疾患解説
フリガナ | ゾリンジャー-エリソンショウコウグン |
別名 |
Z-E症候群 ガストリノーマ |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Zollinger-Ellison Syndrome |
ICD10 | E16.4 |
疾患の概念 | Zollinger-Ellison症候群はガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)により胃酸分泌亢進をきたし、難治性の消化性潰瘍を発症する症候群である。膵島細胞から発生する膵内分泌腫瘍の一種であるが、腫瘍の約80%がランゲルハンス島に発生し、膵外性として十二指腸に 15%、残り5%は胃、腸間膜、大網、卵巣、胆管などに 発生する。発症は40歳代に最も多く、男女比は 1:0.7 とやや男性に多い。腫瘍はは通常、小さく直径1cm未満で、増殖は緩徐であるが、約50%は悪性である。ガストリノーマの80~90%は膵臓または十二指腸壁に発症し、残りは脾門、腸間膜、胃、リンパ節、、卵巣で見られるが、約50%の患者では複数の腫瘍が認められる。ガストリノーマは通常直径1cm未満で、成長は緩徐であるが、約50%は悪性である。患者の約40~60%に多発性内分泌腫瘍症が認められる。 |
診断の手掛 | 胸やけなどの過酸症状、上腹部痛、吐血、下血、嘔吐などの消化性潰瘍症状と水溶性・脂肪性下痢症状を訴える患者を診たらZ-E症候群を考える。3主徴は1.難治性消化性潰瘍 2.胃酸過剰分泌 3.非β細胞由来の膵島腫瘍である。典型的には進行の速い消化性潰瘍として発症し、潰瘍は25%が十二指腸球部よりも遠位に認められる。しかし、最大25%の患者は診断時に潰瘍が認められない。患者の25~40%では下痢が初発症状であることに注意する。本症は病歴によって疑われ、特に症状が胃酸分泌抑制療法に抵抗性を示す場合に強く疑われる。 |
主訴 |
嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 下血|Melena 下痢|Diarrhea 脂肪性下痢|Fatty diarrhea 消化管出血|Gastrointestinal bleeding 上腹部痛|Upper abdominal pain 水様性下痢|Watery diarrhea 吐血|Hematemesis 貧血症状|Anemic symptom 腹膜刺激症状|Peritoneal irritation sign 胸焼け|Heartbum/Pyrosis |
鑑別疾患 |
高Ca血症|Hypercalcemia 消化性潰瘍|Peptic Ulcer 膵疾患 膵腫瘍 腸閉塞|Intestinal Obstruction 内分泌腺腫症 慢性下痢 胃潰瘍/十二指腸潰瘍|Gastric/Duodenal Ulcer 多発性内分泌腫瘍|Multiple Endocrine Neoplasia (MEN) |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Calcium|カルシウム [/S] Lymphocytes|リンパ球 [/B] Phosphate|無機リン [/S] Potassium|カリウム [/S] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/F] Prothrombin Time|プロトロンビン時間 [/P] |
異常値を示す検査 |
Albumin|アルブミン [/S] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Calcitonin|カルシトニン [/P] Calcium|カルシウム [/S] Carotene|カロチン/プロビタミンA/カロチノイド [/S] Fat|脂肪(糞便) [/F] Gastrin|ガストリン [/S] Lipids|総脂質 [/F] Lymphocytes|リンパ球 [/B] pH|尿pH [/Gastric Material] Phosphate|無機リン [/S] Potassium|カリウム [/S] Prolactin|プロラクチン/乳汁分泌ホルモン [/P] Protein|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/F] Prothrombin Time|プロトロンビン時間 [/P] Triolein 131I Test [Positive/F] β-Chorionic Gonadotropin|ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット [/P] |
関連する検査の読み方 |
【胃液一般検査】 pHは1以下の過酸になる。酸分泌の評価は必須であり、基礎酸分泌は症例の90%で15mEq/時間以上であるが、一般の消化性潰瘍の患者でも同様の値を示すことがある。 【ガストリン】 空腹時のガストリンレベルは最も感度と特異性が高い確認法である。全ての患者が150pg/mL以上を示す。酸分泌抑制剤を最低5日間中止したあとのガストリン値が1,000pg/mL以上になれば、ほぼ確実に本症と診断できる。 ガストリンは胃幽門部や十二指腸粘膜のガストリン分泌細胞(G細胞)から分泌される消化管ホルモンで、胃壁細胞に作用して胃酸の分泌を促進する働きがある。ガストリンの増減は、胃酸の分泌による胃液のpHで調節されているため、胃酸分泌低下をきたす病態をよく反映する。臨床的には胃酸低下をきたす疾患とガストリン産生腫瘍の診断に用いられる。 【ガストリン刺激試験】 強力な胃酸分泌刺激物質であるガストリン投与により、高度の胃酸分泌亢進を認める。酸分泌試験で判断できなかった患者に有用である。 【セクレチン負荷試験】 ガストリン濃度が1000pg/mL未満の患者はセクレチン負荷試験が有用な場合がある。セクレチン2μg/kgを急速静注し、血清ガストリン濃度を継続的に測定する(投与の10分前,1分前,2分後,5分後,10分後,15分後,20分後,30分後)。Z-E症候群に特徴的な反応は、ガストリン濃度の上昇である。 【セクレチン誘発試験】 ガストリンが200pg程度増加する。90%以上の感度と特異度がある。ガストリン値が1,000pg/mL未満の患者で有用な検査である。 【グルコン酸Ca刺激試験】 セクレチン負荷試験よりも感度、特異度が低い。Ca注射後にガストリン値が≧395pg/mLあれば陽性である。 【電解質】 慢性の下痢がある場合に低K血症が認められる。 【ペプシノゲンI】【ペプシノゲンII】 高値を示す場合は消化性潰瘍のハイリスク群とされる。 【ヘリコバクター・ピロリ感染】 本症ではヘリコバクター・ピロリ感染の評価を行う。この感染症は一般的に消化性潰瘍と中等度のガストリン分泌過剰が引き起こされる。 |
検体検査以外の検査計画 | 消化管X線検査、上部消化管内視鏡検査、超音波内視鏡検査、オクトレオタイドスキャン、腹部超音波検査、CT検査、経皮経門脈カテーテル、ソマトスタチン受容体シンチグラフィ |