疾患解説
フリガナ | キンジストロフィー |
別名 | 進行性筋ジストロフィー |
臓器区分 | 神経・筋疾患 |
英疾患名 | Muscular Dystrophy |
ICD10 | G71.0 |
疾患の概念 | デュシェンヌ型およびベッカー型筋ジストロフィーは、筋線維の壊死と再生を主病変として、進行性に筋力が低下するX連鎖劣性遺伝性疾患で、デュシェンヌ型が最も頻度が高く、人口10万人当たり3~5人の男子に発症する伴性劣性遺伝病である。20歳代までに心不全や呼吸不全で死に至る。ベッカー型は、発症時期が遅く症状は軽度である。両者ともにXp21.2座に位置するヒトで最大の遺伝子であるジストロフィン遺伝子の突然変異によって起こる。デュシェンヌ型では、この変異のために筋細胞膜の蛋白の1つであるジストロフィンの重度の欠損がみられ、ベッカー型では産生されるジストロフィンが異常となるか、または産生量が不十分となる。 |
診断の手掛 | 筋ジストロフィーは、近位筋に進行性の筋力低下が見られる特徴的な臨床所見と発症年齢、家族歴が診断の手掛りとなる。主症状は運動機能低下であるが、病型により発症時期や臨床像、進行速度に多様性がある。一般には進行に伴い傍脊柱筋障害による脊柱変形や姿勢異常、関節拘縮や変形を伴うことが多い。デュシェンヌ型は2~3歳の間に筋力低下が近位筋に発生し、つま先歩き、動揺性歩行および脊柱前弯が見られ、走行、跳躍、階段昇降および床からの起立が困難となる。ほぼ全例で筋力低下が進行し、四肢の屈曲拘縮と脊柱側弯症が生じる。患児の大半が12歳までに車椅子生活を余儀なくされ、20歳までに呼吸器系合併症により死亡する。ベッカー型は、デュシェンヌ型よりも発症時期がはるかに遅く、症状も軽度であり、歩行能力は少なくとも15歳までは維持され、多くが歩行を維持したまま成人期に達し、大部分が30~40歳代まで生存する。診断の手掛かりは、臨床所見、発症年齢およびX連鎖劣性遺伝を示唆する家族歴から得られる。 |
主訴 |
運動障害|Dyskinesia 関節拘縮|Joint contracture/Arthrogyposis 関節変形|Deformation of joint 筋萎縮|Muscle atrophy 筋力低下|Weakness ゴワーズ徴候|Gowers sign 知能障害|Imparirment of intelligence/Mental disturbanse 動揺性歩行|Swaying gait/Waddling gait 翼状肩甲|Winged scapula/Alar scapula |
鑑別疾患 |
球脊髄性筋萎縮症 筋緊張症 甲状腺機能低下症|Hypothyroidism 脊髄性筋萎縮症 先天性ミオパチー 糖尿病|Diabetes Mellitus 白内障 Pompe病 炎症性ミオパチー 多発性筋炎/皮膚筋炎|Polymyositis/Dermatomyositis 糖原病 Kugelberg-Welander病 |
スクリーニング検査 |
Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/WBC] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Creatinine|クレアチニン [/U] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
3-Methylhistidine|3-メチルヒスチジン [/S] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Amyloid β-Protein|アミロイドβ蛋白 [/CSF] Amyloid β-Protein Precursor|アミロイドβ蛋白質前駆体 [/CSF] Carbonic Anhydrase III [/S] Cells [/CSF] Cholic Acid [/S] Creatine|クレアチン [/S, /U] Creatine Kinase MB-Isoenzyme|CK-MB [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/S] Manganese Superoxide Dismutase [/S] Myoglobin|ミオグロビン [/U] Ribose|リボース [/U] Troponin T|心筋トロポニンT/トロポニンT [/S] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] |
関連する検査の読み方 |
【AST】【CK:AST比】【CK-MB】 AST50IU/L以上、CK:AST比40以下、CK-MB2%以下を満たせば多発性筋炎、CK:AST比44以上またはCK/アルドラーゼ比124以上なら特定されないミオパシーである。 【CK】【AST】 本症の診断、スクリーニング、女性キャリアの同定に最も有用な検査でありCK14,100IU/L、AST38IU/L以上を満たせばDuchenne型である。 【LD:CK比】 LD2、3が優位で5~20である。 【LDアイソザイム】 骨格筋由来のLD2、3、5が優位である。 【アルドラーゼ】【CK:AST比】 アルドラーゼ3.9IU/L以上、CK:AST比0.7以上を満たせば筋原性、満たさなければ萎縮性である。アルドラーゼアイソザイムはA型優位である。ALDは嫌気性解糖系酵素の一つで、A、B、Cの3種のアイソザイムがあり、A型は骨格筋、心筋、脳、赤血球に、B型は肝、腎に、またC型は脳に分布している。血中の半減期は4時間と短いので組織障害を良く反映するとされている。血中の活性増加はこれら組織の代謝障害、壊死・変性、膜透過性亢進、血液中での処理障害の際に見られる。臨床的にはCKと併用することで、筋疾患の早期発見に有用である。 【遺伝子検査】 遺伝子異常を認める。 【抗横紋筋抗体】 陽性である。 【腫瘍壊死因子-α】 Duchenne型では炎症がないのに増加する。腫瘍壊死因子-αは腫瘍部位に出血性壊死をもたらすサイトカインで、生理的には免疫・炎症などの各種生体反応のメディエーターでもある。単球、リンパ球、好中球、マクロファージ、NK細胞などで産生されT細胞の増殖、B細胞からの抗体産生の誘導、腫瘍細胞に対する障害作用を持ち、種々のサイトカインの産生にも関与している。 【3-メチルヒスチジン】 進行性筋ジストロフィーで高値である。3-MeHisはアクチンとミオシンを構成するアミノ酸で、筋が異化すると遊離され蛋白再合成に利用されることなく48時間以内に殆どが尿中に排泄される。臨床的には筋肉の異化の指標や全身的な窒素代謝障害のモニターとして測定されるが、筋量に比例するため測定の際にはクレアチニン補正が必要である。また3-MeHisの一部は食事(肉類)に由来するので最低3日の肉食制限後の24時間尿で測定する。 【セルロプラスミン】 Duchenne型で高値である。 【クレアチニン】 尿中の値は筋肉量が減少するので低値である。 【ヘモペキシン】 Duchenne型で高値である。 【ミオグロビン】 増加する。 【ミオシン軽鎖I】 増加する。 【動脈血ガス分析】 PaCO2が増加し、pHは7.4以下になる。 【筋生検】 確定診断に必要である。 【確定診断】 筋生検免疫染色によるジストロフィンの分析または末梢白血球を用いた遺伝子解析を行う。デュシェンヌ型ではジストロフィンが検出されない。ベッカー型ではジストロフィンの分子量が小さいという異常がみられるか、低濃度である。末梢血リンパ球から採取したDNAの変異解析ではジストロフィン遺伝子の異常(デュシェンヌ型の約70%およびベッカー型の85%で欠失、両型の約10%で重複)が見られ確定診断が可能となる。 【保因者】 デュシェンヌ型では遺伝学的検査で、保因者妊婦の約95%で妊娠初期に認識が可能である。 |
検体検査以外の検査計画 | 筋電図検査、骨格筋CT検査 |