疾患解説
フリガナ | ハシモトビョウ |
別名 |
自己免疫性甲状腺炎 橋本甲状腺炎 橋本甲状腺腫 慢性リンパ球性甲状腺炎 |
臓器区分 | 内分泌疾患 |
英疾患名 | Hashimoto's Disease |
ICD10 | E06.3 |
疾患の概念 | 橋本病は、甲状腺の慢性自己免疫性炎症で、びまん性の甲状腺腫があり、病理組織学的に甲状腺へのリンパ球浸潤と甲状腺濾胞上皮細胞の好酸性変性や間質の線維化を認め、甲状腺自己抗体が陽性のうち1つ以上を満たすものである。甲状腺疾患中最も頻度が高く、女性で2倍多く発症し、発症率は年齢とともに上昇し、家族歴がよく見られる。また、ダウン症候群、ターナー症候群、クラインフェルター症候群などの染色体異常のある患者でも発症率の上昇が報告されている。橋本病は、アジソン病、副甲状腺機能低下症、悪性貧血、関節リウマチ、SLE、シェーグレン症候群、セリアック病、Schmidt症候群、糖尿病、甲状腺機能低下症などの自己免疫疾患を伴うことがある。 |
診断の手掛 |
初期には臨床症状は殆ど無いが、びまん性の甲状腺腫大を見たら本症を疑う。甲状腺は、平滑または結節性で堅く、弾性に富み圧痛はない。多くの患者では、病期が進むと甲状腺機能低下症による諸症状が見られるが、甲状腺機能亢進症状を呈する者もいる。 【診断基準:2013年日本甲状腺学会】 a)臨床所見:1.びまん性甲状腺腫大、但しバセドウ病など他の原因が認められないもの。 b)検査所見:1.抗甲状腺マイクロゾーム抗体陽性。2.抗サイログロブリン抗体陽性。3.細胞診でリンパ球浸潤を認める。 診断:a)およびb)の1つ以上を有するもの。 【付記】 1.他の原因が認められない原発性甲状腺機能低下症は橋本病疑いとする。 2.甲状腺機能異常も甲状腺腫大も認めないが、抗マイクロゾーム抗体および抗サイログロブリン抗体陽性の場合は、橋本病の疑いとする。 3.自己抗体陽性の甲状腺腫瘍は橋本病の疑いと腫瘍の合併と考える。 4.甲状腺超音波検査で内部エコー低下や不均一を認めるものは橋本病の可能性が高い。 |
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 易疲労感|Fatigue 頸部腫脹|Swelling of neck 甲状腺腫|Thyroid enlargement/Goiter 嗄声|Hoarseness 食欲不振|Anorexia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 耐寒能低下|Decrease in cold function 脱毛|Alopecia 皮膚乾燥|Xeroderma 浮腫|Edema/Dropsy 便秘|Constipation |
鑑別疾患 |
亜急性甲状腺炎|Subacute Thyroiditis 結節性甲状腺腫 甲状腺悪性リンパ腫 甲状腺機能低下症|Hypothyroidism 単純性甲状腺腫|Simple Goiter アジソン病/急性副腎不全|Addison's Disease/Adrenal Crisis 1型糖尿病 副甲状腺機能低下症|Hypoparathyroidism 関節リウマチ|Rheumatoid Arthritis シェーグレン症候群|Sjogren's Syndrome 全身性エリテマトーデス|Systemic Lupus Erythematosus(SLE) Schmidt症候群 |
スクリーニング検査 |
Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Calcium|カルシウム [/U] Chloride|クロール [/S] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/S] Potassium|カリウム [/S] Thyroxine (T4)|総サイロキシン/総T4/サイロキシン/チロキシン [/S, /S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S, /S] Thyroid Stimulating Hormone|甲状腺刺激ホルモン [/S] VDRL|性病研究所梅毒検査法/VDRL法 [Positive/S] γ-Globulin|γ-グロブリン [/S] |
異常値を示す検査 |
Anion Gap|アニオンギャップ [/U] Anti-Mitochondrial Antibodies|抗ミトコンドリア抗体 [/S] Antibodies against Megalin (qp330) [/S] Antibody Titer [/S] Antinuclear Antibodies|抗核抗体 [/S] Antithyroglobulin Antibodies|抗サイログロブリン抗体/サイロイドテスト [/S] Citrate|クエン酸/クエン酸塩 [/U] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S] Complement Fixation [/S] Glutamic Acid Decarboxylase Antibodies [/S] Gonadotropin, Pituitary|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] Long Acting Thyroid Stimulating Hormone|持続性甲状腺刺激物質 [/S] Neopterin|ネオプテリン [/U] Net Acid Excretion|総酸排泄量 [/U] Osmolal Gap|浸透圧ギャップ [/U] pH|尿pH [/U] Precipitins [/S] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S] T3-Uptake|トリヨードサイロニン摂取率/トリオソルブテスト/T3摂取率 [/S] Thyroxine Binding Globulin|サイロキシン結合グロブリン/チロキシン結合グロブリン [/S] 131 I Uptake|131 I摂取率/放射性ヨウ素摂取率 [/S, /S] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/S, /S] |
関連する検査の読み方 |
【T4】 病期の後期には甲状腺機能低下症を発症すると、低値になる。T4は甲状腺で合成され、コロイド状態で貯蔵され血中に分泌される。その、99.97%は甲状腺ホルモン結合蛋白に結合し0.03%が遊離T4として存在している。 【TSH】 高値になる。 【抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体】 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体は、感度99%、特異度90%で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体単独で十分に診断可能である。TPO Abは甲状腺ホルモン合成に関与している酵素(甲状腺ペルオキシダーゼ)に対する抗体で、橋本病やBasedow病などの自己免疫性甲状腺疾患で高い陽性率を示す。陽性率は橋本病では90~100%、Basedow病では75~90%とされる。ただし、健常成人の10%は陽性を示し、加齢とともに陽性率が上昇するので、この検査のみで自己免疫性甲状腺疾患と診断することは危険である。また、甲状腺自己抗体が陽性の妊婦の2/3は出産後甲状腺機能異常を生じるので注意が必要である。臨床的には橋本病、Basedow病の診断と病態把握や疾患活動性の評価に有用である。 【抗サイログロブリン抗体】 感度36%、特異度98%である。甲状腺濾胞コロイドの主要構成成分であるサイログロブリンは甲状腺ペルオキシダーゼの作用で甲状腺ホルモンを生成する。TG Abは自己免疫性甲状腺疾患で高い陽性率を示し、その診断に有用性がある。陽性率は橋本病で75~90%、Basedow病で60~80%とされている。健常成人の10%は陽性を示し、加齢とともに陽性率が上昇するので、この検査のみで自己免疫性甲状腺疾患を診断するのは危険である。また、本抗体陽性の妊婦の2/3は出産後に甲状腺機能異常を生じるので、陽性者の経過観察を慎重に行う。 【抗横紋筋抗体】 陽性になることがある。 【抗胃壁細胞抗体】 陽性になることがある。 |
検体検査以外の検査計画 | 心電図検査、甲状腺超音波検査 |