疾患解説
フリガナ | タンジュンヘルペスウイルスノウエン |
別名 | 単純ヘルペスウイルスⅠ型脳炎 |
臓器区分 | 感染性疾患 |
英疾患名 | Herpes Simplex Encephalitis |
ICD10 | B00.4 |
疾患の概念 | 散発性のウイルス性脳炎では最も頻度が高く、我が国の脳炎の20%を占める。成人発症のヘルペス脳炎の95%は1型単純ヘルペス(HSV-1)による。発症年齢のピークは50~60歳である。 |
診断の手掛 |
急性の発熱、髄膜刺激症状(頭痛、悪心、嘔吐、項部硬直、Kernig徴候)を訴える患者を診たら本症を疑う。 【診断基準:2005年日本神経感染症学会】 1.急性(時に亜急性)脳炎を示唆する症状・症候を呈する。 2.神経学的検査所見 (1)神経放射線学的所見として側頭葉・前頭葉(主として、側頭葉内側面・前頭葉眼窩・島回皮質・角回を中心として)などに病巣を検出する。A.頭部CT断層撮影 B.頭部MRI。 (2)脳波:ほぼ全例で異常を認める。局在性の異常は多くの症例で見られるが、比較的特徴とされる周期性一側てんかん型放電(PLEDS)は約30%の症例で認めるに過ぎない。 (3)髄液:通常、髄液圧の上昇、リンパ球優位の細胞増多、蛋白の上昇を示す。糖濃度は正常であることが多い。また、赤血球やキサントクロミーを認める場合もある。 3.ウイルス学的検査所見(確定診断) (1)髄液を用いたPCR法でHSV-DNAが検出されること。 (2)HSV抗体測定では抗体価の経時的かつ有意な上昇、または、血清:髄液抗体比≦20、抗体価指数=髄液抗体/血清抗体÷髄液アルブミン/血清アルブミン≧2がみられること。 (3)髄液からのウイルス分離はまれである。 *上記の1、2から単純ヘルペス脳炎を疑う症例を「疑い例」、3のウイルス学的に確定診断された症例を「確定例」とする。 |
主訴 |
意識障害|Memory impaiment 運動麻痺|Motor paralysis 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 感覚障害|Sensory disturbance 痙攣発作|Seizures/Convulsion/Convulsive seizure ケルニッヒ徴候|Kernig sign 項部硬直|Nuchal stiffness/Stiffness of neck/Stiff neck 髄膜刺激症状|Meningeal irritation sign 頭痛|Headache/Cephalalgia 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever |
鑑別疾患 |
急性細菌性髄膜炎 急性散在性脳脊髄炎 非ヘルペス性辺縁系脳炎 インフルエンザ脳炎 脳膿瘍|Brain Abscess 真菌性髄膜炎 結核 破傷風|Tetanus 脳マラリア AIDS脳症 トキソプラズマ脳炎 クリプトコッカス髄膜炎 サイトメガロウイルス感染症|Cytomegalovirus Infection 遅発性ウイルス感染症 |
スクリーニング検査 |
Leukocytes|白血球数 [/CSF] Lymphocytes|リンパ球 [/CSF] Monocytes|単球 [/CSF] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/CSF] |
異常値を示す検査 |
Albumin Index [/CSF] Amyloid β-Protein|アミロイドβ蛋白 [/CSF] Amyloid β-Protein Precursor|アミロイドβ蛋白質前駆体 [/CSF] Cells [/CSF] Herpes Simplex Virus|単純ヘルペスウイルス/HSV特異抗原 [Positive/Lesion] Herpes Simplex Virus Antibodies|単純ヘルペスウイルス抗体/HSV抗体/抗単純ヘルペスウイルス抗体 [/S,/CSF] Herpes Simplex Virus Antigen|単純ヘルペスウイルス抗原 [/S,/CSF] IgG Index|IgG合成比 [/CSF] Interleukin-8|インターロイキン-8 [/CSF] Macrophage Inflammatory Protein-1α [/CSF] Monocyte Chemotactic Protein-1 [/CSF] RANTES [/CSF] α1-Antichymotrypsin|α1-アンチキモトリプシン [/CSF] |
関連する検査の読み方 |
【単純ヘルペスウイルス抗体】 髄液と血清中の抗体価をペアで測定する。単純ヘルペスウイルスは初感染後、生涯にわたり三叉神経節、仙骨神経節に潜伏感染しているが、疲労、外傷、熱性疾患、妊娠などにより活性化され口唇部や陰部の皮膚に水泡を作るウイルスである。また、性器ヘルペスは出産時に新生児に感染すると重篤な症状をきたすため迅速診断が必要になる。臨床的には角結膜炎、口内炎、ヘルペス脳炎、性器ヘルペスなどで単純ヘルペス感染を疑う場合に測定する。また、回復期血清で高値が認められない場合は、1~2週間後に再検する。 【単純ヘルペスウイルス抗原】 従来、性器のHSV感染症検査は蛍光抗体法(FA法)とウイルス分離同定法が用いられているが、FA法は感度が20~30%と低く、ウイルス分離同定法は感度60%、特異度100%と高いが結果を得るまで2~7日を要するなど日常の臨床の場では使用が限定される。これに対し本法は検体中のウイルスを免疫クロマト法で15分程度で検出でき、感度58%、特異度96%とウイルス分離同定法とほぼ同じことから、日常臨床では有用とされる。 【HSV特異抗原】 HSV感染は皮膚・粘膜に水泡を形成する軽度なものから、脳炎や新生児ヘルペスなど重篤なものまであるが、脳炎や新生児の感染は抗原検出による早期診断と治療が必要である。この検査は塗抹標本から免疫学的方法でウイルスの存在を証明するもので、迅速診断が可能である。臨床的には性器の水泡性病変、潰瘍性病変、結膜炎などで単純ヘルペス感染を疑うときやヘルペス脳炎の診断、単純ヘルペスウイルス感染と水痘・帯状疱疹ウイルス感染との鑑別などに用いる。 【髄液単純ヘルペスウイルスDNA検査】 感度・特異度ともに高い検査である。 【髄腔内抗体産生】 血清抗体価:髄液抗体価の比が20以下ならば髄腔内抗体産生を示唆する所見である。 【髄液一般検査】 初圧増加、細胞数増多(単核球優位)、蛋白増加を認めるが、グルコースは基準範囲内である。出血性脳炎を発症するとキサントクロミーを呈する。 |
検体検査以外の検査計画 | 頭部CT検査、MRI検査 |