疾患解説
フリガナ | ビタミンKケツボウショウ |
別名 | |
臓器区分 | 代謝性疾患 |
英疾患名 | Vitamin K Deficiency |
ICD10 | E56.1 |
疾患の概念 | ビタミンKは、肝において凝固第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子の生合成と、骨でのオステオカルシン合成に関与している。摂取不足、長期間に亘る経口栄養摂取、抗菌薬治療、クマリン系抗凝固薬使用により欠乏症を発症する。ビタミンKは、緑色野菜に多く含まれ、また腸管に生息する細菌がメナキノンを合成するので、健常人では、食事によるビタミンK欠乏症は稀であるが、胆道閉塞、吸収不良、嚢胞性線維症、小腸の切除などが、ビタミンK欠乏症の一因となる可能性がある。クマリン系抗凝固薬は、肝臓でのビタミンK依存性凝固因子(第II、VII、IX、X因子)の合成を阻害する。また、一部のセファロスポリン系や他の広域抗菌薬、サリチル酸、大用量のビタミンE、および肝不全は、ビタミンK欠乏症患者の出血リスクを高める。 |
診断の手掛 | 鼻出血、消化管出血、月経過多、血尿などの粘膜出血や、穿刺または切開した部位から染み出るような出血を訴える患者を診たら本症を疑う。出血が通常みられる臨床症状で、紫斑ができやすい状態および鼻出血、消化管出血、過多月経、血尿が見られ、穿刺部または切開部から血液がしみ出ることがある。新生児と乳児では、皮膚、消化管、胸腔内の出血が起こり、最悪のケースでは頭蓋内出血を見ることもある。 |
主訴 |
血尿|Hematuria 月経過多|Menorragia 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 消化管出血|Gastrointestinal bleeding 鼻出血|Nosebleed/Nasal hemorrhage/Epistaxis |
鑑別疾患 |
出血性疾患 頭蓋内出血 閉塞性黄疸 薬剤(クマリン系抗凝固剤) |
スクリーニング検査 | Prothrombin Time|プロトロンビン時間 [/P] |
異常値を示す検査 |
Factor II|第II因子活性/プロトロンビン [/P] Factor IX|第IX因子活性/クリスマス因子 [/P] Factor VII|第VII因子活性/安定因子/プロコンバーチン [/P] Factor X|第X因子活性/シュチュワート・プロワー因子 [/P] Hepaplastin Test|ヘパプラスチンテスト [/P] PIVKA-II|PIVKA-II/ピブカII/内因子性凝固阻止因子-II [/S] Protein C|プロテインC/プロテインC抗原量 [/P] Thrombotest|トロンボテスト [/P] Vitamin K|ビタミンK/ビタミンK分画 [/P] |
関連する検査の読み方 |
【Factor II】 低値になる。肝で産生されるビタミンK依存性の凝固因子で、プロトロンビンとも呼ばれている。生理作用はフィブリノゲンに作用しフィブリンを形成するほか、第V、VIII、XIII、因子の活性化、血小板凝集等である。臨床的には先天性欠乏症は極めて稀であるが、活性低下はPT、APTT、トロンボテスト、ヘパプラスチンテストの延長に関与するので、これらの検査が全て延長した場合は、プロトロンビンの測定が必要となる。 【Factor IX】 低値になる。肝で産生されるビタミンK依存性凝固因子で、Christmus因子とも呼ばれ、先天性欠乏症が血友病Bである。血友病Bの発症頻度は血友病Aの1/4~1/5程度で20000~30000人に一人の発症率である。臨床的には血友病Bの診断と後天的に第IX因子が減少する肝実質性疾患の診断、治療効果判定に用いる。また、先天性の出血傾向があり、PTは正常でAPTTの延長がある場合は、第VIII、XI、XII因子も測定する。 【Factor VII】 低値になる。肝で産生されるビタミンK依存性凝固因子で、組織因子と結合して活性化され、Caイオンの存在下で第X因子や第IX因子を活性化する。血中半減期が3~4時間と短いため、肝機能の異常を早期に反映するので、肝機能検査の一つとして測定される。先天性欠乏症は約50万人に一人とされ、血友病に似た症状を呈する。 【Factor X】 低値になる。肝で産生されるビタミンK依存性凝固因子で、Caイオンの存在下で活性化第VII因子・組織因子複合体や活性化第VIII因子・活性化第IX因子複合体により活性化され、プロトロンビンをトロンビンに変換する。臨床的には出血傾向があり、しかもPT、APTT、トロンビン時間とヘパプラスチンテストがすべて延長している場合は、この因子の欠乏を考える。先天性の欠乏症は約50万人に一人とされている。 【ビタミンK】 基準範囲(食事由来のビタミンK1:0.15~1.25ng/mL)以下になる。ビタミンKは脂溶性ビタミンで生体内で腸内細菌により産生されるK2と食物由来のK1がある。このビタミンはビタミンK依存性凝固因子(第II、VII、IX、X因子)、プロテインC、Sの生成に関与している。臨床的には新生児メレナ、乳児ビタミンK欠乏性出血を疑う場合や成人で長期の抗生剤投与患者などで測定する。 【凝固関連検査】 PTは延長するがAPTT、血小板数、出血時間、フィブリノゲン値、フィブリン分解産物、d-ダイマーは基準範囲内である。 【トロンボテスト】 30~70%に低下する。TTはビタミンK依存性凝固因子活性を総合的に測定し、抗凝固療法(クマリン、インダンジオン系)のコントロール状態を評価する検査である。クマリンやインダンジオンを投与すると不完全な凝固因子(PIVKA)を産生し、このPIVKAが第II、VII、X因子活性を阻害し1因子以上が阻害されるとTTは低値となる。臨床的には抗凝固療法のコントロールに用いられるが、現在は国際的に互換性のある、プロトロンビンを測定しPT-INR(PT-international normalized ratio) を用いるためTTの測定意義はなくなりつつある。 【PIVKA-II】 増加~高度増加する。PIVKAは第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、第X因子がビタミンK欠乏状態時に産生される異常蛋白でPIVKA-II、VII、IX、Xが存在するが、検査ではプロトロンビンの異性体であるPIVKA-IIが測定される。肝細胞癌で血中に出現し特異度が94%と高いため肝細胞癌のマーカーとして使われる。また、ビタミンK欠乏状態を知ることが出来るため、ビタミンK欠乏による出血傾向やビタミンK吸収障害、利用障害の把握にも使われる。 【ヘパプラスチンテスト】 低下~高度低下する。HPTは外因系と共通系の凝固因子活性を総合的に評価する検査で、プロトロンビン時間と同じ臨床的意義がある。臨床的にはビタミンK依存性凝固因子のうち、第II因子、第VII因子、第X因子の量的・質的異常を反映しているので、肝での合成障害やビタミンK欠乏を疑う場合に測定する。 【プロテインC】 低下~高度低下する。PCはビタミンK依存性の蛋白で血管内皮細胞表面に存在するトロンボモジュリンと結合したトロンビンにより分解され活性化プロテインCになる。生理機能は抗凝固作用と線溶促進作用で凝固反応の調節に関与している。臨床的には深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症などの多発性血栓症や新生児電撃性紫斑病の際に測定する。 【プロテインS】 低下~高度低下する。PSはビタミンK依存性に肝、血管内皮細胞、巨核球や単球で産生される蛋白で、40%は遊離型、残りは補体型の制御蛋白であるC4b結合蛋白と結合している。このうち生物学的活性を持つものは遊離型である。臨床的には深部静脈血栓症や血栓性静脈炎などのプロテインS欠乏による多発性血栓症を疑う場合に測定する。また、先天性プロテインS欠乏症、ビタミンK利用障害、ビタミンK吸収能低下などが疑われる場合にも測定が必要となる。 【オステオカルシン】 3ng/mL以下に減少する。 【除外診断】 ビタミンK補給剤を1mg静注し、PTが2~6時間以内に有意に短縮すれば、原因が肝疾患の可能性は除外される。 |
検体検査以外の検査計画 |