疾患解説
フリガナ | ゲリショウ |
別名 | |
臓器区分 | 消化器疾患 |
英疾患名 | Diarrhea |
ICD10 | A09 |
疾患の概念 | 便通回数の増加、液状便、一日の便重量が200gを超える場合を下痢という。急激に発症し、腹痛を伴って一日4回以上排便があれば急性下痢、3週以上下痢が続く場合を慢性下痢とする。原因は糞便中の過剰な水分であるが、この水分は感染、薬剤、食事、炎症、吸収不良などにより増加する。小腸と大腸では、経口摂取および消化管分泌物に由来する水分の99%が吸収されるので、腸管での水分吸収量と分泌量が、仮に1%変動すると、下痢を引き起こすのに十分な水分含量の増加につながる。下痢を発症する基本的機序は浸透圧負荷の上昇、分泌の増加、接触時間/表面積の減少が挙げられる。 |
診断の手掛 | 腹痛、しぶり腹、頻回の排便、多量の軟便、水様便を訴える患者を診たら本症を疑う。一般には便の量が200g/日を越える場合は下痢とみなされる。急性の水様性下痢は、感染性の病因である可能性が高く、旅行や汚染された食物が関係する。急性の血性下痢は、腸管侵入性の感染を考える。また、憩室出血や虚血性大腸炎も急性の血性下痢を起こす。若年者に反復性の血性下痢を診た場合は炎症性腸疾患を考える。1日当たりの便量が1L/日超える大量の下痢は内分泌系の原因を強く示唆する。脂肪などを摂取した後に常にみられる下痢は、食物不耐症であり、抗菌薬を使用した場合は、Clostridium difficile大腸炎などの抗菌薬関連下痢症を疑う。 |
主訴 |
嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 下痢|Diarrhea しぶり腹|Tenesmus/Straining after stool 水様便|Watery stool 軟便|Soft stool 排便回数増加|Increase of stool frequency 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 腹痛|Abdominal pain 腹部膨満感|Sense of Abdominal fullness 放屁|Flatus |
鑑別疾患 |
IgA欠損症|IgA Deficiency 大腸癌|Cancer of Colon 移植拒絶反応 胃腸炎|Gastroenteritis エイズ/HIV感染症|Acquired Immune Deficiency Syndrome(AIDS) 肝炎 クラミジア感染症 クローン病|Crohn's Disease クワシオルコル 憩室炎|Diverticulitis 憩室症|Diverticulosis 甲状腺機能亢進症|Hyperthyroidism コレラ|Cholera サイトメガロウイルス感染症|Cytomegalovirus Infection ジアルジア症|Giardiasis 消耗症 神経性過食症 代謝性アシドーシス|Metabolic Acidosis 腸炎 糖尿病|Diabetes Mellitus 毒素性ショック症候群|Toxic Shock Syndrome(TSS) ボツリヌス中毒|Botulism 旅行者下痢 淋疾 クリプトスポリジウム症 腸管線虫症 ブドウ球菌感染症 腸管出血性大腸菌感染症 ロタウイルス性下痢症 ノロウイルス感染症 過敏性腸症候群|Irritable Bowel Syndrome(IBS) ウイルス性出血熱 吸収不良症候群|Malabsorption ゾリンジャー-エリソン症候群|Zollinger-Ellison Syndrome 細菌性赤痢|Bacillary Dysentery アメーバ症 |
スクリーニング検査 |
Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/F] Chloride|クロール [/S, /F, /U] Creatinine|クレアチニン [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Potassium|カリウム [/S, /U] Sodium|ナトリウム [/S, /S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] |
異常値を示す検査 |
Ammonia|アンモニア [/U] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S] Calcitonin|カルシトニン [/P] Detection of Verotoxin-Producing Escherichia Coli|大腸菌ベロトキシン [Positive/E coli] Clostridium difficile Toxin|クロストリジウム・ディフィシルトキシン [Positive/Feces] Escherichia Coli O157 Antigen|大腸菌O157抗原 [positive/Feces] Fat|脂肪(糞便) [/F] Gastrin-releasing Peptide|ガストリン放出ペプチド [/S] Motilin|モチリン [/P] Nitrogen [/F] Pancreatic Polypeptide|膵臓ポリペプチド [/S] pH|尿pH [/B, /U] Retinol|ビタミンA/レチノール [/U] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S] Somatostatin|ソマトスタチン [/P] Substance P|サブスタンスP/ニューロキニンA [/P] Vasoactive Intestinal Polypeptide|バゾアクティブ腸管ペプチド/血管作動性腸管ポリペプチド [/S] Volume [/P] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 白血球が増加することがある。 【Mg】 慢性の下痢では低値になる。 【コレステロール】 慢性の下痢が続くと低下する。 【総蛋白】【アルブミン】 共に低値になる。 【大腸菌O157抗原】 腸管出血性大腸菌O157感染症の診断に用いる。病原性大腸菌O157に感染し出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群を発症した患者の第3病日以降にこの抗体価が上昇する。この疾患は感染による下痢発症後2日迄は、糞便中の病原菌検出率がほぼ100%であり、診断のゴールドスタンダードになっている。ただし、経過と共に菌の検出率が低下すること、早期に抗生剤を投与されると菌陰性になること、菌培養・確定に時間がかかることから、抗体価測定は補助診断として有用性がある。 【大腸菌ベロトキシン】 糞便から大腸菌が分離された時には菌株のベロ毒素産生性を調べる。腸管出血性大腸菌はベロ毒素産生大腸菌とも呼ばれ、ベロトキシンと呼ばれる毒素を産生する。この毒素は激しい腹痛と血便を起こし、重症化すると溶血性尿毒症症候群や脳症を引き起こす。この菌は極めて高い感染力を持ち、約50個の菌で感染が成立するといわれる。臨床的には激しい腹痛を伴う鮮血便を見た場合に検査を行う。 【アデノウイルス抗原】 糞便中のアデノウイルス抗原検査は乳幼児下痢症では必須の検査である。 【糞虫ロタウイルス】 乳幼児下痢症では必須の検査である。 【ロタウイルス抗体】 ロタウイルス感染が強く疑われるが、抗原検査では検出されない場合に行う。 【クロストリジウム・ディフィシルトキシン】 Clostridium difficile抗原の簡易検査である。クロストリジウムは種々の組織障害性毒素を産生するが、この検査は偽膜性腸炎の毒素であるエンテロトキシン(トキシンA/B)を検出するものである。トキシンAは腸毒素、トキシンBは細胞毒素である。 【糞便一般検査】 下痢を発症する細菌や寄生虫が陽性のことがある。 |
検体検査以外の検査計画 | 大腸内視鏡検査、S状結腸鏡検査、小腸造影検査、超音波検査、腹部CT検査 |