疾患解説
フリガナ | コウCaケッショウ |
別名 | |
臓器区分 | 電解質代謝疾患 |
英疾患名 | Hypercalcemia |
ICD10 | E83.5 |
疾患の概念 | ビタンミンD過剰、副甲状腺ホルモン過剰、PTH関連蛋白過剰、Caの溶出増加、Caの排泄減少、Caの摂取増加、甲状腺機能亢進、副腎不全、骨転移を伴う癌などが原因であるが、最も頻度が高い原因は、副甲状腺機能亢進症および癌である。検査値では血中総Ca濃度が10.4mg/dL以上、イオン化Ca濃度が5.2mg/dL以上になったもが本症である。原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺ホルモンの過剰分泌による全身疾患で、発症率は年齢とともに上昇し、閉経後女性ではさらに高い。頸部放射線照射後30年以上経過した場合にも高い頻度で生じる。癌による高Ca血症は、骨吸収の結果として血清Caが上昇する。骨転移を伴わない体液性高Ca血は、扁平上皮癌、腎細胞癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌に付随して発症することが多い。 |
診断の手掛 | 高Ca血症を来す基礎疾患(副甲状腺機能亢進症、乳癌骨転移、肺癌や腎癌によるPTHrP産生腫瘍、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、ATL、サルコイドーシス、腎不全など)を持つ患者が消化器症状(食欲不振、嘔吐、便秘)や神経症状(易疲労感、筋力低下、昏迷、昏睡、錯乱)を訴えたら直ちにCaを測定する。Ca濃度が11.5~12.0mg/dLを超えると情緒不安定、錯乱、せん妄、精神病、昏迷、昏睡などの症状を訴える患者が多くなる。腎に関連した症状として多尿、腎結石が認められ、血清Ca値が13mg/dLを超えると腎石灰化による腎不全が見られる。高Ca血症の明らかな原因が不明な患者は、インタクトPTHおよび24時間尿中Caを測定すべきである。副甲状腺機能亢進症では、血清Ca濃度が12mg/dLを超えることは稀であるが、血清イオン化Ca濃度は高値を示す。血清PO4濃度が低値であれば、副甲状腺機能亢進症が示唆される。副甲状腺機能亢進症によって骨代謝回転が亢進すると、血清ALPがしばしば上昇する。血清Ca濃度が13mg/dLを上回る場合は、副甲状腺機能亢進症以外の高Ca血症の原因が示唆され、癌では、尿中Ca排泄量は基準範囲内または高値でになる。癌による体液性高Ca血症は、PTHは低値または検出不能のことが多い。PO4もしばしば低値を示し、代謝性アルカローシス、低塩素血症、低アルブミン血症が認められる。貧血、高窒素血症、高Ca血症が同時に見られれば多発性骨髄腫を強く疑う。 |
主訴 |
易疲労感|Fatigue いらいら|Irritability 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 筋力低下|Weakness 傾眠|Drowsiness/Somonolency 痙攣発作|Seizures/Convulsion/Convulsive seizure 高血圧|Hypertension 昏睡|Coma 昏迷|Stupor 錯乱|Confusion 食欲不振|Anorexia 徐脈|Bradycardia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 多飲|Polydipsia 多尿|Polyuria 脱水|Dehydration 便秘|Constipation |
鑑別疾患 |
肺癌|Lung Cancer 腎細胞癌|Renal Cell Carcinoma(RCC) 転移性骨腫瘍 悪性リンパ腫|Malignant Lymphoma 成人T細胞性白血病|Adult T-cell Leukemia(ATL) 甲状腺中毒症 骨Paget病 サルコイドーシス|Sarcoidosis 先端巨大症|Acromegaly 多発性骨髄腫|Multiple Myeloma 低リン血症|Hypophosphatemia 副甲状腺機能亢進症|Hyperparathyroidism 腎不全 異所性ホルモン産生腫瘍 ゾリンジャー-エリソン症候群|Zollinger-Ellison Syndrome 多発性内分泌腫瘍|Multiple Endocrine Neoplasia (MEN) |
スクリーニング検査 |
Calcium|カルシウム [/U] Chloride|クロール [/S] Potassium|カリウム [/S] |
異常値を示す検査 |
Ammonium Ions|アンモニウムイオン [/U] Anion Gap|アニオンギャップ [/U] Citrate|クエン酸/クエン酸塩 [/U] Endothelin-1|エンドセリン [/U] Net Acid Excretion|総酸排泄量 [/U] Osmolal Gap|浸透圧ギャップ [/U] Parathyroid Hormone|副甲状腺ホルモン [/P] Parathyroid Hormone,Intact|副甲状腺ホルモンインタクト/インタクト副甲状腺ホルモン [/S] Parathyroid Hormone 1-84|副甲状腺ホルモン1-84 [/P] pH|尿pH [/U] |
関連する検査の読み方 |
【ALP】 骨型ALPは骨病変の診断に有用である。 【I型コラーゲンC末端テロペプチド】 癌性高Ca血症では100%の患者で高値を示す。 【I型コラーゲン架橋N末端テロペプチド】 骨病変の診断に有用である。 【カルシトニン】 高Ca血症クリーゼの初期に増加する。 【腎原性cAMP】 悪性腫瘍に伴う場合には著しく増加する。 【浸透圧】 尿<血漿である。 【Ca】 総Caが12mg/dL、イオン化Caが6mg/dLを超えると、症状と徴候が出現する。Clは増加、Kは低値である。Caが15mg/dLを超えれば悪性腫瘍を考える。アルブミン値による補正イオン化Caは[Ca2+]=[Ca2+]+{0.8×(4-アルブミン濃度)}で算定する。尿中Caが上昇していれば原発性腹甲状腺機能亢進症を考える。これは、腎での再吸収を超えるCaが濾過されるためである。家族性低Ca尿性高Ca血症が疑われたら、24時間蓄尿でCa排泄量が低い(200mg/day以下)ことやCa排泄率が低値(1%以下)を確認する。 【無機リン】 副甲状腺機能亢進症では、しばしばリン利尿のため低リン酸血症になる。Paget病やビタミンD中毒では高値になることが多い。 【尿一般検査】 早朝第一尿で比重が1.010以下である。尿量は増加する。尿中Ca排泄量は200mg/日を超えることがある。 【デオキシピリジノリン】 骨病変の診断に有用である。骨の構造は強固なコラーゲン組織で維持されているが、DPDは成熟架橋と呼ばれる構造の一つである。この物質は化学的に安定なためコラーゲン代謝のマーカーとして測定される。骨組織が吸収・破壊されるとデオキシピリジノリンは血中に放出され、約40%は尿中に排泄されるので、尿中DPDを測定することにより骨吸収の状態が推測できる。臨床的には肺癌、乳癌、前立腺癌の骨転移の検索と治療効果判定、骨吸収性疾患の病勢の評価、経過観察、に用いる。また、甲状腺機能亢進症でも著しい高値を示し、手術適応の決定および副甲状腺摘出後の評価に用いる。 【副甲状腺ホルモン】 高Ca血症では必ず測定する。測定は腎機能の影響を受けないintactPTHを測定する。 【副甲状腺ホルモンインタクト】 副甲状腺機能亢進症の診断と、高Ca血症を伴う悪性腫瘍の診断に有用である。抑制されている場合は、PTHrPを測定する。intactPTH値は細胞外液のCa値が上昇すると、抑制される。intactPTH値が抑制されていれば、PTHrPを測定し、悪性体液性高Ca血症かどうかを判断する。 【副甲状腺ホルモン関連蛋白】 悪性腫瘍に伴う場合の診断に用いる。悪性腫瘍の随伴症候群の一つに高Ca血症があるが、この症候群は腫瘍細胞が産生する液性因子が骨や腎に作用して引き起こされ、humoral hypercalcemia of malignancy(HHM)と呼ばれている。副甲状腺ホルモン関連蛋白はHHMとして同定された液性因子でサイトカインの一種である。臨床的には悪性腫瘍に高Ca血症が合併した場合に、確定診断と経過観察の目的で測定される。 |
検体検査以外の検査計画 | 胸部X線検査、心電図検査 |