疾患解説
フリガナ | アキュウセイコウジョウセンエン |
別名 |
de Quervain甲状腺炎 巨細胞性甲状腺炎 肉芽腫性甲状腺炎 ウイルス性甲状腺炎 |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Subacute Thyroiditis |
ICD10 | E06.1 |
疾患の概念 | ウイルス感染による甲状腺の有痛、または無痛の急性非化膿性炎症性疾患で、嚥下障害を伴う。初期には、甲状腺機能亢進症が良く見られ、時に、それに続いて甲状腺機能低下症が一過性に見られる期間がある。HLA-B35やHLA-B67が疾患感受性で、若年、中年女性(30~50歳)の罹患が最も多い。病理組織学的には、特徴的な巨細胞浸潤、多核白血球と濾胞破壊像が見られる。 |
診断の手掛 |
ウイルス感染が先行した、37.8~38.3℃の発熱がある患者が、左右に移動する前頸部の疼痛、甲状腺の圧痛を訴えたら本症を疑う。頸部痛は、しばしば下顎や耳に放散するので、歯痛、咽頭炎、耳炎などとの鑑別が必要である。本疾患は、通常数ヶ月以内に自然に消失することが多いが、数ヶ月に亘り持続するか再発を繰り返すこともある。 【診断基準:2013年日本甲状腺学会】 a)臨床所見:有痛性甲状腺腫 b)検査所見:1.CRPまたは赤沈値高値 2.遊離T4高値、TSH低値(0.1μU/mL以下) 3.甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域 亜急性甲状腺炎診断:a)およびb)の全てを有するもの 亜急性甲状腺炎の疑い:a)とb)の1および2 除外規定:橋本病の急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌 【付記】1.上気道感染症の前駆症状をしばしば伴い、高熱を見ることも稀ではない。 2.甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する。 3.抗甲状腺自己抗体は高感度法で測定すると未治療時から陽性になることもある。 4.細胞診で多核巨細胞を認めるが、腫瘍細胞や橋本病に特有の所見を認めない。 5.急性期は放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下を認める。 |
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 咽頭痛|Pharyngodynia 嚥下障害|Dysphagia 感冒様症状|Symptomes of common cold 筋肉痛|Myalgia 甲状腺腫脹|Swelling of thyroid gland 弛張熱|Remittent fever 手指振戦|Finger shivering 前頸部腫脹|Swelling of anterior neck 前頸部痛|Anterior region of neck pain 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 体重減少|Weight loss 多汗|Hidrosis/Hyperhidrosis 動悸|Palpitations 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever やせ|Weight loss |
鑑別疾患 |
咽頭炎 甲状腺癌|Cancer of Thyroid 甲状腺機能亢進症|Hyperthyroidism 橋本甲状腺炎 無痛性甲状腺炎 急性化膿性甲状腺炎 バセドウ病 |
スクリーニング検査 |
Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Free Triiodothyronine|遊離トリヨードサイロニン/フリーT3/遊離T3/遊離トリヨードチロニン [/S] Free Thyroxine|遊離サイロキシン/遊離T4/フリーT4/遊離チロキシン [/S] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Sodium|ナトリウム [/S] Thyroxine (T4)|総サイロキシン/総T4/サイロキシン/チロキシン [/S, /S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] Thyroid Stimulating Hormone|甲状腺刺激ホルモン [/S, /S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
Antithyroglobulin Antibodies|抗サイログロブリン抗体/サイロイドテスト [/S] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S] Glycated Protein|糖化蛋白 [/S] Immunoglobulin D|免疫グロブリンD [/S] Soluble CD25+ [/S] Thyroxine Binding Globulin|サイロキシン結合グロブリン/チロキシン結合グロブリン [/S] T3-Uptake|トリヨードサイロニン摂取率/トリオソルブテスト/T3摂取率 [/S] 131 I Uptake|131 I摂取率/放射性ヨウ素摂取率 [/S] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 白血球が軽度に増加する。 【FT4】【FT3】 FT4は3ng/dL以上に、FT3は7pg/mL以上に増加する。FT4は総サイロキシン量のわずか0.03%であるが、標的細胞に入りトリヨードサイロニンに転換後、甲状腺ホルモンとして生理作用を発揮することから、血中FT4濃度は甲状腺機能の最も信頼できる指標といえる。臨床的には甲状腺の機能を直接的に示す指標であることから、甲状腺機能異状が疑われる全ての疾患で測定される。異常値を見た場合は遊離T3、TSH、TGBを測定する。FT3は総トリヨードサイロニンのわずか0.3%であるが、甲状腺ホルモン作用を発揮する活性型ホルモンで標的細胞のT3受容体に結合して生物学的作用を発現する。T3の80%はT4の脱ヨード反応で生成されるので、T3測定は末梢組織でのT4代謝の指標にもなる。 【T3:T4比】 20以下になりGraves病との鑑別点の一つとなる。 【T3摂取率】 甲状腺ホルモンが増加するときに高値になる。RT3Uは甲状腺ホルモン結合蛋白(TBG)のT4不飽和結合能を知るもので、甲状腺ホルモン濃度と結合蛋白量および結合能の変化を同時に知ることが出来る。両者の間には「遊離T4index=総T4×T3摂取率」の関係が成立している。現在、TBGやT4は直接測定されているのでこの検査の意義が薄れつつある。臨床的には甲状腺機能異常を疑うとき、またTBGの量的・質的異常を疑うときに測定する。 【TSH】 0.02~0.1mIU/L程度のことが多い。TSHは下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン産生細胞から分泌される糖蛋白で、甲状腺ホルモン(T3、T4)により産生が抑制される。このホルモンの甲状腺刺激作用と甲状腺ホルモンによる視床下部と下垂体へのnegative feedbackにより甲状腺機能の恒常性が維持されている。臨床的には甲状腺機能異常が疑われる全ての症例について、甲状腺ホルモンと同時に測定する。異常値を認めたらFT4、FT3、甲状腺自己抗体、サイログロブリンを測定する。 【TSH作用阻害抗体】 基準範囲内にとどまる。 【TSH刺激性レセプター抗体】 軽度~中等度に上昇することがある。 【抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体】 軽度に陽性のことがある。 【抗サイログロブリン抗体】 軽度に陽性のことがある。 【サイログロブリン】 基準範囲上限以上のこと多いが、甲状腺組織の破壊により高値のこともある。 【ESR】【CRP】 赤沈は40mm/1時間以上亢進し、時に100mm/1時間以上になり、CRPも高値になる。 【インターロイキン6】 甲状腺中毒期には増加する。 【ビタミンA】 高値のことがある。 【甲状腺機能検査】 約6ヶ月にわたり3つの時相1.甲状腺機能亢進期2.甲状腺機能正常期3.甲状腺機能低下期4.回復期を経過するのが特徴である。 【甲状腺機能亢進期】 T4とfT4は増加、T3は中等度に増加するためT3:T4比は<20:1になる。TSHは極めて低値となりTRHへの反応もなくなる。ESRは著しく亢進する。 【正常期】 放射線ヨウ素摂取率は低値、TSHは基準範囲内になる。 【機能低下期】 TSHが上昇する。 【回復期】 放射性ヨウ素の摂取率回復が最初の指標になり、基準範囲内に戻る。甲状腺ホルモンの値とTSHは基準範囲に戻る。 【甲状腺生検】 確定診断に用いる。巨細胞や多核白血球の浸潤、濾胞の破壊を認める。 |
検体検査以外の検査計画 | 甲状腺超音波検査、甲状腺超音波断層検査 |