疾患解説
フリガナ | タハツナイブンピシュヨウ |
別名 |
多発性内分泌腫瘍Ⅰ型 多発性内分泌腫瘍II型 家族性内分泌腺腫 多発性内分泌腺腫 Wermer症候群 |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Multiple Endocrine Neoplasia (MEN) |
ICD10 | D44.8 |
疾患の概念 | 複数の内分泌臓器に腫瘍や過形成を生じる遺伝性疾患で、I型は副甲状腺、膵島細胞、下垂体腫瘍、十二指腸ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍、良性副腎腺腫、脂肪腫を発症し、臨床的特徴は、副甲状腺機能亢進症および無症候性高Ca血症である。II型はA型とB型があり、IIA型は、甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症、皮膚アミロイド苔癬を発症する症候群で、臨床的な特徴はどの器官が侵されるかによって異なる。IIB型は甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、多発性粘膜神経腫、腸管神経節腫を発症する常染色体優性の症候群で、しばしばマルファン症候群様体型および骨格異常が見られる。MEN IIA、MEN IIBは、10番染色体上のRET癌原遺伝子に変異が同定されている。 |
診断の手掛 |
MEN-I:一般的には、副甲状腺機能亢進症や無症候性高Ca血症の症状を呈する。膵の場合は、空腹時低血糖(インスリン分泌)、下痢、脂肪便、Zollinger-Ellison症候群(ガストリン分泌)、下垂体はプロラクチン分泌による症状が見られる。 MEN-IIA:甲状腺は、ほぼ全ての患者が甲状腺髄様癌を、また副腎は褐色細胞腫を発症する。副甲状腺は高Ca血症、腎結石症などの副甲状腺機能亢進による症状が見られる。 MEN-IIB:症状は、それぞれの内分泌腺異常を反映したもので、約50%の患者は、粘膜神経腫、褐色細胞腫、甲状腺髄様癌を伴う症候群を呈し、10%未満の患者が、神経腫と褐色細胞腫のみを発症し、残りの患者は褐色細胞腫を伴わずに神経腫と甲状腺髄様癌を発症する。 |
主訴 |
意識障害|Memory impaiment 高血圧|Hypertension 呼吸困難|Dyspnea 嗄声|Hoarseness 頭痛|Headache/Cephalalgia 多飲|Polydipsia 多尿|Polyuria 低血糖|Hypoglycemia 便秘|Constipation 無月経|Amenorrhea |
鑑別疾患 |
副甲状腺機能亢進症|Hyperparathyroidism 下垂体腺腫 膵消化管内分泌腫瘍 甲状腺髄様癌|Medullary Carcinoma of Thyroid 褐色細胞腫|Pheochromocytoma 高Ca血症|Hypercalcemia 腎結石症 インスリノーマ|Insulinoma 消化性潰瘍|Peptic Ulcer ゾリンジャー-エリソン症候群|Zollinger-Ellison Syndrome |
スクリーニング検査 |
Calcium|カルシウム [/S] CEA|癌胎児性抗原 [/S] |
異常値を示す検査 |
Epinephrine|カテコールアミン総 [/P, /U] Gastrin|ガストリン [/S] Metanephrine|メタネフリン/メタアドレナリン/メタネフリン総 [/P, /U] Norepinephrine|カテコールアミン総 [/P, /U] Normetanephrine|ノルメタネフリン [/P] Parathyroid Hormone(Whole)|全長副甲状腺ホルモン/Whole PTH [/S] Parathyroid Hormone,Intac [/S] Vanillylmandelic Acid|バニリルマンデル酸 [/U] |
関連する検査の読み方 |
【診断に必要な検査項目】 MEN-Ⅰ型:Ca、副甲状腺ホルモン、ガストリン、プロラクチン MEN-ⅡA型:Ca、副甲状腺ホルモン、血漿遊離メタネフリン、尿中カテコールアミ MEN-ⅡB型:血漿遊離メタネフリン、尿中カテコールアミン 【遺伝学的検査】 MEN-Ⅰ型では80%以上の患者にMEN1遺伝子変異が、またMEN-Ⅱ型では95%以上の患者にRET遺伝子のミスセンス変異を認める。 【Whole PTH】 高値になる。従来から使われているPTH-intactは全長PTHに加え、生物活性を有さないフラグメントが測り込まれている。一方、PTH-Wは全長PTHのみを測定しているため、測定値がPTH-intactより低値になる。但し、副甲状腺ホルモン測定の主目的であるCa代謝異常症の診断では、いずれの方法が優れているかは確定されていない。臨床的には血清Ca濃度に異常がある場合に測定されるが、必ず血清Caを同時に測定し判断する。 【Intact PTH】 高値になる。副甲状腺ホルモンインタクトは全長副甲状腺ホルモンのみを測定する検査で、生物学的活性を有さないものまで測定しているため測定値は副甲状腺ホルモン(PTH-whole)測定値よりも高値になる。また、慢性腎不全ではC端フラグメントの半減期が延長するため、PTH-wholeとPTH-intactの値の乖離が見られる。臨床的には血清Ca値に異常が見られた患者の原因疾患鑑別に用いるが、PTH-wholeとPTH-intactのどちらが優れているかは定説がない。PTHの測定に際しては必ず血清Caを同時に測定し、両者の値より病態を判断する。 【ガストリン】 Ⅰ型の20~40%で高値になる。ガストリンは胃幽門部や十二指腸粘膜のガストリン分泌細胞(G細胞)から分泌される消化管ホルモンで、胃壁細胞に作用して胃酸の分泌を促進する働きがある。ガストリンの増減は、胃酸の分泌による胃液のpHで調節されているため、胃酸分泌低下をきたす病態をよく反映する。臨床的には胃酸低下をきたす疾患とガストリン産生腫瘍の診断に用いられる。 【インスリン】 Ⅰ型の2~10%で高値になる。 【カルシトニン】 Ⅱ型で高度に増加する。CTは甲状腺C細胞から分泌されるペプチドホルモンで、破骨細胞の活性を抑制し血中Ca濃度を低下させる働きがある。CTは半減期が短いため、C細胞由来の髄様癌から大量に分泌される場合以外は血中濃度が高くなる頻度が少ないので高カルシトニン血症を見たら甲状腺髄様癌を強く疑う。また、肺小細胞癌やCarcinoid腫瘍などで、異所性に産生される場合もあるので注意する。 【CEA】 Ⅱ型で高値となる。 【カテコールアミン】 Ⅱ型で高値となる。 【RET遺伝子】 II型では変異を認める。RET遺伝子検査は多発性内分泌腫瘍II型(MEN II)は甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、原発性甲状腺機能亢進症を引き起こす遺伝性疾患の検査である。MEN IIはNEN IIAとMEN IIBがあり、IIAはMEN IIの85%を占め甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、原発性甲状腺機能亢進症が主たる疾患で、IIBは5%で甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、粘膜下神経腫などが主病変である。MEN II FMTCはMEN IIの約10%を占め甲状腺髄様癌が唯一の関連疾患とされている。この遺伝子変異は遺伝性甲状腺髄様癌の95%以上に認められるが、散発性甲状腺髄様癌での出現率は4~20%とされ、髄様癌の遺伝性か散発性かの鑑別に用いる。 |
検体検査以外の検査計画 | 超音波検査、CT検査、MIBIシンチグラフィー、超音波内視鏡検査 |