測る > Ⅰ 健診検査項目の解説

Ⅰ:健診検査項目の解説

Ⅰ 健診検査項目の解説
Ⅱ 健診で精密検査が必要と云われたら
Ⅲ 健診データの判定区分
Ⅳ 高齢者の基準値

1.身体測定

A)標準体重:
 計算式=(身長cm-100)×0.9で計算します。身長が150cm以下の場合は、0.9を掛けないで計算します。

B)肥満度:
 肥満とは体脂肪が過剰の状態で、BMIで表します。

C)BMI:
 body mass indexの略語です。国際的な体格指数の一つで、BMI=体重(kg)÷身長(m×m)で求めます。この値は、肥満だけでなく、痩せ過ぎの指標としても使います。ただし、BMIは体重を基にして算出しますので、浮腫や腹水で体重が増加しても高値になります。また体重増加が、筋肉か脂肪かの区別や脂肪の体内分布の評価は出来ません。
 成人の健診データから、生活習慣病を含む10種の病気の発症が最も少ないBMI値は、男性が22.2、女性は21.9であったとの研究を基に基準値は18.5~24.9とされ、30以上を肥満、18.5未満を痩せとしています。
 肥満と関係がある病気は、糖尿病、高血圧、脂質異常症などが代表的ですが、関節障害、痛風、睡眠時無呼吸症候群などとも関係があります。また、大腸がん、前立腺がん、乳がん、子宮がんなど、多くのがんのリスクを高めることが知られています。 
 肥満は病気です、積極的に減量が必要です。

D)体脂肪率:
 体重に占める脂肪の割合で、体内に蓄積されている脂肪の状態を知ることが出来ます。肥満度の基準として最も信頼性が高いとされますが、性や年齢で基準値が異なる為に判定が煩わしい欠点があります。平均的な値は、男性20%、女性30%とされています。

2.眼科検査

A)視力:
 最も基本的な検査で、裸眼視力と矯正視力があり、基準値は矯正視力で1.0以上です。視力は近視、遠視、乱視等の屈折異常だけでなく、眼底の変化によっても影響を受けます。0.6以下は精密検査が必要です。

B)眼圧検査:
 基本的には緑内障のスクリーニング検査です。基準値は10~21mmHgで、21~23mmHgを境界領域としています。高眼圧は緑内障や高眼圧症を、また、低眼圧は網膜剥離、虹彩毛様体炎などを疑い精密検査をする必要があります。

C)眼底検査:
 眼底は体の中で血管や神経を直接観察できる唯一の場所で、視神経乳頭、血管、網膜、黄斑部の異常、眼球の混濁状態などが観察出来ます。特に網膜血管の所見は、全身的な疾患(糖尿病、高血圧、動脈硬化など)の評価に有用とされています。

D)Scheie分類:
 網膜血管の動脈硬化や高血圧による変化の程度を表す分類法で、高血圧性変化をH変化(0度~4度)、動脈硬化性変化をS変化(0度~4度)で表します。H変化、S変化共に3度、4度は精密検査と治療が必要です。

E)眼科検査所見:

  1. 動脈硬化性変化、高血圧性変化:眼底検査では網膜血管の状態を、Scheie分類で判定しています。Sは動脈硬化性変化、Hは高血圧性変化を表し、Oは正常、1度(軽度)~4度(重度)までの基準で判定しています。
  2. 視神経乳頭陥凹拡大、網膜神経線維層欠損:緑内障などの視神経の疾患を疑う所見で、眼底検査、視野検査、眼底三次元画像解析などの検査が必要です。 また、精密検査で問題が無いといわれた場合でも、時間の経過と共に変化が進む場合がありますので、定期的な検査が必要です。
  3. 透光体混濁:多くの場合、白内障(水晶体混濁)が疑われる所見ですが、角膜混濁や硝子体混濁の場合もあります。
  4. 黄斑部異常:網膜の中心部である黄斑の異常で、障害が起こると視力低下、視界のゆがみ、中心が見えづらくなる中心暗点などの症状が現れます。
     黄斑部の疾患には、黄斑円孔、黄斑前線維症、黄斑下血腫、黄斑浮腫がありますが、黄斑浮腫の原因である加齢黄斑変性は、50歳以上の人の約1%に見られ、失明原因の第4位となっていますので、高齢者は眼底の定期的検査が重要です。
  5. 眼底出血:網膜の血管が破綻して起きる網膜やその周囲の出血で、糖尿病や高血圧などの全身性疾患が原因とされています。痛みもなく、視力に関係のない部分の出血では自覚症状はありません。
  6. ドルーゼン:網膜下に見られる白色あるいは黄白色の斑点で、多くは加齢による変化ですが、黄斑部のドルーゼンは、加齢性黄斑変性症の初期症状のことがありますので定期的な検査が必要です。
  7. 網脈絡膜萎縮:網膜とその下にある脈絡膜が萎縮したもので、加齢、近視、瘢痕や遺伝が原因です。視力低下を起こす場合もありますので、受診が必要です。
  8. コーヌス:多くは近視などに伴う視神経乳頭の形態変化で、活動的な病的変化では無いため治療の対象ではありませんが、稀に網膜剥離が起きますので、定期的な検査が必要です。

3.聴力検査

A)聴力:
 自覚的に難聴を訴えない人の中から、聴力の低下している人を見つけ出すことを目的としています。検査は低い周波数(1000Hz)と高い周波数(4000Hz)の音を聞き、どれだけ小さい音が聞こえるかを調べます。日常会話に重要な周波数は、500~2000Hzで、この範囲を会話聴取域といい、特に1000Hzは、会話領域を代表する領域の、また4000Hzは、高音領域の難聴の早期発見に使われます。
 心因性難聴、一側性難聴、軽度難聴は、健診の聴力検査で初めて見つかることが多いとされています。また、4000Hzの聴力は、年齢と共に低下しますので、高齢者では40dB程度聞こえれば異常なしと判定されます。
 基準値は1000Hz、4000Hz共に30dB以下です。40dB以上は、精密検査になります。

4.循環器系検査

A)血圧:
 診察室での外来血圧と家庭血圧がありますが、診断は外来血圧を基準としています。高血圧の重症度分類は、血圧の他に、喫煙、脂質異常症、糖尿病、年齢(男性60歳、女性65歳以上)、家族に若年発症した心血管病患者がいるか、などの危険因子の有無、高血圧性の臓器傷害の有無、心血管病合併の有無などを総合的に評価して決めます。
 血圧は極めて変動しやすいため、外来での1~2回のスポット的な測定では正しい判定が出来ません。高血圧治療ガイドラインでは、家庭血圧を外来血圧より優先することが示されました。このため、家庭での血圧測定が血圧の自己管理による血圧コントロール評価として大切で、日常の健康管理の習慣にしたいものです。家庭での測定は、毎日、同じ時間、同じ条件で測定することが大切です。
 生活習慣による血圧のコントロールは

  1. 一日7g以下の食塩摂取
  2. 標準体重の20%を超えない適正体重の維持
  3. 日本酒1合以下の飲酒
  4. コレステロールや飽和脂肪酸の摂取制限
  5. 運動習慣
  6. 禁煙が有効
なことが、ガイドラインに示されています。
 基準値は、正常血圧が収縮期血圧120~129mmHg、拡張期血圧80~84mmHg、正常高血圧が収縮期血圧130~139mmHg、拡張期血圧85~89mmHgです。収縮期血圧160以上、拡張期血圧100以上は、精密検査と治療が必要です。

B)安静時心電図:
 心筋の電気現象を見ることにより、循環器系の障害をスクリーニングする心電図の基本検査で不整脈、心室肥大、虚血性心疾患などの診断に有用です。成人男女5200人を対象にした循環器疾患基礎調査では22%に軽度異常、19%に異常が見られたとの報告があり、これらの異常群は精密検査の対象になります。

C)心電図所見

  1. 軸偏位:心臓収縮のための刺激が伝わる方向を「電気軸」といいますが、この刺激が伝わる方向が、正常より左に傾いている状態を左軸変位、右に傾いている状態を右軸変位といいます。病的意義は殆どありませんが、心肥大や脚ブロック等で変位の程度が強くなります。
  2. 期外収縮:心臓は「洞結節」からの規則的な電気刺激によって収縮しています。この刺激は、洞結節以外の場所で起こることがあり、心房で起こるものを心房性期外収縮、心室で起こるものを心室性期外収縮といいます。 期外収縮は、原因が不明の場合が多く、強い自覚症状が無ければ心配はいりません。ただし、自覚症状が強い場合や多発する場合は、精密検査が必要です。
  3. 洞性不整脈、洞性徐脈、洞性頻脈:洞結節からの電気刺激の発生が、呼吸などにより影響を受け不規則になることを洞性不整脈といいます。
    刺激の頻度が少なくなり心臓の拍動が50回/分以下になるものを洞性除脈、100回/分以上になるものを洞性頻脈と呼び、両者ともに基礎疾患や自覚症状が無ければ問題ありません。
  4. 右脚ブロック:刺激が伝わる経路である右脚への電気刺激が途絶えている状態ですが、刺激は他の経路を通って伝わるので、心臓の機能には影響しません。原因は不明のことが多く、病的意義も殆どありません。
  5. 房室ブロック:心房から心室へ電気刺激が伝わる時間が遅れている状態をⅠ度ブロック(PR延長)、時々途絶える状態をⅡ度、完全に途絶える状態をⅢ度と呼びます。
     Ⅰ度は経過観察のみですが、Ⅱ、Ⅲ度の場合は精密検査と治療が必要となることもあります。
  6. 高電位、低電位:QRS波の振幅が大きいことを高電位、小さいことを低電位といいます。多くの場合、病的意義は認められませんが、体格などの心臓以外の原因で起こることもあります。
  7. 左室肥大:左室壁が厚みを増したり、左心室の容積が大きくなると、心電図波形のST-Tに変化が見られます。原因として高血圧や弁膜症などがあります。
     左室肥大は、心臓の冠動脈や毛細血管に様々な異常を引き起こしますので、原因疾患の確定と治療が必要です。
  8. 平低T波、陰性T波、ST-T異常:虚血性心疾患により、心筋障害が起こり、負荷がかかっている状態を示します。平低T波・陰性T波は、T波が通常よりも平坦で、基線より下向き(陰性)になります。ST-T異常は、ST部分が基線より上昇したり、下降したりすることです。
     これらの異常は、冠動脈硬化による虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、高血圧、弁膜症などで見られるので、必ず精密検査をしてください。
  9. 異所性P波:異所性心房調律とも呼ばれ、拍動のリズムは順調ですが、P波の向きが通常と異なるもので、動悸などの自覚症状がなければ問題ありません。
  10. ブルガダ型心電図:この心電図変化は日本人の健診では0.02~0.1%に認められます。大部分の人は、ブルガダ症候群のような発作は起こしませんが、血縁者に60歳以下で突然死した人がいたり、過去に原因不明の失神発作を起こしたりした場合は、必ず専門医の診察を受けてください。
  11. 心房細動:心房が無秩序に不定の興奮を起こし、脈拍が早くなったり、遅くなったり、乱れたりします。最も一般的な不整脈の一つで、高齢者や心臓に病気がある人に多くみられ、年齢と共に有病率が上がります。
     症状は、心室がどれくらい速く収縮するかに応じて、動悸、脱力感、めまい、ふらつき、息切れ、胸痛などが見られます。放置すると致命的な血栓症などを起こすことがありますので、必ず受診し、治療を受けてください。

5.呼吸器系検査

A)胸部X線検査:
 健診では、主として肺がんの早期発見の目的で行われますが、肺野、縦隔、心臓、胸膜、横隔膜、胸郭の疾患や異常などの胸部病変も発見出来ます。
 胸部X線検査による肺がん検診の有効性について、厚生省の調査では、経年的に受診すると肺がんの死亡率が28%減少するとされています。ただし、より詳細な異常や早期の異常を知るためにはCT検査が必要です。

B)胸部X線検査所見

  1. 陳旧性陰影:肺炎や結核などが自然治癒した痕跡です。
  2. 石灰化陰影:肺炎などの炎症が治癒した場所にCaが沈着した状態です。
  3. 胸膜肥厚・癒着:肺炎などの炎症が治癒した後に胸膜が肥厚、癒着したものです。
  4. 肺のう胞(ブラ):肺胞が破裂、拡張、融合して袋状になった状態で、大きさによっては自然気胸を起こすこともあるため、経過観察が必要になることもあります。
  5. 心拡大:胸部の横幅に対して、心臓の横幅の割合が50%を超えている状態で、年齢や体型にもよりますが、心不全の徴候の一つでもあり、注意し経過を見ます。
  6. 側彎症:脊柱が左右に凹凸に曲がった状態です。
  7. 結節影・腫瘤影:円形の境界が鮮明な陰影で、肺腫瘍、過去の炎症、肋骨の断端、縦に映った血管などが考えられます。
  8. 浸潤影:線状、綿状、粒子状の柔らかい影が集まって見えるもので、肺炎、気管支炎、結核などが、炎症を起こしている状態です。
  9. 大動脈石灰化像:大動脈の血管壁にカルシウムが沈着している状態で、動脈硬化などで見られます。
  10. 大動脈蛇行:加齢などが原因で、動脈が硬くなると起こる状態です。動脈硬化や動脈瘤の可能性もあります。

6.肺機能検査

A)スパイロメトリー

  1. 肺活量:1回の吸入あるいは呼出で、肺から出入り可能な最大のガス量のことで、数値の減少は、膨張可能な肺組織が傷害されていることを示します。肺がん、肺炎、無気肺、肺うっ血、術後肺などで値が減少します。
     息を出来るだけ大きく吸って、出来るだけ多く吐き出した量を測ります。基準値は男性3500cc、女性2500ccです。
  2. 予測肺活量:肺活量は性、年齢、身長によって差があるため、あらかじめ計算式で被検者の肺活量を計算しておきます。この数値を予測肺活量といいます。
  3. %肺活量:肺活量の増加や減少を判定する場合、予測肺活量と実際に測定された肺活量との百分率を求めます。この値を%肺活量(実測肺活量/予測肺活量)といい、間質性肺炎や肺線維症で低値になります。
     基準値は80.0%以上です。79.9%以下は精密検査が必要です。
  4. 1秒率:吐き出した息の総量に対する最初の1秒に吐き出した量の割合で、値は気道末梢の気流抵抗と肺の収縮力(弾性)に関係し、肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息などの閉塞性肺疾患で低値になります。
     基準値は70.0%以上で、69.9%以下は精密検査になります。また、70.0%以下は、閉塞性障害とされ、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、びまん性汎細気管支炎、リンパ脈管筋腫症などの、いわゆる閉塞性肺疾患に認められる所見です。
  5. %一秒量:空気を最大に吸ったところから、最大の努力で息を吐きだしたときの、1秒間に吐き出した息の量で、閉塞性肺障害や拘束性障害で低下します。
     基準値は80.0以上です。79.9以下は精密検査になりますが、70%以下は閉塞性障害とされ、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、びまん性汎細気管支炎、リンパ脈管筋腫症などの閉塞性肺疾患に見られる所見です。

B)喀痰細胞診:
 肺がんを早期に発見するための検査です。喀痰中の細胞を染色し、顕微鏡で観察して、形態学的に正常細胞、異型細胞、悪性腫瘍を疑う細胞、悪性細胞などに分け、この細胞所見から日本肺癌学会の判定区分に基づきAからEまでに5分類します。

  1. 判定区分:
    A:喀痰中に判定に必要な細胞が認められないので検体不適、判定不能です
    B:正常上皮細胞、又は炎症性の軽度の異型細胞が見られますが、問題ありませんので、1年後に再検査します
    C:悪性細胞の前段階の細胞が認められるので、6ヶ月以内に再検査が必要です
    D:高度の異型細胞、悪性を強く疑う細胞が認められるので、精密検査が必要です
    E:悪性の細胞が認められるので、早急に精密検査と治療が必要です。

7.消化器系検査

A)胃部X線検査:
 食道、胃、十二指腸の病変が見つかりますが、食道と胃の悪性腫瘍の早期発見が主目的です。この検査は、描出できない部位があること、撮影技術や読影力により見逃しの危険性があることが欠点で、最近では胃カメラが優位になりつつあります。

B)上部消化管X線検査所見

  1. ポリープ:胃の内腔に突出した隆起性病変で、大きさや形状によっては組織を採取(生検)し、病理学的な組織検査が必要になります。
  2. 憩室:胃壁の一部が袋状に外側に飛び出した状態で、食道や十二指腸に見られますが、殆どの場合、問題ありません。
  3. 潰瘍瘢痕:胃や十二指腸の潰瘍の跡で、粘膜が引きつれて変形した状態です。形状によっては精密検査が必要になりますが、通常は年1回の経過観察をします。
  4. 十二指腸球部変形:胃の出口から十二指腸につながっている十二指腸の入り口を十二指腸球部といいます。この部分の潰瘍が治癒した跡で、十二指腸球部が、クローバ型などに変形しています。十二指腸潰瘍が再発する可能性がありますので、痛みを感じるようなら医師と相談してください。
  5. 胃角変形:胃の角部と呼ばれる部分に短縮、開大、直線化などの変形が見られるもので、胃潰瘍、胃炎、胃がんの場合もありますので、内視鏡検査が必要です。
  6. 粘膜下腫瘍:胃の粘膜の下から盛り上がった腫瘤で、非上皮性腫瘤ともいわれます。多くの場合は良性ですが、大きさや表面粘膜の状態によっては、悪性との鑑別が必要なこともあります。
  7. 食道裂孔ヘルニア:胃の粘膜が食道の方に入り込んだ状態で、胸やけなどの症状が出る場合もあります。

C)胃内視鏡検査と検査所見:
 胃部X線検査やペプシノゲン検査で、スクリーニングした後に、精密検査や二次検査として行いますが、最近は一次検査として行うことも多い検査です。この検査は、放射線被爆が無いこと、小さな病変も見つけることが出来ること、病変組織や細胞成分を取り出し、病理検査で確定診断が可能なことなどの利点があり、早期がんの発見率も高いので推奨されています。

  1. 逆流性食道炎:胃酸の主成分は塩酸で、pHが1.0~1.5の強酸性です。一回の食事で約500~700mL分泌されますが、食道に逆流すると食道胃接合部や食道下部の粘膜にびらんなどの障害を起こし、胸焼けなどの症状を起こします。
  2. 胃炎:胃炎は「胃粘膜の組織学的炎症」とされ、臨床的な経過から、急性胃炎と慢性胃炎に分けられますが、一般的に胃炎というと慢性胃炎を意味します。慢性胃炎には萎縮性胃炎、表層性胃炎、びらん性胃炎、慢性活動性胃炎などがありますが、特に、萎縮性胃炎は主にピロリ菌感染により引き起こされた胃炎で、発がんの発症リスクが高いといわれています。慢性活動性胃炎は、現時点でピロリ菌に感染している状態ですので、萎縮性胃炎と共にピロリ菌の除菌の対象になります。表層性胃炎やびらん性胃炎は基本的には経過観察をすれば、問題はありません。
  3. ポリープ:食道、胃、十二指腸の粘膜の一部が、内腔に隆起したもので、殆どは過形成性ポリープと胃底腺ポリープです。過形成性ポリープは高齢者に多く、粘膜は萎縮性で、ピロリ菌感染がみられます。一方、胃底腺ポリープは中年の女性に多く、萎縮はほとんどなくピロリ菌感染もありません。
  4. 潰瘍:胃や十二指腸に見られる潰瘍は、消化性潰瘍ともいわれるとおり、胃液の強力な消化作用によって、消化管の粘膜が欠損した状態です。原因となる因子を攻撃因子といい、胃酸、ペプシン、薬物(非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド薬、抗菌薬など)、胆汁、膵液、ピロリ菌感染、血行障害(ストレス)などが挙げられます。
  5. 腫瘍:食道、胃、十二指腸の粘膜から発生する腫瘍で、良性から悪性のものまであります。主なものとして腺腫、癌、リンパ腫、カルチノイドなどがありますが、病理組織検査や治療が必要です。
  6. 粘膜下腫瘍:粘膜下腫瘍とは病変が胃粘膜より下層にあり、健常な粘膜に覆われて、半球状または球状に胃内腔に突出した隆起性の病変です。大きさによっては病理組織検査や治療が必要です。

D)便潜血反応:
 大腸がんの発見を目的に、大腸からの出血の有無を検査するもので、2日にわたり2回採便し検査します。一回でも陽性であれば、大腸内視鏡検査などの検査が必要です。

E)直腸診:
 肛門から直腸に指を入れ、前立腺を触診することで、前立腺の大きさ、硬さ、形などを診る検査です。がんの疑いがあれば、超音波検査、前立腺腫瘍マーカー検査(PSA)を行い、確定診断は、前立腺の針生検による病理組織検査で行います。
 この検査は、大腸検診の一つでもありますが、指の届く範囲が極めて限られていることから、病気の発見に限界があります。

F)大腸内視鏡検査:所見

  1. 大腸ポリープ:大腸ポリープは大腸内に突出した隆起性病変の総称で、上皮性腫瘍では腺腫、癌、カルチノイド、非上皮性腫瘍では脂肪腫、リンパ管腫などがあります。内視鏡検査で見つかるポリープの約95%は腺腫で、その一部は癌化しますので、大きさや形によって切除が必要なこともあります。
  2. 大腸憩室:大腸の憩室は腸管の壁の一部が腸管外(内)へ向かって嚢状に突出した状態です。憩室は良性疾患で、無症状の場合は治療を必要としませんが、大腸憩室炎や憩室出血などの合併症が起きた場合には治療が必要となることがあります。
  3. 大腸粘膜下腫瘍:大腸の粘膜深層や筋層に発生する腫瘍で、平滑筋腫、神経鞘腫、脂肪腫などがあります。大きさや形によっては病理組織検査や治療が必要です。
  4. 大腸炎:大腸が炎症を来した状態で、感染、虚血、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)などがあります。多くの例で、精密検査や治療が必要です。
  5. 大腸メラノーシス(大腸黒皮症):大腸の粘膜にメラニン様色素が沈着して、黒褐色になる状態です。便秘に使われるアントラキノン系の下剤の長期投与によって生じますが、特に治療の必要はありません。
  6. 内痔核:肛門近くの直腸静脈層がこぶ状に膨らんだ状態で、肛門病変の約60%を占め、最も頻度の高い病気です。男性にやや多く、女性では妊娠後に起こりやすいとされています。

G)ヘリコバクター・ピロリ抗体:
 ヘリコバクター・ピロリは、1983年に発見された強酸性の環境にある胃で生息できる細菌で、慢性胃炎、萎縮性胃炎、消化性潰瘍、十二指腸潰瘍などの組織から、60~80%の高率で検出され、現在、日本人中高年者の感染率は60%以上です。
 除菌により病状が回復することから、陽性なら積極的に除菌を行います。ヘリコバクター・ピロリは、疫学的には、「最も確実な胃がん危険因子の一つ」としてWHOで認定されています。
 この検査は、ヘリコバクター・ピロリに現在感染しているか、過去に感染の既往があるかを知るための検査で、陽性の場合は、精密検査と除菌が必要です。

H)ペプシノゲン:
 ペプシノゲンは、胃液中の蛋白分解酵素であるペプシンの前駆体で、胃に分布する殆ど全ての細胞から分泌されます。血中の値は、消化性潰瘍、萎縮性胃炎、胃悪性腫瘍などの胃粘膜変性をよく反映しているので、胃液腺、胃粘膜の異常、特に胃悪性腫瘍のスクリーニングに用います。
 判定は陽性:PGⅠ:70以下またはⅠ/Ⅱ比:3以下、強陽性:PGⅠ:30以下またはⅠ/Ⅱ比:2以下です。陽性と強陽性の場合は精密検査になります。

I)ABC検診:
 ヘリコバクター・ピロリ検査で、ピロリ菌感染の有無を、またペプシノゲン検査で、胃粘膜の萎縮度を調べ、その組み合わせで、胃癌のリスクをA,B,C,Dの4群に分類する方法です。採血のみで検査が出来る侵襲性が少ない検査です。

A群:ピロリ菌抗体陰性、ペプシノゲン陰性、胃がん発生率:0%/年
胃癌発症のリスクは極めて低い。
B群:ピロリ菌抗体陽性、ペプシノゲン陰性、胃がん発生率:0.1%/年
胃癌発症のリスクがあり、胃潰瘍にも注意する。
最低3年に1回の胃内視鏡を行う。
C群:ピロリ菌抗体陽性、ペプシノゲン陽性、胃がん発生率:0.2%/年
胃癌発症のリスクが高い。
最低2年に1回の胃内視鏡を行う。
D群:ピロリ菌抗体陰性、ペプシノゲン陽性、胃がん発生率:1.25%/年
胃癌発症のリスクが極めて高い。
毎年胃内視鏡を行う。

日本胃がん予知・診断・治療機構

J)腹部超音波検査:
 健診時の腹部超音波検査では、その60%に異常所見が見られます。大部分は良性疾患である脂肪肝やのう胞ですが、0.08~0.24%の頻度で悪性腫瘍が見つかります。
 異常所見が見られたら、1)放置して良い所見 2)生活習慣の改善を必要とする所見 3)精密検査を必要とする所見 4)治療が必要な所見などに分類します。

K)腹部超音波検査所見

  1. 胆のうポリープ:胆のう内に出来る突起で、成分の多くはコレステロールです。胆のう壁から発生したものでないため問題はありませんが、大きさが10mmを超える場合は精密検査が必要になることもあります。
  2. 胆のう結石:胆汁に含まれる、コレステロールやビリルビンなどの成分で結石が作られますが、無症状のことが多く、症状が無ければ治療は不要です。
  3. 総胆管結石:胆石が総胆管にあるもので、多くは胆のう結石と同時に見られます。黄疸、発熱、疼痛などで見つかる場合もありますが、致命的な急性化膿性胆管炎に進展することもあり、原則として、無症状の場合も含めて結石の除去が必要です。
  4. 胆のう腺筋腫症:胆のうの壁が厚くなる良性疾患で、多くは胆のう結石を合併しています。無症状なら治療は不要です。
  5. のう胞:肝、腎、膵などに出来た袋状の組織で、液体成分を溜めています。多くは無症状で問題ありませんが、のう胞の壁や内部の状態に変化が見られたら精密検査が必要です。
  6. 脂肪肝:肝臓に脂肪を貯めた細胞が増加した状態です。過食や飲酒が原因で、しばしば糖尿病に合併します。また、飲酒に関係しない非アルコール性脂肪肝炎は数パーセントが、肝硬変に進展することが知られていますが、肝生検による病理組織検査をしないと、脂肪肝との鑑別は出来ません。
     非アルコール性脂肪肝炎は、高血圧、肥満、2型糖尿病、高脂血症を持つ40~60歳の女性に好発し、健診受診者の1%を占めるといわれていますので、このようなリスクがある場合は、定期的な経過観察が必要です。
     また、ALTが31IU/L以上で、血小板数が15万/μL以下の場合は、非アルコール性脂肪肝炎の診断を目的とした肝生検が必要です。
  7. 肝血管腫:皮膚に見られる「アザ」と同様に、血管が増殖した腫瘍が、肝臓に見られるもので、大きさによっては精密検査が必要です。
  8. 脾腫:脾臓が腫大した状態で、血液疾患や肝疾患で見られる所見です。
  9. 副脾:脾臓の周囲に見られる小さな脾臓組織で、異常ではありません。
  10. 腎結石:尿中の成分が結晶化し塊を作った状態で、痛みなどの症状が無ければ経過を観察します。1cm以上に大きくなる場合や痛みなどの症状が出れば、泌尿器科を受診が必要です。
  11. 腎血管筋脂肪腫:血管・平滑筋・脂肪成分から構成される良性の腫瘍です。基本的には、治療の必要はありませんが、大きさによっては破裂などの危険がありますので、経過観察をします。
  12. 水腎症:尿が尿路や腎の中に溜まった状態で、精密検査が必要です。
  13. 馬蹄腎:腎臓がU字型になった状態で、症状が無い場合は、治療の必要はありません。時に、尿の通過障害を起こすことがありますので、経過観察が必要です。
  14. 重複腎盂:腎臓の外形は正常ですが、腎盂と尿管が2つあるもので、尿路感染や水腎症などの合併症が無ければ、経過観察をします。
  15. 膵臓嚢胞:膵臓には悪性から良性まで、様々な腫瘍が発生します。特に、嚢胞性病変は完全に良性のものや、悪性化する腫瘍性嚢胞もありますので、膵臓に病変が見つかった場合は、精密検査が必要です。

8.血液検査

A)赤血球数:
 血液1μl中の赤血球の数を測ります。赤血球は直径7~8μmの中央が窪んだ円形の細胞で、細胞中の血色素(ヘモグロビン)が酸素と二酸化炭素の運搬、血漿のpH調節など生命維持に必要な大切な働きをしています。
 赤血球数が異常を示す病気は、貧血(数の減少)と赤血球増多症(数の増加)があり、これ等の異常を起こす病気は沢山ありますので、異常値を示したら精密検査が必要になります。
 基準値は男性:400~539×10⁴/μL、女性:360~489×10⁴/μLです。男性で359以下又は600以上、女性で329以下又は550以上は、精密検査と治療が必要です。

B)血色素量:
 ヘモグロビンとも呼ばれる赤血球中にある鉄を含む蛋白質で、この蛋白が肺で酸素と結合し体の隅々の組織に運び、組織で酸素を放出すると代わりに組織中の二酸化炭素と結合し肺に運び排出します。
 貧血や多血症で異常値を示します。成人は毎月、代謝により約23mgの鉄を失いますが、女性はそれに加え、生理により約17mg、合計すると約40mgの鉄を失います。このため、妊娠・出産、ダイエットなどで一度貧血に傾くと食事で回復することは困難です。貧血があると云われたら、内科を受診し原因を精査し治療を受けてください。
 また、子宮筋腫による過多月経は、女性成人の貧血の原因として、頻度が高いことが知られていますので、月経の量が多い場合は婦人科を受診してください。
 男性成人の鉄欠乏性貧血は、多くの場合、癌や潰瘍による消化管からの出血が原因で、消化器内科での精密検査が必要です。また、18.0g/dL以上の高値の場合は、多血症の疑いがありますので血液内科の受診をお勧めします。
 基準値は男性:13.1~16.3g/dL、女性:12.1~14.5g/dLです。男性で12.0以下又は18.1以上、女性で11.0以下又は16.1以上の場合は、精密検査と治療が必要です。また、7以下に減少した場合は、パニック値で至急受診が必要です。

C)ヘマトクリット値:
 一定量の血液中に含まれる赤血球の全容積のことで、%表示され、赤血球数の減少や小型化で値が低くなります。50%以上の高値を示した場合は、血液濃縮ですので、原因究明のために血液内科の受診をお勧めします。
 赤血球、血色素、ヘマトクリットの3項目は同時に測定され、貧血の分類や多血症の診断に必要なMCV、MCH、MCHCを算定するために使われます。
 基準値は、男性:38.0~48.9%、女性:34.0~43.9%です。男性で34.9以下又は52.0以上、女性で30.9以下又は46.0以上の場合は、精密検査になります。また、15.0以下に減少した場合は、パニック値で至急受診が必要です。

D)MCV:
 平均赤血球容積(mean corpuscular volume)は、赤血球一個一個の平均容積を絶対値で表したもので、大型の赤血球が多いか、小型のものが多いかが判定できます。代表的な貧血である鉄欠乏性貧血では、個々の赤血球が小型化しているので、数値は低くなります。
 MCVは多量飲酒により、しばしば高値(100fL以上)を示し、この値の上昇は食道がんや咽頭がんの発がんリスクと相関するといわれています。特に肝機能検査の一つであるγ-GTが高値の場合は、食道がん、咽頭がんの定期的検査をお勧めします。飲酒マーカーとしての感度は、34~69%、特異度は26~91%といわれています。
 基準値は83.6~98.2flです。

E)MCH:
 平均赤血球血色素量(mean corpuscular hemoglobin)は、一個一個の赤血球に含まれる平均血色素量を絶対値で表したもので、値が低い場合は、低色素性貧血と呼ばれる貧血群が疑われます。基準値は27.5~33.2pgです。

F)MCHC:
 平均赤血球血色素濃度(mean corpuscular hemoglobin concentration)は、一個一個の赤血球の容積に対する血色素重量の比を%で表したものです。基準値は31.7~35.3%です。これらMCV、MCH、MCHCの値は、主として貧血の種類の判定に使われます。

G)血小板数:
 直径3~4μmの小型の細胞で、凝集能や粘着能があり止血や血栓形成などの重要な働きをしています。数が少なくなると出血し易くなり、増えると血栓が出来易くなります。
 血小板は、出血時に凝血塊を作り止血をする細胞ですが、増加すると血管内で血栓を作るリスクが高くなります。40.0以上で精密検査になりますが、60.0以上の場合は必ず、血液内科を受診してください。
 また、減少すると傷がなくとも出血するリスクが高くなりますので、9.9以下の場合は精密検査、5以下の場合は、至急に血液内科の受診が必要です。基準値は14.5~32.9×10⁴/μLです。

H)血清鉄:
 食物中の鉄は、消化管で吸収されると、トランスフェリンという蛋白質と結合して、血液中を循環しヘモグロビンの原料となります。この蛋白に結合した鉄を血清鉄と呼び、主として鉄欠乏性貧血の程度や治療効果の判定のために測定します。 また、高値の場合は鉄過剰症が疑われます。
 基準値は男性64~187μg/dL、女性40~162μg/dLです。男性で63以下又は188以上、女性で39以下又は163以上は、精密検査が必要です。

I)フェリチン:
 フェリチンは内部に2,500個もの鉄を持つ巨大球状蛋白で、肝臓、脾臓、心臓などの臓器に広く分布していますが、血中にも存在し、その量は体内の鉄の貯蔵量を反映しています。減少は鉄欠乏性貧血や潜在性の鉄欠乏状態で見られます。
 また、肝臓、心臓やその他の組織が崩壊すると血中に逸脱するため、悪性腫瘍、肝障害、心筋梗塞、感染症などで高値になります。
 基準値は男性が39.4~340ng/mL、女性が3.6~114ng/mLです。男性で39.3以下、341以上、女性で3.5以下、115以上は精密検査が必要です。

J)不飽和鉄結合能:
 トランスフェリンの約1/3に結合している鉄を血清鉄(Fe)と呼び、残り2/3の鉄に結合しうる部分が不飽和鉄結合能(UIBC)です。血清鉄と不飽和鉄結合能の和が、総鉄結合能(TIBC)でTIBC=UIBC+Feの関係が成立しています。
 臨床的には鉄不足、鉄過剰の状態が疑われたときに、FeとUIBCを同時に測定し、鉄代謝異常を来す病態を明らかにします。
 基準値は男性が104~259、女性が108~325で、男性103以下、260以上、女性107~326以上は精密検査が必要です。

K)白血球数:
 末梢血液中の白血球は、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球の5種類に分類され、これらの細胞群は貪食能、殺菌能、免疫能などの機能を分担しています。
 白血球数を算定することで、多くの病態や疾患の存在が推定出来ますが、顕微鏡的に血液像を見て、5種類の細胞に分類すると、より正確な診断や病状が判定出来ます。
 白血球数の基準値は、3,100~8,400/μLです。白血球数が10,000以上の高値の場合は、炎症、感染症などによる反応性の増加が考えられますが、白血病などの腫瘍性増殖も否定できません。また2,000以下の低値の場合は、造血細胞の異常、白血球の消費や破壊の亢進が考えられます。
 3,000以下又は10,000以上の場合は、精密検査になりますが、50,000以上の高度増加と1,000以下の高度減少の場合は、早急に血液内科の受診が必要です。

L)血液像(白血球分類):
 末梢血液中の白血球は、染色所見から好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球の5種類に分けられます。各々の白血球は、それぞれ異なる機能があり、その増減を知ることで、多くの疾患の診断や予後の推定が出来ます。
 白血球分画の変動は、主として顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球、単球)、特に白血球の45~55%を占める好中球の増減によります。
 白血球変動の原因は、白血病などの腫瘍性疾患によるものと、感染症、炎症、組織破壊、ストレスなどによる反応性がありますが、血液疾患以外でも白血球は多くの疾患で数と分類が変動します。

  1. 芽球:成熟すると好中球になる骨髄芽球は、健常者の末梢血中には出現しません。この細胞が見られる場合は、白血病、骨髄異形成症候群、骨髄線維症などの重篤な疾患が疑われますので、早急に精密検査と治療が必要です。
  2. 骨髄球、後骨髄球:慢性骨髄性白血病や重症感染症などで見られる細胞で、精密検査が必要です。
  3. 異型リンパ球:健常者でも0.5~1%程度、風疹、麻疹や種々のウイルス感染症で数%程度見られます。10%以上の増加が認められたら、エプスタイン-バーウイルス(EBウイルス)感染による伝染性単核球症を疑い、精密検査が必要です。
  4. 赤血球形態異常:鉄欠乏性貧血、悪性貧血、溶血性貧血などでは、大型の赤血球と小型の赤血球が混じりあい、大小不同と呼ばれる所見を示します。精密検査で、原因疾患を決め、治療が必要です。

9.血清反応

A)CRP(C反応性蛋白):
 健常者の血清中には、ごく少量しか存在しませんが、炎症や組織壊死があると高値となりますので、主として炎症が存在するか否かのスクリーニングに使われる検査です。
 この蛋白は、炎症が起こると、わずか数時間で高値となりますが、炎症が沈静化すると24~48時間を半減期として速やかに減少します。
 CRPは動脈硬化と関係があることが判り、高感度CRP検査は動脈硬化のスクリーニング検査として使われることもあります。基準値は0.30mg/dL以下で、1.00以上は精密検査になります。

B)血液沈降速度(血沈):
 本態はいまだ完全に解明されていませんが、赤血球の凝集と大きな関係があることが知られています。赤血球凝集が早く大きいほど、沈降速度は速くなります。
 赤血球凝集は血液中の蛋白質と関係があり、グロブリンが増加すると凝集は促進されます。炎症があるとグロブリンが増加しますので血沈は促進します。また悪性腫瘍などによる組織破壊がある場合も促進することが知られています。
 この検査は、広い意味で生体の異常を反映する非特異的反応とされ、異常値になった場合は、他の検査を参照して診断確定や病勢を判定します。
 基準値は男性:2~10mm/hr、女性:3~15mm/hrです。男女ともに25以上は精密検査が必要です。また、100以上の値を示した場合は早急に受診してください。

C)RA(リウマチ因子):
 リウマチ様因子測定法の一種で、関節リウマチの80~90%で陽性になります。しかし関節リウマチ以外にも、膠原病などの自己免疫疾患や肝疾患などで陽性を示しますので、診断確定には精密検査が必要です。
 この検査は、非特異的な反応があり、健常者の約2~6%、健常高齢者の約10%で100IU/mL以下の陽性になりますが、陽性になった場合は、リウマチ性疾患や膠原病を除外するため、専門医の受診をお勧めします。
 基準値は15IU/mL以下で、100以上は精密検査が必要です。

D)ASO(抗ストレプトリジンO価):
 扁桃炎などを起こすA群β溶血性レンサ球菌が持つストレプトリジンOという毒素に対する抗体で、この菌の感染の有無を知る検査として使われます。溶連菌感染後2週目頃から上昇し、4~5週でピーク、その後緩やかに減少します。
 溶連菌感染は、急性糸球体腎炎やリウマチ熱の原因でもありますので、ASOが高値の場合は内科の受診をお勧めします。
 基準値は166IU/mL以下で、250以上の時は溶連菌の感染を疑います。診断は、急性期(発病後早期)と回復期(発病後2~3週間)に、それぞれ血液を採取しペア血清として測定する必要があり、健診のばあいは、1回のみの検査ですから参考値として扱います。

E)TPHA法(トレポネーマ パリヅム抗体検査):
 梅毒の菌体、トレポネーマ・パリヅムから抽出した蛋白質を使う梅毒スクリーニング検査法の一種で、現在最も広く使われています。スクリーニング法では、最も特異性が高い検査です。
 TPHA法陽性、RPR法陰性は、多くの場合梅毒治療後の抗体保有者ですが、稀に口腔トレポネーマによる歯周病、EBウイルス感染、膠原病でも見られますので、専門医を受診してください。基準値は陰性です。

F)RPR法(ラピッド プラズマ 抗体):
 ガラス板法と同じ、脂質抗原を使う梅毒スクリーニング法で、梅毒感染後2~5週で陽性になりますが、梅毒以外の病気(膠原病、肝疾患、麻疹・水痘)で陽性になる生物学的偽陽性を示すこともあります。
 基準値は陰性です。陽性の場合は精密検査が必要です。

G)梅毒血清反応の読み方:

  1. RPR陰性・TPHA陰性:梅毒非感染、感染1週以
  2. RPR陽性・TPHA陰性:梅毒感染初期、生物学的偽陽性反応
  3. RPR陽性・TPHA陽性:梅毒感染、梅毒治療中、先天梅毒
  4. RPR陰性・TPHA陽性:梅毒治療後、梅毒以外の感染症、膠原病

10.肝機能

A)総蛋白:
 100mlの血液中には、約6.8~8.3gの約80種の蛋白質があり、アルブミンとグロブリンに分けられます。これ等の蛋白は、血液凝固、免疫、酵素、ホルモン、血液浸透圧の維持など、生体に重要な生理的作用を持っています。また、ビタミン、金属、色素類の担体として物質代謝や物質交換にも関与しています。
 殆どあらゆる病気で、血清蛋白の値は変動するため、総蛋白の測定は、最も基本的なスクリーニング検査とされています。高値は脱水による血液濃縮と免疫グロブリンの増加、また、低値は主としてアルブミンの減少が原因です。
 基準値は6.5~8.0g/dLで5.9以下又は9.1以上は精密検査が必要です。また、5.0以下又は10.0以上の値を示した場合は、重篤な病気の可能性がありますので、早急に受診する必要があります。

B)アルブミン:
 血清蛋白の50~70%を占める水溶性の蛋白で、血清浸透圧の維持、金属、脂質、色素などの運搬機能があります。しかし、アルブミン量の変化からだけでは、特定の疾患の診断は出来ませんので、異常値になれば、蛋白電気泳動などの検査をします。
 基準値は3.9~5.2g/dLです。3.1以下の値を示した場合は精密検査になります。また、2.5g/dL以下は、重篤な状態なので、至急基礎疾患の検索と治療が必要です。

C)A/G比(アルブミン/グロブリン比):
 血中のアルブミンとグロブリンの濃度比で、大凡の血中蛋白成分比の異常を知ることが出来ます。この値の異常から特定の疾患を決めることは出来ませんが、種々の病気の存在を疑うきっかけとなる検査です。基準値は1.1~2.0です。

D)総ビリルビン:
 赤血球中のヘモグロビンの代謝産物で、水溶性の直接ビリルビンと不溶性の間接ビリルビンがあり、両者を合わせて総ビリルビンと呼びます。赤血球の破壊亢進、肝障害による処理能力低下、肝臓から血中への逆流などで高値を示し、3mg/dL程度以上になると眼球結膜(白目の部分)の黄染(黄疸)が見られます。
 健診で見つかる高ビリルビン血症の多くは、先天性のビリルビン代謝異常によるもので、体質性黄疸と呼ばれています。4種類ありますが、思春期後に発症するものは、ジルベール症候群、デュビン・ジョンソン症候群、ローター症候群で、確定診断は直接ビリルビンを測定します。
 直接ビリルビンが多ければジルベール症候群、間接ビリルビンが多ければデュビン・ジョンソン症候群かローター症候群です。このうちジルベール症候群は、人口の2~3%を占め最も多く、残りは稀な疾患です。いずれの疾患も治療は必要ありません。
 基準値は0.2~1.2mg/dLで、3.2を超えれば精密検査をします。

E)直接ビリルビン:
 肝臓で産生される水溶性ビリルビンで、肝炎や胆管閉塞で血中に逆流し黄疸を起こします。総ビリルビンが高値の時に測定され、間接ビルビンの値も参照して高ビリルビンの原因推定に用います。
 基準値は0.0~0.4mg/dLです。5.0以上は精密検査になります。

F)間接ビリルビン:
 体内で産生されたビリルビンは、非抱合型ビリルビンとして肝に運ばれ、酵素により抱合型ビリルビン(直接ビリルビン)になりますが、この非抱合型ビリルビンを間接ビリルビンと呼んでいます。
 間接ビリルビンは、体内でビリルビンの生成過剰を起こす溶血性貧血などで高値になることが知られています。
 基準値は0.0~0.8mg/dLで、5.0以上は精密検査になります。

G)γ-GT(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ):
 肝臓、腎臓、膵臓などに存在する酵素で、細胞が障害を受けると血中に逸脱するため、胆道閉塞や胆汁うっ滞の指標になります。また、飲酒で上昇するため、アルコール性肝障害や多量常習飲酒者のチェックにも使われます。
 γ-GTが高値を示し、同時にMCV(平均赤血球容積)が100fL以上の高値を示す場合は、咽頭がん、食道がんの発症リスクが高くなりますので、定期的な咽頭と食道の検査が必要です。飲酒マーカーとしての感度は34~85%、特異度は11~85%とされています。
 γ-GTの値には性差があり、男性は女性より高値を示し、基準値は男性:10~50U/L、女性:9~32U/Lですが、健診では男女共に50IU以下にしています。
 臨床的には、200迄を中等度増加、500迄を高度増加、501以上を超高度増加としていますが、健診では、100以上を精密検査にしています。

H)AST(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ):
 心筋、肝臓、骨格筋などに大量に含まれる酵素で、細胞が障害を受けると、血中に逸脱するので逸脱酵素と呼ばれます。肝疾患、心疾患、骨格筋疾患の存在を推定する場合や治療効果の判定に使われます。
 健診で異常値を示す原因の多くは、多量常習飲酒によるアルコール性の肝障害で、基準値は30U/L以下です。臨床的には31~100を軽度増加、500迄を中等度増加、501以上を高度の増加にしていますが、健診では、50以上を精密検査にしています。

I)ALT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ):
 ASTとほぼ同じ臨床的意義を持ちますが、ASTよりも多量に肝臓に含まれるので、より敏感な肝機能検査として用いられます。
 ASTとALTは、同時に測定し、その比を取ることで、各種肝疾患の診断、急性期・慢性期の鑑別、病勢の推移などが判断出来ます。健診で異常値を示す場合の多くは、脂肪肝で、この場合AST<ALTになりますが、ALTは200U/L以下の値を示します。
 基準値は30U/L以下です。臨床的には43~100を軽度増加、500迄を中等度増加、501以上を高度の増加にしていますが、健診では、50以上を精密検査にしています。

J)LD(乳酸脱水素酵素):
 生体内のあらゆる組織に存在する酵素で、それぞれ異なった臓器に分布する5種類のアイソザイムがあります。高値になれば、肝障害、心筋梗塞、溶血性疾患、悪性リンパ腫などが疑われますが、単独の測定では疾患部位の特定が出来ないので、アイソザイムを測定し、障害臓器を特定する必要があります。
 検査前日の激しい運動や、日常的に運動をしている場合は10~20%程度増加しますので、診察時に高値を指摘されたら運動の有無を医師に伝えてください。
 基準値は120~245U/Lです。500以上の値を示した場合は精密検査が必要です。1,000を越した場合はパニック値で、至急の検査が必要です。また、LDHの高値は悪性リンパ腫、白血病、悪性貧血などが見つかる切っ掛けになる事もあるので、必ず受診して、異常値の原因を調べましょう。

K)Ch-E(コリンエステラーゼ):
 肝臓で合成され血中に入る酵素で、肝細胞が傷害されると合成量が減少するので、値が低下します。このため肝細胞障害の有無、肝での蛋白代謝や脂質代謝の異常が推測できます。また、有機リン中毒で活性値が低下しますので、重症度の指標になります。女性は男性より低値、また加齢とともに低値となることが知られています。
 異常低値を示す場合、先天性のコリンエステラーゼ欠損症・低下症がありますが、この場合はコリンエステルの分解が遅いため、手術時に筋弛緩薬や麻酔薬を使用すると遷延性無呼吸を来します。もし、健診などで先天性コリンエステラーゼ欠損症・低下症といわれたら、手術を受ける際に必ず医師にその旨お伝えください。
 基準値は男性:251~489U/L、女性:214~384U/Lです。健診では男性は250以下、490以上、女性は213以下、385以上は精密検査が必要です。また、40以下は先天性の異常症が疑われますので、必ず原因を確かめてください。

L)ALP(アルカリホスファターゼ):
 肝臓、骨、胎盤、小腸などに存在しますが、胆汁の排出障害を鋭敏に反映しますので、主として胆汁うっ滞の指標となります。肝臓、骨、胎盤、小腸に由来するアイソザイムがあり、その分析で障害臓器を特定できます。血液型がO型とB型の分泌型では食後、特に脂肪食後に生理的に高値になります。
 基準値は80~260U/Lです。79以下、261以上は精密検査が必要です。また、中高年の女性で、ALPが高値の場合は、原発性胆汁性肝硬変の初期段階や無症候性原発性胆汁性肝硬変を疑い、内科で異常値の原因を確認してください。

M)LAP(ロイシンアミノペプチダーゼ):
 肝炎などの細胞障害や胆汁うっ滞があると高値になります。臨床的には、肝胆道系の閉塞やアルコール性肝障害の指標として、γ-GPTなどと共に測定されますが、リンパ球に異常をきたす疾患(ウイルス感染、悪性腫瘍)でも、高値になることがあります。
 また、LAPのみが基準値の20~60倍と極めて高値を示す場合は家族性高LAPが考えられます。性差があり女性は男性より10%程度低い値となります。
 基準値は20~70U/Lで、201以上は精密検査が必要です。

N)HBs抗原(B型肝炎ウイルス抗原):
 B型肝炎ウイルスの蛋白抗原で、陽性は肝炎ウイルスに感染していることを意味しますが、陽性者が全て肝障害を起こしているとは限りません。日本人の約2%はHBs抗原陽性ですが、その90%は肝障害のない無症候性キャリアです。
 B型肝炎の重症度は、体内のウイルス量に比例しますが、健診ではウイルス量は測定しませんので、陽性と言われたら内科で、定期的にウイルス量を測定してください。基準値は陰性です。

Q)HBs抗体(B型肝炎ウイルス抗体):
 HBs抗原に対する抗体で、急性B型肝炎発症後6ヶ月以降に陽性になります。また、HBワクチン接種でも陽性となります。抗体陽性はB型肝炎の既往があることで、HBウイルスの再感染は起こりません。

P)HCV抗体(C型肝炎ウイルス抗体):
 HCV抗体は現在C型肝炎で体内にウイルスが存在する人と、過去にC型肝炎に感染したが現在はウイルスがいない人で陽性になります。高力価の場合は、ほぼ100%ウイルスが陽性ですが、低力価の場合は過去の感染の可能性を考えHCV-RNA検査で決定します。
 C型肝炎は、多くの場合感染に気づかず、60~70%はHCVキャリアになり、一部は感染後20~30年以上経過して、慢性肝炎、肝硬変、肝癌に進展します。C型慢性肝炎の肝硬変への進展は、血小板数でも予測できます。
 HCV抗体陽性で血小板数が15×10⁴μL以下なら肝の線維化が進展した慢性肝炎、10×10⁴μL以下になれば肝硬変を考えます。基準値は陰性です。

11.脂質代謝

A)総コレステロール:
 コレステロールは、生体の脂質成分の一つで、細胞膜の成分、ステロイドホルモンや胆汁酸の原料として生命維持に大切な働きがあります。しかし、一方では動脈硬化の進展にも関係があり、虚血性心疾患の危険因子の一つとされています。
 欧米では「総コレステロールが1mg/dL増加すると、冠状動脈疾患の相対危険度は2%上昇する」とのデータを基に、コレステロール値低下を健康維持の目標にしています。
 明らかに性差があり、高コレステロール血症の頻度は、閉経期以後の女性では男性の2倍になりますが、動脈硬化性疾患の頻度は女性が低く、また高齢女性の半数は高コレステロール血症であることから、女性の高コレステロール血症の判断は慎重に行う必要があります。
 基準値は130~220mg/dLで、79以下、261以上は精密検査が必要です。

B)HDL-コレステロール(高比重リポ蛋白コレステロール):
 高比重リポ蛋白の中に含まれるコレステロールで、動脈壁からコレステロールを受け取り、肝臓に運び分解させる働きがあり、細胞内のコレステロール除去作用に関係しています。
 HDLコレステロール低値は、動脈硬化症発症の危険因子として注意が必要です。喫煙で低下、適度の飲酒で増加することが知られています。
 HDL-コレステロールは、動脈硬化の抑制作用があり、高値の場合は、長寿に繋がるとして長寿症候群として扱われてきました。しかし、HDL-コレステロール高値の原因の一つに、コレステロールを輸送する蛋白(CETP)に遺伝的な欠損があるCETP症候群があり、日本人の1,000人に一人いるとされています。
 CETP症候群は、冠状動脈硬化と関係があることが知られていますので、高値の場合は、定期的なHDL-コレステロール測定と循環器内科の経過観察をお勧めします。
 基準値は40mg/dL以上で、19以下、100以上は精密検査が必要です。

C)LDL-コレステロール(低比重リポ蛋白コレステロール):
 血中でのコレステロールの主たる運搬体で、細胞にコレステロールを取り込ませる作用と、細胞内でのコレステロールの生合成の抑制作用があります。細胞がコレステロールを過剰に取り込めば、動脈硬化が進展するので、HDL-コレステロールと共に動脈硬化性疾患のモニタリングに使われます。
 最近は、高脂血症の診断や経過観察には、総コレステロール値よりLDL-コレステロールが良いと考えられています。
 基準値は60~140mg/dLで、181以上は精密検査が必要です。

D)non HDL-コレステロール:
 総コレステロールからHDL-コレステロールを引いたもので、全ての動脈硬化惹起性リポ蛋白中のコレステロールを表します。non HDL-コレステロールは、LDLだけでなくカイロミクロンやVLDL、レムナントなどを含みますので動脈硬化のリスクを総合的に管理できる指標といえます。
 基準値はLDL-コレステロールに30mg/dLを加えた値で90~149mg/dLで、80以下、210以上は精密検査が必要です。

E)中性脂肪:
 食物として摂取される脂肪の殆どを占め、一日50~100gが腸管から吸収され、エネルギー源として利用されています。動脈硬化の危険因子として測定されますが、糖尿病、肥満、糖質・脂質代謝異常の早期発見にも有用です。測定値は、食事と密接に関係しますので、採血は、12時間の絶食後に行います。
 中性脂肪は高値(1,000mg/dL以上)になると膵臓から多量の膵液が分泌され、含まれている消化酵素が膵臓そのものを消化して、重篤な急性膵炎を発症する危険がありますので至急に内科を受診する必要があります。
 基準値は30~149mg/dLで、29以下、500以上は精密検査と治療が必要です。

F)動脈硬化指数(AI):
 動脈硬化を起こし易いかどうかを、血中脂質の値から計算で求めるもので、値が低ければ低いほど、動脈硬化を起こしにくいと考えられています。AI=(総コレステロール値-HDL-コレステロール値)÷HDL-コレステロール値で求めます。基準値は4.0以下です。

12.尿酸

 細胞の核に含まれるプリン体の最終代謝産物で、腎から排泄されます。血清中の尿酸は、7mg/dL程度で飽和状態に達し、それ以上の過飽和の状態が続くと結晶化の可能性が高くなります。
 血中尿酸高値は、プリン体代謝異常と腎臓からの排泄異常の時に見られ、臨床的には痛風発作を起こし、また尿路結石の原因となります。長期間未治療で放置すると、尿酸結晶の組織への沈着が起こり、沈着した局所に障害を起こしますので、治療が必要です。
 また、2mg/dL以下の低値を示す場合は、腎性低尿酸血症が疑われます。原因は腎の尿酸排泄が過剰になるためで、尿路結石や激しい運動後に急性腎不全を起こすことがありますので、内科での精査と定期的な腎機能検査をお勧めします。
 基準値は2.1~7.0mg/dLで、2.0以下、9.0以上は精密検査と治療が必要です。

13.膵機能

A)血清アミラーゼ:
 アミラーゼは、澱粉やグリコーゲンなどを加水分解する酵素で、膵液(P型アミラーゼ)と唾液(S型アミラーゼ)に多量に含まれています。
 この酵素は、膵や唾液腺の細胞が傷害されると血液に出てくる逸脱酵素で、健診では主として慢性膵炎の発見に使われます。また流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)に罹ると唾液腺由来のアミラーゼが増加します。
 基準値は60~200U/Lで、201以上は精密検査が必要です。

B)尿アミラーゼ:
 アミラーゼは分子量が比較的小さいため、容易に尿中に排泄されます。血中、尿中共に高値なら膵疾患や唾液腺疾患を疑い、血中高値、尿中低値は、腎障害やマクロアミラーゼ血症を考えます。基準値は随時尿で65~700U/Lです。

14.糖代謝

A)血糖(ブドウ糖):
 ブドウ糖は生体にとって重要なエネルギー源で、血中濃度は消化管からの吸収、肝臓での代謝、末梢組織での利用、インスリンなどのホルモンによる調節など様々な因子の影響を受けていますので、これ等の因子のいずれかに破綻が起これば異常値を示します。健診では、糖尿病の特徴である慢性の高血糖状態を見つける目的で測定されます。
 糖は生体のあらゆる蛋白質と結合し、糖化蛋白質を作るので、高血糖が続くと糖化蛋白が増え組織に障害を起こします。糖尿病の合併症である糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、動脈硬化などは、糖化蛋白による組織障害の結果です。
 食物を摂取することで高値になりますので、採血は空腹時(採血前に10~14時間は水・お茶以外の飲食をしない)にします。糖尿病の治療中の場合は、検査当日の朝は血糖降下剤やインスリンは使わないでください。
 基準値は空腹時で70~110mg/dL、2時間値で140未満です。60以下と空腹時血糖126以上、随時血糖200以上は精密検査が必要です。

B)HbA1c(グリコヘモグロビン):
 赤血球中のヘモグロビンに糖が結合した糖化蛋白の一種で、一度、生成されると代謝で分解されるまで、血中に存在します。ヘモグロビンの寿命は2ヶ月であり、HbA1Cの値は、採血前1~2ヶ月の血糖値の平均値を反映しています。糖代謝異常の発見や糖尿病の経過観察、治療効果判定に使われます。 
 日本糖尿病学会のガイドラインでは空腹時血糖≧126mg/dL、HbA1c≧6.5%の両者を満たす場合は糖尿病と診断します。
 基準値はNGSP値で4.7~5.5%です。4.1以下、6.5以上は精密検査が必要です。

C)グリコアルブミン:
 糖化したアルブミンで、半減期が17日と短いため過去1~2週間の血糖値が推定できます。HbA1Cと同時測定することで、2ヶ月前から1週前迄の平均血糖値が推測出来ます。基準値は12.3~16.5%です。

D)尿糖定性:
 血中の糖の濃度が170mg/dLを超えると、糖は腎臓の糖排泄閾値をこえ尿中に出現します。この検査は、最も簡単な糖代謝異常のスクリーニング検査で、陽性の場合は、血糖値が170mg/dLを超える高血糖の時間帯があったことの証明になります。基準値は(-)です。

E)尿糖定量:
 定性試験で尿糖が陽性になれば、定量法でより正確に糖の量を測定します。24時間蓄尿中の一日尿糖排泄量を測定し、糖尿病のコントロールの指標として使います。基準値は45~85mg/日です。

15.糖負荷試験

 糖尿病を疑わせる症状があっても、空腹時血糖値や随時血糖ではっきりした診断が付かない場合、また軽度な高血糖があっても糖尿病の症状がない場合は、糖負荷試験をします。この検査は、75gのブドウ糖を経口摂取し1時間後、2時間後の血糖を測ります。

A)空腹時血糖:
 99mg/dL以下を正常または非糖尿病、100~125mg/dLを境界値または異常空腹時血糖、126mg/dL以上を糖尿病型とします。

B)血糖1時間値:
 糖尿病の高リスク群のスクリーニングに使います。180mg/dL以上の値が得られた場合は、糖尿病に移行する確率が高いので、境界型として扱います。

C)血糖2時間値:
 140mg/dL以下を正常または非糖尿病、140~199mg/dLを境界値または耐糖能異常、200mg/dL以上を糖尿病型とします。

D)空腹時尿糖・尿糖1時間値・尿2時間値:
 血糖値が170mg/dLを超えると尿糖は陽性になります。空腹時尿糖が陰性なら食前には血糖が170mg/dLを超えていないことを示唆し、陽性なら170mg/dLを超えた時間帯があったことが示唆されます。
 尿糖1時間値・2時間値が、陽性になれば、食後に血糖が170mg/dLを超えた時間帯があった証明になります。これらの値は糖尿病の治療状態の把握に使います。

E)糖負荷試験の結果判定:
 空腹時血糖、糖負荷後の1時間値、2時間値から正常型境界型、糖尿病型を判定します。

F)インスリン:
 インスリンは膵ランゲルハンス島β細胞で合成されたプロインスリンからC-ペプチドと共に産生され、血中の糖による分泌刺激があると血中に放出されます。生理的には肝での糖新生抑制、グリコーゲンの合成促進や脂肪合成、コレステロール合成、蛋白合成などを促進します。
 臨床的には糖尿病の病型分類、病態把握、治療薬選択に使われます。 1型糖尿病は、自己免疫異常により、インスリンを分泌する膵β細胞が破壊されますので、インスリンはきわめて低値となります。2型糖尿病では、空腹時のインスリン値は、軽度低下から軽度上昇まで様々で、経口ブドウ糖負荷試験でも、負荷後のインスリン反応は低下から過剰反応を示すものまであります。
 肥満者は、糖尿病の有無にかかわらず、多くの場合で、高インスリン血症となります。1以下、31以上は精密検査と治療が必要です。

16.腎泌尿器

A)尿素窒素:
 蛋白質の最終代謝産物である尿素中の窒素量を測定します。尿素は腎臓から尿中に排泄されますので、血中に増加していれば、腎臓の排泄機能の障害が推測出来ますので、腎機能障害のスクリーニング検査としてクレアチニンと共に測定します。
 ただし、尿素窒素は腎機能が7割程度低下してから初めて血中に増加しますので、腎機能低下の早期スクリーニングにはクレアチニンのほうが鋭敏です。 基準値は10~21mg/dLで、31以上は精密検査が必要です。

B)クレアチニン:
 筋肉細胞内で産生されるクレアチンの代謝産物で、腎糸球体で濾過され、尿細管から再吸収されずに尿中に排泄されます。腎機能検査としては、尿素窒素より感度と特異度が高い検査です。
 クレアチニンの上昇は、腎前性因子(脱水、ショック、心不全など)、腎性因子(糸球体腎炎、間質性腎炎)、腎後性因子(尿路閉塞など)で起こります。また、スポーツ選手などで、筋肉の増加があれば、軽度に上昇します。
 このように、クレアチニンは、筋肉量の違いにより男女差があり、基準値は男性:0.65~1.09mg/dL、女性:0.46~0.82mg/dLです。男性で1.10以上、女性で0.83以上あれば、精密検査が必要です

C)eGFR(推算糸球体濾過量):
 腎にある糸球体で1分間に濾過される尿量を糸球体濾過量といい、腎機能の指標の一つです。
 eGFRは、糸球体濾過量を血液中のクレアチニンと年齢から計算で推算する値で、腎障害の原因に関係なく、腎機能の低下を早期に見つけるために用いられます。
 基準値は60mL/min./1.73m²以上で、かつ尿蛋白が陰性の場合です。44.9以下の場合は精密検査が必要です。

D)尿pH:
 生体は生命維持のために血液のpHを7.35~7.45の狭い範囲に保つ必要があります。このバランスは、主として肺での呼吸と腎での電解質調節によって保たれ、健常人の尿は、pH6.0~6.5の弱酸性を維持しています。
 尿pHを見ることにより、大まかな生体内の酸塩基平衡の状態を知ることが出来ます。基準値は5.0~7.5です。

E)尿比重:
 血液浸透圧の恒常性を保つために、尿は水分量を増減させ、溶かしこむ固形成分の量をコントロールしています。尿比重検査は、尿中固形成分の量を見る簡易検査で、腎の濃縮機能検査として利用されます。基準値は1.005~1.030です。

F)尿蛋白:
 尿中には健常人でもごく微量の蛋白質(数十mg/日)が排泄されています。しかし尿中の量が150mg/日を超えれば病的蛋白尿であり、精査が必要となります。 病的蛋白尿をきたす疾患の多くは、腎疾患ですので、この検査は腎疾患のスクリーニングとして頻用されています。
 基準値は定性では(-)、定量では150mg/日未満です。(2+)~(4+)又は500mg/日以上は精密検査が必要です。

G)尿潜血:
 肉眼的に確認できない微量の血尿の検査法です。 腎糸球体から尿細管~腎盂~尿管~膀胱~尿道に至る尿路いずれの部位からの出血でも尿潜血は陽性となります。また、溶血によるヘモグロビン尿や筋融解によるミオグロビン尿でも尿潜血反応は陽性になります。
 この検査は、血尿を来たす糸球体腎炎、間質性腎炎、尿路感染、尿路結石、尿路腫瘍など様々な疾患のスクリーニングに用いられています。
 基準値は(-)で、(2+)以上は精密検査が必要です。但し、女性では月経血や膣分泌物の混入により陽性になることもあります。

H)ウロビリノゲン:
 ビリルビンが大腸内で細菌の働きで還元されて出来るもので、大部分は糞便中に、一部(10~15%)が尿中に排泄されます。血中ビリルビン増加、尿中ウロビリノゲン減少なら肝・胆道系の閉塞が疑われます。
 また、溶血、便秘、重症肝細胞障害などでは尿中に増加します。基準値は(±)で、(-)の場合は精密検査が必要です。

I)尿ビリルビン:
 尿ビリルビンは、水溶性の直接ビリルビンが尿中に排泄されたものです。赤血球は約120日の寿命で破壊されますが、赤血球中のヘモグロビンは、水に溶けない間接ビリルビンと水に溶ける直接ビリルビンになります。
 直接ビリルビンの大部分は胆汁中に排泄されますが、一部は血中に入り、血中の直接ビリルビン濃度が腎の排泄閾値(2.3g/dL)を超えると尿中に出現します。
 ウイルス性肝炎、肝内の胆汁うっ滞、閉塞性黄疸、体質性黄疸などで血中の直接ビリルビンが増加すると尿ビリルビンは陽性になります。
 基準値は(-)で感度は0.8mg/dLです。(1+)以上は精密検査が必要です。

17.尿沈渣

 尿を遠心し、沈殿した有形成分の種類と量を顕微鏡で観察し、腎や尿路系の異常の有無や程度を判断する検査です。

A)赤血球:
 大部分の腎・尿路系疾患や出血性疾患で陽性となります。基準値は、顕微鏡400倍視野(HPF)で5個未満です。10/HPF以上あれば精密検査が必要です。尿1,000ml中に1ml以上の血液が混入すると、肉眼的に尿が赤く見える肉眼的血尿になります。

B)白血球:
 腎・尿路系の炎症性疾患、特に尿路感染症で増加します。基準値は5/HPF未満で、10個以上あり、かつ、排尿痛、頻尿、残尿感、下腹部不快感などの臨床症状を伴えば異常とし、精密検査が必要です。

C)円柱:
 尿中には、形態学的に10種を越す円柱が見られ、その種類と量で腎・尿路系疾患の診断が可能となります。健常人は少量の硝子円柱を除いて円柱は見られません。 硝子円柱以外の円柱が見られた場合は、腎の実質障害が考えられますので、腎・泌尿器科の受診が必要です。

D)結晶:
 尿のpHに応じて出現する結晶は異なります。アルカリ尿では、リン酸塩、尿酸アンモニウムが、また酸性尿では、尿酸、尿酸塩、シュウ酸カルシウムなどが日常的に良く見られますが、臨床的意義は殆どありません。

E)細菌:
 尿路感染症の存在や治療効果の判定に用います。健常人でも細菌が見られることがありますが、5個/HPF未満なら正常とし、5個以上なら有意な細菌尿とします。

F)トリコモナス:
 原虫Trichomonas vaginalisによる性行為感染症で、女性では帯下を主訴とする腟炎、男性では軽度の尿道炎、膀胱炎、前立腺炎の原因となります。
 女性では不顕性感染も多く、約50%は無症状です。パートナーがいる場合は、相互に感染する、ピンポン感染が起こりますので、パートナーの検査は必須です。

18.電解質

 血液中の電解質は、神経の刺激伝導、酸塩基平衡や浸透圧の維持など、生命維持に欠かせない働きをしています。
 血液中には、主に陽イオンとしてNaとK、また陰イオンとしてClがあり、陽イオンと陰イオンの総和は等しいため、主たる陽イオンと陰イオンの量を測定すると、電解質のバランスが判ります。

A)Na(ナトリウム):
 細胞外液中の陽イオンの90%を占め、水の分布、酸塩基平衡や浸透圧の維持に重要な働きがあり、副腎皮質ホルモンで調節されています。
 基準値は135~145mEq/Lで、134以下、146以上は精密検査が必要です。日常生活で、十分な食事と水分を取っている場合は、Naの異常は稀です。

B)K(カリウム):
 細胞内液中の陽イオンの大部分を占め、その殆どは赤血球に含まれています。酸塩基平衡や浸透圧の調節をしていますが、神経・筋肉の興奮、特に心筋の活動をコントロールしていますので、低・高K血症は直接生命に関係します。2.5mEq/L以下又は6.0mEq/L以上を示したときは緊急の処置が必要です。
 基準値は3.5~5.0mEq/Lで、3.5未満、5.1以上は精密検査が必要です。Kは腎からの排泄能がきわめて大きいので、腎機能が中等度以上に障害されない限り、Kの過剰摂取だけで高K血症となることはまずありません。

C)Cl(クロール):
 細胞外液中の陰イオンの70%を占め、他の陽イオン・陰イオンと相互関係により、酸塩基平衡と浸透圧の調節をしています。
 基準値は98~108 mEq/Lで、98未満、109以上は精密検査が必要です。

D)Ca(カルシウム):
 99%は骨に含まれていますが、イオン化したCaは酵素活性、血液凝固、筋収縮、神経刺激伝導の必須元素です。基準値は8.6~10.5mg/dLで、8.6未満、10.6以上は精密検査が必要です。

E)P(無機リン):
 生体内にCaに次いで多い無機物で、80~90%は骨に存在します。Caと共に骨代謝の異常を知るために測定しますが、血清中では生理作用がないため値が変動しても症状はありません。
 基準値は2.5~4.5mg/dLで、2.5未満、4.6以上は精密検査が必要です。

19.腫瘍マーカー

 がんは多くの種類がありますが、がんの中には腫瘍マーカーと呼ばれる特殊な物質を産生するものがあります。このうち、血液中に分泌され、測定可能なものが「腫瘍マーカー検査」として使われています。
 しかし、臨床の場で測定されている腫瘍マーカーは、進行したがんの動態把握や治療効果の判定に、画像診断や組織診断などと組み合わせて、補助診断の一つとして使われているのが現状で、健診で、確実にがんの早期診断に使えるマーカーはありません。
 判定にはカットオフ値を使います。カットオフ値は、基準値と異なり特定の疾患に罹患した患者群と非患者群を分ける値です。

A)CEA(癌胎児性抗原):
 肺、胃、大腸など内胚葉由来のがんで増加し、進行した結腸・直腸がん患者の70%以上で陽性となります。早期がんでは、陽性率は低いため、がん再発のモニタリングに使われます。
 ただし、喫煙者、特にヘビースモーカーは、基準値の2倍程度の異常値を示すことがあり短期間の禁煙では低下しません。また、高齢者、糖尿病、自己免疫疾患でも高値になります。カットオフ値は5.0ng/mL以下で、11以上は精密検査が必要です。

B)AFP(α-フェトプロテイン):
 肝細胞がんの組織で特異的に産生されるため、肝臓がんの補助診断、経過観察に使われますが、肝硬変や慢性肝炎でも高値となります。また、この蛋白は胎児も産生するため、妊娠後期の女性では高値を示します。
 カットオフ値は10.0ng/mL以下で、20.0以上は精密検査が必要です。

C)PSA(前立腺特異抗原):
 前立腺組織に存在し、前立腺肥大症や前立腺がんで高値になるため、前立腺がんのスクリーニングとして使われています。健診では4.100~10.000ng/mLをグレイゾーンとし泌尿器科による精密検査を薦めています。
 外来で発見される前立腺がんの約40%は、転移癌ですが、健診で発見される前立腺がんの約60%は、早期がんという報告があります。
 カットオフ値は4.000ng/mL以下で、4.001以上は精密検査が必要です。

D)CA125:
 ヒト卵巣がん関連抗原で、進行した卵巣がんの80%、膵がんの50%で高値となりますが、子宮内膜症や良性の卵巣腫瘍でも高値になります。また、性周期によって変動し月経期や妊娠初期でも高値になります。
 卵巣がんのマーカーとして測定されますが、子宮内膜症でも80%が高値を示すので、子宮内膜症の診断に有用とされています。
 カットオフ値は35.0U/mL未満です。35.1以上は精密検査が必要です。

E)CA19-9:
 膵臓がんのマーカーとして開発されましたが、健診の検査としては不適で、膵臓がんの治療効果判定に使われています。また、膵臓以外の消化器系腫瘍でも高値になるため、消化器系腫瘍の補助診断としても使います。カットオフ値は37.0U/mL以下です。

F)エラスターゼ1:
 膵臓から分泌される蛋白分解酵素で、膵炎を伴う膵臓がんで高値になることから膵疾患の診断、経過観察に用いられます。また、膵臓がんではCA19-9より早期に高値となるので、CA19-9と共に補助診断に使われます。
 カットオフ値は100~400ng/dLで、99以下、401以上は精密検査が必要です。

G)TPA(組織ポリペプチド抗原):
 TPAは、様々な悪性腫瘍の細胞膜や細胞質内小胞体に存在する共通抗原として同定されたポリペプチドで、乳癌、肺癌、胃癌、大腸癌、原発性肝癌、胆道癌、膵癌など、多くのがんで高値になります。
 TPAはまた、妊娠、多量の飲酒、膵炎、肝炎、肝硬変、腎不全などでは高値となることがあります。基準値は70U/L未満で、71以上は精密検査が必要です。

H)NSE(神経特異エノラーゼ):
 神経組織に特異的に存在する酵素の一つで、臨床的には神経組織の腫瘍を疑う場合に測定しますが、肺小細胞がんでも陽性になるためシフラ21-1と組み合わせて肺がんのマーカーとして測定されます。
 カットオフ値は9ng/mL未満で、10以上は精密検査が必要です。

I)SCC抗原(扁平上皮癌関連抗原):
 SCC抗原は健常者の血中にもわずかに存在しますが、子宮頸部、肺、食道、頭頸部などの扁平上皮癌患者血清中に出現します。
 臨床的には子宮頸部扁平上皮癌のマーカーとして高い陽性率を示し、しかも腺癌、未分化癌、子宮体癌、卵巣癌の陽性率が低いことから子宮頸癌マーカーとして有用性が高い検査とされています。
 基準値は1.5ng/mL未満で、1.6以上は精密検査が必要です。

J)シフラ21-1:
 肺がんの85~90%を占める肺非小細胞がんのマーカーで、非小細胞がんの代表である扁平上皮がんでは、ステージⅠでも60~70%の陽性率を示すとされています。
 このマーカーは、初期の扁平上皮がんでも陽性を示すことがありますので、異常値を示したら精密検査が必要です。
 カットオフ値は3.5ng/mL以下です。3.6以上は精密検査が必要です。

カットオフ値 肺がん 胃がん 大腸がん 膵臓がん
CEA5.0以下(ng/mL)
NSE9未満(ng/mL)
シフラ21-13.5以下(ng/mL)
エラスターゼ1 100 ~400(ng/dL)
カットオフ値 膵臓がん 肝臓がん 前立腺がん 卵巣がん
CA12535.0以下(U/mL)
CA19-937.0以下(U/mL)
AFP10.0以下(ng/mL)
PSA4.000以下(ng/mL)

20.甲状腺機能

A)TSH(甲状腺刺激ホルモン):
 下垂体前葉から分泌され、甲状腺ホルモンの分泌を調整しているホルモンの一種です。
 甲状腺機能は甲状腺ホルモンが増加するとTSHが減少し、反対に減少すると増加するというネガティブフィードバック機構によって調節されています。この検査は、甲状腺の障害を知るのに有用な検査です。
 基準値は0.523~4.190μIU/mL、0.522以下、4.191以上は精密検査が必要です。

B)FT3(遊離トリヨードサイロニン):
 甲状腺ホルモン作用を発揮する活性化ホルモンで甲状腺機能異常や甲状腺機能亢進症の診断、甲状腺疾患の治療効果のモニタリングとして測定されます。
 基準値は2.0~4.0pg/mLで、1.9以下、21.0以上は精密検査が必要です。

C)FT4(遊離サイロキシン):
 総サイロキシンのわずか0.03%を占めるに過ぎませんが、甲状腺機能の最も信頼できる指標とされていますので、甲状腺機能異常を疑う全ての症例で測定されます。
 基準値は0.9~1.8ng/dLです。0.4未満、8.1以上は精密検査が必要です。

21.乳房

A)乳房診:
 健診と外来での早期乳ガンの発見率を比較した報告では、健診時の発見率が優位に高いとされています。しかし健診時に発見される乳がんのうち、早期乳がんは全乳がんの50%を超えていません。
 特に、触診単独での乳がん検査は、乳がんの発見には不充分なため、超音波や必要に応じてマンモグラフィーを併用することが大切です。

B)乳房超音波検査所見

  1. 乳腺症:性ホルモンのバランスによって発症する、最も頻度の高い乳腺疾患です。30歳代~閉経期に起こりやすく、痛みを伴うことが多く、多くの場合両側に生じ、乳腺がしこり状に硬く触れます。
     視診や触診だけでは良性・悪性の判断が困難なので、画像検査が必要です。
  2. 乳腺のう胞:乳腺症の症状の一つで、乳腺内に液体が溜まった状態です。良性所見ですので問題はありません。
  3. 線維腺種:若い女性に多く見られる良性の腫瘤で、コリコリと動くしこりとして触れます。大きさや形の変化がないか経過観察が必要です。

C)マンモグラフィー検査所見

  1. 脂肪性乳腺:乳腺がほぼ完全に脂肪に置き換えられた状態を脂肪性乳腺といいます。高齢の女性や多授乳女性に見られる所見です。
  2. 乳腺散在:脂肪に置き換えられた乳房内に、乳腺実質が散在している状態で、中高年の女性と多授乳の女性に見られる所見です。
  3. 不均一高濃度乳腺:乳腺実質内に脂肪が混在し、不均一な濃度を呈している状態です。40~50代の閉経前から閉経周辺期の女性に見られます。
  4. 高濃度乳腺:乳腺実質内に脂肪の混在が殆どない状態で、マンモグラフィーでは病変の検出率が低くなるため、超音波検査が必要です。30~40代の閉経前の女性に多く見られる所見です。
  5. 石灰化陰影:増殖したがん細胞が乳管内腔に集まると、中心部のがん細胞の血流が少なくなり、栄養不足になったがん細胞は壊死します。
     この壊死したがん細胞にカルシウムが沈着することを石灰化といいます。ただし、石灰化のうち乳がんによるものは、約20%と言われています。
     良性の石灰化は、乳管分泌物にカルシウム沈着したものや線維腺腫でも見られます。このように、乳房内の石灰化は、大きさや形状によって良性と、悪性との鑑別診断が必要になる場合がありますので、超音波検査やMRIなどの検査が必要です。
  6. 非対称性乳房組織:反対側の乳房組織と比較すると、大きさや濃度が異なっている状態で、大きさや濃度によっては精密検査が必要となる場合がります。
  7. 局所的非対称性陰影:非対称性の陰影として描出されるもので、腫瘤のように境界や濃度を持ちません。形状によっては精密検査が必要になる場合もあります。

22.婦人科

A)子宮頸部細胞診:
 婦人科領域で健診の対象となるがんの代表は、子宮頸がんです。診断は膣鏡を挿入し、綿棒で子宮頸部を擦過して採取した細胞成分をスライドガラスに塗布し、染色後、顕微鏡的にがん細胞や異型細胞などを観察し分類します。
 細胞診で異常が見つかれば、細胞診の再検査、ヒトパピローマウイルス検査、コルポスコピー生検(膣拡大鏡診)、頸管および子宮内膜細胞診・組織診を行います。
 また、子宮頸がんの発症には、ヒトパピローマウイルス(HPV)のハイリスク型の持続感染が必須です。このため、細胞診で「意義不明な異型扁平上皮細胞」と判定された場合は、得られた擦過細胞を使い、ハイリスクであるHPV16、18型を中心に検査を行います。
 また、近年は子宮頸部の腺がんと頸がんの若年発症が増加傾向にあります。このがんは健診での検査が、発見と死亡率の減少に効果があることが証明されていますので、20歳以上の女性は2年に1回の細胞診検査を受けることが推奨されています。
 ヒトパピローマウイルス(HPV)は現在100種以上知られていますが、子宮がんの発症に関係するハイリスク型は13種あり、これらの型のウイルスの持続感染が癌発症の一因とされています。検査は細胞診と同時に採取した擦過細胞で行います。

B)子宮内膜細胞診:
 子宮内膜から発生する子宮体がんは、近年その増加が著しく、子宮がん全体の50%を占めると言われています。好発年齢は、閉経期以降で、ピークは50歳代です。

C)超音波検査:
 経膣式と経複式があり、良性卵巣腫瘍、悪性卵巣腫瘍、子宮筋腫、子宮内膜症などを調べます。

D)婦人科検査所見

  1. 子宮筋腫:子宮の平滑筋から発生する婦人科で最も頻度の高い良性腫瘍です。40歳以上に好発し、性成熟期の女性の20~50%に見られます。過多月経、月経困難症、不妊症などの原因となります。
     合併症として過多月経による鉄欠乏性貧血があり、ヘモグロビン値が10g/dL以下になります。健診で鉄欠乏性貧血と診断されたら婦人科の検査も必要です。
  2. 子宮内膜症(子宮腺筋症):子宮内膜が、子宮以外の部位で増殖、発育する良性の慢性疾患で、性成熟期の女性の10%が罹患するといわれています。月経痛、慢性骨盤痛、性交痛などの疼痛と不妊をもたらすことでQOLを著しく損ねます。超音波、CA-125 値、MRIなどで診断します。
     子宮内膜症のうち卵巣子宮内膜症は、チョコレート嚢胞と呼ばれ0.7%の確率で悪性化しますので経過観察が必要です。
  3. 子宮頸管ポリープ:子宮頸管粘膜からポリープ状に発育した良性の腫瘍で、多くは無症状ですが、不正出血、性交時の出血、異常帯下の原因になることもあります。
  4. 卵巣腫瘍:卵巣からは多種類の良性腫瘍、境界型悪性腫瘍、悪性腫瘍が発生しますが、卵巣の解剖学的位置関係から症状が無いことが多く、悪性腫瘍の場合は、発見される腫瘍の約半数が進行がんで見つかります。
  5. 子宮頸がん:子宮頸がんの多くは、子宮頸部の扁平上皮-円柱上皮部より発生すると考えられています。このがんの発生には、ヒトパピローマウイルスの感染が深くかかわっています。
  6. ヒトパピローマウイルス(HPV)検査:子宮頸がんは、発癌性のあるヒトパピローマウイルスの長期にわたる感染が原因で引き起こされます。90%のHPV感染は、自然に消滅しますが、残り10%のウイルスは、長期にわたり持続的に感染しますので、将来、子宮頸がんが発生する可能性があります。
     この検査は100種類以上あるHPVのタイプからハイリスク型のHPVの感染の有無を知る検査です。
     細胞診は、がんの発見率は高いのですが、前がん状態の20~30%を診断が困難です。これに対し、HPV検査は、がんの原因ウイルスの検査なので精度が優れています。細胞診とHPV検査を併用することで、診断の精度をほぼ100%にまで上げることが出来ます。

23.脳ドック

  1. 頭部MRI:磁気共鳴装置を使い、頭部と頭蓋内の断層写真を撮影する検査です。主に脳(大脳、小脳、脳幹)を調べますが、頭蓋骨、脊髄、下垂体、内耳、副鼻腔、眼窩などの観察にも有用です。
     この検査では、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍などが見つかりますが、脳全体の萎縮や浮腫なども分かります。また、加齢や動脈硬化により起こりやすい、虚血性変化も見つかります。
  2. 頭部MRA:磁気共鳴装置で、頭部の血管の状態を立体画像化する検査です。くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤や脳梗塞の原因となる頭蓋内の主幹動脈狭窄の発見などに役立ちます。
     また、脳動脈硬化や動脈の狭窄、拡張、動脈瘤の確認に有用で、動脈瘤は数ミリ程度の微少なものも発見することが出来ます。病変が見つかれば、その状態に応じて経過観察か治療に進みます。

24.頸動脈

  1. 頸動脈エコー検査:脳に血液を送る首の動脈を超音波で観察し、血管壁の厚み、血流の速さ、狭窄の有無などから血液の流れ具合、動脈硬化の程度、血管壁の隆起物(プラーク)の有無などを調べます。
     動脈硬化の早期発見や進行具合が確認出来るので、生活習慣の改善に役立つ指標となります。

25.骨密度

 骨密度は骨の強さを判定するための指標です。骨密度検査では、骨の中にカルシウムなどのミネラルがどの程度あるかを測定し、若い人の骨密度の平均値と比べて自分の骨密度が何%であるかを表します。
 骨密度検査は、骨の健康を知る上で重要な検査です。特に女性は症状が無くても、40歳以上になったら定期的に骨密度を測ることが勧められています。
  1. DXA法:2種類のX線を使って、全身の殆どの骨を測ることが出来ます。 一般的に腰の骨(腰椎)や脚のつけ根(大腿骨近位部)の骨密度を正確に測ることが出来ます。
  2. 超音波法:かかとやすねの骨に超音波を当てて測定します。 骨粗しょう症の検査に用いられることが多く、X線を使用しないため、妊娠中でも検査が出来ます。
  3. MD法:X線を使って、手の骨と厚さの異なるアルミニウム板とを同時に撮影し、骨とアルミニウムの濃度を比べることによって測定します。
 骨密度の低下が認められた場合は、食事や運動に注意が必要です。若年成人比較が80%未満の場合は、精密検査が必要ですので、整形外科を受診してください。

26.サルコペニア検査

 サルコペニアとは、加齢により筋肉量が減少することです。この検査では、筋肉量、筋肉機能(筋力・運動能力)と骨密度を調べます。
 サルコペニアと骨粗しょう症が進行すると、日常生活で活動性の低下や転倒による骨折が起こり易くなり、車いすや寝たきりの状態になります。異常値が認められたら、定期的な検査、食事療法、適度な運動などが必要です。
 また、骨を丈夫にするカルシウム代謝に関係する、ビタミンDの測定も行います。

27.LOX-index

 OX-indexは、脳梗塞・心筋梗塞発症リスクを評価する指標の一つで、日本国内で行われた、約2,500名を約11年追跡した研究が基礎になっています。この研究から、sLOX-1(血中に放出されたLOX-1)とLAB(LOX-1 ligand containing ApoB)から得られる解析値が、今後10年以内の脳梗塞・心筋梗塞発症率に大きく関与する事がわかりました。
 Lox-indexが高いと脳梗塞発症率が約3倍、心血管疾患発症率が約2倍となることが分かりましたので、脳ドックや循環器内科での精密検査や生活習慣の改善への意識改革に役立てます。
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