疾患解説
フリガナ | トウニョウビョウセイジンショウ |
別名 | 糖尿病腎症 |
臓器区分 | 腎・泌尿器疾患 |
英疾患名 | Diabetic Nephropathy |
ICD10 | E14.2 |
疾患の概念 | 糖尿病の血管合併症の一つで、細小血管症の代表的疾患である。持続性蛋白尿から始まり腎不全に至る進行性の病態が見られる。慢性腎不全の主要な原因で、糸球体基底膜の肥厚、メザンギウムの拡大、糸球体硬化が特徴である。これらの変化により、糸球体性高血圧および進行性のGFR低下が起こる。危険因子は高血糖、高血圧、脂質異常症、喫煙、糖尿病性腎症の家族歴、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系に影響を及ぼす特定の遺伝子多型が挙げられる。糖尿病性腎症はGFR上昇として始まり、その後、微量アルブミン尿(尿中へのアルブミン排泄量:30~300mg/日)がみられ、ついで、顕性アルブミン尿(蛋白尿300mg/日超)へと進行し、最終的に末期腎臓病に進行する。 |
診断の手掛 |
5年以上糖尿病の罹患歴がある患者に微量アルブミン尿または蛋白尿を認めたら本症を疑う。 【早期診断基準:2005年日本糖尿病学会・腎臓学会合同委員会】 ①測定対象:尿蛋白陰性か1+程度陽性の糖尿病患者。 ②必須事項:尿中アルブミン値が30~299mg/G・Cr(3回測定中2回以上)。 ③参考事項:尿中アルブミン排出率が30~299mg/24時または20~199μg/分、尿中Ⅳ型コラーゲン値が7~8μg・Cr以上。 腎サイズ:腎肥大 2型糖尿病で発症する腎症は1.糖尿病と診断された時点ですでに微量アルブミン尿や顕性腎症が存在していることがある。2.高血圧の合併がより一般的に認められる。3.2型糖尿病では、微量アルブミン尿は顕性腎症の移行に関しては1型ほど優れた予知因子ではない。 |
主訴 |
胸水|Pleural effusion 血尿|Hematuria 高血圧|Hypertension 視力障害|Blurred vision/Visual impairment 蛋白尿|Proteinuria 貧血症状|Anemic symptom 腹水|Ascites 浮腫|Edema/Dropsy |
鑑別疾患 |
IgA腎症|IgA Nephropathy 強皮症 腎硬化症|Renal Sclerosis 糖尿病|Diabetes Mellitus 動脈硬化症|Arteriosclerosis 尿崩症 膜性腎症 ネフローゼ症候群|Nephrotic Syndrome |
スクリーニング検査 |
Chloride|クロール [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] Potassium|カリウム [/S] |
異常値を示す検査 |
Ammonium Ions|アンモニウムイオン [/U] Anion Gap|アニオンギャップ [/U] D-Dimer|Dダイマー/フィブリン分解産物Dダイマー [/U] Estimated Glomerular Filtration Rate|推算GFR [/S] Fibrin and Fibrinogen Degradation Product E|フィブリン・フィブリノゲン分解産物E分画/線維素分解産物E [/U] Guanidine|グアニジン [/S] Guanidinoacetic Acid [/S] Guanidinosuccinic Acid|グアニジノコハク酸 [/S] Liver Type Fatty Acid Binding Protein|L型脂肪酸結合蛋白 [/U] Methylguanidine|メチルグアニジン/グアニジノ化合物 [/S] pH|尿pH [/U] Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [/P] Type IV Collagen Peptide|Ⅳ型コラーゲン [/U] Urinary Microalbumin|尿中微量アルブミン [/U] Urinary Transferrin|尿中トランスフェリン/尿中マイクロトランスフェリン [/U] β-Guanidinopropionic Acid [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 正球性正色素性の腎性貧血を認める。 【尿一般検査】 蛋白尿を認める。試験紙法で蛋白が認められない時は、微量アルブミンを測定し、3回測定中2回以上30~299mg/gCrの値を得たら本症が確定する。 【尿蛋白】 300mg/日を上回るアルブミン排出は、進行した糖尿病性腎症を示唆する。30~300mg/24時間であれば、微量アルブミン尿及び早期糖尿病性腎症を意味する。 【微量アルブミン】 健常者では一日に30mg/日未満のアルブミンが尿中に排泄されているが、糸球体の濾過機能が障害されると尿中にアルブミンを主成分とする蛋白の排泄量が増加する。特に糖尿病性腎症の初期には蛋白排泄量の微増が知られており、これを微量アルブミン尿と呼ぶ。微量アルブミンの排泄量は30~300mg/日とされており、尿試験紙では検出が困難で、免疫比濁法などの好感度検出法で測定する。この検査は糖尿病腎症の早期発見に有用である。 【尿沈渣】 尿細管上皮細胞、脂肪円柱、空胞変性円柱、フィブリン円柱を認める。 【随時尿アルブミン:クレアチニン比】 試験紙法で蛋白陰性ならアルブミン:クレアチニン比を算定する。比は30mg/gを上回る。スクリーニングとしては推奨されるが、診断を確定するためには6ヶ月以内に少なくとも2~3回測定する。 【イヌリンクリアランス】 初期には高値だが、腎不全期には低値を示す。イヌリンは生体内で合成されず、糸球体で100%濾過され尿細管で再吸収されないことから、Cinは真の糸球体濾過量(GFR)を表す最良のマーカーとされている。臨床的にはGFRのゴールドスタンダードとして慢性腎疾患(CKD)のステージ分類や血液透析導入時の正確な腎機能評価に用いられる。 【eGFR】 初期には高値だが、腎不全期には低値を示す。毎年少なくとも1回以上測定する。eGFRが<50mL/min/1.73m*2又は慢性腎臓病がステージ3であれば、貧血、二次性副甲状腺機能亢進症、高K血症、酸塩基障害などの合併症の検査を進める。eGFRは日本腎臓学会が示したCKDガイドラインに記載されているGFRの算定法で、イヌリンクリアランスで求めたGFRと酵素法で測定した血清クレアチニン値から計算式で求められる。eGFRは簡便な方法であるが、スクリーニングや疫学研究を目的に作成されているので、実際の臨床の場で個々の患者を評価するためにはイヌリンクリアランスやクレアチニンクリアランスを用いることが薦められている。臨床的には糸球体濾過量の推定とCKDの病期分類に用いる。個々の患者評価:eGFR=0.719×Ccr(実測クレアチニンクリアランス。薬物投与調節:eGFR=0.719×Cin(実測イヌリンクリアランス) 【L型脂肪酸結合蛋白】 10μg/g・Cr以上に増加する。脂肪酸結合蛋白は細胞内のエネルギー代謝、脂質代謝、疎水性リガンドの輸送を担当している蛋白で、複数のサブタイプがある。このうち、L-FABPは腎の近位尿細管に特異的に発現している。近位尿細管で再吸収された遊離脂肪酸は、L-FABPにより細胞内のミトコンドリアに運ばれエネルギー産生に用いられる。しかし、腎尿細管周囲の血流が低下すると遊離脂肪酸は細胞毒性を持つ過酸化脂質に変換され、この過酸化脂質を尿中に排泄するためL-FABPが結合する。すなわち、L-FABPが尿中に増加したことは、尿細管に酸化ストレスが存在することになり、腎組織障害の危険があることになる。臨床的には腎疾患早期の予測マーカーや腎機能のモニタリングとして用いる。 【IV型コラーゲン】 尿中の値は7~8μg/gCr以上である。IV型コラーゲンは生体各組織の基底膜でラミニンと結合して基底膜層を形成している。このため組織破壊や修復に伴う基底膜の分解や再生の際に変動する。この物質の尿中排泄量は糸球体の基底膜機能を特異的に反映するため、糖尿病性腎症で見られる糸球体や尿細管の基底膜肥厚、メザンギウム拡大などを早期に知ることが出来る。 |
検体検査以外の検査計画 | 腹部超音波検査、腹部CT検査、胸部X線検査 |