疾患解説
| フリガナ | ランソウガン |
| 別名 | 悪性腫瘍(卵巣) |
| 臓器区分 | 女性性器疾患 |
| 英疾患名 | Ovarian Cancer |
| ICD10 | C56 |
| 疾患の概念 | 卵巣に発生する上皮性悪性腫瘍で、悪性卵巣腫瘍の約80%を占める。組織学的には表層上皮性、間質性、性索間質性、胚細胞性に分けられ、好発年齢は、40~60歳代である。卵巣癌は、閉経期と閉経後の女性に発症し、未経産(出産するごとにリスクは軽減する)、高齢での出産、早い初経、閉経の遅れ、子宮内膜癌、乳癌、結腸癌の既往歴または家族歴ではリスクが上昇し、経口避妊薬使用では低下する。5~10%の卵巣癌症例は、常染色体優性BRCA遺伝子の変異に関係がある。卵巣癌は、組織学的に多様で、少なくとも80%は上皮に由来し、75%は漿液性嚢胞腺癌、10%は浸潤性粘液癌である。また、卵巣癌の20%は、卵巣胚細胞の原発、または乳房や消化管からの転移癌である。卵巣癌は、腹膜への播種と骨盤や大動脈周辺へリンパ行性に広がるが、肝や肺への血行性転移も認められる。 |
| 診断の手掛 | 通常は無症状であるが、原因不明の腹部膨満感、排便習慣の変化、体重減少や長期に亘る腹痛を訴える患者は本症を疑う。高齢女性の卵巣腫瘤は、卵巣癌の可能性が高い。家族歴は、卵巣癌の主要な危険因子であり問診を忘れない。疑いがあれば経腟超音波検査とCA125測定を積極的に行う。胚細胞腫瘍や性索間質性腫瘍では、甲状腺機能亢進症、女性化、男性化が見られるので見逃さない。 |
| 主訴 |
下腹部痛|Hypogastric pain 胸水|Pleural effusion 呼吸困難|Dyspnea 帯下|Vaginal discharge 体重減少|Weight loss 排便障害|Excretory disorder 貧血症状|Anemic symptom 腹水|Ascites 腹痛|Abdominal pain 腹部腫瘤|Abdominal tumor/Abdominal mass 腹部膨満感|Sense of Abdominal fullness 不正出血|Abnormal bleeding やせ|Weight loss |
| 鑑別疾患 |
転移性悪性腫瘍 卵管癌 結核性腹膜炎 チョコレート嚢胞 良性卵巣腫瘍 Krukenberg腫瘍 子宮内膜症|Endometriosis 癌性腹膜炎 |
| スクリーニング検査 |
α-Fetoprotein|α-フェトプロテイン [ Albumin|アルブミン [ Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [ Amylase|アミラーゼ [ CEA|癌胎児性抗原 [ Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [ Eosinophils|好酸球 [ Erythrocytes|赤血球数 [ Follicle-stimulating Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [ Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [ Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [ Platelets|血小板 [ Transferrin|トランスフェリン [ |
| 異常値を示す検査 |
1-Methylinosine [ 17-Ketosteroids|17-ケトステロイド [ 17α-Hydroxyprogesterone|17α-ヒドロキシプロゲステロン [ Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [ Alkaline Phosphatase Isoenzymes|アルカリホスファターゼアイソザイム/ALPアイソザイム [ Alkaline Phosphatase, Placental Isoenzyme|胎盤型アルカリホスファターゼ [ Anti-p53 Antibodies|抗p53抗体 [ c-erb-B2 Oncoprirein [ CA 125|CA125 [ CA 130|CA130 [ CA 15-3|CA15-3 [ CA 19-9|CA19-9 [ CA 549 [ CA 54/61 [ CA 602|CA602 [ CA 72-4|CA72-4 [ Cancer-associated Serum Antigen [ Ceruloplasmin|セルロプラスミン/フェロオキシダーゼ [ Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [ Complement C4|補体第4成分/β1Eグロブリン/C4 [ Complement, Total|補体価/CH50 [ Copper|銅 [ Creatine Kinase BB-Isoenzyme|CK-BB [ Cryofibrinogen|クリオフィブリノゲン [ Cytokeratin 19 Fragment|サイトケラチン19フラグメント/シフラ/シフラ21-1/CYFRA [ D-Dimer|Dダイマー/フィブリン分解産物Dダイマー [ DF3 [ Estradiol|エストラジオール/E2 [ Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [ Follistatin, Free|フォリスタチン [ Galactosyltransferase Associated With Tumor|癌関連ガラクトース転移酵素 [ Galactosyltransferase Isoenzyme II [ Gonadotropin Peptide|ゴナドトロピン ペプタイド [ Gonadotropin, Pituitary|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [ Haptoglobin|ハプトグロビン [ Hexokinase|ヘキソキナーゼ(赤血球) [ Human Epididymis Protein 4|ヒト精巣上体蛋白4 [ Inhibin|インヒビン [ Insulin-like Growth Factor Binding Protein-2 [ Insulin-like Growth Factor Binding Protein-3|インスリン様成長因子結合蛋白-3型/IGF結合蛋白-3 [ Insulin-like Growth Factor-I|インスリン様成長因子-1/ソマトメジンC [ Interleukin-6|インターロイキン-6 [ Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [ Luteinizing Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [ Lysophosphatidic Acid [ Macrophage Colony Stimulating Factor|マクロファージコロニー刺激因子 [ Manganese Superoxide Dismutase [ N-Acetylputrescine [ N-Acetylspermidine [ N2,N2-Dimethylguanosine [ Neopterin|ネオプテリン [ Ovarian Serum Antigen [ Parathyroid Hormone-related Peptide|副甲状腺ホルモン関連蛋白 [ Placental Protein 4 [ Plasminogen Activator Inhibitor-1|プラスミノゲンアクチベータインヒビター-1 [ Polymorphic Epithelial Mucin [ Procollagen Type III Peptide|プロコラーゲンIIIペプチド [ Progesterone|プロゲステロン/プロジェステロン [ Pseudouridine|シュードウリジン [ Putrescine|ポリアミン/プトレッシン [ Sialic Acid, Lipid-associated [ Sialyltransferase [ Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [ Soluble Interleukin-2 Receptor-α [ Spermidine|スペルミジン [ Spermine|スペルミン [ Steroid Sulfatase|ステロイドスルファターゼ [ Tenascin-C [ Tetranectin [ Tetranectin with A371 Catching Antibody [ Tetranectin with Hyb 130-13 Catching Antibody [ Tetranectin with Hyb 130-14 Catching Antibody [ Thrombin Antithrombin III Complex|トロンビン・アンチトロンビンIII複合体/トロンビン・アンチトロンビン複合体/TATテスト [ Tissue Factor Pathway Inhibitor [ Tissue Plasminogen Activator|組織プラスミノゲンアクチベータ [ Tissue Polypeptide Antigen|組織ポリペプチド抗原 [ TPS [ Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [ Tumor-associated Glycoprotein-72 [ Urokinase Plasminogen Activator|ウロキナーゼプラスミノゲンプロアクチベータ [ Zinc|亜鉛 [ β-Chorionic Gonadotropin|ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット [ |
| 関連する検査の読み方 |
【AFP】 yolk sac腫瘍で高値になる。 【BRCA1 and 2遺伝子】 遺伝子変異を認める。この検査は遺伝性乳癌・卵巣癌(HBOC)の原因遺伝子であるBRCA1/BRCA2遺伝子の病的変異の有無を調べる検査で、変異が陽性ならHBOCと診断される。 【ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット】 若年で、胚細胞腫瘍や性索間質性腫瘍のリスクがより高い患者は、LD、α-フェトプロテイン、インヒビン、CA 125を同時に測定する。 【CA125】 漿液性嚢胞腺癌とムチン性嚢胞腺癌で高値を示し、進行性癌の80%で上昇する。また、子宮内膜症を有する閉経期前の患者でも高値になることがある 【CA130】 漿液性嚢胞腺癌、ムチン性嚢胞腺癌で高値を示す。CA130はヒト肺腺癌細胞株を免疫原とするモノクローナル抗体に認識される糖蛋白で、CA125と同じ糖蛋白上にエピトープがあるため卵巣癌の診断、治療効果判定に用いられる。また、CA125やCA602と同様に妊娠や性周期の影響を受ける。関連するマーカーはCA125、NCC-ST-439、SLXなどである。 【CA54/61】 20IU/mL以上なら卵巣癌の確率が高い。CA54/61はヒト肺大細胞癌細胞株を免疫原とするモノクローナル抗体により認識されるムチン糖鎖抗原で、卵巣癌マーカーとして使われる。このマーカーは年齢、性周期、妊娠などに影響されず良性卵巣腫瘍や子宮内膜症では偽陽性率が低いという特徴がある。卵巣癌ではCA125が漿液性腺癌で陽性率が高いのに対しCA54/61は粘液性腺癌に高い陽性率を示す。臨床的には卵巣癌を疑うとき、卵巣癌の悪性度と予後の推定に用いる。この検査は年齢、性周期、妊娠などに影響を受けない。関連するマーカーはCA125で両者を同時測定すると卵巣癌の陽性率が上昇する。 【CA602】 90IU/mL以上なら卵巣癌の確率が高い。CA602はヒト卵巣明細胞腺癌細胞株を免疫原とするモノクローナル抗体により認識されるコア蛋白関連抗原でCA125に類似している。臨床的意義はCA125、CA130とほぼ同じで卵巣漿液性嚢胞腺癌と類内膜癌で高い陽性率を示すが、子宮内膜症でも偽陽性になる。臨床的には卵巣癌の補助診断の一つとして用いられる。関連するマーカーはSLX、CA72-4、SCC、CA45/61などであるが、CA54/61と組み合わせると卵巣漿液性嚢胞腺癌の診断感度が上昇する。 【CA72-4】 ムチン性嚢胞腺癌で高値を示す。 【HER2/neu遺伝子】 増幅を認める。 【HER2/neu蛋白】 過剰に発現する。 【p53遺伝子】 遺伝子変異を認める。p53遺伝子の変異はヒトのあらゆる組織の腫瘍で認められる。変異は多くの場合17番染色体短腕(17p)の一方のアレル欠失と点突然変異である。この遺伝子の変異はヒトのあらゆる組織由来の腫瘍で認められる。臨床的には癌の悪性度の評価や予後推定に有用である。 【アミラーゼ】 血中、尿中ともに高値を示し、膵型が優位である。 【塩基性胎児蛋白】 漿液性嚢胞腺癌で高値を示す。 【癌関連ガラクトース転移酵素】 20IU/mL以上なら卵巣癌の確率が高い。GATは卵巣癌患者腹水から得た可溶性ガラクトース転移酵素のうち、健常人血清中の可溶性ガラクトース転移酵素と異なる分画として分離された酵素を免疫原として得られた抗体で検出される。臨床的には卵巣癌の50~70%で陽性との報告があり、組織学的には類内膜腺癌や明細胞癌で陽性率が高い傾向がみられる。このため、CA125と併用することで、卵巣癌の診断や内膜症性嚢胞との鑑別に有用とされている。 【細胞表面マーカー】 CD15が高値である。 【神経特異エノラーゼ】 10ng/mL以上に増加する。 【組織プラスミノゲンアクチベータ】 高頻度に増加する。 【組織ポリペプチド抗原】 70IU/L以上に増加する。 【膣分泌液中LD】 高値である。 【ハプトグロビン】 Hp2-1型が増加する。 【ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット】 増加する。 【尿沈渣】 膀胱浸潤例で異型細胞(腺癌細胞)を認めることがある。 【生検】【腹水】 診断に有用である。 |
| 検体検査以外の検査計画 | 超音波断層検査、CT検査、MRI検査 |

