疾患解説
フリガナ | コウリニョウホルモンフテキゴウブンピツショウコウグン |
別名 |
抗利尿ホルモン分泌異常症候群 バゾプレシン分泌過剰症 |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Inappropriate ADH Syndrome(SIADH) |
ICD10 | E22.2 |
疾患の概念 | 抗利尿ホルモンが、正常の調節機序を逸脱して分泌されるために、低Na血症と細胞外液増加を来す病態で、低Na血症、低浸透圧血症により脳浮腫を発症する。原因は、内因性ADH分泌亢進と異所性ADH産生腫瘍に分けられる。悪性腫瘍では、小細胞肺癌の約38%に異所性バゾプレシンの分泌が見られる。 |
診断の手掛 |
患者の大部分は、無症状である。症状は、低Na血症とその進行速度に相関しているので、低Na血症の諸症状(悪心、嘔吐、食欲不振、痙攣発作、意識障害)を訴える患者を診たら本症を疑う。血清Na値が、110mEq/L以下になると足底伸筋反射や腱反射の消失、偽性球麻痺が見られるようになり、更に値が低下すると昏睡、痙攣、死に至る。 【診断基準:2015年厚労省】 1.主要項目:(1)主症状:脱水の所見を認めない。(2)検査所見:①低Na血症:135mEq/Lを下回る。 ②血漿バゾプレシン濃度:血清Naが135mEq/L未満で、血漿バゾプレシン濃度が測定感度以上である。 ③低浸透圧血漿:280mOsm/kgを下回る。 ④高張尿:尿浸透圧は300mOsm/kgを上回る。 ⑤Na利尿の持続:尿中Na濃度は20mEq/L以上である。 ⑥腎機能正常:血清クレアチニンは1.2mg/dL以下である。 ⑦副腎皮質機能正常:早朝空腹時の血清コルチゾールは6μg/dL以上である。 2.参考事項:(1)血漿レニン活性は5ng/mL/h以下であることが多い。(2)血清尿酸値は1.2mg/dLいかである。(3)水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低Na血症が改善する。 3.鑑別診断:(1)細胞外液量の過剰な低Na血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群。 (2)Na漏出が著明な低Na血症:腎性Na喪失、下痢、嘔吐。 (3)異所性ADH分泌腫瘍。 4.診断基準:確実例:(1)を満たし、かつ(2)①から⑦すべての項目を満たすもの。 |
主訴 |
意識障害|Memory impaiment 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 痙攣発作|Seizures/Convulsion/Convulsive seizure 食欲不振|Anorexia |
鑑別疾患 |
肝硬変|Cirrhosis of Liver 心不全|Heart Failure ネフローゼ症候群|Nephrotic Syndrome 原発性副腎皮質機能低下症 下垂体機能低下症 甲状腺機能低下症|Hypothyroidism 薬剤性低Na血症 無症候性低Na血症 続発性アルドステロン症 肺癌|Lung Cancer 急性ポルフィリン症 視床下部症候群 |
スクリーニング検査 |
Sodium|ナトリウム [/S] Uric Acid|尿酸 [/S] |
異常値を示す検査 |
Osmotic Pressure|浸透圧 [/P,/U] Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [/S] Vasopressin|アルギニンバゾプレッシン/抗利尿ホルモン/バゾプレシン [/P] |
関連する検査の読み方 |
【バゾプレシン】 高値になる。ADHは視床下部で生合成された後に下垂体後葉から分泌され、腎集合管のV2受容体に作用して抗利尿作用を発揮し体液量と血漿浸透圧の調節を行う。ADH濃度と血漿浸透圧の間には相関関係があり、血漿浸透圧の僅かな変動でADH分泌が微妙に調節されている。臨床的には口渇、多飲の症状がみられる場合に測定する。 【UN】【クレアチニン】【尿酸】 UNとクレアチニンは基準範囲内、尿酸が低値なら希釈によるものと考える。 【血漿レニン活性】 5ng/mL以下である。 【浸透圧】 尿浸透圧は150mOm/kg以上に上昇し、血清浸透圧は270mOsm/kg以下に低下する。 【電解質】 Naは低下し、120mEq/L以下では症状が出る。Kは基準範囲内、Clは低下する。 【Na】 尿中Naは200mEq/Lを超える。 【水制限試験】 水分を制限すると臨床的・生化学的に反応するが、等張あるいは高張食塩水には反応しない。尿の濃縮には血清浸透圧の上昇、ADH分泌亢進、腎集合管の水チャンネルの正常な反応が必要である。フィッシュバーグ濃縮試験は水分制限を行いADHの分泌が正常であったと仮定して、腎髄質の尿濃縮能を評価するもので尿細管機能の改善度を知る目的で行う。 【診断基準】 浮腫・脱水がない。血漿レニン活性3ng/mL/時以下、尿酸5mg/dL以下、 Na135mEq/L以下、血漿浸透圧280mmol/kg以下、尿浸透圧400mmol/kg以上、腎機能と副腎機能は正常、低浸透圧にもかかわらず抗利尿ホルモンは相対的・絶対的高値になる。 【合併する疾患】 悪性腫瘍(肺、十二指腸、膵、リンパ腫、中枢神経)、肺疾患(肺炎、肺膿瘍、結核、アスペルギルス症)、中枢神経疾患(脳炎、髄膜炎、脳膿瘍、Guillain-Barre症候群、くも膜下血腫、脳卒中、急性間欠性ポルフィリン症)などに合併する。 |
検体検査以外の検査計画 |