疾患解説
フリガナ | ニュウガン |
別名 | 悪性腫瘍(乳房) |
臓器区分 | 女性性器疾患 |
英疾患名 | Breast Cancer |
ICD10 | C50.9 |
疾患の概念 | 女性の悪性腫瘍罹患率上位の疾患で、食事や生活スタイルの欧米化により増加している。他の臓器の悪性腫瘍に比べるとやや若年層(罹患年齢中央値50歳前後)に発症する。乳癌の70%は、女性ホルモン受容体を持ち、ホルモンにより癌の発育が促進される。乳癌はホルモン依存性疾患で、卵巣が機能を失い、しかもエストロゲンの治療を受けていない女性には乳癌は発症しない。家族歴は第1度近親者に乳癌罹患者がいる場合、発生リスクが2倍~3倍上昇する。第1度近親者に2人以上の乳癌罹患者がいる場合は、リスクは5~6倍高くなる可能性がある。乳癌の女性のおよそ5%に乳癌遺伝子BRCA1またはBRCA2のうちの1つに変異がみられ、近親者もその遺伝子をもつ場合は、生涯発症リスクは50~85%となる。また、BRCA1変異のある女性は、卵巣癌の生涯発症リスクが、20~40%になる。初経が早い、閉経が遅い、または最初の妊娠が遅い場合もリスクが上昇し、最初の妊娠が30歳以後の女性は初産婦よりもリスクが高い。大部分の乳癌は、乳管または小葉を覆う細胞から発生する上皮性腫瘍で、血管肉腫、原発性間質肉腫などの非上皮性腫瘍は比較的稀である。乳癌は局所的に浸潤し、所属リンパ節や血流を介して肺、肝、骨、脳、皮膚に転移する。エストロゲンおよびプロゲステロンのホルモン受容体が一部の乳癌に存在するので、これら受容体を阻害する薬物が、治療に有用な場合がある。閉経後の患者の約3分の2は、エストロゲン受容体陽性腫瘍を有する。もう1つの受容体にヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neuまたはErbB2)があり、予後不良と関係している。 |
診断の手掛 | 非対称性の腫瘤(しこり)を患者が触知することで見つかることが多い。このほか健診時やマンモグラフィー時に発見される。乳頭Paget病は紅斑、痂皮、鱗屑、分泌物などの皮膚変化として表れ、これらの変化は通常良性のように見えるため、診断が遅れ、患者の半数は来院時に触知可能な腫瘤がある。乳癌が進行すると、皮膚への腫瘤の固着,皮膚の衛星結節や潰瘍または浮腫が生じ、皮膚紋理の増強がみられる。腋窩リンパ節の癒合は、鎖骨上および鎖骨下リンパ節腫脹と同様、腫瘍の転移を意味する。 |
主訴 |
えくぼ徴候|Dimple sign 血性乳頭分泌|Bloody nipple discharge 疼痛|Pain/Ache 乳頭陥没|Inverted nipple 乳頭びらん|Erosion of nipple 乳頭分泌|Nipple discharge 乳頭変形|Deformation of nipple 乳房腫瘤|Breast mass 乳房変形|Nipple deformation |
鑑別疾患 |
線維腺腫 乳腺症 脂肪腫 乳腺炎 乳輪下膿瘍 乳管内乳頭腫 嚢胞 高Ca血症|Hypercalcemia 乳頭Paget病 |
スクリーニング検査 |
α-Fetoprotein|α-フェトプロテイン [/S] Albumin|アルブミン [/S, /U] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/WBC, /S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Calcium|カルシウム [/S, /U, /S, /U] CEA|癌胎児性抗原 [/AsF, /PlF, /S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Ferritin|フェリチン [/S] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S, /U] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S, /U] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/S, /U] Iron|鉄/血清鉄 [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] LDL-Cholesterol|LDL-コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール [/S] Lymphocytes|リンパ球 [/B] PSA|前立腺特異抗原 [/Cyst Fluid] Rheumatoid Factor|リウマチ因子測定/RAゼラチン凝集反応/リウマチ因子定量 [/S] Thyroxine (T4)|総サイロキシン/総T4/サイロキシン/チロキシン [/S] TIBC|総鉄結合能 [/S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] Thyroid Stimulating Hormone|甲状腺刺激ホルモン [/S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] Uric Acid|尿酸 [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
1-Methyladenosine [/U] 1-Methylinosine [/U] 17-Ketosteroids|17-ケトステロイド [/U] 2-Hydroxyestrone|2-ヒドロキシエストロン [/U] 2-Hydroxyestrone:16α-Hydroxyestrone Ratio [/U] 5-Methylcytidine [/U] 7-Methylguanosine [/U] Acid Phosphatase|酸性ホスファターゼ [/S] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Alkaline Phosphatase Isoenzymes|アルカリホスファターゼアイソザイム/ALPアイソザイム [/S] Amyloid A Protein|血清アミロイドA蛋白/アポSAA/アミロイドA蛋白 [/S] Androgens|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/U, /P] Androsterone|アンドロステロン [/U] Anti-p53 Antibodies|抗p53抗体 [/S] Apolipoprotein B|アポリポ蛋白B [/S] Apolipoprotein D [/S] Apolipoprotein E|アポリポ蛋白E [/S] Basic Fibroblast Growth Factor|塩基性線維芽細胞成長因子 [/S] BCA225|BCA225 [/S] Bone Sialoprotein|骨シアロ蛋白質 [/S] BRCA-1 and 2 Gene|BRCA-1 and 2遺伝子 [Positive/B] Breast Antigen BR 27.29 [/S] c-erb-B2 Oncoprirein [/S, /S, /Tissue] CA 125|CA125 [/S] CA 15-3|CA15-3 [/S] CA 19-9|CA19-9 [/S] CA 27-29 [/S] CA 50|CA50 [/S] CA 549 [/S] CA 72-4|CA72-4 [/S] CA-M26 [/S] CA-M29 [/S] Calcitonin|カルシトニン [/P] Casein|カゼイン [/S] Cathepsin B|カテプシンB/カテプシンL [/S, /Tissue] Cathepsin D|カテプシンD [/Tissue] Cathepsin L|カテプシンB/カテプシンL [/Tissue] Ceruloplasmin|セルロプラスミン/フェロオキシダーゼ [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S] Complement C4|補体第4成分/β1Eグロブリン/C4 [/S] Complement, Total|補体価/CH50 [/S] Copper|銅 [/S] Cytokeratin 19 Fragment|サイトケラチン19フラグメント/シフラ/シフラ21-1/CYFRA [/S] Cytotoxic Sialosylated Lewis x Antigen|シアリルLex抗原 [/S] Deoxypyridinoline|デオキシピリジノリン [/U] DF3 [/S] Estrogen Receptor|エストロゲンレセプター [Positive/Tissue] Epidermal Growth Factor|上皮細胞増殖因子/上皮細胞成長因子 [/Saliva, /Tissue, /U] Etiocholanolone|エチオコラノロン [/U] Fucose|フコース [/S] Galactosyl-Hydroxylysine [/U] Galactosyltransferase Isoenzyme II [/S] Glycated Protein|糖化蛋白 [/S] Haptoglobin|ハプトグロビン [/S, /U] Hemopexin|ヘモペキシン [/S] HER2 Gene|HER2遺伝子/乳癌HER2遺伝子 [Positive/Tissue] HER2/neu Protein [Positive/Tissue] Hexokinase|ヘキソキナーゼ(赤血球) [/S] Hyaluronic Acid|ヒアルロン酸 [/S] Hydroxyproline|総ヒドロキシプロリン/ヒドロキシプロリン [/P, /U] Insulin-like Growth Factor Binding Protein-1 [/S] Insulin-like Growth Factor Binding Protein-3|インスリン様成長因子結合蛋白-3型/IGF結合蛋白-3 [/S] Insulin-like Growth Factor Binding Protein-3 Protease [/S] Insulin-like Growth Factor Binding Protein-6 [/S] Insulin-like Growth Factor-I|インスリン様成長因子-1/ソマトメジンC [/S] Insulin-like Growth Factor-I:Insulin-like Growth Factor Binding Protein-3 Ratio [/S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Iron Saturation|鉄飽和度 [/S] Lactate|乳酸/ラクテート [/B] Laminin|ラミニン [/S] Lipoprotein Lp (a)|リポ蛋白(a)/リポプロテイン(a) [/S] Mucin-like Carcinoma Antigen|ムチン様癌関連抗原 [/S] Neopterin|ネオプテリン [/U] Neuron-specific Enolase|神経特異エノラーゼ [/S] Osteocalcin|オステオカルシン [/S] Parathyroid Hormone|副甲状腺ホルモン [/P] Parathyroid Hormone-related Peptide|副甲状腺ホルモン関連蛋白 [/P] pH|尿pH [/B] Phosphohexoseisomerase|ホスホヘキソイソメラーゼ/グルコースリン酸イソメラーゼ/ホスホへキソムターゼ [/S] Plasminogen Activator Inhibitor-1|プラスミノゲンアクチベータインヒビター-1 [/Tissue] Polymorphic Epithelial Mucin [/S] Pregnancy-associated α-Macroglobulin [/S] Procollagen Type III Peptide|プロコラーゲンIIIペプチド [/S] Procollagen Type IV Peptide [/S] Progesterone Receptor|プロゲステロンレセプター [Positive/Tissue] Prolactin|プロラクチン/乳汁分泌ホルモン [/P, /P] Prostaglandin D Synthase [/Tissue] Prostate-specific Antigen|前立腺特異抗原 [/Cyst Fluid] Pseudouridine|シュードウリジン [/U] Putrescine|ポリアミン/プトレッシン [/S] Pyridinoline|ピリジノリン [/U] Pyruvate [/B] Retinol|ビタミンA/レチノール [/S] Retinol-binding Protein|レチノール結合蛋白 [/S] Sialic Acid, Lipid-associated [/S] Sialyltransferase [/S] Soluble Urokinase Receptor [/S] Spermidine|スペルミジン [/S, /U] Stromelysin-3 mRNA [/Tissue] T3-Uptake|トリヨードサイロニン摂取率/トリオソルブテスト/T3摂取率 [/S] Tenascin-C [/S] Testosterone|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/S] Thrombospondin|トロンボスポンジン [/P] Thymidine Kinase [/S] Tissue Factor Pathway Inhibitor [/P] Tissue Inhibitor of Metalloproteinase-1|組織メタプロテアーゼインヒビター/コラゲナーゼインヒビター1 [/S] Tissue Plasminogen Activator|組織プラスミノゲンアクチベータ [/Tissue] Tissue Polypeptide Antigen|組織ポリペプチド抗原 [/S] Transforming Growth Factor-α [/S] Transforming Growth Factor-β2 [/S] Transthyretin|トランスサイレチン/プレアルブミン [/S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] Urokinase Plasminogen Activator|ウロキナーゼプラスミノゲンプロアクチベータ [/P, /Tissue] Urokinase Plasminogen Activator Receptor [/Tissue] Vascular Endothelial Growth Factor|血管内皮増殖因子 [/S] Volume [/U] Zinc|亜鉛 [/S] α-Enolase [/S] α-Glucosidase|α-グルコシダーゼ [/S] α1-Acid Glycoprotein|α1-酸性糖蛋白/オロソムコイド/α1アシドグリコプロテイン [/S] α1-Antichymotrypsin|α1-アンチキモトリプシン [/S] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/S] β-Chorionic Gonadotropin|ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット [/P] β-Glucuronidase|β-グルクロニダーゼ [/S] β2-Microglobulin|β2-ミクログロブリン/β2-マイクログロブリン [/S] γ-Enolase [/S] |
関連する検査の読み方 |
【BCA225】 再発乳癌での陽性率が高いので治療効果判定に有用である。BCA225はヒト乳癌細胞株の培養液中に出現する糖蛋白質で原発性進行性乳癌、再発性乳癌、転移性乳癌患者で高値を示す。良性の乳腺疾患で数%、肝細胞癌26%、肺癌10%、大腸癌と胃癌は数%の陽性率とされている。臨床的には乳癌の治療効果、再発のモニタリングとして用いる。また、転移性乳癌では、CA15-3と同様に高値を示すので転移の早期発見にも有用である。ただし、最近では乳癌マーカーとしてはCEA、CA15-3、NCC-ST-439の組み合わせが頻用されている。 【BRCA-1 and 2遺伝子】 遺伝子変異を認める。BRCA1/2遺伝子が変異するとHBOCを発症するため、既往歴や家族歴から遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)が疑われた患者に対して行う検査である。この検査は遺伝性乳癌・卵巣癌(HBOC)の原因遺伝子であるBRCA1/BRCA2遺伝子の病的変異の有無を調べる検査で、変異が陽性ならHBOCと診断される。また家系内での変異陽性者は乳癌の発症リスクが高いことを意味する。臨床的には変異陽性者に対する乳房切除術、卵巣・卵管切除術、予防的内分泌治療の判断に使われる。 【CA15-3】 症状発現前の再発検知に用いられるが、良性の乳腺疾患や肝疾患でも高値を示す。 【CEA】 病期の進行や骨や臓器に転移した場合には増加する。増加の程度は進展度に比例する。寛解や再発の把握に有用であるが、スクリーニングには使えない。 【シアリルLex抗原】 再発乳癌で高値である。CSLEXは胃癌細胞を免疫群にして作られた糖鎖性抗原で、血液型により陽性率が変わる1型糖鎖抗原と異なり、Lewis式血液型の影響を受けない。臨床的には乳癌、肺腺癌、膵癌、大腸癌の診断や経過観察、乳癌患者の術後モニタリング、化学療法後の治療効果判定に用いる。特に本抗原は進行乳癌や再発乳癌には高い陽性率を示すが、乳腺疾患では偽陽性が極めて低いことから、乳癌の診断に有用とされている。 【HER2/neu遺伝子】 増幅を認める。HER2遺伝子は17番染色体に存在し、細胞の分化、増幅などに関与している。また、乳癌、卵巣癌、子宮癌、胃癌、膀胱癌、前立腺癌、非小細胞肺癌などの腫瘍の増幅にも重要な役割を果たしている。特に乳癌ではHER2遺伝子の増幅や過剰発現が腫瘍の浸潤、低エストロゲン受容量、悪性度などと関連し、浸潤性乳癌の10~30%はHER2遺伝子の増幅が認められ、予後不良とされている。これらの患者に対し抗HER2ヒト化モノクロナール抗体悪性腫瘍剤(ハーセプチン)を使用するにあたり、HER2遺伝子の発現が認められる場合、その奏功率は34%とされ、HER2の発現の有無を知ることは極めて重要である。 【HER2/neu蛋白】 過剰に発現する。HER2蛋白は癌遺伝子HER-2/neuの産物で細胞の増殖と分化に関与するシグナル伝達系の一部を担当している。HER2/neu遺伝子は 乳癌や胃癌などで過剰発現が認められ、乳癌では20~30%程度に発現しているが、これは細胞膜にHER-2蛋白の存在を意味する。臨床的には癌の再発や重症化を規定する予後推定因子として、またホルモン療法や化学療法の効果を規定する因子として測定される。特に原発性乳癌の治療ではHER-2/neu遺伝子などの危険因子の情報による治療法の選択が推奨されており、術後の治療方針決定、進行・再発乳癌の治療方針決定、術後と化学療法のモニタリングには必須の検査である。 【I型コラーゲンC末端テロペプチド】 骨転移に先行して高値を示す。ICTPは骨基質の90%以上を占めるI型コラーゲンが分解され血中に放出されたC末端部ペプチドで、血中濃度はコラーゲン線維の生成速度を反映するとされ、骨形成の指標として測定される。 【I型コラーゲン架橋N末端テロペプチド】 乳癌、肺癌、前立腺癌の骨転移の指標として有用である。NTxはI型コラーゲンC末端テロペプチドと同じくI型コラーゲンが分解され血中に放出されたN末端ペプチドであるが、1CTPと異なり尿細管で再吸収されないため、より検体が得やすい尿中濃度の測定で1CTPと同じ臨床的意義があるとされている。 【p53遺伝子】 高頻度に変異を認める。p53遺伝子の変異はヒトのあらゆる組織の腫瘍で認められる。変異は多くの場合17番染色体短腕(17p)の一方のアレル欠失と点突然変異である。この遺伝子の変異はヒトのあらゆる組織由来の腫瘍で認められる。臨床的には癌の悪性度の評価や予後推定に有用である。 【抗p53抗体】 早期診断に有用である。p53はアポトーシス誘導、遺伝子修復、細胞周期回転抑制などの生理機能を持ち、癌抑制遺伝子としての働きを持つ。胃、大腸、食道、肺、脳などの多くの悪性腫瘍ではp53遺伝子が変異により失活し、変異p53蛋白が産生され抗p53抗体が出現する。抗p53抗体は癌細胞特異抗原に対する抗体であること、癌細胞が微量であっても検出が可能なことから、臨床的には癌の早期発見と再発モニタリングに有用とされている。陽性の場合は病理組織検査で腫瘍細胞のp53遺伝子変異の有無を確認する。 【エストロゲンレセプター】 採取された乳癌組織の約50%で陽性。陰性の場合はホルモン治療に対する効果は10%以下である。ERはERαとERβの2種が知られており、エストロゲン標的細胞の核内に存在しエストロゲンはこの標的細胞と結合すると生理作用を発現する。受容体は乳腺、子宮内膜、中枢神経系、血管平滑筋などに広く分布している。ERαは乳癌、子宮体癌、甲状腺癌、髄膜腫などに局在することが知られているが、臨床的には乳癌の内分泌療法の指標として用いられる。陽性の場合はプロゲステロンレセプター測定とHER2/new遺伝子発現の有無を検討する。 【プロゲステロンレセプター】 エストロゲンとプロゲステロンレセプターの両者が陽性なら、ホルモン治療の反応率は70~80%である。PgRは乳腺、子宮、視床下部に分布しているが乳癌、子宮内膜癌や髄膜腫でも発現する。臨床的には乳癌組織中のPgRを測定し、その乳癌がホルモン依存性癌であるか否かを決める。乳癌の場合PgRとエストロゲンレセプターαを測定し両者の発現の組み合わせからホルモン療法の対象を選択する。異常値を見た場合はHER2/neu遺伝子の発現をチェックする。 【可溶性ICAM-1】 転移性乳癌で高値を示す。sICAM-1は免疫担当細胞、血管内皮細胞、癌細胞などに発現し免疫担当細胞との接着、白血球の血管外遊出、Tリンパ球の活性化などに関与している。生理的には自己免疫、感染、腫瘍の浸潤、アレルギーなどでもたらされる炎症性病態に深くかかわっている。臨床的には炎症性疾患の活動性の評価、癌侵潤の程度推定などに用いる。 【サイトケラチン19mRNA】 リンパ節転移例で強陽性である。術中診断に用いる。この検査は乳癌、大腸癌、胃癌の術中に摘出されたリンパ節のCK19mRNAを定量的に測定することで、リンパ節への転移の有無を知るために行う。臨床的には乳癌、大腸癌、上皮性胃癌で2.5×10²copies/μL以上あれば転移ありと診断できる。ただし、非上皮性腫瘍ではリンパ節転移があってもCK19mRNAはカットオフ値以下になるので注意する。 【乳頭分泌液中CEA】 非浸潤性乳癌で増加する。乳癌細胞に由来するCEAは大部分が乳管に放出されるので、乳頭分泌物のCEA検査の診断的有用性は高い。無腫瘤性乳癌では、カットオフ値を400ng/mLとすると感度と特異度は70~80%と高率となる。乳腺症や乳管内乳頭腫の一部にも高値を示す場合があるので注意する。乳頭異常分泌症は全乳腺疾患の5~10%を占めるが、腫瘤を伴う場合はマンモグラフィー、生検などで診断が可能であるが、腫瘤を伴わない場合のスクリーニングとしての乳頭分泌液検査が有効である。臨床的には乳頭分泌液の潜血反応が陽性か血性分泌液の場合に測定する。 【生検】 診断の第一選択検査である。超音波ガイド下に行う。経皮的コア生検が手術生検よりも望ましい。 |
検体検査以外の検査計画 | マンモグラフィー、胸部X線検査、超音波検査、腹部CT検査、MRI検査 |