疾患解説
フリガナ | ポリオ |
別名 |
小児麻痺 急性脊髄前角炎 急性灰白髄炎 |
臓器区分 | 感染性疾患 |
英疾患名 | Poliomyelitis |
ICD10 | A80.9 |
疾患の概念 | 腸内ウイルスであるPoliovirusによる糞便の経口、または唾液からの飛沫感染で発症する。腸管で増殖したウイルスは、血行性或いは神経を介して脊髄前角の運動神経に入り弛緩性麻痺を引き起こす。Poliovirusは感染しても90~95%は不顕性感染である。ウイルスは3つの型があるが、1型が流行の最も一般的な原因となり、最も麻痺を引き起こしやすい。ウイルスは侵入すると消化管のリンパ組織に入り、一次ウイルス血症を起こし、網内系にウイルスを広げる。ウイルスがさらに増殖すると、数日間にわたり二次ウイルス血症が続き、症状と抗体が出現する。麻痺型ポリオでは、ウイルスが中枢神経系に侵入するが、これが二次ウイルス血症によるものか、末梢神経からの伝播によるものかは不明である。ウイルスにより損傷が起こるのは脊髄と脳に限られ、特に運動および自律神経機能を制御する神経を損傷する。ポリオウイルスは、潜伏期間中は咽頭と便中に存在し、発症後は咽頭には1~2週間、便には3~6週間以上存在し続ける。1類感染症なので診断したら直ちに届ける必要がある。 |
診断の手掛 | わが国では1980年以降、野生株による発生の報告はない。発熱を初発症状とし頭痛、不快感などを訴え、解熱時に突然麻痺を生じた患者を診たら本症を考えるが、弛緩性麻痺を来す疾患との鑑別が必要となる。70~75%の感染は、無症状に経過する。発症した症例は、不全型ポリオと麻痺型および非麻痺型ポリオに分類される。不全型の症状は、ごく軽度で、曝露の3~5日後に微熱、全身倦怠感、頭痛、咽頭痛および嘔吐を訴え、症状は1~3日持続し、神経症状はなく、発熱を除けば身体診察で著明な異常は見られない。麻痺型の潜伏期間は、通常7~21日で、先行症状なしに発症する。臨床像は、無菌性髄膜炎、深部の筋肉痛、知覚過敏、錯感覚などで、活動性の脊髄炎がある間は尿閉と筋攣縮がみられる。非対称性の弛緩性麻痺が、2~3日以上続くことがあり、時に脳炎徴候が優勢となる。嚥下困難、食物の鼻腔への逆流および鼻声は延髄障害の初発症状で、一部の患者は、脳幹の呼吸中枢と循環中枢が侵され、呼吸障害を来す。非麻痺型ポリオは麻痺のない無菌性髄膜炎を発症する。 |
主訴 |
咽頭痛|Pharyngodynia 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 下肢麻痺|Lower extremity palsy 感冒様症状|Symptomes of common cold 筋萎縮|Muscle atrophy 腱反射消失|Loss of Tendon reflex 弛緩性麻痺|Flaccid paralysis 頭痛|Headache/Cephalalgia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 麻痺|Palsy/Paralysis/Numbness |
鑑別疾患 |
横断性脊髄炎 急性ウイルス性筋炎 急性脳脊髄炎 ギラン-バレー症候群|Guillain-Barre Syndrome 髄膜炎|Meningitis コクサッキーウイルス感染症 エコーウイルス感染症 エンテロウイルス感染症 ウエストナイル熱 |
スクリーニング検査 |
Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/CSF] Chloride|クロール [/CSF] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/CSF] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B, /CSF] Lymphocytes|リンパ球 [/B, /CSF] Neutrophils|好中球 [/B, /CSF] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/CSF] γ-Globulin|γ-グロブリン [/CSF] |
異常値を示す検査 |
Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S] Carbon Dioxide Partial Pressure|動脈血CO2分圧/炭酸ガス分圧/CO2分圧/PCO2/PaCO2 [/B] Cells [/CSF] Coproporphyrin|コプロポルフィリン [/U] Creatine|クレアチン [/U] Oxygen Partial Pressure|動脈血O2分圧/酸素分圧/O2分圧/PO2 [/B] pH|尿pH [/B] Poliovirus Antibody|ポリオウイルス抗体/急性灰白髄炎ウイルス抗体/抗ポリオウイルス抗体 [Positive/S] β-Hexosaminidase|β-ヘキソサミニダーゼ [/S] |
関連する検査の読み方 |
【クレアチニン】 筋崩壊により尿中に増加する。 【エコーウイルス抗体】 エコーウイルスは麻痺を起すことがあるので、鑑別に必要な検査である。エコーウイルスは糞便で経口感染する髄膜炎、中枢神経疾患、心筋症などの原因ウイルスで、夏季(6~8月)に多発する。臨床症状でウイルス感染を疑うが、コクサッキーウイルス感染などとの区別がつかない場合に検査する。 【エンテロウイルス70型抗体】 エンテロウイルスはポリオ、コクサッキーA群・B群、エコー、狭義のエンテロウウイルスに分けられ、現在72の型に分類されている。エンテロウイルス70型は急性出血性結膜炎の病原ウイルスで、結膜炎のほか稀に一過性のポリオ様麻痺を合併することがある。 【ポリオウイルス抗体】 血清と髄液で2週間の間隔をあけて測定する。基準範囲は血清で4倍未満、髄液は1倍未満である。ポリオウイルスは経口感染するが殆どは不顕性感染か不全型ポリオで、典型的なポリオを発症するのは0.1~0.5%程度である。わが国では1961年以降、生ワクチンの投与が始まり、その後の患者発生は年間数人程度である。臨床的には臨床症状、ワクチン投与の有無、年齢などからポリオを疑う場合に用いられる。ポリオと同様の神経症状を呈する患者を診た場合はムンプス、エンテロウイルス70、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、ヘルペスウイルスなどの検索が必要である。 【髄液一般検査】 10~500/μLのリンパ球優位の細胞数増多、蛋白の軽度増加を認める。糖は基準範囲内である。 【糞便・咽頭液ウイルス検出】 ウイルス、ウイルスゲノムの検出を行う。 |
検体検査以外の検査計画 |