フリガナ |
コウジョウセンキノウテイカショウ |
別名 |
粘液水腫
|
臓器区分 |
内分泌疾患
|
英疾患名 |
Hypothyroidism
|
ICD10 |
E03.9
|
疾患の概念 |
甲状腺ホルモンの欠乏により、様々な症状を呈する疾患で、甲状腺自体の障害による原発性と下垂体・視床下部の障害による中枢性に分けられる。臨床的には原発性の橋本病の頻度が高い。年齢を問わず発症するが、高齢者に多い。原発性甲状腺機能低下症は、甲状腺疾患によるもので、甲状腺刺激ホルモンは増加する。最も頻度の高い原因は、自己免疫で、通常は橋本甲状腺炎に起因する。二次性甲状腺機能低下症は、視床下部により甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンが十分に産生されない場合、または下垂体によるTSHの産生が十分に行われない場合に発症する。
|
診断の手掛 |
典型的な表情の鈍い顔貌、嗄声、ゆっくりとした話し方、皮膚乾燥などの症状を訴える患者は本症を疑う。また、寒冷不対応性、便秘、健忘なども診断の手掛りとなる。 【原発性甲状腺機能低下症診断基準:2013年日本甲状腺学会】 a)臨床所見:無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声等いずれかの症状。 b)検査所見:遊離T4およびTSH高値。 確定診断:a)およびb)を有するもの。 【付記】1.橋本病が原因の場合、抗マイクロゾーム抗体、または抗サイログロブリン抗体が陽性となる。2.阻害型抗TSH受容体抗体により本症が発症することがある。3.コレステロール高値、CK高値を示すことが多い。4.出産後やヨード摂取過多などの場合は一過性甲状腺機能低下症の可能性が高い。 【中枢性甲状腺機能低下症診断基準】 a)臨床所見:無気力、易疲労性、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声等いずれかの症状。 b)検査所見:遊離T4低値でTSHが低値~正常。 確定診断:a)およびb)を有するもの。 除外規定:甲状腺中毒症の回復期、重症疾患合併例、TSHを低下させる薬剤の服用例を除く。 【付記】1.視床下部性甲状腺機能低下症の一部ではTSH値が10μU/mL位まで逆に高値を示すことがある。2.中枢性甲状腺機能低下症の診断では下垂体ホルモン分泌刺激試験が必要である。
|
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 易疲労感|Fatigue 感覚障害|Sensory disturbance 記憶障害|Memory impairment 傾眠|Drowsiness/Somonolency 健忘|Amnesia 月経異常|Menoxenia 甲状腺腫|Thyroid enlargement/Goiter 嗄声|Hoarseness 手指振戦|Finger shivering 心悸亢進|Cardiopalmus 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 耐寒能低下|Decrease in cold function 体重増加|Obesity 脱毛|Alopecia 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 皮膚乾燥|Xeroderma 肥満|Obesity/Adiposity 浮腫|Edema/Dropsy 便秘|Constipation 無気力|Helplessness
|
鑑別疾患 |
甲状腺炎 甲状腺腫 中枢性甲状腺機能低下症 薬剤(抗甲状腺薬) 低T3症候群 橋本甲状腺炎 肥満症|Obesity 過多月経 無月経 認知症|Dementia パーキンソン病|Parkinson's Disease(PD) 高コレステロール血症|Hypercholesterolemia 貧血
|
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S, /U] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S, /S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Calcium|カルシウム [/U, /S] CEA|癌胎児性抗原 [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/PcF, /S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Creatinine|クレアチニン [/S, /U] Fibrinogen|フィブリノゲン/凝固第I因子 [/P] Follicle-stimulating Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] GFR|糸球体濾過量 [/U] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S, /S] HDL-Cholesterol|HDL-コレステロール/高比重リポ蛋白コレステロール [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Iron|鉄/血清鉄 [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] LDL-Cholesterol|LDL-コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール [/S] MCH|平均赤血球ヘモグロビン量 [/B, /B] MCV|平均赤血球容積 [/B, /B] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/CSF, /PlF, /U] Sodium|ナトリウム [/S] Thyroxine (T4)|総サイロキシン/総T4/サイロキシン/チロキシン [/S] Thyroxine,Free(fT4)|遊離サイロキシン/遊離T4/フリーT4/遊離チロキシン [/S] TIBC|総鉄結合能 [/S, /S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] Tri-Iodothyronine, Free (fT3)|遊離トリヨードサイロニン/フリーT3/遊離T3/遊離トリヨードチロニン [/S] Thyroid Stimulating Hormone|甲状腺刺激ホルモン [/S, /S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] Uric Acid|尿酸 [/S, /S]
|
異常値を示す検査 |
11-Hydroxycorticosteroids|11-ヒドロキシコルチコステロイド [/P] 17-Hydroxycorticosteroids|17-ヒドロキシコルチコステロイド [/U] 17-Ketogenic Steroids|17-ケトジェニックステロイド [/U] 17-Ketosteroids|17-ケトステロイド [/U] 3,3'-Di-iodothyronine [/S] Acid Phosphatase, Tartrate Resistant|骨型酒石酸抵抗性フォスファターゼ [/S] Adenosine Monophosphate|アデノシン一リン酸/アデニル酸 [/U] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Alkaline Phosphatase, Bone Isoenzyme|骨型アルカリホスファターゼ/骨性ALP [/S] Angiotensin-converting Enzyme|アンギオテンシン変換酵素 [/S] Anisocytes|赤血球大小不同 [/B] Anti-Endothelial Cell Antibodies|抗内皮細胞抗体 [/S] Antibody Titer [/S] Antithyroid Peroxidase Antibodies|抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体/抗マイクロゾーム抗体/マイクロゾームテスト/抗TPO抗体 [Positive/S] Antithyroglobulin Antibodies|抗サイログロブリン抗体/サイロイドテスト [/S] Apolipoprotein A-I|アポリポ蛋白A-I [/S] Apolipoprotein B|アポリポ蛋白B [/S] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S] Bleeding Time|出血時間 [/Patient] C-terminal Telopeptide of Type I Collagen|I型コラーゲンC末端テロペプチド [/S] Cholesterol Esters|エステル型コレステロール/コレステロールエステル [/S] Chylomicrons [/S] Creatine Kinase MB-Isoenzyme|CK-MB [/S] Estrogens|総エストロゲン(非妊婦)/エストロゲン(非妊婦) [/P] Factor VIII|第VIII因子活性/抗血友病因子 [/P] Fibronectin|フィブロネクチン [/P] Folate|葉酸/プテロイルモノグルタミル酸/ビタミンM/乳酸菌発育因子 [/S] Gastrin|ガストリン [/S] Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S] HDL2-Cholesterol|HDL2,3-コレステロール/HDLコレステロール亜分画 [/S] HDL2-Phospholipids [/S] Hyaluronic Acid|ヒアルロン酸 [/S] Immunoglobulins|免疫グロブリン [/CSF] Insulin-like Growth Factor-I|インスリン様成長因子-1/ソマトメジンC [/S] Interleukin-2|インターロイキン-2 [/S] Iron Saturation|鉄飽和度 [/S] Leptin|レプチン [/S] Lipids|総脂質 [/S] Lipoprotein Lp (a)|リポ蛋白(a)/リポプロテイン(a) [/S] Luteinizing Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] Macrocytes|大赤血球 [/B] Myoglobin|ミオグロビン [/S] Norepinephrine|カテコールアミン総 [/P] Osteocalcin|オステオカルシン [/S] Oxygen Partial Pressure|動脈血O2分圧/酸素分圧/O2分圧/PO2 [/B] Oxygen Saturation|酸素飽和度/O2飽和度 [/B] pH|尿pH [/PlF, /Gastric Material] Phospholipids|リン脂質 [/S, /S] Platelet Aggregation response to ADP [/B] Procollagen Type III Peptide|プロコラーゲンIIIペプチド [/S] Prolactin|プロラクチン/乳汁分泌ホルモン [/P] Prolactin Response to Vasoactive Inhibitory Peptide [/P] Pyrophosphate [/Synovial Fluid] Ristocetin Agglutination [/B] Serine|セリン [/S] Sex-Hormone Binding Globulin|性ホルモン結合グロブリン [/S] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S, /S] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/U, /PlF] T3-Uptake|トリヨードサイロニン摂取率/トリオソルブテスト/T3摂取率 [/S] Testosterone|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/S] Testosterone Response to hCG [/S] Thyroid Stimulation Blocking Antibodies|TSH作用阻害抗体/甲状腺刺激阻害型抗体/阻害型TSHレセプター抗体 [Positive/S] Thyroxine (T4) Index, Free [/S] Thyroxine Binding Globulin|サイロキシン結合グロブリン/チロキシン結合グロブリン [/S] Tri-Iodothyronine (T3) Index, Free [/S] Tri-Iodothyronine, Reverse (rT3)|リバースT3 [/S] Type IV Collagen 7S Domain [/S] Type IV Collagen Peptide|Ⅳ型コラーゲン [/S] Vitamin B12|ビタミンB12/コバラミン/シアノコバラミン [/S] VLDL-Cholesterol [/S, /S] Volume [/P] von Willebrand Factor Antigen|第VIII因子様抗原/第VIII因子関連抗原/フォンウィルブランド因子抗原量 [/P] 131 I Uptake|131 I摂取率/放射性ヨウ素摂取率 [/S, /S]
|
関連する検査の読み方 |
【TSH】 最も感度の高い検査で、最も早期に認められる異常所見で機能低下に比例して増加し、基準範囲の2~10倍(>20μU/mL)になる。基準範囲内であれば原発性甲状腺機能低下症は否定される。TSHは下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン産生細胞から分泌される糖蛋白で、甲状腺ホルモン(T3、T4)により産生が抑制される。このホルモンの甲状腺刺激作用と甲状腺ホルモンによる視床下部と下垂体へのnegative feedbackにより甲状腺機能の恒常性が維持されている。臨床的には甲状腺機能異常が疑われる全ての症例について、甲状腺ホルモンと同時に測定する。異常値を認めたらFT4、FT3、甲状腺自己抗体、サイログロブリンを測定する。 【FT3】【T3】 低下(FT3は2.5pg/mL以下)するが機能低下症の診断には寄与しない。T3/T4比は増加する。 【FT4】【T4】 FT4は低下(FT4は1ng/dL以下)する。T4が7μg/dL以上あれば殆ど確実に機能低下を否定できる。TSHと同時に選択すべき検査である。下垂体疾患による二次性甲状腺機能低下症を疑うときは必ず測定する。T4は甲状腺で合成され、コロイド状態で貯蔵され血中に分泌される。その、99.97%は甲状腺ホルモン結合蛋白に結合し0.03%が遊離T4として存在している。臨床的には甲状腺機能異常が疑われるとき、甲状腺疾患の治療効果判定に用いられる。 【抗TSHレセプター阻害抗体】 ブロッキング抗体による機能低下の診断に有用である。患者の70%以上で著しく上昇する。この抗体はTSH受容体に作用しTSHの作用を抑制し、甲状腺機能低下症の発症に重要な役割を果たしているとされている。検査は原発性粘液水腫の診断に有用である。 【抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体】 特発性甲状腺機能低下症で陽性である。TPO Abは甲状腺ホルモン合成に関与している酵素(甲状腺ペルオキシダーゼ)に対する抗体で、橋本病やBasedow病などの自己免疫性甲状腺疾患で高い陽性率を示す。陽性率は橋本病では90~100%、Basedow病では75~90%とされる。ただし、健常成人の10%は陽性を示し、加齢とともに陽性率が上昇するので、この検査のみで自己免疫性甲状腺疾患と診断することは危険である。また、甲状腺自己抗体が陽性の妊婦の2/3は出産後甲状腺機能異常を生じるので注意が必要である。 【抗サイログロブリン抗体】 特発性甲状腺機能低下症で陽性である。 【サイロキシン結合グロブリン】 基準範囲内である。 【リバースT3】 軽度~著しく低下する。 【CBC】 原因不明の正色素性正球性貧血を認めるがヘモグロビンが9g/dLを下回ることはない。 【CK】【CK-MB】【AST】【LD】 いずれも増加し、CKは300IU/mL以上のことが多い。 【グルコース】 著しく低下する。 【グリコアルブミン】 アルブミン半減期延長で増加する。 【コレステロール】 増加し、300mg/dL以上のことがある。 【ミオグロビン】 長期にわたり未治療の患者の90%で有意に増加する。 【Na】 低Na血症が見られる。
|
検体検査以外の検査計画 |
心電図検査、胸部X線検査、甲状腺超音波検査、甲状腺シンチグラフィー
|