疾患解説
フリガナ | コウジョウセンガン |
別名 | 悪性腫瘍(甲状腺) |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Cancer of Thyroid |
ICD10 | C73 |
疾患の概念 | 甲状腺原発の悪性腫瘍で、1.乳頭癌、2.濾胞癌、3.髄様癌、4.未分化癌の4種がある。罹患率は、乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌の順で、中年女性(男性より女性に2倍多い)に好発し、大半の甲状腺癌は無症候性の結節として発症する。髄様癌、未分化型を除いては悪性度が低い。未分化癌は、悪性度が高く、治療に対する反応も不良で急速に死の経過をたどる。また、20歳以下と65歳以上に発症した甲状腺癌は予後が悪い。乳頭癌は、全甲状腺癌の70~80%を占め、女性:男性の比率は3:1で、5%の症例が家族性である。大半の患者は、30~60歳で発症するが、高齢の患者はより進行が速い。1/3の患者は、リンパ行性にリンパ節に広がるが、肺に転移する場合もある。濾胞癌は全甲状腺癌の約15%を占め、高齢患者およびヨウ素欠乏地域でより頻度が高く、乳頭癌よりも悪性度が高く、血行性に転移する。髄様癌は、全甲状腺癌の約3%を占め、カルシトニンを産生する傍濾胞細胞(C細胞)からなり、しばしば家族性で、ret癌原遺伝子の変異が原因である。髄様癌は、ホルモンまたはACTH、VIP、プロスタグランジン類、カリクレイン類、セロトニンの異所性産生を伴うことがあり、この場合劇的な生化学所見を呈する。未分化癌は、分化していない癌で、全甲状腺癌の約2%を占め、主に高齢患者に発症し、女性でやや頻度が高い。腫瘍は急速かつ有痛性の腫大を特徴とし、効果的な治療法はなく、致死的で、約80%の患者は診断から1年以内に死亡する。 |
診断の手掛 | 大半の患者は、無症候性の甲状腺結節が認められる。髄様癌は、カルシトニンがマーカーとなるが、ホルモンやペプチド(ACTH、VIP、プロスタグランジン類、カリクレイン類、セロトニン)の異所性産生を伴うと随伴症状を示す。このため潮紅、下痢、疲労などの症状を訴える患者が多い。髄様癌患者の約5%はクッシング症候群を発症する。 |
主訴 |
嚥下障害|Dysphagia 喀血|Hemoptysis 甲状腺結節|Thyroid nodule 甲状腺腫|Thyroid enlargement/Goiter 呼吸困難|Dyspnea 誤飲|Accidental ingestion 誤嚥|Accidental ingestion/Foreign body aspiration 嗄声|Hoarseness リンパ節腫脹|Lymphadenopathy |
鑑別疾患 |
甲状腺炎 甲状腺腫 橋本甲状腺炎 腺腫様甲状腺腫 亜急性甲状腺炎|Subacute Thyroiditis Werner症候群 |
スクリーニング検査 |
CEA|癌胎児性抗原 [/S] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/S] Transferrin|トランスフェリン [/S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] |
異常値を示す検査 |
Antithyroglobulin Antibodies|抗サイログロブリン抗体/サイロイドテスト [/S] Calcitonin|カルシトニン [/S] Thyroglobulin|サイログロブリン/チログロブリン [/S] Thyroxine Binding Globulin|サイロキシン結合グロブリン/チロキシン結合グロブリン [/S] Tissue Polypeptide Antigen|組織ポリペプチド抗原 [/S] |
関連する検査の読み方 |
【Ca負荷試験】 髄様癌の最良の検査で、Ca負荷によりカルシトニンの過剰分泌が誘発される。 【CEA】 髄様癌で増加し、腫瘍の大きさと相関する。また、再発の有用なマーカーである。 【K-ras遺伝子】 K-ras condon12変異を認める。K-ras遺伝子は細胞内の癌遺伝子の一つで、癌を疑う患者から採取した組織を用いて遺伝子構造異常や遺伝子点突然変異の有無をみる。K-ras遺伝子は細胞内の癌遺伝子の一つで、癌を疑う患者から採取した組織を用いて遺伝子構造異常や遺伝子点突然変異の有無をみる。 【p53遺伝子】 遺伝子変異を認める。p53遺伝子の変異はヒトのあらゆる組織の腫瘍で認められる。変異は多くの場合17番染色体短腕(17p)の一方のアレル欠失と点突然変異である。この遺伝子の変異はヒトのあらゆる組織由来の腫瘍で認められる。臨床的には癌の悪性度の評価や予後推定に有用である。 【エストロゲンレセプター】 陽性である。ERはERαとERβの2種が知られており、エストロゲン標的細胞の核内に存在しエストロゲンはこの標的細胞と結合すると生理作用を発現する。受容体は乳腺、子宮内膜、中枢神経系、血管平滑筋などに広く分布している。ERαは乳癌、子宮体癌、甲状腺癌、髄膜腫などに局在することが知られている。 【カルシトニン】 髄様癌で増加する、疑わしい場合はCaやペンタガストリンによる刺激試験を行う。CTは甲状腺C細胞から分泌されるペプチドホルモンで、破骨細胞の活性を抑制し血中Ca濃度を低下させる働きがある。CTは半減期が短いため、C細胞由来の髄様癌から大量に分泌される場合以外は血中濃度が高くなる頻度が少ないので高カルシトニン血症を見たら甲状腺髄様癌を強く疑う。また、肺小細胞癌やCarcinoid腫瘍などで、異所性に産生される場合もあるので注意する。臨床的にはC細胞由来の悪性腫瘍である甲状腺髄様癌の診断、経過観察に使われる。 【抗サイログロブリン抗体】 陽性である。甲状腺濾胞コロイドの主要構成成分であるサイログロブリンは甲状腺ペルオキシダーゼの作用で甲状腺ホルモンを生成する。TG Abは自己免疫性甲状腺疾患で高い陽性率を示し、その診断に有用性がある。陽性率は橋本病で75~90%、Basedow病で60~80%とされている。健常成人の10%は陽性を示し、加齢とともに陽性率が上昇するので、この検査のみで自己免疫性甲状腺疾患を診断するのは危険である。また、本抗体陽性の妊婦の2/3は出産後に甲状腺機能異常を生じるので、陽性者の経過観察を慎重に行う。 【サイログロブリン】 分化癌では殆どの患者で増加するが、未分化癌や髄様癌では増加しない。 【髄様癌の異所性産生】 髄様癌でACTH、VIP、プロスタグランジン類、カリクレイン類、セロトニンなどの異所性産生を伴うと劇的な随伴症状を呈する。 【組織ポリペプチド抗原】 増加する。TPAはサイトケラチンを認識するモノクローナル抗体で検出される非特異的腫瘍マーカーである。悪性腫瘍で増加し腫瘍の進行度と関連するとされている。臓器特異性に乏しく良性疾患でも陽性を示すため早期診断には不適であるが、転移の確認、治療効果判定などに用いられる。 【遺伝子検査】 髄様癌患者は全員遺伝子検査を行うべきである。 |
検体検査以外の検査計画 | 頸部軟X線検査、胸部X線検査、超音波検査、甲状腺シンチグラフィ、頚動脈エコー検査 |