疾患解説
フリガナ | キュウソクシンコウセイシキュウタイジンエン |
別名 | 半月体形成性糸球体腎炎 |
臓器区分 | 腎・泌尿器疾患 |
英疾患名 | Rapidly Progressive Glomerulonephritis(RPGN) |
ICD10 | N01.9 |
疾患の概念 | 急速進行性糸球体腎炎は亜急性糸球体炎症の臨牀症状で、顕微鏡的な糸球体半月体を形成し、数週から数ヶ月で腎不全に進行する予後不良な糸球体腎炎症候群であり、血尿、蛋白尿、円柱尿と貧血が主症状である。60歳以上の中高齢者に多く、男女比はわずかに女性が多い。蛍光抗体顕微鏡検査に基づく分類で病型は5種に分けられる。抗糸球体基底膜抗体疾患(1型RPGN)は、自己免疫性糸球体腎炎で、RPGN症例の約10%を占める。タバコの煙、ウイルス性上気道感染症や他の刺激物に肺胞毛細血管のコラーゲンが曝されて抗コラーゲン抗体形成が誘発され発症する。抗コラーゲン抗体が糸球体基底膜と交差反応し、補体を結合し細胞性炎症反応を腎と肺で誘発すると、グッドパスチャー症候群を発症する。免疫複合体急速進行性糸球体腎炎(2型RPGN)は、多くの感染症と結合組織疾患を合併し、さらに原発性糸球体症も併発する。この病態はRPGN症例の最大40%を占めるが、発生機序は通常不明である。pauci-immune型急速進行性糸球体腎炎(3型RPGN)は、免疫複合体または補体沈着の欠如が特徴的である。この病態は全RPGN症例の最大50%を占め、ほぼ全ての患者で抗好中球細胞質抗体の上昇と全身性血管炎が見られる。Double-antibody型(4型)は、1型および3型の特徴を有し、抗GBMおよびANCA抗体が存在するが、稀である。このほか特発性の症例があるが稀である。 |
診断の手掛 |
初発症状は非特異的で発熱、全身倦怠感、食欲不振などが多い。健診で尿所見異常、血清クレアチニン値上昇を示し発見されることもある。また、しばしば呼吸困難、血痰などの肺病変を合併する。腎炎性の尿所見、クレアチニン値高値、CRPや赤沈亢進の3所見を認めたら本症を強く疑う。 【診断基準:2010年進行性腎障害に関する調査研究班】 1.疑い:1)尿所見異常(主として血尿や蛋白尿、円柱尿)を認める。2)eGFR<60mL/min/1.73m²。 3)CRP高値や赤沈促進。 *上記の1)~3)を認める場合、「急性進行性糸球体腎炎疑い」と診断する。但し、腎超音波検査を実施可能な施設では、腎皮質の萎縮がないことを確認する。なお、急性感染症の合併、慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には、1~2週間以内に血清クレアチニンを再検し、eGFRを再検査する。 2.確定診断:1)数週から数ヶ月の経過で急速に腎不全が進行する(病歴の聴取、過去の検診、その他の腎機能のデータを確認する)。3ヶ月以内に30%以上のeGFRの低下を目安とする。2)血尿(多くは顕微鏡的血尿、稀に肉眼的血尿)、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性所見を認める。3)腎生検で壊死性半月体形成性糸球体腎炎を認める。 *上記の1)と2)を認めるる場合には「急性進行性糸球体腎炎」と確定診断する。可能な限り腎生検を実施し3)を確認することが望ましい。ただし、過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は、腎超音波検査、CTなどにより両側腎の高度な萎縮がみられないことを確認し慢性腎不全との鑑別を行う。脱水の把握・補液による是正につとめ高度脱水による腎前性急性腎不全を除外する。また、腎超音波検査、CT検査などで尿路閉塞による腎後性急性腎不全を除外する。 |
主訴 |
血痰|Bloody sputum/Hemoptysis 血尿|Hematuria 高血圧|Hypertension 呼吸困難|Dyspnea 食欲不振|Anorexia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 蛋白尿|Proteinuria 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 貧血症状|Anemic symptom 乏尿|Oliguria 無尿|Anuria |
鑑別疾患 |
急性間質性腎炎 悪性高血圧症|Malignant Hypertension 強皮症腎クリーゼ コレステロール塞栓症 溶血性尿毒症症候群|Hemolytic Uremic Syndrome(HUS) ループス腎炎|Lupus Nephritis 膜性増殖性糸球体腎炎|Membranoproliferative Glomerulonephritis 血管炎症候群|Vasculitic Syndrome |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/U] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/U] Anti-Streptolysin O|抗ストレプトリジンO価/抗ストレプトリジン抗体 [/S] Calcium|カルシウム [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/U] GFR|糸球体濾過量 [/U] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Phosphate|無機リン [/S] Platelets|血小板 [/B] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/U] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] Uric Acid|尿酸 [/S] |
異常値を示す検査 |
Anti-Glomerular basement membrane Antibody|抗糸球体基底膜抗体/抗GBM抗体 [Positive/S] Casts|円柱 [/U] Ceruloplasmin|セルロプラスミン/フェロオキシダーゼ [/S] Copper|銅 [/S] Myeloperoxidase|ミエロペルオキシダーゼ抗原/MPO抗原 [/S] p-Antineutrophil Cytoplasmic Autoantibodies|抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体/核周囲型抗好中球細胞質抗体/MPO-ANCA/P-ANCA [/S] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/U] Tryptophan|トリプトファン [/P] Tyrosine|チロシン [/P] Volume [/U] β-Hexosaminidase|β-ヘキソサミニダーゼ [/U] |
関連する検査の読み方 |
【eGFR】 eGFRは日本腎臓学会が示したCKDガイドラインに記載されているGFRの算定法で、イヌリンクリアランスで求めたGFRと酵素法で測定した血清クレアチニン値から計算式で求められる。eGFRは簡便な方法であるが、スクリーニングや疫学研究を目的に作成されているので、実際の臨床の場で個々の患者を評価するためにはイヌリンクリアランスやクレアチニンクリアランスを用いることが薦められている。臨床的には糸球体濾過量の推定とCKDの病期分類に用いる。個々の患者評価:eGFR=0.719×Ccr(実測クレアチニンクリアランス。薬物投与調節:eGFR=0.719×Cin(実測イヌリンクリアランス) 【クレアチニン】 ほぼ常に高値を示す。 【尿沈渣】 血尿と赤血球円柱は常に存在し、多彩な成分からなる沈渣、すなわち「テレスコピックの沈渣」が認められる。 【CBC」 貧血が常に認められ、白血球は増加している。 【P-ANCA】 ANCAが陽性となるが90%はMPO-ANCAである。MPO-ANCAは好中球細胞質にあるα顆粒中の酵素(ミエロペルオキシダーゼ)に対する抗体で好中球の細胞質部分と反応する。この抗体は血管炎症候群の病態形成の主要因であり、血管炎症候群の診断、活動性評価に極めて有用とされている。臨床的には顕微鏡的多発血管炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、特発性半月体形成性糸球体腎炎が疑われる場合に用いる。これら疾患における陽性率は70~100%と高い。ただし、健常者でも5%程度の頻度で陽性になりうるので注意する。 【抗GMB抗体】 6~7%の患者で陽性である。抗糸球体基底膜抗体は腎糸球体基底膜に対する自己抗体で、この抗体が関与する腎炎は病理組織的には半月体形成腎炎、臨床上は急性進行性腎炎症候群の病態をとり、約50%の症例はGoodpasture症候群である。臨床的には急性進行性腎炎症候群の疑いがあれば、この抗体と抗好中球細胞質抗体を同時に測定し、抗好中球細胞質抗体関連腎炎と鑑別する。確定診断には腎生検が必要である。 【クレアチニンクリアランス】 低値になる。 【生検】 早期の腎生検は必須である。HE染色と免疫蛍光染色を行う。 |
検体検査以外の検査計画 | 超音波検査、CT検査、胸部X線検査 |