疾患解説
フリガナ | タハツセイキンエン/ヒフキンエン |
別名 | 特発性炎症性筋疾患 |
臓器区分 | 膠原病・免疫疾患 |
英疾患名 | Polymyositis/Dermatomyositis |
ICD10 | M33.9 |
疾患の概念 | 多発性に横紋筋に炎症を起こす疾患を多発性筋炎と呼び、これに皮疹が加われば皮膚筋炎と呼んでいる。最も特異的な皮膚徴候は、手指関節上のゴットロン丘疹と眼窩周囲のヘリオトロープ疹である。原因不明の全身性リウマチ性疾患で、男女比は1:2で、40~50歳の女性と5~15歳の小児に多く見られる。原因は、遺伝的感受性を持つ個人の筋組織に対する自己免疫反応と考えられ、家族内集積がみられ、HLAサブタイプのDR3、DR52およびDR6が遺伝的素因と考えられている。病理学的特徴は、炎症を伴う細胞損傷および萎縮などで、手、足および顔面の筋肉は、他の骨格筋より影響が少ない。また、皮膚筋炎は、血管への免疫複合体の沈着が特徴的で、補体介在性の血管障害と考えられる。それに対し、多発性筋炎は、T細胞による直接の筋損傷がみられる。この疾患は関節リウマチ、RA、SLE、サルコイドーシス、全身性硬化症や混合性結合組織病などと合併することも多い。 |
診断の手掛 |
近位筋の対称性の筋力低下、圧痛、萎縮と皮膚のヘリオトロープ疹、レイノー現象を訴える患者を診たら本症を疑う。発症は小児では急性、成人は潜行性の事が多い。時に、急性のウイルス感染が先行するので、問診時に確認が必要である。また、成人の皮膚筋炎では、悪性腫瘍を合併するリスクが高いので注意する。筋力低下が、数週間から数カ月間にわたって進行することがあるが、症状として認識できるレベルの筋力低下を引き起こすには筋線維の50%が破壊される必要がある。関節症状は、多発性関節痛または多関節炎などで、しばしば腫脹、液貯留、非変形性などの関節炎の症状を伴い、約30%の患者で発症する。内臓障害は、特に抗シンテターゼ抗体を有する患者での間質性肺炎が顕著な症状である。皮膚変化は黒ずんだ紅斑性となる傾向があり、紫がかった外観の眼窩周囲の浮腫(ヘリオトロープ疹)が、皮膚筋炎に特異的所見である。 【診断基準:2015年自己免疫疾患に関する調査研究班】 1.皮膚症状(ヘリオトロープ疹、ゴットロン症状、四肢伸側の軽度隆起性の紫紅色紅斑 2.上肢または下肢の近位筋の筋力低下 3.筋肉の自発痛または把握痛 4.CKまたはALD上昇 5.筋電図で筋原性変化 6.関節炎・関節痛7.全身性炎症(発熱、CRP、ESR) 8.抗Jo1抗体 9.筋生検、皮膚筋炎:皮膚炎と1~9から4項目以上 多発筋炎:2~9から4項目以上 鑑別診断を要する疾患:感染による筋炎、薬剤誘発性ミオパチー、内分泌以上に基づくミオパチー、筋ジストロフィーその他の先天性筋疾患、湿疹・皮膚炎群を含むその他の皮膚疾患。 【診断基準:Bohan&Peter】 1.四肢近位筋、頚部屈筋の対照的筋力低下 2.筋原性酵素上昇( CK,ALD,AST,ALT,LD) 3.定型的筋電図所見 4.定型的組織所見(金線維の変性、壊死、萎縮、再生、炎症細胞浸)5.定型的皮膚症状(ヘリオトープ疹、ゴットロン症状、関節伸側の落屑性紅斑 [definite]:4項目以上(皮膚筋炎は項目5を含む) [probable]:3項目以上(皮膚筋炎は項目5を含む) [possible]:2項目以上(皮膚筋炎は項目5を含む) |
主訴 |
暗赤色紅斑|Dark red erythema 易疲労感|Fatigue 嚥下障害|Dysphagia 乾性咳|Dry cough 関節痛|Arthralgia 筋萎縮|Muscle atrophy 筋肉痛|Myalgia 筋力低下|Weakness 紅斑|Erythema/Rubedo 呼吸障害|Disturbance of breath ゴットロン徴候|Gottron sign 指尖潰瘍|Finger tip ulcer 咳|Cough 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 体重減少|Weight loss 痰|Sputum 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever ヘリオトロープ疹|Heliotrope eruption 発疹|Eruption/Exanthema やせ|Weight loss レイノー現象|Raynaud phenomenon 労作時息切れ|Dyspnea on exertion |
鑑別疾患 |
B型肝炎|Hepatitis B C型肝炎|Hepatitis C インフルエンザ|Influenza エイズ/HIV感染症|Acquired Immune Deficiency Syndrome(AIDS) 家族性周期性四肢麻痺|Periodic Paralysis 糖原病 ブドウ球菌感染症 溶血連鎖球菌感染症 クッシング症候群|Cushing's Syndrome 血管炎症候群|Vasculitic Syndrome 好酸球性筋膜炎|Eosinophilic Fasciitis 甲状腺機能低下症|Hypothyroidism コクサッキーウイルス感染症 サルコイドーシス|Sarcoidosis 重症筋無力症|Myasthenia Gravis 進行性筋ジストロフィー 線維筋痛症候群 ミトコンドリアミオパチー リウマチ性多発筋痛症|Polymyalgia Rheumatica 間質性肺炎 薬剤(ペニシラミン、抗高脂血症薬、プロカインアミド、シメチジン、アルコール) |
スクリーニング検査 |
Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Cholinesterase|コリンエステラーゼ/ブチルコリンエステラーゼ/偽コリンエステラーゼ [/S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Creatinine|クレアチニン [/U] Eosinophils|好酸球 [/B] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Rheumatoid Factor|リウマチ因子測定/RAゼラチン凝集反応/リウマチ因子定量 [/S] α2-Globulin|α2-グロブリン [/S] γ-Globulin|γ-グロブリン [/S] |
異常値を示す検査 |
Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Angiotensin-converting Enzyme|アンギオテンシン変換酵素 [/S] Anti-ds DNA Antibodies|抗ds-DNA抗体 [/S] Anti-Endothelial Cell Antibodies|抗内皮細胞抗体 [/S] Anti-Jo-1 Antibody|抗Jo1抗体 [/S] Anti-Ku Antibodies|抗Ku抗体 [/S] Anti Melanoma Differentiation Associated Gene 5 Antibody|抗MDA-5抗体/抗CADM 140抗体 [/S] Anti Mi-2 Antibody|抗Mi-2抗体 [/S] Anti Transcriptional Intermediary Factor 1 Antibody|抗TIF1-γ抗体 [/S] Antibody Titer [/S] Antinuclear Antibodies|抗核抗体 [/S] Autoantibodies to Jo1 Antigen|抗Jo1抗体 [/S] Complement, Total|補体価/CH50 [/S, /S] Copper|銅 [/S] Creatine|クレアチン [/S] Creatine Kinase MB-Isoenzyme|CK-MB [/S] Haptoglobin|ハプトグロビン [/S] Immunoglobulin D|免疫グロブリンD [/S] Interleukin-1 Receptor Antagonist [/S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] LE Cells|LE細胞/LE現象 [Positive/B] Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/S] Manganese Superoxide Dismutase [/S] Myoglobin|ミオグロビン [/U] Neopterin|ネオプテリン [/S] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S] Soluble Tumor Necrosis Factor Receptor-p55 [/S] Soluble Tumor Necrosis Factor Receptor-p75 [/S] Thrombomodulin|トロンボモジュリン [/P] Vascular Endothelial Growth Factor|血管内皮増殖因子 [/S] |
関連する検査の読み方 |
【AST】【CK】【LD】 AST50IU/L以上、CK/AST比40以上、CK-MB2%未満、LDとCK-MMは増加する。CKの定期的な測定は治療のモニタリングに有用であが、広範囲の筋萎縮症の患者では、慢性で活動性の筋炎にもかかわらず検査値がときに基準範囲内を示す。 【LD:AST比】 5~20である。 【CBC】 しばしば好酸球が増加。白血球は劇症型で増加することがある。 【抗DNA抗体】 50AU/mL以上に上昇する。 【抗アミノアシリルtRNA合成酵素抗体】 抗ARS抗体は本症の診断に有用である。多発性筋炎/皮膚筋炎の患者血清中には抗Jo-1抗体が検出されるが、この対応抗原はヒスチジルtRNA合成酵素であることが知られている。現在、抗PL-7抗体(スレオニルtRNA合成酵素を認識)、抗PL-12抗体(アラニルtRNA合成酵素を認識)、抗EJ抗体(グリシルtRNA合成酵素を認識)、抗KS抗体(アスパラギニルtRNA合成酵素を認識)など多くのARS抗体が報告されている。これらの抗体は多発性筋炎/皮膚筋炎には高い特異性を持つが、一人の患者に異なる種類の抗体は存在しないことが明らかになっている。この、抗ARS抗体測定は5種類の抗体(抗Jo-1抗体、抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、抗KS抗体)が検出可能で、従来の抗Jo-1抗体単独測定より、患者発見の確率が高まると考えられている。臨床的には筋症状、レイノー現象、機械工の手などの症状を訴える患者を診た場合に測定する。 【抗核抗体】 最大80%の患者で陽性となるが、陽性の場合は、他のオーバーラップ症候群の同定検査が重要である。 【抗Jo-1抗体】 筋炎に特異的な自己抗体で治療効果や予後を反映している。また、間質性肺疾患を伴う患者でも陽性となる。患者の60%で陽性である。抗Jo-1抗体は多発性筋炎/皮膚筋炎患者の約20~30%に出現し、強皮症重複症候群でも稀に認められるが、他の膠原病では出現しないため、多発性筋炎/皮膚筋炎の疾患標識抗体として有用性が高い。臨床的には筋力低下、筋肉痛が四肢近位筋に認められ、多発 【筋生検】 確定診断に有用である。生検所見は慢性炎症、筋変性および筋再生が特徴的である。生検の部位は診察で筋力低下がみられた筋、MRIで炎症が同定された箇所と筋電図検査で異常を示した対側性の一対の筋肉から採取する。 【診断基準】 1)近位筋の筋力低下、2)特徴的な皮膚発疹、3)CK・AST:ALT比・アルドラーゼの増加、4)筋電図またはMRIで特徴的な所見、5)筋生検での病理組織像 【癌のスクリーニング】 40歳以上の皮膚筋炎患者または60歳以上の多発性筋炎患者は予期しない癌に罹患していることが多いため、肺、乳房、骨盤内臓器、直腸などのCT検査を薦める専門家もいる。 |
検体検査以外の検査計画 | 筋電図検査、MRI検査、胸部X線検査 |