疾患解説
フリガナ | ゲキショウカンエン |
別名 | |
臓器区分 | 消化器疾患 |
英疾患名 | Fulminant Hepatitis |
ICD10 | K72.9 |
疾患の概念 | ウイルス感染や薬物が原因で、肝細胞が広範に壊死・脱落し、症状発現後8週以内に高度の肝障害を来し、肝性昏睡Ⅱ度以上の脳症を発症し、プロトロンビン時間が40%以下になったものである。原因疾患はB型肝炎が50%を占め、劇症肝炎の50%はHDVの同時感染がみられる。症状出現後10日以内に脳症が発現すれば急性型、11日以降に発現するものを亜急性型と呼ぶ。病理学的所見は、原因を問わず肝萎縮が特徴で、組織学的には広範あるいは亜広範出血性肝壊死が認められる。 |
診断の手掛 | 急性肝炎、慢性肝炎、キャリア状態の患者に出血傾向、門脈-体循環性脳炎の症状が見られたら本症を疑う。全身倦怠感、発熱、黄疸、悪心、食欲不振が、初発症状のことが多く、一般の急性肝炎に比較して症状が持続する。急性型では、意識障害から始まる激烈な経過をとることがあるが、亜急性型では遅れて意識障害が出現する。独特の肝性口臭が認められる。また、慢性B型肝炎患者にD型肝炎が重複感染すると劇症肝炎になる傾向が強いので注意する。 |
主訴 |
意識障害|Memory impaiment 黄疸|Jaundice 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 肝性口臭|Fetor hepaticus 口臭|Halitosis 昏睡|Coma 昏迷|Stupor 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 消化管出血|Gastrointestinal bleeding 食欲不振|Anorexia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 頻呼吸|Tachypnea 頻脈|Tachycardia |
鑑別疾患 |
ウィルソン病/肝レンズ核変性症|Wilson's disease/Hepatolenticular Degeneration 肝虚血 肝硬変|Cirrhosis of Liver 急性妊娠性脂肪肝 硬膜下血腫 糖尿病|Diabetes Mellitus 糖尿病性昏睡 脳血栓症 脳内出血|Cerebral Hemorrhage 閉塞性黄疸 慢性肝炎|Chronic Hepatitis 慢性腎不全|Chronic Renal Failure 薬剤(アセトアミノフェン) 肝不全急性増悪 低血糖症|Hypoglycemia, Unspecified |
スクリーニング検査 |
Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Activated Partial Thromboplastin Time|活性化部分トロンボプラスチン時間 [/P] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Bilirubin|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] LDL-Cholesterol|LDL-コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Prothrombin Time|プロトロンビン時間 [/P] |
異常値を示す検査 |
Antithrombin III|アンチトロンビンIII/アンチトロンビン [/P] D-Dimer|Dダイマー/フィブリン分解産物Dダイマー [/P] Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [/S] Hepatocyte Growth Factor|肝細胞増殖因子 [/S] Plasminogen|プラスミノゲン活性 [/P] Soluble Fibrin Monomer Complex|可溶性フィブリンモノマー複合体/フィブリンモノマー複合体 [/P] Thrombotest|トロンボテスト [/P] Tissue Plasminogen Activator|組織プラスミノゲンアクチベータ [/P] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/S] α2-Plasmin Inhibitor [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 貧血、白血球増加、血小板低下を認める。血小板の著減はDICを考える。 【トロンボテスト】 30%以下に著しく低下する。TTはビタミンK依存性凝固因子活性を総合的に測定し、抗凝固療法(クマリン、インダンジオン系)のコントロール状態を評価する検査である。クマリンやインダンジオンを投与すると不完全な凝固因子(PIVKA)を産生し、このPIVKAが第II、VII、X因子活性を阻害し1因子以上が阻害されるとTTは低値となる。臨床的には抗凝固療法のコントロールに用いられるが、現在は国際的に互換性のある、プロトロンビンを測定しPT-INR(PT-international normalized ratio) を用いるためTTの測定意義はなくなりつつある。 【可溶性フィブリンモノマー複合体】 著しく増加する。血液凝固過程でトロンビンがフィブリノゲンに作用すると、フィブリノペプチドAとBが遊離してフィブリンモノマーを作る。このフィブリンモノマーはフィブリノゲン、フィブリン分解産物やフィブロネクチンなどと結合し、可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC)を形成する。臨床的には凝固亢進状態、血栓症、播種性血管内凝固症候群などを疑うときに測定する。特に定量法はDICスコアと良い相関があり感度、特異度共に他のDICマーカーより優れている。異常値を見た場合はTAT、プロトロンビンF1+2、FDP、FDP-E、PIC、D-ダイマーなどの線溶亢進状態の検査とPF-4、β-TG、PT、APTTなどの消費性凝固障害の検査を行う。 【プラスミノゲン】 著しく低下する。プラスミノゲンは肝で産生される糖蛋白で血管内では組織プラスミノゲンアクチベータにより線溶活性を持つプラスミンに転換される。また、A群溶血性連鎖球菌のストレプトキナーゼなど細菌が産生する酵素もプラスミノゲンを活性化する。臨床的には血栓形成をきたす患者でその原因が線溶系の機能不全が疑われる場合に測定する。 【AST】【ALT】 初期に著増、病状悪化とともに低下するが病勢とは一致しない。 【HBs抗原】【HBe抗原】 いずれも病状が悪化すると力価の低下や消失が起こる。 【HBVプレコア/コアプロモーター変異株】 陽性なら劇症肝炎に進展する。 【HDV】 デルタ抗体とHDV-RNAを測定しHDV感染の有無を確認する。 【肝機能検査】 重篤な急性肝炎と同様であるが、肝不全の所見が認められる。 【LDL-コレステロール】 著しく低下する。 【α2-HSグリコプロテイン】 低下する。 【アミノ酸】 チロシンとフェニルアラニンが基準範囲上限以上である。 【尿アミノ酸】 アミノ酸尿を認める。 【アンモニア】 増加することがある。 【肝細胞増殖因子】 高値である。死亡例では生存例より高値である。 HGFは肝、腎、脾、肺等で産生されるが、肝では最も強力な増殖因子として働いている。また、細胞増殖促進のほか、運動促進、器官形成誘導、抗アポトーシス作用など多彩な生理機能を有する。臨床的には急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変などの肝疾患で高値となるが、特に劇症肝炎では著明に高値となるため診断的価値が高いとされる。臨床的には劇症肝炎の発症予測と予後推定に用いる。 【グルコース】 40%の患者で低血糖である。 【総胆汁酸】 著しく増加する。TBAは肝細胞でコレステロールを原料として生成され胆汁中に排泄された後、回腸末端で再吸収される閉鎖的腸肝循環を形成している。したがって血中の濃度は1~2μg/mLと極めて低値であるが、肝細胞での胆汁酸摂取障害、胆汁うっ滞、肝内・外シャント、腸管内濃度上昇などで血中濃度が上昇する。臨床的には肝実質障害、胆汁うっ滞のマーカー、潜在性肝硬変の発見、肝障害重症度の評価などに用いる。 【総分枝鎖アミノ酸:チロシンモル比】 3以下に著しく低下する。 【フィッシャー比】 1.8以下に著しく低下する。Fischer比(BACC/AAA)とは分枝鎖アミノ酸:BACC(イソロイシン、ロイシン、バリン)と芳香族アミノ酸:AAA(チロシン、フェニルアラニン)のモル比肝障害の重症度の評価と治療指針に有用とされている。肝機能が低下すると肝のアミノ酸代謝異常によりAAAの血中濃度が増加するが、筋肉や心臓でのBACCの代謝は阻害されないためBACC/AAAの値は低下する。 【動脈血ガス分析】 肝性昏睡では代謝性アシドーシスになる。 【ハプトグロビン】 著しく低下する。 【ビリルビン】 著しく増加することがある。 |
検体検査以外の検査計画 | 脳波検査、超音波断層検査、CT検査、脳MRI検査、アシアロ肝シンチグラフィー |