疾患解説
フリガナ | ジュウショウキンムリョクショウ |
別名 | |
臓器区分 | 神経・筋疾患 |
英疾患名 | Myasthenia Gravis |
ICD10 | G70.0 |
疾患の概念 | 神経筋接合部(シナプス)に存在するアセチルコリン受容体に対する自己抗体により神経筋伝導が障害される疾患で、反復発作性の骨格筋の筋力低下と易疲労感が主症状である。症状は眼筋に出やすいが、四肢筋と躯幹筋もしばしば障害される。自己抗体産生の引き金は不明であるが、胸腺の異常、自己免疫性甲状腺機能亢進症およびRA、SLE、悪性貧血などの自己免疫疾患に合併する。この疾患は、65%の患者で胸腺肥大が、10%に胸腺腫が認められ、胸腺腫の約半数は悪性である。誘発因子には、感染症、手術、アミノグリコシド系薬剤、キニーネ、硫酸マグネシウム、プロカインアミド、カルシウム拮抗薬などの薬剤がある。患者は20~40歳の女性と高齢男性に多い。患者で、血清中にアセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体をもたないものは約10~20%のみで、AChR抗体陰性患者の最大約50%は、筋特異的受容体型チロシンキナーゼに対する抗体をもつ。稀な病型として眼筋型重症筋無力症、先天性筋無力症、新生児筋無力症がある。 |
診断の手掛 |
反復性の筋力低下や易疲労感のある患者が、筋肉活動をした後で症状の悪化を訴えたら本症を疑う。最も多い症状は、眼瞼下垂、複視、運動後の筋力低下であり、詳細な病歴聴取が診断の手掛かりになる。罹患筋を使った後の筋力低下は、罹患筋を休ませると解消されるが、その筋を再び使うと再発する特徴がある。眼筋は初期には40%、最終的には85%の患者が障害され、15%の患者では唯一の罹患筋となる。握力は低下したり正常になったりを交互に繰り返すことがあり、乳搾りの手と呼ばれている。筋無力症クリーゼは、重度の全身性四肢不全麻痺または生命を脅かす呼吸筋力低下で、約15~20%の患者は生涯に1回は経験する。コリン作動性クリーゼは、ネオスチグミンまたはピリドスチグミンなどの抗コリンエステラーゼ薬の過量投与による筋力低下で、軽度のクリーゼは、筋無力症の悪化との鑑別が困難なことがある 【診断基準:2015年厚労省】 1.自覚症状:a)眼瞼下垂 b)複視 c)四肢筋力低下 d)嚥下困難 e)言語障害 f)呼吸困難 g)易疲労性 h)症状の日内変動。 2.理学所見:a)眼瞼下垂 b)眼球運動障害 c)顔面筋力低下 d)頸筋力低下 e)四肢・体筋力低下 f)嚥下障害 g)構音障害 h)呼吸困難 i)反復運動による症状増悪、休息で一時的に回復 j)症状の日内変動(朝が夕方より軽い)。 3.検査所見:a)エドロホニウム(テンシロン)試験陽性(症状軽快) b)Havey-Masland試験陽性(waning現象) c)抗アセチルコリンレセプター抗体陽性。 4.鑑別診断:眼筋麻痺、四肢筋力低下、嚥下・呼吸障害をきたす疾患はすべて鑑別の対象にする。 5.診断の判定:確実例:1自覚症状が1つ以上、2理学所見a)~h)の1つ以上とi)、j)、3検査所見a)、b)、c)の1つ以上が陽性の場合。疑い例:1自覚症状の1つ以上、2理学所見のa)~h)の1つ以上とi)、j)、3検査所見a)、b)、c)が陰性の場合。 |
主訴 |
易疲労感|Fatigue 嚥下障害|Dysphagia 眼瞼下垂|Blepharoptosis/Ptosis 筋力低下|Weakness 言語障害|Language disorder/Allophasis 構音障害|Dysarthria 呼吸困難|Dyspnea 四肢麻痺|Quadriplegia/Tetraplegia 舌萎縮|Atrophy of tongue 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 複視|Diplopia 歩行障害|Gait disturbance |
鑑別疾患 |
眼咽頭型筋ジストロフィー ギラン-バレー症候群|Guillain-Barre Syndrome 抗MuSK抗体陽性重症筋無力症 甲状腺中毒症 自己免疫性炎症性筋疾患 先天性筋無力症 ボツリヌス中毒|Botulism ミトコンドリアミオパチー Lambert-Eaton症候群 Meige症候群 |
スクリーニング検査 |
CEA|癌胎児性抗原 [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Lymphocytes|リンパ球 [/B] MCH|平均赤血球ヘモグロビン量 [/B] MCV|平均赤血球容積 [/B] Rheumatoid Factor|リウマチ因子測定/RAゼラチン凝集反応/リウマチ因子定量 [/S] Thyroxine (T4)|総サイロキシン/総T4/サイロキシン/チロキシン [/S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] |
異常値を示す検査 |
Acetylcholine Receptor Binding Antibodies|抗アセチルコリンレセプター結合型抗体/抗アセチルコリン受容体結合型抗体/Ach-R非阻害型抗体 [/S] Acetylcholine Receptor Blocking Antibodies|抗アセチルコリンレセプター阻害型抗体/抗AChR阻害型抗体 [/S] Acetylcholine Receptor Modulating Antibodies [/S] Anti-DNA Antibodies|抗DNA抗体 [Positive/S] Anti-Skeletal Muscle Antibody|抗横紋筋抗体/抗骨格筋抗体 [/S] Anti-Mitochondrial Antibodies|抗ミトコンドリア抗体 [/S] Antibody Titer [/S] Antinuclear Antibodies|抗核抗体 [/S] Antithyroglobulin Antibodies|抗サイログロブリン抗体/サイロイドテスト [/S] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S] Carbon Dioxide Partial Pressure|動脈血CO2分圧/炭酸ガス分圧/CO2分圧/PCO2/PaCO2 [/B] Catecholamines|カテコールアミン総 [/U] Complement, Total|補体価/CH50 [/S] Creatine|クレアチン [/U] HLA Antigens|HLA抗原 [Present/B] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] LE Cells|LE細胞/LE現象 [Positive/B] Oxygen Partial Pressure|動脈血O2分圧/酸素分圧/O2分圧/PO2 [/B] Oxygen Saturation|酸素飽和度/O2飽和度 [/B] T3-Uptake|トリヨードサイロニン摂取率/トリオソルブテスト/T3摂取率 [/S] |
関連する検査の読み方 |
【抗アセチルコリンレセプター結合型抗体】 AChRは神経筋接合部の後シナプス膜上にあり、神経伝達物質であるアセチルコリンに応答する受容体で、筋収縮に関与している。AChR Abは重症筋無力症患者に特異的な自己抗体で、臨床的には重症筋無力症や胸腺腫を疑う場合に測定する。また、胸腺腫の術後や重症筋無力症の血漿交換療法のモニタリングとしても用いられている。重症筋無力症で80%、胸腺腫が合併した重症筋無力症では95%の陽性率を示す。 【抗アセチルコリンレセプター阻害型抗体】 コリン作動性シナプシスにおいて神経伝達物質であるアセチルコリンに応答する受容体がアセチルコリン受容体である。抗アセチルコリン受容体阻害型抗体は、この受容体に結合し神経伝達を遮断する。臨床的には急性重症筋無力症で85~90%の陽性となるため、診断や経過観察に高い有用性がある。また、胸腺腫を疑う患者では本抗体と抗骨格筋抗体、抗Titin抗体を同時に測定する。 【抗横紋筋抗体】 成人患者の30%、胸腺腫合併患者の90%に認められる。陰性なら胸腺腫を否定できる。発症1年以内と免疫抑制療法を受けている患者では陽性率は低い。AMFは横紋筋(骨格筋)に対する自己抗体で抗アセチルコリン抗体と共に重症筋無力症の診断に用いられる。重症筋無力症は抗アセチルコリン受容体抗体が産生され、結果として運動ニューロンから骨格筋への刺激伝導系が障害され発症する疾患で、臨床的にはアセチルコリン受容体抗体の測定が行なわれるが、骨格筋構成成分全体に対する抗横紋筋抗体の測定も併用される。ただし、重症筋無力症における本抗体の陽性率は30%程度であるが、胸腺腫合併症例では90%以上の高い陽性率を示す。 【抗DNA抗体】 40%の患者で陽性である。 【抗コリンエステラーゼ試験/テンシロン試験】 2mgのedrophoniumを静注し明らかに症状の改善が起これば陽性と判定する。抗コリンエステラーゼ試験は、患者に明らかな眼瞼下垂または眼筋麻痺がある場合にのみ行い、検査を行う前にアイスパック試験または安静試験を試す。 |
検体検査以外の検査計画 | テンシロンテスト(抗コリンエステラーゼ検査)、神経反復刺激試験、誘発筋電図検査、胸部CT・MRI検査、シンチグラフィー、PET検査、呼吸機能検査、筋電図検査 |