疾患解説
フリガナ | シンフゼン |
別名 | |
臓器区分 | 循環器疾患 |
英疾患名 | Heart Failure |
ICD10 | I50.9 |
疾患の概念 | 心臓のポンプ機能の失調で、組織の血液潅流不全に基づく症状や末梢組織、間質、肺などに血液うっ滞や体液貯留を来すことで引き起こされる心室機能不全症候群である。心不全を発症する障害の種類により収縮機能障害と拡張機能障害に分けられ、また失調を来す心室の違いにより左室不全と右室不全に分けられる。収縮機能障害は、心室の収縮が不良により駆出が不十分になり、拡張期容積の増大と拡張期圧の上昇、駆出率の低下が生じる。この障害は、心筋梗塞、心筋炎、拡張型心筋症が原因の心不全で見られる。障害は左室または右室に生じ、左室不全はしばしば右室不全につながる。拡張機能障害は心室充満が障害され、心室拡張末期容積の減少、拡張末期圧の上昇、またはその両方が生じるが、収縮性は正常に保たれるため、駆出率は正常である。この障害は心室弛緩の障害、心室スティフネスの亢進、弁膜症、収縮性心膜炎、急性心筋虚血などが原因となる。左室不全では心拍出量が減少し、肺静脈圧が上昇し、肺毛細血管圧が血漿蛋白の膠質浸透圧(約24mmHg)を上回ると肺胞に体液が貯留し肺水腫を発症する。また、胸水貯留により呼吸困難が増悪し、分時換気量が増加するためPaco2が低下し、血液pHが上昇し呼吸性アルカローシスとなる。左室不全は、虚血性心疾患、高血圧、僧帽弁または大動脈弁逆流症、大動脈弁狭窄症、心筋症および先天性心疾患で発症するのが特徴である。右室不全では、全身の静脈圧が上昇し、足、足関節、腹腔内に浮腫を来す。肝臓への影響が最も大きく中等度の肝機能障害を引き起こす。右室不全は、過去の左室不全または重度の肺疾患によって発症するが、多発性肺塞栓、右室梗塞、原発性肺高血圧症、三尖弁逆流症または狭窄症、僧帽弁狭窄症、肺動脈または肺動脈弁狭窄症、肺静脈閉塞症、エプスタイン奇形やアイゼンメンジャー症候群といった先天性疾患なども発症に関連する疾患とされている。両室不全は、心臓全体の心筋を侵す、ウイルス性心筋炎、アミロイドーシス、シャーガス病や長期の左室不全とそれに続発する右室不全の結果として発症する。 |
診断の手掛 |
診断の切っ掛けは臨床所見(労作性呼吸困難、起座呼吸、浮腫、頻拍、頸静脈怒張)に因るが、原因が多様なため確実な診断の手掛かりは明確でない。基礎疾患を持つ患者では臨床症状の重症化を見逃してはならない。基礎疾患は虚血性心疾患、弁膜疾患、高血圧性心疾患、心筋疾患の頻度が高いので、これら患者の脈拍、尿量、食欲、体重の変化を見逃さない。左室不全で最もよくみられる症状は、肺うっ血による呼吸困難と心拍出量の低下による易疲労感である。呼吸困難は通常労作中にみられ、安静により緩和される。右室不全で最もよく見られる症状は、足関節の腫脹と疲労であが、時に腹部や頸部に膨満感が生じる。肝うっ血は右上腹部の不快感を、また、胃や腸管のうっ血は食欲不振や腹部膨満を引き起こす。高齢者は、錯乱、せん妄、転倒、突然の機能低下、夜間尿失禁、睡眠障害など典型的でない症状が主訴となる場合もあるので注意する。 【うっ血性心不全診断のためのFramingham基準】1.大基準:発作性夜間呼吸困難、頸静脈怒脹、ラ音、心拡大、急性肺水腫、Ⅲ音ギャロップ、静脈圧>16cmH2O、肝頸静脈逆流 2.小基準:四肢の浮腫、夜間咳嗽、労作性呼吸困難、肝腫大、胸水、肺活量低下(正常の1/3)、頻脈>120/分 臨牀診断は大基準1つおよび小基準2つが必要。 |
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 起座呼吸|Orthopnea 頸静脈怒張|Jugular venous distention 食欲不振|Anorexia 咳|Cough 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 体重増加|Obesity 痰|Sputum 動悸|Palpitations 肥満|Obesity/Adiposity 頻脈|Tachycardia 浮腫|Edema/Dropsy 夜間多尿|Nocturia/Nycturia 労作時呼吸困難|Exertional dyspnea |
鑑別疾患 |
気管支喘息 腎不全 肝硬変|Cirrhosis of Liver 末梢静脈疾患 肺炎|Pneumonia 心筋梗塞 肥大型心筋症|Hypertrophic Cardiomyopathy(HCM) 高血圧症|Hypertension 大動脈弁狭窄症 アミロイドーシス|Amyloidosis 肺水腫|Pulmonary Edema 慢性閉塞性肺疾患|Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD) 間質性肺線維症 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S, /U] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Amylase|アミラーゼ [/S, /PlF] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase:Alanine Aminotransferase Ratio|AST:ALT比 [/S] Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S, /U] C-Peptide|C-ペプチド [/P] Chloride|クロール [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Cholinesterase|コリンエステラーゼ/ブチルコリンエステラーゼ/偽コリンエステラーゼ [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/AsF, /PlF, /U] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B, /B] Fibrinogen|フィブリノゲン/凝固第I因子 [/P] GFR|糸球体濾過量 [/U] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S, /PeF, /S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Leucine Aminopeptidase|ロイシンアミノペプチダーゼ [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/AsF, /B, /PlF, /U] Magnesium|マグネシウム [/S] MCV|平均赤血球容積 [/B] Monocytes|単球 [/PlF] Potassium|カリウム [/S, /S] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/PlF, /S, /U] Sodium|ナトリウム [/S, /U, /S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] Uric Acid|尿酸 [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
3-Methylxanthine [/S] 8-iso-Prostaglandin F2α [/PcF] Adenosine Monophosphate|アデノシン一リン酸/アデニル酸 [/P] Aldosterone|アルドステロン [/P, /U] Alkaline Phosphatase Isoenzymes|アルカリホスファターゼアイソザイム/ALPアイソザイム [/S] Amino Acids|アミノ酸分析/アミノ酸41分画 [/P] Ammonia|アンモニア [/B] Angiotensin-II|アンギオテンシンII [/P] Antinuclear Antibodies|抗核抗体 [/PlF] Arginine Vasopressin|アルギニンバゾプレッシン/抗利尿ホルモン/バゾプレシン [/P] Atrial Natriuretic Peptide|心房性Na利尿ペプチド [/P] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S, /S] Brain Natriuretic Peptide|脳性Na利尿ペプチド [/P] BSP Retention|BSP test/ブロムサルファレイン試験 [/S] C-Peptide|C-ペプチド [/P] CA 125|CA125 [/S] Carbon Dioxide Partial Pressure|動脈血CO2分圧/炭酸ガス分圧/CO2分圧/PCO2/PaCO2 [/B, /B] Cholesterol Esters|エステル型コレステロール/コレステロールエステル [/S] Copper|銅 [/S] Cortisol|コルチゾール [/P] Creatine Kinase MB-Isoenzyme|CK-MB [/S] Creatinine Clearance|クレアチニンクリアランス [/U] Dehydroepiandrosterone|デヒドロエピアンドロステロン [/P] Dehydroepiandrosterone: Cortisol Ratio [/P] Endothelin|エンドセリン [/P] Endothelin, Big [/P] Endothelin-1|エンドセリン [/P] Endothelin-1, Big [/P] Epinephrine|カテコールアミン総 [/P] Estradiol|エストラジオール/E2 [/P] Free Fatty Acids|遊離脂肪酸/非エステル型脂肪酸/FFA [/S] Granular Casts|円柱 [/U] Growth Hormone|成長ホルモン [/P] Guanosine Monophosphate [/P, /U] Hyaline Casts|円柱 [/U] Insulin|インスリン [/P] Interferon-γ|インターフェロン-γ [/S] Interleukin-1 Receptor Antagonist [/S] Interleukin-10|インターロイキン-10 [/S] Interleukin-1β|インターロイキン-1β [/S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Ketones|ケトン体定性 [/S] Lactate|乳酸/ラクテート [/B] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Leucine Aminopeptidase|ロイシンアミノペプチダーゼ [/S] Malondialdehyde [/S] Metanephrine|メタネフリン/メタアドレナリン/メタネフリン総 [/P] Myoglobin|ミオグロビン [/S] N-terminal Atrial Natriuretic Peptide [/P] N-terminal Pro-Atrial Natriuretic Peptide [/P] Neuropeptide Y|ニューロペプチドY [/P] Norepinephrine|カテコールアミン総 [/P] Normetanephrine|ノルメタネフリン [/P] Ornithine Carbamoyl Transferase|オルニチンカルバミルトランスフェラーゼ [/S] pH|尿pH [/B, /B] Pro-Atrial Natriuretic Peptide [/S] Pro-Atrial Natriuretic Peptide (1-30) [/S] Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [/P] Selenium|セレン/セレニウム [/S] Sodium|ナトリウム [/S, /U, /S] Soluble CD14 Receptor [/S] Soluble E-Selectin|可溶性E-セレクチン/可溶性CD62E/可溶性ELAM-1 [/S] Soluble Fas Antigen [/S] Soluble Fas Ligand Antigen [/S] Soluble Intercellular Adhesion Molecule-1|可溶性ICAM-1/可溶性CD54/細胞接着分子-1 [/S] Soluble Interleukin-6 Receptor [/S] Soluble Tumor Necrosis Factor Receptor-I|可溶性腫瘍壊死因子レセプター-I [/S] Soluble Tumor Necrosis Factor Receptor-II [/S] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/U, /U] Tri-Iodothyronine, Reverse (rT3)|リバースT3 [/S] Troponin I|心筋トロポニンI/トロポニンI [/S] Troponin T|心筋トロポニンT/トロポニンT [/S] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] Urea|尿素 [/S] Urobilinogen|ウロビリノゲン定性(尿) [/U] Volume [/U, /P, /RBC] Water Clearance, Free [/U] α1-Antichymotrypsin|α1-アンチキモトリプシン [/S] β-Endorphin|β-エンドルフィン [/P] |
関連する検査の読み方 |
【心房性Na利尿ペプチド】 NYHA分類クラスI、IIで増加。III、IVで著しく増加する。伸展刺激や容量負荷、充満圧上昇で、心筋細胞から放出される。無症候性の左室収縮障害でも高値になる。BNO濃度>400pg/mLで心不全とされるが、100pg/mL未満であれば、心不全は否定できる。 【脳性Na利尿ペプチド】 NYHA分類クラスI、IIで増加。III、IVで著しく増加する。 【脳性Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント】 高値になる。NT-proBNPは強力な水・Na利尿作用と血管弛緩作用を有するBNPの前駆体フラグメントである。心筋細胞の負荷が増加すると脳性Na利尿ペプチド前駆体の産生が促進されるが、蛋白分解酵素の作用でBNPとNT-proBNPに分解され血中に分泌される。NT-proBNPはBNPに比べ半減期が長いため血中濃度の上昇が顕著であり、測定も短時間で出来るためBNPと同様の臨床的意義を持つ。臨床的には心室の負荷を反映する指標、心不全の早期診断、慢性心不全の重症度の把握などに用いる。 【eGFR】 低値になる。eGFRは日本腎臓学会が示したCKDガイドラインに記載されているGFRの算定法で、イヌリンクリアランスで求めたGFRと酵素法で測定した血清クレアチニン値から計算式で求められる。eGFRは簡便な方法であるが、スクリーニングや疫学研究を目的に作成されているので、実際の臨床の場で個々の患者を評価するためにはイヌリンクリアランスやクレアチニンクリアランスを用いることが薦められている。臨床的には糸球体濾過量の推定とCKDの病期分類に用いる。個々の患者評価:eGFR=0.719×Ccr(実測クレアチニンクリアランス。薬物投与調節:eGFR=0.719×Cin(実測イヌリンクリアランス) 【LD】【LDアイソザイム】 増加し、アイソザイムはLD5が増加し障害の程度を推定できる。 【グアナーゼ】 心筋梗塞でうっ血性心不全を合併すると増加する。 【電解質】 浮腫を伴うとNaが減少する。高度な低Na血症はレニン・アンジオテンシン系の活性化の結果で、予後不良を示唆する。 【浸透圧】 尿>血漿である。 【心内膜生検】 浸潤性心筋症が疑われる場合に行う。 【甲状腺機能検査】 高齢者の場合は甲状腺中毒症または粘液水腫を検出するために必要な検査である。 【冠動脈疾患のない新規患者】 HIV、肝炎、ヘモクロマトーシス、リウマチ性疾患、アミロイドーシス、褐色細胞腫の検査を行う。 |
検体検査以外の検査計画 | 胸部X線検査、心CT検査、心MRI検査、心超音波検査、心電図検査、心機能検査、肺機能検査、心筋血流イメージング、冠動脈造影、右心カテーテル検査 |