疾患解説
フリガナ | アジソンビョウ/キュウセイフクジンフゼン |
別名 |
原発性副腎機能不全症 原発性副腎皮質機能低下症 |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Addison's Disease/Adrenal Crisis |
ICD10 | E27.1 |
疾患の概念 | 副腎皮質からのステロイド分泌が、慢性的・進行性に低下した状態がAddison病、副腎皮質機能が急激に低下した状態を急性副腎不全と呼ぶ。あらゆる年齢層に起こり、性差は殆どない。代謝性ストレスや外傷により症状が顕在化する傾向がある。急性副腎不全は、敗血症などの急性感染により促進される場合がある。原因は自己免疫的な副腎皮質の萎縮によるものが70%を占め、残りは副腎結核が原因である。 |
診断の手掛 |
臨床像を要約すると「全身倦怠感と衰弱、心機能の著しい低下、胃の易刺激性および皮膚の特異的な色調変化」である。副腎は障害が90%を超えると臨床症状が現れ、初期症状は脱力感、易疲労性と起立性低血圧であるが、非特異的であり、しばしば神経症と誤診される。体の露出部のびまん性の黒色色素沈着も特徴的である。また、鉱質コルチコイドの欠乏により味覚が変化し、味の濃い食事を好むようになることも、診断の手掛りになる。強い無力感、腹部・腰背部・下肢の激痛、末梢血管虚脱を訴えたら急性副腎不全の発症を強く疑う。 【診断基準:2015厚労省】 1.自覚症状:色素沈着、易疲労、脱力感、体重減少、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、腹痛、無気力、無関心、不安感 2.急性副腎不全症状:全身倦怠感、頭痛、悪心・嘔吐、発熱、意識障害、呼吸困難、ショック 3.他覚症状:起立性低血圧、脱毛、性腺機能低下、低血糖症状 4.内分泌検査成績:血漿コルチゾール低値、ACTH高値を認め、迅速ACTH負荷試験で血漿コルチゾールの増加がなければ、本症と診断できる。 5.末梢血液検査:軽度貧血、白血球減少、相対的リンパ球増加、好酸球増加 6.生化学検査:Na、Cl低下、K増加、Na(mEq/L)/K(mEq/L)比が30以上、正常は32 時に高Ca血症、代謝性アシドーシス、水利尿低下 7.免疫学的検査:特発性アジソン病では抗副腎抗体を検出することがある。 診断基準:確実例:1、2、3および4を満たすもの ほぼ確実例:1、2および3を満たすもの 疑い例:1および2を満たすもの |
主訴 |
易疲労感|Fatigue 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 下肢痛|Calf pain 月経異常|Menoxenia 色素沈着|Pigmentation/Chromatosis 食欲不振|Anorexia 心窩部不快感|Epigastric discomfort/Nausea 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 体重減少|Weight loss 脱力感|Weekness 低血圧|Hypotension/Hypotonia 二次性徴低下|Hypofunction of secondary sex characterristics 腹痛|Abdominal pain やせ|Weight loss 腰痛|Low back pain/Lumbago |
鑑別疾患 |
ACTH欠損症 転移性乳癌 転移性肺癌 アミロイドーシス|Amyloidosis 下垂体性副腎皮質機能低下症 カンジダ症 甲状腺炎 再生不良性貧血|Aplastic Anemia Schmidt症候群 性腺機能低下症 糖尿病|Diabetes Mellitus 副甲状腺機能低下症|Hypoparathyroidism 副腎髄質過形成 リンパ節増殖症 ヘモクロマトーシス|Hemochromatosis ウィルソン病/肝レンズ核変性症|Wilson's disease/Hepatolenticular Degeneration 二次性副腎機能低下症 インスリノーマ|Insulinoma |
スクリーニング検査 |
Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Potassium|カリウム [/S] Sodium|ナトリウム [/S] UN|尿素窒素 [/S] |
異常値を示す検査 |
17-KS|17-ケトステロイド [/U] 17-KGS|17-ケトジェニックステロイド [/U] 17-OHCS|17-ヒドロキシコルチコステロイド [/U] Adrenocorticotropic Hormone|副腎皮質刺激ホルモン/コルチコトロピン [/P] Aldosterone|アルドステロン [/P] Ammonium Ions|アンモニウムイオン [/U] Angiotensin 2|アンギオテンシンII [/P] Anion Gap|アニオンギャップ [/U] Anti-Adrenal Cortex Antibody|抗副腎皮質抗体 [/S] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/P] Corticotropin|副腎皮質刺激ホルモン/コルチコトロピン [/P] Cortisol|コルチゾール [/S] Dehydroepiandrosterone Sulfate|デヒドロエピアンドロステロンサルフェート [/P] Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [/P] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 好中球数減少、相対的リンパ球増加、好酸球増加(300/μL)を認める。好酸球が50/μL以下なら副腎機能低下は高度ではない。好酸球は急性副腎不全では50/μL以上である。ヘマトクリットは増加する。 【Na:K比】 低Na血症(135mEq/L未満)、高K血症(5.0mEq/L以上)で30以下である。 【電解質】 NaとClは低下するがKは増加する。急性副腎不全ではNa、Cl低下とK増加を認める。尿中Na排泄量は増加する。血清Naは<135mEq/L、Kは>5mEq/Lになる。 【尿素窒素】 20mg/dL以上に増加する。 【グルコース】 空腹時に50mg/dL以下の低血糖がみられ、インスリン感受性が増加する。急性副腎不全では規則的な低血糖を認める。 【重炭酸イオン】 HCO3-は20mEq/L以下に低下する。 【ACTH】 200~1,600pg/mL(基準範囲9~52)に増加する。朝と夕で大きくばらつくので早朝空腹時に採血する。下垂体性(続発性)では低下か欠如する。ACTHは下垂体前葉から分泌されるポリペプチドで、副腎皮質からのコルチゾール分泌を調節している。分泌はパルス状のためコルチゾールの分泌もパルス状になる。ACTHの分泌は副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンとコルチゾールによるネガティブフィードバックで調節されている。臨床的には視床下部-下垂体-副腎皮質系疾患の診断、病態解明に用いるほか、副腎皮質機能低下症の原因究明に用いる。また、ステロイド剤長期服用患者の副腎皮質機能のモニタリングにも用いられる。検査は早朝、夕方、深夜に一日/3回、血中コルチゾールや尿中遊離コルチゾールと同時測定することが望ましい。その他DOC、DHEA、アルドステロン、エストロゲン、テストステロンなどの測定も必要となる。 【コルチゾール】 午前8~10時の検体で5μg/dL以下(基準範囲5~18)なら本症を強く疑い、3μg/dL未満なら確定、基準範囲内か高値なら副腎不全は除外出来る。低値か境界値ならACTH刺激試験の適応である。急性副腎不全では著明に低下する。コルチゾールは副腎皮質束状層から分泌されるグルココルチコイドの主成分で、下垂体性ACTHによって分泌が調節されている。肝と腎で代謝され尿中に排泄されるが、コルチゾール分泌量の20~30%は尿中17-OHCSとして測定される。生理作用は糖代謝、脂肪代謝、蛋白代謝、水・電解質代謝と免疫機構への関与で生命維持に欠くことのできないホルモンである。臨床的には下垂体-副腎機能異常、副腎機能亢進症・低下症、下垂体機能低下症を疑う症状のある患者に測定が必要となる。 【デヒドロエピアンドロステロン】 多くの患者が1000ng/mL未満である。DHEAはアンドロゲンの一種で、90%が副腎由来のため副腎アンドロゲンと呼ばれる。生理作用は免疫活性、抗動脈硬化、抗糖尿病、抗癌作用、中枢神経への関与など多彩なため、老化の指標として注目されている。血中濃度は20歳前後にピークに達し、加齢と共に直線的に減少し60歳を超えると20歳代の5~10%にまで低下する。臨床的にはACTHにより分泌量が敏感に変動するため、Cushing症候群の病型鑑別に用いる。異常値を認めたらコルチゾール、アルドステロン、DHEA-Sなどの性ステロイドとその中間代謝産物を測定する。 【迅速ACTH試験】 診断に有用な検査である。cosyntropin250μgを経静脈的又は筋注で投与し、30分後のピークのコルチゾール値が18μg/dL未満なら診断が確定、20μg/dL以上なら副腎機能不全は否定される。 【17-OHCS】【17-KS】【17-KGS】 いずれも著明に低下する。17-OHCSにはコルチゾール、11-デオキシコルチゾール、コルチゾンとこれらの肝での代謝産物を含むため、測定により副腎皮質からの糖質コルチコイドの一日の産生量が推定出来る。臨床的には副腎からの分泌が、視床下部-下垂体の支配によるフィードバック機構により成立しているので、この機構の異常を疑う場合に測定する。17-KSは精巣性テストステロンと副腎性アンドロゲンの総和として尿中に排泄されるが、男性では70%が副腎由来で、睾丸由来の精巣性テストステロンは20~30%で量的に少ないため主として副腎性アンドロゲンの分泌指標とされている。女性や小児は殆どが副腎由来である。17-KGSの大部分は副腎皮質から分泌されるコルチゾールとその代謝産物が占めているので、17-OHCSと同様に副腎皮質からのコルチゾールの分泌状態を反映し測定により副腎皮質機能が推定できる。量的にはコルチゾールが最も多く、コルチゾールの分泌量と並行すると考えられている。ただし、コルチゾールの分泌は視床下部-下垂体系のフィードバックにより支配されているので、この系のいずれかに異常があれば17-KGSの値は変動する。 【抗副腎皮質抗体】 殆どの症例で認められるので副腎結核と副腎白質ジストロフィー症が除外できる。 【副腎不全を疑う検査値】 コルチゾールが低値、ACTHが高値なら副腎不全を強く示唆する。原発性ではコルチゾールとアルドステロンの両者が低値、続発性はアルドステロン産生は維持されている。 |
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