疾患解説
フリガナ | ホッサセイヤカンケッシキソニョウショウ |
別名 |
発作性夜間ヘモグロビン尿症 マルキアファーヴァ-ミケーリ症候群 |
臓器区分 | 血液・造血器疾患 |
英疾患名 | Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria(PNH) |
ICD10 | D59.5 |
疾患の概念 | PNHは、赤血球膜表面の補体制御因子欠損により、補体感受性の強くなった赤血球が、血管内で溶血し、後天性溶血性貧血を来す疾患である。溶血は夜間に起こり、早朝尿が、黒褐色の色調を帯びる。PNHは、後天的な遺伝子変異が原因で、幹細胞と赤血球、白血球、血小板などに膜異常を引きおこす。正常なC3に対する感受性が亢進し、赤血球の血管内溶血と骨髄での白血球と血小板の産生減少が起こる。長期に亘るヘモグロビンの喪失で、鉄欠乏症を発症する。また、バッド-キアリ症候群などの動静脈血栓症に極めて罹患しやすい。 |
診断の手掛 |
原因不明の正球性貧血で、血管内溶血を伴う患者を診たら本症を疑う。特に白血球減少または血小板減少があれば、より疑いは強くなる。発作時には、著明なヘモグロビン尿が認められるので、診断の手掛りになる。感染症、鉄剤投与、ワクチン接種、月経によりクリーゼが誘発されることがある。肉眼的ヘモグロビン尿と脾腫が認められるので見逃さない。 【診断基準:2015年厚労省】 1.臨床所見として、貧血、黄疸のほか肉眼的ヘモグロビン尿を認めることが多い。時に静脈血栓、出血傾向、易感染性を認める。先天発症はないが、青壮年を中心に広い年齢層で発症する。 2.以下の検査所見がしばしばみられる。 1)貧血及び白血球、血小板の減少。 2)間接ビリルビン値上昇、LDH上昇、ハプトグロビン値低下。 3)尿上清ヘモグロビン陽性、尿沈渣のヘモジデリン低下。 4)好中球アルカリホスファターゼスコア低下、赤血球アセチルコリンエステラーゼ低下。 5)骨髄赤芽球増加(骨髄は過形成が多いが低形成もある)。 6)Ham試験陽性または砂糖水試験陽性。 3.上記の臨床所見、検査所見よりPNHを疑い、以下の検査所見により診断を確定する。 1)直接クームス試験陽性。 2)グリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型膜蛋白の欠損血球(PNHタイプ赤血球)の検出と定量。 4.PNHタイプⅢ型が1%以上、LDH値が基準範囲上限の1.5倍以上あれば、臨床的PNHと診断してよい。 |
主訴 |
暗赤褐色尿|Dark reddish brown urine 易感染性|Susceptibility to infection イレウス様症状|Ileac symptome 黄疸|Jaundice 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 着色尿|Chromaturia 皮膚蒼白|Paling of skin 貧血症状|Anemic symptom 腹痛|Abdominal pain ヘモグロビン尿|Hemoglobinuria |
鑑別疾患 |
寒冷血色素尿症 血栓症 骨髄異形成症候群|Myelodysplastic Syndrome 再生不良性貧血|Aplastic Anemia 赤血球破砕症候群 汎血球減少症 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/U] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/WBC] Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/B] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B, /P, /U] Iron|鉄/血清鉄 [/Bone Marrow, /S, /U] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] MCV|平均赤血球容積 [/B, /B] Neutrophils|好中球 [/B] Platelets|血小板 [/B] |
異常値を示す検査 |
Acetylcholinesterase|アセチルコリンエステラーゼ/赤血球コリンエステラーゼ/真性コリンエステラーゼ [/RBC] Cells [/Bone Marrow] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S, /S] Ham Test|HAMテスト/酸性化血清溶血試験/酸性化血清細胞溶解試験/酸性化血清試験/酸溶血試験 [Positive/B] Haptoglobin|ハプトグロビン [/S] Hemoglobin Casts|円柱 [/U] Hemoglobin F|ヘモグロビンF/胎児性ヘモグロビン/胎性ヘモグロビン [/B] Hemosiderin|ヘモジデリン [Positive/U] Leukocyte Alkaline Phosphatase Stein|アルカリホスファターゼ染色/NAPスコア/好中球ALP染色/白血球ALP染色 [/B] Methemalbumin|メトヘムアルブミン [/S] Osmotic Fragility|赤血球浸透圧抵抗試験(サンフォード法)(パルパート法)/赤血球抵抗試験/赤血球浸透圧脆弱性試験/食塩水浸透圧抵抗試験 [/RBC] Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B] Sugar Water Test|シュガーウォーターテスト/砂糖水試験/ハルトマン試験/ショ糖溶血試験 [Positive/B] Urobilinogen|ウロビリノゲン定性(尿) [/U] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 汎血球減少症があるが網赤血球は増加する。白血球と血小板は減少すことがある。大楕円赤血球増加が見られることがある。 【NAPスコア】 低下する。末梢血液塗抹標本の好中球に存在するアルカリホスファターゼを化学的に染色して検出する検査で、アルカリホスファターゼが好中球の成熟とともに増加することから、細胞の成熟度を知るために行われる検査でNAP(neutrophil alkaline phosphatase) scoreと呼ばれている。臨床的には末梢血所見で類白血病反応を示すとき、CMLと真性赤血球増加症、骨髄線維症を鑑別するとき、汎血球減少が再生不良か発作性夜間ヘモグロビン尿症化を鑑別するときに有用である。 【LDアイソザイム】 LD1と2が増加する。 【ショ糖溶血試験】 陽性である。本症が疑われたら最初に行う検査である。この検査はHAM試験と共に発作性夜間血色素尿症の診断に不可欠の検査である。臨床的にはクームス試験陰性かつ血管内溶血をきたす溶血性貧血が疑われる場合に測定する。PHAを確認するためにはHAM試験を行う。 【HAM試験】 重症度とよく相関する。ショ糖溶血試験でスクリーニングしHAM試験で確認する。HAM試験は溶血性貧血のスクリーニング検査でシュガーウォーターテストが陽性の場合と臨床症状から発作性夜間血色素尿症が疑われるときに行う。臨床的には発作性夜間血色素尿症に特異性を持つ検査で、診断的有用性が高い。測定の結果、発作性夜間ヘモグロビン尿症が疑われるときはフローサイトメトリーのtwo-color解析を行い、DAF(CD55)およびMIRL(CD59)が欠損した血球を確認する。 【赤血球表面抗原検査】 CD55、CD59の発現低下がある。CD59の欠如で診断が確定する。 【GPIアンカー型蛋白質】 正常な赤血球はCD59などを表面に発現し、補体の攻撃から保護されているが、GPIアンカー生合成欠損がある異常赤血球では溶血を起こし夜間血色素尿症を発症する。 【ヘモグロビン】【ヘモジデリン】 起床時に黒色のヘモグロビン尿をみる。溶血は血管内であるため、尿ヘモジデリンは有力な診断の手がかりとなる。ヘモジデリンはヘモグロビンの崩壊産物で脂質、蛋白、多糖類に結合している。体内で溶血が起こるとヘモジデリンが黄色の顆粒として尿中に出現する。この顆粒をPrussian blueで染色すると青藍色の尿沈渣が認められる。また、尿細管上皮細胞でも同様の染色所見がみられる。 【尿沈渣】 ヘモジデリン円柱、ヘモジデリン顆粒を認めることがある。 【直接クームス試験】 陰性である。 【溶血性貧血の検査】 クームス試験陽性:自己免疫性溶血性貧血を疑う。寒冷凝集素試験陽性:寒冷凝集素による溶血性貧血を疑う。シュガーウォーター試験、HAM試験、ショ糖溶血試験陽性:発作性夜間血色素尿症を疑う。 【フローサイトメトリー】 最も感度および特異度の高い検査は、フローサイトメトリーによる特異的赤血球または白血球膜蛋白(CD59,CD55)欠乏の検査である。 |
検体検査以外の検査計画 | |