疾患解説
フリガナ | トクハツセイハイセンイショウ |
別名 |
特発性線維化肺胞炎 特発性線維化間質性肺炎 |
臓器区分 | 呼吸器疾患 |
英疾患名 | Idiopathic Pulmonary Fibrosis(IPF) |
ICD10 | |
疾患の概念 | IPFは、特発性間質性肺炎の最も頻度の高い型で、進行性の肺線維症を引き起こす。組織学的には、通常型間質性肺炎と同じで、50歳以上の男女に発症し、男女比は2:1で男性に多い。また10歳年を重ねる毎に発症率が顕著に増加する。現在または過去の喫煙が疾患と非常に強く関連し、遺伝的素因も関係している。遺伝的素因、環境刺激、炎症細胞、肺胞上皮、間葉およびその他の未知の要因の組合せが肺胞上皮細胞の機能障害に寄与し、異常な線維性増殖がもたらされると考えられている。病理組織学的所見は胸膜下の線維化で、線維芽細胞の増殖と正常な肺組織域が混在し、リンパ球、形質細胞および組織球の浸潤を伴う散発性の間質性炎症が見られる。嚢胞性の異常所見(蜂巣状陰影)が全ての患者に見られ、疾患の進行に伴い増加する。 |
診断の手掛 |
労作時呼吸困難および乾性咳嗽などが6カ月から数年かけて発現するが、微熱や筋肉痛のような全身症状は稀である。両側肺底部で呼気時に捻髪音(ベルクロラ音)が聞かれ、ばち状指は、症例の約50%に認められるが、その他の検査は疾患が進行するまでは正常である。進行時には肺高血圧症および右室の収縮機能障害の徴候が発現することがある。亜急性の呼吸困難、乾性咳嗽および胸部にベロクロラ音のある患者を診たら本症を疑う。 【診断基準】 主要症状、理学所見、検査所見 1)主要症状及び理学所見として、以下の①を含む2項目以上を満たす場合に陽性とする。①ベロクロラ音(捻髪音)、②乾性咳嗽、③労作時呼吸困難、④ばち状指 2)血清学的検査としては、①~④の①項目以上を満たす場合に陽性とする。①KL-6上昇、②SP-D上昇、③SP-A上昇、④LD上昇 3)呼吸機能①~③の2項目以上を満たす場合に陽性とする。 ①拘束性障害(%VC<80%)、拡散障害(%DLco<80%)、低酸素血症〔以下のうち1項目以上:安静時Pao2(80Todd未満)、安静時AaDo2(20Todd以上)、6分歩行時Spo2(90$以下)] 4)胸部X線所見として、①を含む2項目以上を満たす場合に陽性とする。 ①両側びまん性陰影、②中下肺野、外側優位、③肺野の縮小 5)病理診断を伴わないIPFの場合は、下記の胸部HRCT画像所見のうち①及び②を必須所見とする。 ①胸膜直下の陰影分布、②蜂巣肺、③牽引性気管支炎・細気管支拡張、④スリガラス陰影、⑤浸潤影(コンソリデーション) 上記の1)~5)に関して、下記の条件を満たす確実、ほぼ確実な症例をIPFと診断する。 A)確実:1)~5)の全項目を満たすもの、あるいは肺生検病理組織診断がUIPであるもの。 B)ほぼ確実:1)~5)のうち5)を含む3項目以上を満たすもの。 C)疑い:5)を含む2項目しかみたさないもの。 |
主訴 |
乾性咳嗽 ベロクロラ音 チアノーゼ|Cyanosis/Cyanopathy ばち状指 労作時呼吸困難|Exertional dyspnea |
鑑別疾患 |
感染症 家族性肺線維症 膠原病肺 サルコイドーシス|Sarcoidosis 塵肺 びまん性汎細気管支炎 慢性過敏性肺臓炎 慢性好酸球性肺炎 薬剤性肺炎 |
スクリーニング検査 |
CEA|癌胎児性抗原 [/S] C-Reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Eosinophils|好酸球 [/BAL Fluid] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/BAL Fluid, /S] Leukocytes|白血球数 [/BAL Fluid, /B] Lymphocytes|リンパ球 [/BAL Fluid] Neutrophils|好中球 [/BAL Fluid] Protein|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/BAL Fluid] |
異常値を示す検査 |
CA 19-9|CA19-9 [/S] CD4+:CD8+ Lymphocyte Ratio [/BAL Fluid] Endothelin-1|エンドセリン [/P] Eosinophil Cationic Protein|好酸球塩基性蛋白/好酸球顆粒蛋白/好酸球陽イオン蛋白/好酸球陽性荷電蛋白 [/BAL Fluid] Interleukin-8|インターロイキン-8 [/S] KL-6 Antigen|シアル化糖鎖抗原KL-6/KL-6 [/S] Macrophages|マクロファージ [/BAL Fluid] Surfactant Protein A|サーファクタントプロテインA/肺サーファクタントプロテインA [/BAL Fluid,/S] Surfactant Protein D|サーファクタントプロテインD/肺サーファクタントプロテインD [/S] Type IV Collagen 7s Domein [/S] |
関連する検査の読み方 |
【SP-A】【SP-D】 サーファクタントプロテインは肺胞II型細胞で産生され分泌される表面活性部質でA、B、C、Dの4種が同定されている。SP-AはⅡ型肺胞上皮で産生されるリン脂質・蛋白質の複合体で、肺胞内に分泌され表面張力を打ち消すことで肺胞の含気を保持している。欠乏や機能低下は肺の含気を低下させ、呼吸困難をきたす。臨床的には肺野にびまん性の線維化陰影が認められた場合に測定する。SP-Dは親水性が強く約70%が肺胞被覆層の可溶性分画に分布している。肺胞上皮細胞が損傷を受けると、この細胞に強く発現しているSP-Dが血中に増加する。臨床的には肺にびまん性の線維化陰影が見られた時に、肺損傷の程度を把握するために測定する。 【KL-6】 KL-6はII型肺胞上皮細胞で産生される糖蛋白抗原で、間質性肺炎活動期や膠原病関連間質性肺炎で血中濃度が高値を示す。臨床的には間質性肺炎と非間質性肺炎との鑑別や活動性の評価に用いられる。1,000U/mL以上の高値は予後不良と言われている。類似検査としてサーファクタントプロテインAとDがあり、臨床的意義は同程度とされている。 【組織学的所見】 主要な組織学的所見は胸膜下の線維化で、線維芽細胞の増殖および正常な肺組織域が混在する密な瘢痕が見られる。リンパ球、形質細胞、および組織球の浸潤を伴う散発性の間質性炎症が存在し、嚢胞性の異常所見(蜂巣状陰影)が全ての患者で認められ、疾患の進行に伴い増加する。 |
検体検査以外の検査計画 | 高分解能CT検査 |