疾患解説
フリガナ | タハツケッカンエンセイニクゲシュショウ |
別名 | ウエゲナー肉芽腫症 |
臓器区分 | 膠原病・免疫疾患 |
英疾患名 | Granulomatosis with Polyangitis(GPA) |
ICD10 | M31.3 |
疾患の概念 | 抗好中球細胞質抗体の一つである、抗プロテイナーゼ3抗体が関与する気道粘膜の限局性肉芽腫炎に始まる全身性血管炎症候群で、壊死性肉芽腫性炎、小型および中型血管の血管炎、半月体形成を伴う巣状壊死性糸球体腎炎を特徴とする疾患である。病理組織学的に1.全身性壊死性・肉芽腫性血管炎 2.気道と肺の壊死性肉芽腫性炎症 3.半月体形成性腎炎がみられる。鼻に非特異的な慢性炎症と組織壊死が見られ、肺ではあらゆる組織学的異常が認められる。また、腎の所見は半月体形成性の巣状増殖性糸球体腎炎である。原因は不明であるが、免疫学的機序が関与していると考えられ、活動性の全身疾患を有する患者のほとんどに抗好中球細胞質抗体(ANCA)がみられる。 |
診断の手掛 |
潜行性または急性に発症する説明のつかない呼吸器症状のある患者で、反復性の鼻汁、鼻出血、高血圧、糸球体腎炎や全身性血管炎などが見られれば本症を疑う。症状は上気道症状(鼻汁、鼻出血、中耳炎、視力低下)、肺症状(血痰、呼吸困難)、急速進行性腎炎症状の順序で起こり、腎に病変がある場合は示唆的である。また、副鼻腔の疼痛や後鼻漏、鼻出血などの鼻症状を訴える患者を見逃してはならない。上気道疾患、下気道疾患及び糸球体腎炎が3主徴である。 【診断基準:2014年難治性血管炎に関する調査研究班改訂】 主要症状:1.上気道(E):眼(眼痛、視力低下、眼球突出)、耳(中耳炎)、鼻(膿性鼻漏、出血、鞍鼻)、口腔・咽頭(潰瘍、嗄声、気道閉塞)。2.肺(L):血痰、咳嗽、呼吸困難。 3.腎(K):血尿、蛋白尿、急速に進行する腎不全、浮腫、高血圧。 4.血管炎症状:①全身症状:発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6ヶ月以内に6kg以上)、②臓器症状:紫斑、多関節炎(痛)、上強膜炎、多発神経炎、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、消化管出血(吐血・下血)、胸膜炎。 主要組織所見:1.E,K,Lの巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎。 2.免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎。 3.小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎。 主要検査所見:PR3-ANCA(蛍光抗体法でcytoplasmic pattern,C-ANCA) *確実:主要症状の3項目以上(E,L,Kの各々の症状を含む)、主要症状の2項目以上+組織所見、主要症状の1項目以上+組織所見+C-ANCA陽性。 *疑い:主要症状の2項目以上、主要症状の1項目+組織所見、主要症状の1項目+C-ANCA陽性。 *参考となる所見:CRP上昇、WBC増加、UN・クレアチニン上昇。 *鑑別疾患:肉芽腫性疾患、他の血管炎症候群。 |
主訴 |
咽頭潰瘍|Pharyngeal ulcer 関節痛|Arthralgia 眼球突出|Exophthalmos/Exophthalmus 血痰|Bloody sputum/Hemoptysis 血尿|Hematuria 結膜充血|Conjunctival injection 高血圧|Hypertension 呼吸困難|Dyspnea 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 出血斑|Ecchymosis 視力障害|Blurred vision/Visual impairment 耳下腺腫脹|Swelling of parotid gland 咳|Cough 体重減少|Weight loss 痰|Sputum 膿性鼻漏|Purulent rhinorrhea 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 鼻出血|Nosebleed/Nasal hemorrhage/Epistaxis 鼻汁|Rinorrhea 鼻漏|Rhinorrea/Nasal flow/Nasal discharge 乏尿|Oliguria 無尿|Anuria やせ|Weight loss |
鑑別疾患 |
エイズ/HIV感染症|Acquired Immune Deficiency Syndrome(AIDS) 壊死性肉芽腫 グッドパスチャー症候群|Goodpasture's Syndrome 血管炎症候群|Vasculitic Syndrome 膠原病性腎症 ヘノッホ-シェーンライン性腎炎 尿細管間質性腎炎|Tubulointerstitial Disease |
スクリーニング検査 |
Creatinine|クレアチニン [/S] C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Platelets|血小板 [/B] Rheumatoid Factor|リウマチ因子測定/RAゼラチン凝集反応/リウマチ因子定量 [/S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] |
異常値を示す検査 |
Anti-Endothelial Cell Antibodies|抗内皮細胞抗体 [/S] Anti-Neutrophil Cytoplasm Antibodies|抗好中球細胞質プロテナーゼ-3抗体/抗好中球細胞質抗体/好中球細胞質抗体/C-ANCA/PR-3ANCA [/S] Anticardiolipin Antibodies|抗リン脂質抗体/抗PL抗体/抗カルジオリピン(CL)抗体/ループスアンチコアグラント(LA)/リン脂質抗体 [/S] c-Antineutrophil Cytoplasmic Autoantibodies|抗好中球細胞質プロテナーゼ-3抗体/抗好中球細胞質抗体/好中球細胞質抗体/C-ANCA/PR-3ANCA [/P, /S] Elastase Antineutrophil Cytoplasmic Autoantibodies [/S] Intercellular Adhesion Molecule-1|CD54 [/S] Monocyte Chemotactic Protein-1 [/S, /U] Neutrophil Proteinase 3|好中球プロテナーゼ3 [/S] Oxygen Partial Pressure|動脈血O2分圧/酸素分圧/O2分圧/PO2 [/B] Oxygen Saturation|酸素飽和度/O2飽和度 [/B] p-Antineutrophil Cytoplasmic Autoantibodies|抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体/核周囲型抗好中球細胞質抗体/MPO-ANCA/P-ANCA [/P, /S] Soluble CD30 [/S] Soluble E-Selectin|可溶性E-セレクチン/可溶性CD62E/可溶性ELAM-1 [/S] Soluble Intercellular Adhesion Molecule-1|可溶性ICAM-1/可溶性CD54/細胞接着分子-1 [/S] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S] Soluble Vascular Cell Adhesion Molecule-1|可溶性VCAM-1/可溶性CD106/可溶性血管細胞接着分子-1 [/S] Thrombomodulin|トロンボモジュリン [/P] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 正色素性貧血、血小板増加、白血球軽度増加、好酸球低下を認めることがある。 【CRP】 CRPは赤沈よりも疾患の活動性をよく反映する。 【抗核抗体】 陰性である。 【C-ANCA】 腎障害と呼吸障害を持つ患者の約90%に認められ、腎障害の無い患者は70%の陽性率である。C-ANCAは好中球細胞質にあるα顆粒中のセリンプロテアーゼの一つであるpreteinase-3に対する抗体でGPAの特異自己抗体として報告された。臨床的には原因不明の発熱や耳鼻科領域、上気道、肺、腎にGPAを疑う症状を持つ患者に積極的に行う検査である。陽性率は80~90%とされているが10∼20%のGPA患者では陰性となる。Churg-Strauss症候群、顕微鏡的多発血管炎でも陽性になる。 【ESR】 90%以上の症例で亢進し、しばしば著しく亢進する。 【尿一般検査】 蛋白尿、血尿、円柱を認める。 【C3】【C4】 C3とC4は増加する。 【免疫グロブリン】 約半数の患者でIgGとIgAが増加する。 【リウマチ因子】 2/3の症例で高値である。 【生検】 病変部組織の組織診断、培養、特殊染色を診断確定のために行う。腎生検で、pauci-immune型で半月体形成性または非半月体形成性の巣状壊死性糸球体腎炎が認められたら診断が強く裏付けられる。 |
検体検査以外の検査計画 | 胸部X線検査、CT検査 |