疾患解説
フリガナ | タノウホウセイランソウショウコウグン |
別名 |
持続性無排卵 高アンドロゲン慢性無排卵症 |
臓器区分 | 女性性器疾患 |
英疾患名 | Polycystic Ovary Syndrome(PCOS) |
ICD10 | E28.2 |
疾患の概念 | 排卵障害の一つで、軽度の肥満、月経異常、多毛、ざ瘡などのアンドロゲン過剰の徴候を特徴とする症候群である。卵巣の多嚢胞性変化、男性ホルモン高値、黄体形成ホルモン高値がみられ、臨床症状としては、排卵障害、肥満、男性化などを示す。視床下部-下垂体-卵巣系の内分泌機能障害が原因である。PCOSは5~10%の女性に発症し、不妊の原因となる。この症候群は無排卵または排卵障害と原因不明のアンドロゲン過剰を伴うが、患者はアンドロゲン産生の律速酵素である17-水酸化酵素に影響するチトクロムP450c17の機能異常があり、結果としてアンドロゲン産生が増加する。また、エストロゲンの上昇により子宮内膜増殖症を合併することがあり、最終的には子宮内膜癌とメタボリックシンドロームのリスクが高まる。 |
診断の手掛 | 症状は思春期に始まり経年的に悪化していく。多量の頸管粘液が診察で認められ、肥満、男性型多毛症、不規則な月経、無月経のうち最低2つ以上認めたら、この疾患を疑う。臨床所見の頻度は(日本産婦人科学会)希発月経44.0%、第1度無月経34.9%、無排卵周期症16.8%、肥満は14.3%、多毛10.5%である。体毛は上唇上部、顎、乳首周囲、下腹部白線に沿って見られる男性型を呈することがある。一部の女性は、ざ瘡や側頭部の脱毛などの男性化徴候を認める。肥厚し黒ずんだ皮膚が腋窩、首の後ろ、皮膚のしわ、指関節、肘に生じることがあるが、原因はインスリン抵抗性による高インスリン血症である。 |
主訴 |
月経不順|Paramenia 体重増加|Obesity 多毛|Hypertrichosis/Hirsutism 男性化|Masculinization/Virillism/Virillzation 肥満|Obesity/Adiposity 不妊|Stenility/Infertility 無月経|Amenorrhea |
鑑別疾患 |
卵巣癌|Ovarian Cancer 希発月経 クッシング症候群|Cushing's Syndrome 骨盤内炎症性疾患|Pelvic Inflammatory Disease(PID) 子宮腺筋症 子宮内膜増殖症 多毛症 糖尿病|Diabetes Mellitus 副腎性器症候群|Adrenogenital Syndrome 不妊症 無排卵性周期症 男性化細胞腫 肥満症|Obesity 無月経 月経不順 |
スクリーニング検査 |
Follicle-stimulating Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P, /P] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] HDL-Cholesterol|HDL-コレステロール/高比重リポ蛋白コレステロール [/S] Platelets|血小板 [/B] |
異常値を示す検査 |
17α-Hydroxyprogesterone|17α-ヒドロキシプロゲステロン [/P] 17β-Estradiol|エストラジオール/E2 [/P] 3α-Androstanediol Glucuronide [/P] Androgen Index, Free (FAI) [/P] Androgens|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/P] Androstenedione|アンドロステンジオン [/P, /Saliva] Cortisol|コルチゾール [/U] Dehydroepiandrosterone Sulfate|デヒドロエピアンドロステロンサルフェート [/P] Dehydroepiandrosterone|デヒドロエピアンドロステロン [/P] Estradiol|エストラジオール/E2 [/P] Estradiol, Free|エストラジオール/E2 [/P] Estrone|エストロン/E1 [/P] Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S] Gonadotropin, Pituitary|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] Insulin|インスリン [/P] Insulin-like Growth Factor-I Receptor [/RBC] Luteinizing Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P, /U] Luteinizing Hormone:Follicle Stimulating Hormone Ratio [/P] Prolactin|プロラクチン/乳汁分泌ホルモン [/P] Prorenin|プロレニン/不活性化レニン [/P] Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [/P] Serine|セリン [/S] Sex-Hormone Binding Globulin|性ホルモン結合グロブリン [/S] Testosterone|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/P, /Saliva] Testosterone, Free|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/S] |
関連する検査の読み方 |
【LH/FSH】 LHは患者の60%で基準範囲の3倍以上に達する。LHとFSHの比が2倍以上なら強く本症が示唆され、3倍以上なら診断は確定する。LH/FSHは男性性機能の中心である睾丸と女性性機能の中心である卵巣をコントロールしている性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)で、精巣からテストステロンとインヒビンを、卵巣からエストロゲンとプロゲステロンを分泌させる。臨床的には男性では睾丸機能障害、女性では排卵障害が疑われる時に両者を同時に測定し低値、高値、正常の組み合わせから疾患を判断する。また、黄体形成ホルモン放出ホルモンの分泌能、卵巣・精巣機能も把握できる。 【テストステロン】 症例の40~60% で200μg/dL程度増加する。これ以上の増加はアンドロゲン産生腫瘍を考える。テストステロンは精巣のLeydig細胞で産生される男性ホルモン作用の最も強力なアンドロゲンで、血中では大部分が性ホルモン結合グロブリン(SHBG)と結合しているが生物活性を持つ遊離型は1~3%に過ぎない。女性では副腎と卵巣で産生される。生理作用は男性では性器発育と機能の維持、蛋白同化作用、脂肪異化作用、体毛発育であるが、女性が過剰分泌を起こすと無月経、多毛などの男性化徴候をきたす。臨床的には男性ホルモン産生過剰、視床下部下垂体機能低下が疑われる症状を見た場合に測定する。 【インスリン抵抗性指数】 本症の本態はインスリン抵抗性を伴う代謝疾患であると考えられるので、抵抗性指数[空腹時インスリン値(μIU/mL)×空腹時血糖値(mg/dL)÷405]の評価が必要との報告もあるが、確定診断に必須ではない。 【確定診断】 LH増加、LHとFSHの比が2倍以上、アンドロゲンの経軽度増加がみられれば症状や臨床所見から本症の診断は容易である。 |
検体検査以外の検査計画 | 超音波検査 |