疾患解説
フリガナ | カッショクサイボウシュ |
別名 | |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Pheochromocytoma |
ICD10 | D35.0 |
疾患の概念 | 副腎髄質や傍神経節などのクロム親和性細胞の腫瘍で、カテコールアミンを過剰に産生することで、発作性頭痛、動悸、発汗などの特異的な病態を呈する。高血圧患者の0.1%~0.6%は本症が原因とされるが、性差はなく、20~50歳代が好発年齢である。50%未満の患者では血圧が発作的に上昇し、持続するが、低血圧を示すこともある。褐色細胞腫から分泌されるカテコールアミンには、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドパミン、ドーパが様々な比率で含まれている。褐色細胞腫の約90%は副腎髄質に認められるが、神経堤細胞に由来する他の組織に生じることもある。両側性が10%(小児では20%)、悪性は10%未満である。副腎外腫瘍では、30%が悪性である。 |
診断の手掛 |
発作性の高血圧が診断の手掛りになるが、発作時でない限り血圧は正常である。しばしば劇的で緊急性の高血圧発作(高血圧クリーゼ)が認められるが、一般的な症状は頻脈、発汗異常、過呼吸、激しい頭痛などであり、時として患者は死の切迫感を訴えることがある。Hypertension,Hyperglycemia,Hypermetabolism,Headache,Hyperhydrosisの頭文字のHを取って5H病とも言われている。このうち、Hypertension,Hyperglycemia,HypermetabolismをHawardの3徴という。 【診断基準:2011年厚労省】 必須項目:1.副腎髄質または傍神経組織由来を示唆する腫瘍 副項目:1.病理所見:褐色細胞腫の所見 2.検査所見:1)尿中アドレナリンまたはノルアドレナリンの高値 2)尿中メタネフリンまたはノルメタネフリンの高値 3)クロニジン試験陽性 *1)、2)、3)のうち1つ以上の所見がある時陽性とする。 3.画像所見:1)MIBGシンチグラフィーで腫瘍に取り込み 2)MRIのT2強調画像で高信号強度 確実例:必須項目1に加えて副項目1あるいは2、3を満たす場合。 疑い例:必須項目1に加えて副項目2あるいは副項目3を満たす場合。 除外項目:偽性褐色細胞腫 |
主訴 |
嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 過呼吸|Hyperpnea 胸痛|Chest pain 高血圧|Hypertension 視力障害|Blurred vision/Visual impairment 心窩部痛|Epigastralgia/Epigastric pain/Upper abdominal pein 心悸亢進|Cardiopalmus 頭痛|Headache/Cephalalgia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 体重減少|Weight loss 多汗|Hidrosis/Hyperhidrosis 動悸|Palpitations 皮膚蒼白|Paling of skin 頻脈|Tachycardia 不安|Anxiety 便秘|Constipation やせ|Weight loss |
鑑別疾患 |
甲状腺髄様癌|Medullary Carcinoma of Thyroid 急性心筋梗塞|Acute Myocardial Infarction(AMI) 高血圧症|Hypertension 神経線維腫症 動脈瘤 脳血管障害 パニック障害 不安神経症 副甲状腺機能亢進症|Hyperparathyroidism 多発性内分泌腫瘍|Multiple Endocrine Neoplasia (MEN) 甲状腺機能亢進症|Hyperthyroidism von Recklinghausen症候群 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/U] Calcium|カルシウム [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/B, /U] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S, /U] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Phosphate|無機リン [/S] Potassium|カリウム [/S] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/S] |
異常値を示す検査 |
Acetone|アセトン [/S] Angiotensin II|アンギオテンシンII [/P] Calcitonin|カルシトニン [/P] Catecholamines|カテコールアミン総 [/P, /U] Chromogranin-A|クロモグラニンA [/S,/P] Dopamine|ドーパミン [/U] Dopamine β-Hydroxylase|ドーパミンβ-水酸化酵素 [/S] Epinephrine|カテコールアミン総 [/P, /U] Erythropoietin|エリスロポエチン [/S] Free Fatty Acids|遊離脂肪酸/非エステル型脂肪酸/FFA [/S] Gastrin|ガストリン [/S] Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S] Homovanillic Acid|ホモバニリン酸 [/U] Hydroxy-Methoxymandelic Acid [/U] Insulin|インスリン [/P] Metanephrine|メタネフリン/メタアドレナリン/メタネフリン総 [/P, /U] Metanephrines, Total|メタネフリン/メタアドレナリン/メタネフリン総 [/P, /U] Neuron-specific Enolase|神経特異エノラーゼ [/S] Norepinephrine|カテコールアミン総 [/P, /U] Normetanephrine|ノルメタネフリン [/P, /U] Proline Hydroxylase|プロリンヒドロキシラーゼ/プロリン水酸化酵素 [/S] Vanillylmandelic Acid|バニリルマンデル酸 [/U] Volume [/P, /RBC] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/U] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 ヘモグロビンとヘマトクリットは血液量が減少するので偽性高値のことがある。 【Ca】 副甲状腺ホルモン関連ペプチドの異所性産生により高値になることがある。 【アセトン】 増加する。アセトンはアセト酢酸、βヒドロキシ酪酸とともにケトン体の一種である。糖利用障害、絶食、飢餓、代謝亢進などにより体内のエネルギー代謝が糖質から脂肪酸に代わると脂肪の分解亢進により遊離脂肪酸が増加し、その遊離脂肪酸が肝で代謝される過程で産生される。尿中メタネフリンは血漿遊離メタネフリンよりも特異度が低いが、感度は約95%である。患者が高血圧の状態で基準範囲内の値が2,3回得られれば、褐色細胞腫の可能性は極めて低くなる。メタネフリン測定はカテコールアミンの中間代謝産物である、メタネフリンとノルメタネフリンを分画定量する検査で、臨床的にはカテコールアミンと同様に神経芽細胞腫や褐色細胞腫を疑う患者に測定する。24時間尿中に排泄された量により一日のカテコールアミンの排泄量が推定できる。 【アンギオテンシンII】 高値である。A IIはアンジオテンシンIが肺の血管内皮で産生されるACE IIにより転換され産生され、生体内で最も強力な昇圧作用を持つ物質である。生理的には血管収縮やアルドステロンの分泌促進などの作用があり、レニン-アンジオテンシン系活性の指標となる。AIIの濃度は血漿レニン活性(PRA)に並行して増減するのでPRA、血漿アルドステロンと同時測定が望ましい。臨床的にはレニン-アンジオテンシン系の関与が疑われる高血圧や電解質異常をきたす疾患の診断、治療法選択の際に測定される。 【メタネフリン】 高値になる。血漿遊離メタネフリンは99%の感度を示す検査である。アドレナリンやノルアドレナリンは間欠的に分泌するが、血漿メタネフリンは持続的に産生されるため、メタネフリン測定は循環血液中のアドレナリンおよびノルアドレナリンを測定するよりも感度が高い。 【カテコールアミン】 血中と尿中濃度が増加する。無症状で正常血圧時でも増加する。濃度は基準範囲の50~100倍。血中で2,000pg/dLを越えれば診断が確定する。CAはドパミン(DA)、ノルアドレナリン(NA)、アドレナリン(A)の総称で、主として、交感神経、副腎髄質、脳などに分布している。DAはNAの前駆物質であるが、中枢神経、消化器、循環器、腎などに生理作用がある。NAは交感神経伝達物質として、Aは副腎髄質ホルモンとしての作用がある。 【血漿レニン活性】 増加する。 【心房性Na利尿ペプチド】 低下する。 【インターロイキン-6】 増加すると発熱とESRの亢進が見られる。 【バニリルマンデル酸】【ホモバニリン酸】 排泄量が増加する。優れたスクリーニング検査である。VMAはカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)の代謝産物の一つで、アドレナリン産生腫瘍(褐色細胞腫)やノルアドレナリン産生腫瘍(神経芽細胞腫)の診断に用いる。臨床的には小児の神経芽細胞腫、成年期以降では褐色細胞腫の診断に有用であるが、VMAが低値の神経芽細胞腫もあるので、ホモバニリン酸(HVA)やVMA以外のカテコールアミン代謝産物の測定も必要である。HVAはドーパおよびドパミンの最終代謝産物でカテコールアミン産生腫瘍である神経芽細胞腫、褐色細胞腫やメラニンを産生する悪性黒色腫では多量に産生される。臨床的にはこれら腫瘍の診断と治療効果判定に血中・尿中のHVA測定が有用である。 【メタネフリン】 尿メタネフリン測定は遊離血漿メタネフリンより特異度は低いが感度は95%あり、基準範囲内の値が2~3回得られれば本症の可能性は極めて低い。 【尿一般検査】 ケトン体が弱陽性~強陽性である 【クロニジン試験】 抑制試験で血中ノルアドレナリン高値の場合に行い、Na低下が見られなければ本症を疑う。 【誘発試験】 危険なので行うべきではない。 【グルカゴン負荷試験】 グルカゴンが内分泌ホルモンの分泌を刺激するので褐色細胞腫の患者には禁忌である。 【耐糖能】 インスリン作用の抑制と肝グルコース排出増加で半数以上の患者に耐糖能異常が見られる。 【T4】【fT4】【T3】【TSH】 代謝亢進が認められるが、甲状腺機能検査は正常である。 【RET遺伝子】 変異を認めることがある。RET遺伝子検査は多発性内分泌腫瘍II型(MEN II)は甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、原発性甲状腺機能亢進症を引き起こす遺伝性疾患の検査である。MEN IIはNEN IIAとMEN IIBがあり、IIAはMEN IIの85%を占め甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、原発性甲状腺機能亢進症が主たる疾患で、IIBは5%で甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、粘膜下神経腫などが主病変である。MEN II FMTCはMEN IIの約10%を占め甲状腺髄様癌が唯一の関連疾患とされている。この遺伝子変異は遺伝性甲状腺髄様癌の95%以上に認められるが、散発性甲状腺髄様癌での出現率は4~20%とされ、髄様癌の遺伝性か散発性かの鑑別に用いる。 |
検体検査以外の検査計画 | 血圧測定、胸・腹部CT検査、MRI検査、18F-FDG-PET検査、131I-MBGシンチグラム、眼底検査 |