疾患解説
フリガナ | ヘモクロマトーシス |
別名 | |
臓器区分 | 代謝性疾患 |
英疾患名 | Hemochromatosis |
ICD10 | A83.1 |
疾患の概念 | 鉄の小腸での吸収促進により、主として肝実質細胞に鉄が過剰に沈着した状態で、肝障害を来たす。HLA-A3と相関のある常染色体劣性の遺伝子異常による原発性と二次的な鉄過剰による続発性に分けられるが、わが国では殆どが続発性であり、臓器障害を来す症例の頻度は低い。遺伝性ヘモクロマトーシスは、過剰な鉄蓄積が特徴の遺伝性疾患で、全身症状、肝疾患、心筋症、糖尿病、勃起障害および関節障害を引き起こすことがある。遺伝性ヘモクロマトーシスは、変異した遺伝子に応じて、1~4型に分けられ、全ての病型は、発症年齢が異なるが、鉄過剰症による臨床像は全て同じである。健常者の貯蔵鉄量は、女性で約2.5g、男性で3.5gであるが、ヘモクロマトーシスでは、10~20gを上回る鉄が蓄積されるまで、症状の出現が認めれない場合がある。このため、異常があっても中年期を過ぎるまで発症が認識されない可能性がある。女性では、月経や妊娠および出産による鉄喪失が鉄蓄積を相殺するため、閉経前に臨床症状が見られることは稀である。ニ次性鉄過剰症は、特に赤血球産生障害の患者での過剰な鉄吸収、頻回の輸血または過剰な鉄摂取が原因で、鎌状赤血球症、サラセミア、鉄芽球性貧血などの異常ヘモグロビン症、先天性溶血性貧血、骨髄形成異常の患者などで見られる。 |
診断の手掛 | 説明のつかない肝障害があり、易疲労感、肝腫大(95%にみられる)、日光暴露部に青銅色の皮膚色素沈着や性欲減退(両性で起こる)、関節痛などを訴える患者を診たら本症を疑う。また、家族歴は重要な情報になる。合併症としての肝硬変、肝細胞癌、糖尿病(65%にみられる)、関節症も見逃してはいけない。3主徴である肝障害、皮膚色素沈着、糖尿病があれば、Fe過剰を疑い、組織のFe沈着を確認する。これに心疾患、関節炎、性腺機能低下が加われば、ほぼ診断は確定する。臨床的には40歳以前には殆ど認められない疾患である。 |
主訴 |
易疲労感|Fatigue インポテンツ|Impotence 黄疸|Jaundice 肝腫大|Hepatomegaly 関節痛|Arthralgia くも状血管腫|Vascular spider/Spider angioma 呼吸困難|Dyspnea 色素沈着|Pigmentation/Chromatosis 女性化乳房|Gynecomastia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 体重減少|Weight loss 多飲|Polydipsia 多尿|Polyuria 動悸|Palpitations 腹水|Ascites 腹痛|Abdominal pain 腹部膨満感|Sense of Abdominal fullness 浮腫|Edema/Dropsy 不整脈|Arrhythmia 無月経|Amenorrhea やせ|Weight loss |
鑑別疾患 |
食道静脈瘤|Esophageal Varices 心不全|Heart Failure 腎不全 糖尿病|Diabetes Mellitus 肝硬変|Cirrhosis of Liver サラセミアメジャー 鉄芽球性貧血|Sideroblastic Anemia 慢性溶血性貧血 慢性B型肝炎 慢性C型肝炎 アルコール性肝障害|Alcoholic Liver Disease 晩発性皮膚ポルフィリン症|Porphyria Cutanea Tarda(PCT) 無セルロプラスミン血症 |
スクリーニング検査 |
Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Ferritin|フェリチン [/S] Follicle-stimulating Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Iron|鉄/血清鉄 [/Liver, /S] Leucine Aminopeptidase|ロイシンアミノペプチダーゼ [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] TIBC|総鉄結合能 [/S, /S] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
5'-Nucleotidase|5'-ヌクレオチダーゼ [/S] Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S] Aldosterone|アルドステロン [/P] Androgens|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/P] BSP Retention|BSP test/ブロムサルファレイン試験 [/S] Corticotropin|副腎皮質刺激ホルモン/コルチコトロピン [/P] Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S] Gonadotropin, Pituitary|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P, /U] Growth Hormone|成長ホルモン [/P, /U] Iron Saturation|鉄飽和度 [/S] Lead|鉛 [/B] Luteinizing Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] Neopterin|ネオプテリン [/S] Pyrophosphate [/Synovial Fluid] Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [/P] Testosterone|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/S] Total Iron Binding Capacity|総鉄結合能 [/S] Transferrin Saturation|トランスフェリン飽和度 [/S] Vitamin E|ビタミンE/トコフェロール/α-トコフェロール [/S] |
関連する検査の読み方 |
【ALT】【ALP】 ALT、ALPがやや上昇する。 【血清鉄】 男性で300μg/dL以上、女性で200μg/dL以上である。典型例では1,000μg/dLを超える。日内変動があり午前7時から正午に最高値である。 【フェリチン】 2/3の患者で増加し、1,000μg/L以上である。早期の症例ではトランスフェリン飽和度より感度が低い。1,000ng/mL以上であれば、遺伝性ヘモクロマトーシス患者の線維化の程度の正確な予測因子となる。 【ポルフィリン】 ウロポルフィリンとコプロポルフィリンのみを検出する定性試験で陽性である。 【TIBC】 200以下に低下し、しばしば0に近づく。血清中の鉄は鉄結合蛋白トランスフェリンの約1/3と結合して血清鉄(Fe)を形成しており、トランスフェリンの残り2/3 が鉄と結合可能な部分で不飽和鉄結合能(UIBC)と呼ばれている。総鉄結合能(TIBC)とは血清鉄と不飽和鉄結合能の和であり、TIBC=UIBC+Fe(μg/dL)の関係が成立している。臨床的には鉄欠乏あるいは鉄過剰を疑う場合に測定されるが、特に小球性低色素性貧血の鑑別診断に有用である。 【トランスフェリン飽和度】 最も良いスクリーニング法で通常は70%以上、しばしば100%である、空腹時男性で62%以上、女性で50%以上なら検査を進める。 【デフェロキサミンテスト】 デフェロキサミン筋注後に尿中鉄排泄量が増加する。 【遺伝子検査】 診断は遺伝子検査(C282YとH63D)で確定する。症状の有無にかかわらず、遺伝性ヘモクロマトーシス患者の第一近親者がトランスフェリン飽和度とフェリチン濃度が高値なら遺伝子解析を行う。 【肝生検】 フェリチン濃度が1,000ng/mL以上なら、治療開始前に肝生検を行う。プルシャン・ブルー染色で肝細胞に鉄の過剰沈着を認める。 【肝鉄指数】 (μg/g乾燥重量)/(56×年齢)が2を超える。 |
検体検査以外の検査計画 | 肝CT検査、心電図検査、心超音波検査、心CT検査、肝MRI検査、心MRI検査、超電導量子干渉計(SQUID)、上部消化管内視鏡検査 |