疾患解説
フリガナ | ウィルソンビョウ/カンレンズカクヘンセイショウ |
別名 | 先天性銅中毒症 |
臓器区分 | 代謝性疾患 |
英疾患名 | Wilson's disease/Hepatolenticular Degeneration |
ICD10 | E83.0 |
疾患の概念 | 常染色体劣性遺伝形式をとる遺伝性銅代謝異常症で、肝細胞内の銅輸送蛋白の障害が原因である。肝でセルロプラスミンと結合出来なかった銅は、アルブミンと結合するので、肝以外の組織、角膜、脳、腎にも銅が沈着する。患者は第13染色体に位置する劣性遺伝子変異体のホモ接合型で、ヘテロ接合型は無症候性である。遺伝的欠陥により銅輸送が障害されることで、胆汁への銅の分泌が減少し、血中に銅が過剰になり、その結果として肝臓への蓄積が起こる。また、輸送障害によって銅蛋白であるセルロプラスミンへの銅の取込みも阻害され、セルロプラスミンの血中濃度が低下する。肝に銅が蓄積することで、肝線維化が生じ最終的に肝硬変を発症する。銅が他の組織へと沈着すると、脳、腎および生殖器に損傷を与え、溶血性貧血も引き起こす。角膜の辺縁および虹彩の縁に一部の銅が沈着するとカイザー-フライシャー輪を生じる。この疾患は小児期または成人期(通常5~35歳)の間に発症する。 |
診断の手掛 |
40歳未満の患者に1.原因不明の肝障害、精神障害、神経障害がある 2.原因不明の肝トランスアミナーゼの持続的な上昇がある 3.近親者にWilson病患者がいる場合は本症を疑う。劇症型は黄疸、凝固障害、貧血症状が強い。 【診断基準:2015年厚労省】 A症状:1.Kayser-Fleisher角膜輪 2点 2.精神神経症状 軽症(軽度の手指の振戦やうつ症状など)1点、重症(日常生活に支障をきたすような歩行障害、構音障害、流涎や統合失調症様の精神神経症状など 2点 B検査所見:1.血清セルロプラスミン0.1g/L未満 2点、0.1以上0.2g/L未満 1点 2.クームス陰性溶血性貧血 1点 3.尿中Cu排泄量40以上80μg/日未満 1点、80μg/日以上 2点 4.肝Cu含有量50μg/g乾肝重量以上250μg/g乾肝重量未満 1点、250μg/g乾肝重量以上 2点 5.精神神経症状がない場合に頭部MRIでCu沈着の所見 1点 C.鑑別診断:慢性ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患、アルコール性肝疾患、薬物性肝疾患、自己免疫性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、α1-アンチトリプシン欠乏症、不随意運動・姿勢異常や痙攣を呈する疾患、うつ症状、不安神経症、双極性障害、妄想性障害、統合失調症、ヒステリー D.遺伝学的検査:ATP7B遺伝子の変異:一つの染色体 1点、両方の染色体 2点 *診断:Definite:上記の点数の合計が4点以上 Possible:合計が3点以上 |
主訴 |
アテトーゼ|Athetosis 意識障害|Memory impaiment 易疲労感|Fatigue 運動失調|Ataxia 嚥下障害|Dysphagia 黄疸|Jaundice 筋緊張亢進|Hypertonia/Hypermyotonia 血尿|Hematuria 言語障害|Language disorder/Allophasis 構音障害|Dysarthria 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 神経障害|Neuropathy 振戦|Tremor ジストニア|Dystonia 貧血症状|Anemic symptom 舞踏病様運動|Choreic movement 無月経|Amenorrhea |
鑑別疾患 |
急性肝炎|Acute Hepatitis 肝硬変|Cirrhosis of Liver 若年パーキンソン病 脊髄小脳変性症 多発性硬化症|Multiple Sclerosis(MS) Huntington病 脳性麻痺|Cerebral Palsy 無セルロプラスミン血症 Meige症候群 非アルコール性脂肪肝炎|Nonalcoholic Steatohepatitis(NASH) アジソン病/急性副腎不全|Addison's Disease/Adrenal Crisis Menkes病 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S, /S] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase:Alanine Aminotransferase Ratio|AST:ALT比 [/S] Bilirubin-Direct|直接ビリルビン/抱合型ビリルビン [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Calcium|カルシウム [/S, /U] Chloride|クロール [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Creatinine|クレアチニン [/S, /S] Erythrocytes|赤血球数 [/U] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] GFR|糸球体濾過量 [/U] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S, /S, /U] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B, /P] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S, /S] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/S] Leucine Aminopeptidase|ロイシンアミノペプチダーゼ [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Phosphate|無機リン [/S, /U] Platelets|血小板 [/B] Potassium|カリウム [/S] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/S, /U] Prothrombin Time|プロトロンビン時間 [/P] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S, /S] Uric Acid|尿酸 [/S, /U] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
5-HIAA|5-ヒドロキシインドール酢酸 [/CSF] 5'-Nucleotidase|5'-ヌクレオチダーゼ [/S] Alanine|アラニン [/U] Alkaline Phosphatase:Bilirubin Ratio [/S] Amino Acids|アミノ酸分析/アミノ酸41分画 [/U] Ammonium Ions|アンモニウムイオン [/U] Anion Gap|アニオンギャップ [/U] Aspartate Aminotransferase:Alanine Aminotransferase Ratio|AST:ALT比 [/S] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S] BSP Retention|BSP test/ブロムサルファレイン試験 [/S] Calculi|結石分析 [/U] Ceruloplasmin|セルロプラスミン/フェロオキシダーゼ [/S, /S] Ceruloplasmin Ferroxidase|セルロプラスミン/フェロオキシダーゼ [/S] Citrate|クエン酸/クエン酸塩 [/U] Copper|銅 [/S, /Liver, /S, /U] Copper, Free|銅 [/S] Copper, Nonceruloplasmin [/U] Creatinine Clearance|クレアチニンクリアランス [/U] Erythrocyte Survival|赤血球寿命 [/RBC] Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S] Homocysteine|ホモシステイン/ホモシスチン/総ホモシステイン [/U] Inulin Clearance|イヌリンクリアランス [/U] Isoleucine|イソロイシン [/U] Leucine|ロイシン [/U] Net Acid Excretion|総酸排泄量 [/U] Osmolal Gap|浸透圧ギャップ [/U] pH|尿pH [/U, /U] Phenylalanine|フェニルアラニン [/U] Phospholipids|リン脂質 [/S] Proline|プロリン [/U] Pyrophosphate [/Synovial Fluid] Pyruvate [/B] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/U] Threonine|トレオニン [/U] Tryptophan|トリプトファン [/U] Tyrosine|チロシン [/U] Uric Acid Clearance|尿酸クリアランス [/U] Valine|バリン [/U] Vitamin E|ビタミンE/トコフェロール/α-トコフェロール [/S] α-Amino-Nitrogen [/U] |
関連する検査の読み方 |
【AST】【ALT】【ビリルビン】 いずれも中等度に増加し、溶血を伴う急性肝不全がみられたら本症を疑う。 【5-HIAA】 髄液中でセロトニンニューロンの活動が減少するので低下する。5-HIAAはセロトニンの主要代謝産物で、血液中の殆どのセロトニンは5-HIAAとして尿中に排泄される。脳内のセロトニンは抑制性神経伝達物質として作用しており、髄液中の5-HIAA値は中枢神経系のセロトニン作動性ニューロンの活動性の指標として測定される。バナナの多食で上昇するので採血時に注意する。 【セルロプラスミン】 20mg/dL未満に低下するが、2~5%の患者は基準範囲内である。Cpはα2-グロブリン分画に泳動される糖蛋白で、血漿中の銅の95%はこの蛋白と結合しているキャリア蛋白である。臨床的には先天的銅代謝異常症であるウィルソン病で血中濃度が著減するため診断に有用である。また、小腸粘膜の銅輸送障害(Menkes症候群)でも低下することが知られている。 【直接クームス試験】 陰性で非球形赤血球性の溶血性貧血を認めることがある。 【銅】 血中に増加して組織に過剰に沈着し、尿中排泄も100μg/日以上に増加する。Cuは小腸で吸収され95%はセルロプラスミンとして、残りはアルブミンやアミノ酸と結合しているほか、モノアミンオキシダーゼ、δ-アミノレブリン酸脱水素酵素などの金属酵素の構成成分でもある。生理作用はセルロプラスミンとして貯蔵鉄の動員、血漿鉄交換率の促進、鉄酸化触媒などである。臨床的には先天性銅代謝異常、低栄養状態、Wilson病などを疑うときに測定する 【24時間尿銅排泄量】 100μg/日以上である。血清セルロプラスミンが低値で、尿銅排泄量が高値であれば、診断は確定する。 【尿酸】 血中尿酸値は、尿への排泄が増大するので低値になる。 【尿アミノ酸】 尿ではアミノ酸(シスチン、スレオニン)尿、尿糖、高リン酸尿、高Ca尿、高尿酸尿を認める。 【ペニシラミン誘発試験】 小児に行う検査である。尿中銅排泄量は1200μg/日(基準範囲30μg/日以下)以上に増加する。1,600μg/日以上であれば診断は確定する。 【遺伝子検査】 原因遺伝子のATP7B遺伝子を確認する。 【ATP7B蛋白】 この蛋白の機能の低下・欠如により、肝細胞から胆汁への銅の分泌が低下し肝に銅が蓄積する。 【肝生検】 血清セルロプラスミン低下(20mg/dL未満)と肝内の銅増加(250mg/g以上)が認められるのはWilson病と6ヶ月以内の乳児のみである。銅染色は感度が低いため、確定診断には銅の濃度を測定する。生検中のCuが250μg/g乾燥重量以上(基準値は40以下)であればWilson病が強く疑われる。 |
検体検査以外の検査計画 | 細隙灯顕微鏡検査、頭部MRI検査、CT検査 |