疾患解説
フリガナ | チュウスウセイニョウホウショウ |
別名 |
尿崩症 バゾプレシン分泌低下症 バゾプレシン感受性尿崩症 |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Diabetes Insipidus,Central(CDI) |
ICD10 | E23.2 |
疾患の概念 | CDIは、視床下部-下垂体疾患によるバソプレシンの欠乏または腎のバソプレシンに対する抵抗性が原因の疾患である。抗利尿ホルモンの分泌や作用障害により、水の再吸収が阻害され、多量の水分が尿として失われる疾患で、視床下部-下垂体後葉系の障害が60%を占める。尿は通常3L/日以上で、典型例では10L/日を超えることもある。原発性CDIは、20番染色体のバソプレシン遺伝子異常が原因で、常染色体優性遺伝形式をとり、多くの場合、特発性である。続発性CDIは下垂体切除術、頭蓋底骨折、トルコ鞍の上部および内部の腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ球性下垂体炎、サルコイドーシス、結核、動脈瘤、血栓症、脳炎、髄膜炎などが原因疾患である。 |
診断の手掛 |
緩徐進行性または急激に発症する多飲、口渇と1日3~30L以上の多尿を訴える患者を診たら本症を疑う。夜間多尿もほぼ必発で、頻尿による睡眠障害や傾眠を訴えることもある。多飲症を伴うため脱水の臨床症状は殆ど見られない。 【診断基準:2015年厚労省】 1.主要項目(1)主症状:①口渇②多飲③多尿 (2)検査所見:①尿量は1日3,000mL以上②尿浸透圧は300mOsm/kg以下③血漿バゾプレシン濃度:血清Na濃度と比較して相対的に低下する。5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/minで120分点滴投与)時に、血清Naと血漿バゾプレシンがそれぞれ、Ⅰ)144mEq/Lで1.5pg/mL以下、Ⅱ)146mEq/Lで2.5pg/mL以下、Ⅲ)148mEq/Lで4pg/mL以下、Ⅳ)150mEq/L以上で6pg/L以下である。⑤バゾプレシン負荷試験で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg異常に上昇する。 *鑑別診断:多尿をきたす中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。①高Ca血症:血清Ca濃度が11.0mg/dLを上回る。②心因性多飲症:高張食塩水負荷試験と水制限試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇および血漿バゾプレシン濃度の上昇を認める。③腎性尿崩症:バゾプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。定常状態での血漿バゾプレシン濃度の基準値は1.0pg/mL以上となっている。 3.診断基準:完全型中枢性尿崩症:1(1)の①から③すべての項目を満たし、かつ1(2)の①から⑤すべての項目を満たすもの。 部分型中枢性尿崩症:1(1)の①から③すべての項目を満たし、かつ1(2)の①、②、⑤を満たし、1(2)の④ⅠからⅣの1項目を満たすもの。 |
主訴 |
口渇|Thirst 視野障害|Disturbance in visual field 視力障害|Blurred vision/Visual impairment 多飲|Polydipsia 多尿|Polyuria 脱水|Dehydration 皮膚乾燥|Xeroderma 夜間多尿|Nocturia/Nycturia 冷水多飲|Polydipsia of cold water |
鑑別疾患 |
乳癌|Breast Cancer 肺癌|Lung Cancer アミロイドーシス|Amyloidosis 鎌状赤血球症|Sickle Cell Disease 結核 シェーグレン症候群|Sjogren's Syndrome 心因性多飲症 腎盂腎炎 糖尿病|Diabetes Mellitus 脳炎|Encephalitis 梅毒|Syphilis Hand-Schueller-Christian病 視床下部症候群 慢性腎疾患 多発性骨髄腫|Multiple Myeloma 薬剤(リチウム、デメクロサイクリン、マンニトール、ソルビトール) |
スクリーニング検査 |
Creatinine|クレアチニン [/S] Uric Acid|尿酸 [/S] |
異常値を示す検査 |
Arginine Vasopressin|アルギニンバゾプレッシン/抗利尿ホルモン/バゾプレシン [/P] Fractional Excreation of Urea [/U] Fractional Excreation of Uric Acid [/U] Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [/P] Urea|尿素 [/S] |
関連する検査の読み方 |
【抗利尿ホルモン】 測定は最も直接的な診断法である。ADHは視床下部で生合成された後に下垂体後葉から分泌され、腎集合管のV2受容体に作用して抗利尿作用を発揮し体液量と血漿浸透圧の調節を行う。ADH濃度と血漿浸透圧の間には相関関係があり、血漿浸透圧の僅かな変動でADH分泌が微妙に調節されている。臨床的には口渇、多飲の症状がみられる場合に測定する。特に一日の尿量が5Lを超える高度の多尿を訴える中枢性尿崩症、心因性多飲症、腎性尿崩症の鑑別には必須の検査である。ADHが低値の場合は中枢性尿崩症と心因性尿崩症の鑑別のため水制限試験、高張食塩水負荷試験を行う。 【高張食塩水試験】 5%食塩水を0.05mL/kg/分の速度で投与する。中枢性尿崩症ではバゾプレシンの分泌が低下するが腎性尿崩症では軽度亢進する。 【浸透圧】 増加する。血清Naは増加するが尿比重は1.005以下に低下する。尿浸透圧は290mOsm/kg未満である。血清の浸透圧は体液の恒常性を保つ作用があり、280~290mOsm/kgH2Oに調節されており、この調節は生理作用としての口渇と抗利尿ホルモン(アルギニンバゾプレッシン)を介して行われている。浸透圧測定は体液の恒常性維持機能が正常に働いているかどうかを見るスクリーニング検査で的確な判断をするためには、血液と尿の浸透圧を同時測定する。 【尿量】 24時間に4~15Lの大量排泄が特徴である。 【バゾアクティブ腸管ペプチド】 腸液分泌刺激作用があるので除外診断に用いる。VIPは血管拡張、血圧低下、心拍出量増加、小腸の水・電解質分泌亢進などの生理作用を持つペプチドホルモンで、VIP産生腫瘍はWDHA症候群の原因となる。大量の水溶性下痢(一日数リットル以上)、低K血症、無酸症をきたす患者を見た場合はVIP産生腫瘍を疑う。また、VIP産生腫瘍はグルカゴン、5-HIAAなども増加することがあるので注意が必要である。 【水制限試験】 飲水を制限し、体重が3%減少した時点で終了する。30分毎に体重、尿量、尿浸透圧を測定する。水制限試験後尿量は減少も増加もしない、また尿浸透圧も上昇しない。重篤な脱水を生じる恐れがあるので、厳重な監視下で行う。この試験後にバゾプレシン負荷試験を行う。 【バソプレシン負荷試験】 水溶性ピトレシン5単位を皮下注射し30分ごとに2時間採尿する。尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する。 【酢酸デスモプレシン投与】 DDAVP投与で尿量は低下し、尿浸透圧が増加する。 |
検体検査以外の検査計画 | 下垂体MRI検査、視床下部・下垂体CT検査 |