疾患解説
フリガナ | キュウセイカンケツセイポルフィリンショウ |
別名 | |
臓器区分 | 代謝性疾患 |
英疾患名 | Acute Intermittent Porphyria(AIP) |
ICD10 | E80.2 |
疾患の概念 | ヘム合成酵素の遺伝子異常を原因とする常染色体優性遺伝疾患であるが、発症素因を持つ者のうち、発症するのは10%で、家系内に無症候性キャリアが存在する。患者はポルホビリノーゲンデアミナーゼ活性が正常の半分程度に低下している。患者は若年女性が多い。ヘム生合成経路の酵素の欠損に起因する疾患で、ヘム前駆体が蓄積し、腹痛および神経症状の間欠的発作が引き起こされる。発作は特定の薬剤やその他の因子によって誘発される。 |
診断の手掛 |
原因不明の腹痛を訴える患者で、赤褐色の尿、便秘、悪心、嘔吐、頻脈、筋力低下、精神症状が認められたら本症を疑う。内因性あるいは外因性の性ステロイド、薬物、飲酒、低カロリー食などの誘発因子に注意する。 【診断基準:2015年厚労省】 1)臨床所見:①思春期以降に発症する、発症は急性のことが多い ②種々の程度の腹痛、嘔吐、便秘(消化器症状) ③四肢脱力、痙攣、精神異常(精神神経症状) ④高血圧、頻脈、発熱など(自律神経症状) ⑤他のポルフィリン症とは異なり皮膚症状(光線過敏症)は見られない。 2)検査所見 発作時:①尿中δ-アミノレブリン酸の著明な増加:基準値平均値の3倍以上(平均約20倍) ②ポルホビリノゲンの著明な増加:基準値平均値の10倍以上(平均約90倍) 緩解期にはALA、PBGともに基準値上限の2倍以上 3)遺伝子検査:ポルホビリノーゲン脱アミノ酵素遺伝子の異常を認める。 4)除外診断:①基質的病変を基盤とする急性腹症 ②イレウス ③虫垂炎 ④ヒステリー ⑤鉛中毒 ⑥他のポルフィリン症 5)参考事項:①家族歴がある ②上記症状の既往歴がある ③発作の誘因(バルビツール系薬剤、サルファ剤、抗けいれん剤、経口避妊薬、エストロゲン製剤、生理前、妊娠、出産、タバコ、アルコール、感染症、カロリー摂取不足、ストレス) *判定:以下のいずれかを満たすものを急性間欠性ポルフィリン症とする。 A.1)の臨床症状のいずれか、および2)の①、②双方を満たし、4)の除外診断を否定できるもの。 B.1)の臨床症状のいずれか、および3)を満たし4)の除外診断を否定できるもの。 |
主訴 |
嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 筋力低下|Weakness 痙攣発作|Seizures/Convulsion/Convulsive seizure 四肢麻痺|Quadriplegia/Tetraplegia 赤褐色尿|Reddish brown urine 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 着色尿|Chromaturia 頻脈|Tachycardia 不安|Anxiety 腹痛|Abdominal pain 便秘|Constipation 抑うつ状態|Depressive state |
鑑別疾患 |
急性虫垂炎|Acute Appendicitis 急性腹症 ギラン-バレー症候群|Guillain-Barre Syndrome 腸閉塞|Intestinal Obstruction てんかん|Epilepsy 光線過敏症 ヒステリー 末梢神経炎 イレウス 代謝性脳症 |
スクリーニング検査 |
Chloride|クロール [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Iron|鉄/血清鉄 [/S] LDL-Cholesterol|LDL-コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Magnesium|マグネシウム [/S] MCH|平均赤血球ヘモグロビン量 [/B] MCV|平均赤血球容積 [/B] Potassium|カリウム [/S] Sodium|ナトリウム [/S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] γ-Globulin|γ-グロブリン [/S] |
異常値を示す検査 |
17-Hydroxycorticosteroids|17-ヒドロキシコルチコステロイド [/U] 17-Ketogenic Steroids|17-ケトジェニックステロイド [/U] Arginine Vasopressin|アルギニンバゾプレッシン/抗利尿ホルモン/バゾプレシン [/P] BSP Retention|BSP test/ブロムサルファレイン試験 [/S] Coproporphyrin|コプロポルフィリン [/F, /Liver, /U] Coproporphyrin I|コプロポルフィリンⅠ [/U] Coproporphyrin III|コプロポルフィリン [/U] Coproporphyrin III:Coproporphyrin I Ratio [/U] pH|尿pH [/B] Porphobilinogen|ポルフォビリノゲン [/CSF, /Liver, /S, /U] Porphobilinogen Deaminase|ポルフォビリノゲン脱アミノ酵素/ヒドロキシメチルビラン合成酵素/ウロポルフィリノゲンI合成酵素 [/RBC] Porphyrinogens [/U] Porphyrins, Total|ポルフィリン [/U] Protoporphyrin|プロトポルフィリン [/F] Uroporphyrin|ウロポルフィリン [/F, /Liver, /U] Volume [/P, /U] δ-Aminolevulinic Acid|δ-アミノレブリン酸(尿)/5-アミノレブリン酸 [/S, /U] δ-Aminolevulinic Acid Dehydratase|δ-アミノレブリン酸脱水素酵素/ポルホビノゲン合成酵素 [/RBC] |
関連する検査の読み方 |
【T4】【サイロキシン結合グロブリン】 甲状腺機能亢進は伴わないが増加することがある。 【肝機能検査】 肝機能は基準範囲内である。 【コレステロール】【β-リポ蛋白】 総コレステロールとβ-リポ蛋白が増加することがある。 【耐糖能】 異常である。 【電解質】 急性発作の際はNa、Cl、Mgが低下する。特にNaは著しい低下を見る。 【ポルフォビリノゲン】 尿中に急性期には全例、寛解期には85%が増加している。定性試験はスクリーニングに有用である。通常50~200mg/日程度上昇する。値が基準範囲以内なら本症は否定される。PBGはポルフィリンの前駆物質で赤芽球と肝細胞でδ-アミノレブリン酸を材料として生成される。急性ポリフィリン症などでは肝細胞内で過剰産生され尿中に出現する。ポルフィリン症を疑わせる原因不明の日光過敏症や消化器症状(激しい腹痛、嘔吐、下痢、便秘)や両者の症状が混在する場合に測定する。また、急性間歇性ポルフィリン症では尿中の値は寛解期でも健常者より高いため診断的有用性がある。異常値を見た場合は尿中PBG、δ-アミノレブリン酸、ポルフィリン代謝産物、PBGD活性を測定する。 【ポルフォビリノゲン脱アミノ酵素】 確定診断に有用である。PBGDはヘム合成反応を触媒する酵素で、赤血球中の活性が肝細胞中の活性に比べて著しく高い。このため、PBGDの遺伝的異常を持つ急性間歇性ポルフィリン症ではポルフィリン代謝異常は肝細胞にのみ出現する。臨床的には赤血球PBGD活性が低値を示す疾患が、現時点では急性間歇性ポルフィリン症のみであることから、当該疾患の診断に高い有用性を持つ。また、尿中ポルフォビリノゲンが高値の患者では必ずPBGDを測定する。 【δ-アミノレブリン酸】 尿中の値は基準値の3倍以上、20~100mg/日に増加する。ALAは赤芽球と肝細胞でのプロトポルフィリン合成の際の中間産物で、ポルホビリノゲンの前駆物質である。血液と尿中のALA濃度は、アミノレブリン酸合成酵素の活性増加とALA脱水素酵素の活性低下で増加するので、ポルフィリン症や鉛中毒の診断、病態把握、経過観察に有用である。 【δ-アミノレブリン酸脱水素酵素】 赤血球中の値は基準範囲の約50%に低下する。 【プロトポルフィリン】【コプロポルフィリン】 便中の値は通常は基準範囲内である。 【放置尿色調】 新鮮尿は正常な色調であるが、放置すると褐色、赤色あるいは黒色になる。ポルフォビリノゲンが著増する。 【Watson-Schwartz試験】 陽性である。Watson/Shwartz Testは尿中ポルホビリノーゲンの簡易測定法で、新鮮尿にアルデヒド試薬を加え混和後、飽和酢酸Naを加えて再び混和する。これにクロロホルムを加え振盪後静置すると上層の水層にポルホビリノーゲンが、下層のクロロホルム層にウロビリノーゲンが抽出される。上層が赤色を呈すれば陽性、下層は桃色~深赤色を呈する。 |
検体検査以外の検査計画 | 脳波検査、筋電図検査、心電図検査、脳MRI検査 |