疾患解説
フリガナ | ボツリヌスチュウドク |
別名 | ボツリヌス症 |
臓器区分 | 感染性疾患 |
英疾患名 | Botulism |
ICD10 | A05.1 |
疾患の概念 | ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の産生する神経毒による神経筋中毒で、感染はなくとも毒素の摂取で発症する。ボツリヌス菌は、抗原性の異なる7種の神経毒素を産生し、中毒の50%は、A型毒素に起因する。この毒素は、末梢神経終末でアセチルコリンの放出を阻害し、両側対称性に下行性の筋力低下を引き起こす。A型毒素とB型毒素は、消化酵素に耐性を示す高毒性の蛋白である。ボツリヌス菌の芽胞は、熱耐性が高く、100℃数時間の煮沸に耐えるが、120℃30分間の湿熱で死滅する。一方、ボツリヌス毒素は、熱で容易に破壊され、80℃30分間の加熱調理で発症を予防できる。汚染された食品が嫌気性の環境に置かれると菌が増殖し毒素を放出するが、酸性度の低い自家製の瓶詰が、頻度の高い感染源になる。4類感染症である。 |
診断の手掛 | ボツリヌス菌に汚染された食品などの摂取後、18~36時間で発症する。悪心、嘔吐、頭痛などの症状の後、口渇、嚥下障害、言語障害、麻痺症状、視力障害、複視を訴える患者を診たら本症を疑う。特に、熱や精神及び知覚の異常はないが、対称性の頭部から下肢への麻痺を訴える患者は本症の可能性が高い。殆どの症例で、瞳孔の固定と拡大があるので見逃さない。 |
主訴 |
嚥下障害|Dysphagia 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 眼瞼下垂|Blepharoptosis/Ptosis 下痢|Diarrhea 言語障害|Language disorder/Allophasis 構音障害|Dysarthria 口渇|Thirst 呼吸困難|Dyspnea 四肢麻痺|Quadriplegia/Tetraplegia 視力障害|Blurred vision/Visual impairment 頭痛|Headache/Cephalalgia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 複視|Diplopia 便秘|Constipation めまい|Dizziness |
鑑別疾患 |
胃炎|Gastritis ギラン-バレー症候群|Guillain-Barre Syndrome 下痢症|Diarrhea 細菌性食中毒|Bacterial Food-poisoning 重症筋無力症|Myasthenia Gravis 脳卒中|Apoplexy/Stroke ポリオ|Poliomyelitis 麻痺性イレウス ダニ麻痺症 薬剤(クラーレ、ベラドンナアルカロイド) |
スクリーニング検査 | |
異常値を示す検査 | |
関連する検査の読み方 |
【食物】 同じ食物を摂取した2人以上の患者の同時発症は診断を容易にする。 【糞便培養】 確定診断に用いる。 【ボツリヌス毒素】 血清、糞便、食品から菌を分離培養し測定する。缶詰などの保存食品中で芽胞が発芽増殖して毒素を産生する。腸内細菌叢が確立していない乳児では、蜂蜜中の芽胞が腸内で増殖し毒素を産生することもある。Clostridium botulinumは土壌に分布する芽胞菌で、A~Gの7種の毒素型に分けられる。ヒトのボツリヌス中毒ではA、B、E型が高頻度に検出される。この菌の芽胞は嫌気状態に置かれると発芽し、栄養菌型が増殖し毒素を産生する。毒素は強い神経毒で死に至ることもある。臨床的にはボツリヌス症の確定診断に用いる。 【Tensilon試験】 重症筋無力症との鑑別に使うが、偽陽性になることがある。 |
検体検査以外の検査計画 | 筋電図検査、神経伝導速度測定 |