疾患解説
フリガナ | コツバンナイエンショウセイシッカン |
別名 |
卵管炎 子宮内膜炎 |
臓器区分 | 女性性器疾患 |
英疾患名 | Pelvic Inflammatory Disease(PID) |
ICD10 | N73.9 |
疾患の概念 | PIDは上行感染により、内性器(子宮頸部、子宮、卵管、卵巣)の感染症や骨盤腹膜炎を発症した病態の総称で、子宮頸管炎、子宮筋層炎、卵管炎、卵巣炎などがある。起炎菌は淋菌、大腸菌、嫌気性菌などである。また、淋菌やChlamidiaは、性行為によって伝播される。PIDは、一般的に35歳未満の女性に発症し、初経前、閉経後および妊娠中に発症することは稀である。危険因子としては、骨盤内炎症性疾患の既往、細菌性腟症または性感染症の存在がある。特に淋菌またはクラミジア感染症による危険因子には若年齢、社会経済的に低い地位、セックスパートナーが挙げられる。 |
診断の手掛 | 下腹部痛、発熱、頸管帯下、不正出血を訴える患者を診たら本症を疑うが、月経中または月経後に多くみられるので注意する。特に下腹部痛は歩行時に痛みが増強するので、患者は下腹部に手を当てて静かに歩く。通常は子宮頸管炎が先行し下腹部痛と性交不快感を伴う軽度のものから、腹膜炎及び卵管卵巣膿瘍までの幅広い症状を呈する。全ての患者にHIVと妊娠の検査を行うべきである。子宮頸管炎では頸管は発赤し、出血しやすくなり、黄緑色の粘液膿性分泌物が認めれる。急性卵管炎は両側性の下腹部痛が起こり、悪心および嘔吐がみられ、1/3の患者に不正出血と発熱がみられる。淋菌性骨盤内炎症性疾患は、無痛なことがあるC. trachomatisと比べ、急性で、症状はより重度である。性器マイコプラズマによるものは、C. trachomatisと同様軽度で、骨盤内炎症性疾患の第1選択の治療法に反応しない患者の場合には考慮する。淋菌またはクラミジアによる急性卵管炎は、右上腹部痛を引き起こす肝周囲炎であるFitz-Hugh-Curtis症候群を発症することがあるので注意する。また、膿が蓄積する卵管卵巣膿瘍が、卵管炎患者の約15%に発症するが、膿瘍が破裂すると進行性の重度の症状や敗血症性ショックを引き起こす場合があるので慎重に経過観察を進める。 |
主訴 |
下腹部痛|Hypogastric pain 性交疼痛|Dyspareunia 帯下|Vaginal discharge 排尿障害|Urinary disturbance/Dysuria 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 微熱|Low grade fever/Febricula 腹痛|Abdominal pain 不正出血|Abnormal bleeding 腰痛|Low back pain/Lumbago |
鑑別疾患 |
子宮頸癌|Cancer of Cervix 急性虫垂炎|Acute Appendicitis クラミジア感染症 憩室炎|Diverticulitis 月経困難症|Dysmenorrhea 骨盤内膿瘍 子宮内膜症|Endometriosis 腸間膜動脈塞栓症 尿路感染症|Urinary Tract Infection(UTI) 尿路結石症|Urinary Calculi 不妊症 卵管炎 淋疾 |
スクリーニング検査 |
C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Leukocytes|白血球数 [/B] |
異常値を示す検査 |
CA 125|CA125 [/S] Chlamydia Trachomatis DNA|クラミジア・トラコマティス核酸同定/クラミジア・トラコマティス核酸/クラミジア・トラコマティスDNA [Positive/Specimen] DNA Amplification Assay for Neisseria Gonorrhoeae|淋菌核酸増幅同定 [Positive/Specimen] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 白血球は増加するが診断には役立たない。 【クラミジア・トラコマティス核酸】 DNAプローブ法やPCR法で検出を試みる。ヒトに感染するクラミジアはtrachomatisとpsittaciがあり、いずれも宿主の細胞内でしか増殖できない。trachomatisはトラコーマの病原体として分離されたが、現在は性行為感染症(STD)、咽頭炎、心筋炎、肺炎、髄膜脳炎、腹膜炎やReiter症候群などの原因病原体として知られている。臨床的には感染局所の病原体検出が基本であるが、確定診断には特異性の高いPCRやLCRによる核酸同定が必要である。 【子宮頸部塗抹】 子宮頸部の塗抹標本をグラム染色し、低倍率で少なくとも10個の白血球が見られれば、骨盤内炎症性疾患と診断できる。 【細菌培養】【嫌気培養】 病変部の検体から淋菌、クラミジア・トラコマティス、大腸菌、ブドウ球菌、嫌気性菌などが検出される。 【妊娠反応】 危険因子を有する生殖可能年齢の女性に下腹部痛、頸管分泌物、原因不明の腟分泌物がみられる場合には、骨盤内炎症性疾患が疑われるので妊娠反応は必須である。また、子宮外妊娠との鑑別にも必要である。 【淋菌核酸増幅同定】 PCR法で検出を試みる。淋菌核酸同定検査は尿または尿道・子宮頸管擦過液、咽頭液を検体としPCRで淋菌のRNAを検出する。少量の検体で高感度測定が出来ること、死菌でも検出可能な優れた方法である。臨床的には淋菌感染が疑われる患者と、そのセックスパートナーの検査に用いる。また、わが国では淋菌感染者の20~30%はクラミジアとの混合感染が見られるので、同時にクラミジア検査をすることが望ましい。 |
検体検査以外の検査計画 | 超音波検査、腹腔鏡検査 |