疾患解説
フリガナ | クッシングショウコウグン |
別名 |
クッシング病 副腎腺腫 副腎皮質機能亢進症 |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Cushing's Syndrome |
ICD10 | E24.9 |
疾患の概念 | 副腎皮質からのコルチゾールまたは関連するコルチコステロイドの慢性的分泌過剰により引き起こされる病態で、ACTH依存性とACTH非依存性に分けられる。ACTH依存性のうち、下垂体原発のACTH過剰分泌によるものがCushing病で、Cushing症候群の36%を占める。約20~25%の患者は副腎に片側性の腫瘍を持ち、その半数は悪性である。副腎皮質の機能亢進は、ACTH依存性とACTH非依存性があるが、ACTH依存性の機能亢進は、1.下垂体によるACTHの過剰分泌 2.肺小細胞癌またはカルチノイド腫瘍などの下垂体以外の腫瘍からのACTH分泌 3.外因性ACTHの投与が原因である。また、ACTH非依存性の機能亢進は、コルチコステロイドの投与、副腎腺腫、副腎癌などが原因である。 |
診断の手掛 |
多血性の満月様顔貌、痩せた四肢と体幹肥満、鎖骨上窩や項部に水牛様脂肪沈着を見たら本症を疑う。糖尿病、高血圧症、低K血症などの合併にも注意する。また、筋力低下、薄く萎縮した皮膚、皮下溢血、腹部の紫紅色の皮膚線条などは重要な診断の手掛かりである。高血圧、腎結石、骨粗鬆症、耐糖能障害、易感染性の患者も一度は基礎疾患としての本症の存在をチェックする。 【診断基準:2015年厚労省】 1.主要項目:(1)主症候:①特異的症候 (ア)満月様顔貌(イ)中心性肥満または水牛様脂肪沈着(ウ)皮膚の伸展性赤紫色皮膚線条(幅1cm以上)(エ)皮膚の菲薄化および皮下溢血(オ)近位筋萎縮による筋力低下(カ)小児における肥満を伴った発育遅延 ②非特異的症候(ア)高血圧(イ)月経異常(ウ)にきび(エ)多毛(オ)浮腫(カ)耐糖能異常(キ)骨粗鬆症(ク)色素沈着(ケ)精神異常 上記の①特異的症候および②非特異的症候の中から、それぞれ一つ以上認める。 (2)検査所見:①血中ACTHとコルチゾールが同時測定で高値~正常を示す。②尿中遊離コルチゾールが高値~正常を示す。上記のうち、①は必須である。上記の①、②を満たす場合、ACTHの自立性分泌を証明する目的で、(3)のスクリーニング検査を行う。 (3)スクリーニング検査:①一晩少量デキサメサゾン抑制試験:前日深夜に0.5mgのデキサメサゾンを内服した翌朝(8~10時)の血中コルチゾール値が5μg/dL以上を示す。②血中コルチゾール日内変動:複数日において深夜睡眠時の血中コルチゾール値が5μg/dL以上を示す。③DDAVP試験:DDAVP(4μg)静注後の血中ACTHが前値の1.5倍以上を示す。④複数日において深夜唾液中のコルチゾール値が、その施設における平均値の1.5倍以上を示す。①は必須で、さらに②~④のいずれかを満たす場合、ACTH依存性クッシング症候群を考え、異所性ACTH症候群との鑑別を目的に確定診断検査を行う。 (4)確定診断検査:①CRH試験:ヒトCRHを100μg静注後の血中ACTH頂値が前値の1.5倍以上に増加する。②一晩大量デキサメサゾン抑制試験:前夜深夜に8mgのデキサメサゾンを内服した翌朝(8~10時)の血中コルチゾール値が前値の半分以下に抑制される。③画像検査:MRI検査により下垂体腫瘍の存在を証明する。④選択的静脈洞サンプリング(海綿静脈洞または下錐体静脈洞):本検査において血中ACTH値の中枢・末梢比(C/P比)が②以上(CHR刺激後は3以上)ならクッシング症候群、2未満(CRH刺激後は3未満)なら異所性ACTH産生腫瘍の可能性が高い。 2.診断基準:確実例:(1),(2),(3)および(4)の①、②、③、④を満たす。ほぼ確実例:(1),(2),(3)および(4)の①、②、③を満たす。疑い例:(1),(2),(3)を満たす。 |
主訴 |
易感染性|Susceptibility to infection 筋力低下|Weakness 月経異常|Menoxenia 高血圧|Hypertension 骨折|Fracture 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 体幹肥満|Somatic obesity 体重増加|Obesity 多毛|Hypertrichosis/Hirsutism 中心性肥満|Central obesity 皮膚線条|Sreiae cutis/Striae 皮膚菲薄|Thin skin 肥満|Obesity/Adiposity 満月様顔貌|Moon face 無月経|Amenorrhea 野牛肩|Buffalo hump 抑うつ状態|Depressive state |
鑑別疾患 |
ACTH非依存性大結節性副腎過形成 アルコール依存症|Alcoholism 医原性クッシング症候群 サブクリニカルCushing症候群 異所性ACTH産生腫瘍 インポテンス クッシング病 高血圧症|Hypertension 骨粗鬆症|Osteoporosis 視床下部障害 腎結石症 男性化女子 副腎腫瘍 副腎髄質過形成 無月経 卵巣腫瘍 耐糖能障害 単純性肥満 うつ病|Depression |
スクリーニング検査 |
Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Potassium|カリウム [/S] |
異常値を示す検査 |
17-Hydroxycorticosteroids|17-ヒドロキシコルチコステロイド [/U] 17-Ketogenic Steroids|17-ケトジェニックステロイド [/U] 17-Ketosteroids|17-ケトステロイド [/U] 18-Hydroxycortisol|18-ヒドロキシコルチゾール [/S, /U] 18-Oxycortisol [/P, /S, /U] Alkaline Phosphatase, Bone Isoenzyme|骨型アルカリホスファターゼ/骨性ALP [/S] Amino-terminal Propeptide of Type III Collagen [/S] Amino-terminal Propeptide of Type III Procollagen [/S] Androstenedione|アンドロステンジオン [/P] C-terminal Telopeptide of Type I Collagen|I型コラーゲンC末端テロペプチド [/S] Corticotropin|副腎皮質刺激ホルモン/コルチコトロピン [/P, /P] Cortisol|コルチゾール [/P, /Saliva, /U] Cortisol, Free|コルチゾール [/U] Cortisone|コルチゾン [/P, /U] Cross-Linked C-terminal Telopeptide of Type I Collagen|I型コラーゲンC末端テロペプチド [/S] Dehydroepiandrosterone Sulfate|デヒドロエピアンドロステロンサルフェート [/P] Dehydroepiandrosterone|デヒドロエピアンドロステロン [/P] Dexamethasone Suppression|デキサメタゾン抑制試験 [/P] Free Cortisone: Free Cortisol Ratio [/U] Growth Hormone|成長ホルモン [/P, /P] Growth Hormone Binding Protein|成長ホルモン結合蛋白 [/S] Insulin-like Growth Factor Binding Protein-3|インスリン様成長因子結合蛋白-3型/IGF結合蛋白-3 [/S] Insulin-like Growth Factor-I|インスリン様成長因子-1/ソマトメジンC [/S] Lipotropic Hormone|リポトロピン [/P] Osteocalcin|オステオカルシン [/S, /S] Proopiomelanocortin|プロオピオメラノコルチン [/P] Serine|セリン [/S] Sex-Hormone Binding Globulin|性ホルモン結合グロブリン [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 白血球は基準範囲内か増加。相対的リンパ球低下(分画で15%以下)と好酸球低下(100/μL以下)をしばしば認める。 【K】【Na】 Kは低値になるが、Naは高くならない。 【オーバーナイト抑制試験】 スクリーニングテストで、深夜にデキサメタゾン1mgを投与した翌朝(午前8時)の血漿コルチゾールが>5μg/dL、尿中遊離コルチゾールが>50μg/24時間ならデキサメタゾン抑制試験に進む。 【デキサメタゾン抑制試験】 6時間毎に0.5mg投与し、2日目のコルチゾール反応が異常反応ならCushing症候群である。デキサメタゾン抑制試験はデキサメタゾンが内因性コルチゾールよりはるかに強力なACTHの分泌抑制力があることを利用し、主としてCushing症候群とうつ状態を来す疾患の診断に用いる検査である。 【遊離コルチゾール】 24時間尿遊離コルチゾールが増加していれば最も有用なスクリーニング陽性所見であるため3回連続測定する。100μg/日以下なら本症は除外され、300μg/日以上で診断が確定する。 【CRH負荷試験】 CRHは室傍核のニューロンで産生され、下垂体門脈中に放出されるポリペプチドで、下垂体前葉にあるACTH産生細胞に直接働き、ACTHの分泌を促す。この検査は下垂体前葉でのACTH分泌予備能を知るために行う。このため、下垂体障害があれば無反応、視床下部障害では遅延反応を示す。また、クッシング症候群や異所性ACTH産生腫瘍では過剰のコルチゾールにより、下垂体のACTH分泌が抑えられるので、反応しない。ACTHの前値が低値で無反応:下垂体機能低下症、ACTH単独欠損症、CRH分泌不全。ACTHの前値が高値で無反応:異所性ACTH産生腫瘍、副腎腫瘍によるクッシング症候群。ACTHの前値が基準範囲上限~高値で1.5倍以上の増加:ACTH産生下垂体腫瘍(クッシング病)。 【ACTH】 5pg/mL未満なら副腎性、5pg/mL以上なら下垂体性Cushing病か異所性ACTH症候群を疑う。ACTHは下垂体前葉から分泌されるポリペプチドで、副腎皮質からのコルチゾール分泌を調節している。分泌はパルス状のためコルチゾールの分泌もパルス状になる。ACTHの分泌は副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンとコルチゾールによるネガティブフィードバックで調節されている。臨床的には視床下部-下垂体-副腎皮質系疾患の診断、病態解明に用いるほか、副腎皮質機能低下症の原因究明に用いる。また、ステロイド剤長期服用患者の副腎皮質機能のモニタリングにも用いられる。検査は早朝、夕方、深夜に一日/3回、血中コルチゾールや尿中遊離コルチゾールと同時測定することが望ましい。その他DOC、DHEA、アルドステロン、エストロゲン、テストステロンなどの測定も必要となる。ACTHとコルチゾールが共に高値の場合はデキサメサゾン抑制試験を行いCushing症候群の鑑別を行う。また、コルチゾールが低値ならACTH負荷試験を行う。 【迅速ACTH試験】 疾患鑑別の目的で行われるが有効性は低い。副腎皮質のACTH受容体を介したステロイド合成分泌刺激作用を利用した刺激試験である。合成ACTHを0.25mg静注し採血前、30分、60分後に採血しコルチゾールを測定する。正常反応は、負荷後30分または60分値が負荷前の値の2~4倍になる。副腎皮質機能低下症では反応が低下する。クッシング症候群のうち腺腫では無反応あるいは増加が認められ、過形成では増加する。 【24時間尿中コルチゾール排泄試験】 スクリーニングとして有用である。基準値上限の4倍以上を示し、クッシング症候群に合致する症状が認められたら診断が確定する。軽度上昇の患者はデキサメタゾン抑制試験を行う。 【コルチゾール】 朝は高値。日中も産生低下がないため夕方も高値を維持し、24時間産生量は増加する。ただし1回だけの測定では結果解釈が難しい。コルチゾールは副腎皮質束状層から分泌されるグルココルチコイドの主成分で、下垂体性ACTHによって分泌が調節されている。肝と腎で代謝され尿中に排泄されるが、コルチゾール分泌量の20~30%は尿中17-OHCSとして測定される。生理作用は糖代謝、脂肪代謝、蛋白代謝、水・電解質代謝と免疫機構への関与で生命維持に欠くことのできないホルモンである。臨床的には下垂体-副腎機能異常、副腎機能亢進症・低下症、下垂体機能低下症を疑う症状のある患者に測定が必要となる。高値の場合はACTHを測定し、コルチゾール高値でACTHが10pg/mL以上ではACTH依存性Cushing症候群を、10pg/mL未満ならACTH非依存性Cushing症候群を疑う。 【遊離コルチゾール】 健常人なら午前8時に最高値、午後8時と真夜中の間で最低値になり、本症の70%はこの日内変動が欠如するか逆転する。 【真夜中のコルチゾール値】 7.5μg/dL以上なら診断確定。5μg/dL以下なら本症は除外される。 【17-OHCS】【17-KS】 尿中の17-OHCSは本症の全ての患者で増加する。夜間の値>日中の値(健常人は逆)になる。尿中17-KSも増加するがスクリーニングとしては薦められない。17-OHCSにはコルチゾール、11-デオキシコルチゾール、コルチゾンとこれらの肝での代謝産物を含むため、測定により副腎皮質からの糖質コルチコイドの一日の産生量が推定出来る。臨床的には副腎からの分泌が、視床下部-下垂体の支配によるフィードバック機構により成立しているので、この機構の異常を疑う場合に測定する。異常値を得た場合は血中ACTHとコルチゾールを測定する。 【夜間メチラポン試験】 病因診断に有用である。下垂体依存性Cushing症候群では血漿11-デオキシコルチゾールは著明に増加するが副腎腫瘍や異所性ACTH症候群では増加しない。 【臨床症状の似た疾患】 慢性肝疾患、特にアルコール依存症患者ではCushing症候群に似た臨床像を呈することがあるが、昼間に限定して血漿コルチゾールは高値を示す。 |
検体検査以外の検査計画 | 頭部MRI検査、腹部超音波検査、腹部CT・MRI検査、副腎CT検査、副腎皮質シンチグラフィー、ガリドニウム増強MRI検査、PET検査 |