疾患解説
フリガナ | キュウセイシンキンコウソク |
別名 | 急性冠症候群 |
臓器区分 | 循環器疾患 |
英疾患名 | Acute Myocardial Infarction(AMI) |
ICD10 | I21.9 |
疾患の概念 | 急性の冠状動脈の閉塞や攣縮により、不可逆性の心筋壊死を来すことにより、多様な臨床像を呈する疾患で、多くは冠状動脈硬化症が原因である。閉塞の程度により、不安定狭心症、ST上昇心筋梗塞および心臓性突然死まで様々な病態を呈する。AMIは動脈硬化を来した冠動脈に急性血栓が形成された際に発症する。アテローム性プラークが不安定になるか、炎症を起こして破裂または分裂すると、血栓形成物質を露出し、血小板と凝固カスケードが活性化して急性血栓が形成される。小さな閉塞を作るアテロームでも、破裂すれば血栓症につながる可能性があり、50%を超える症例で、イベント発症前の狭窄の程度はは40%未満である。AMIでは主に左室が侵されるが、心筋の損傷が右室または心房に及ぶこともある。右室梗塞は通常、右冠動脈または優位な左回旋枝の閉塞で生じ、右室充満圧の上昇を特徴とし、しばしば三尖弁逆流や心拍出量の減少を伴う。下後壁梗塞では、約半数の患者で、右室機能障害が生じ、10~15%で血行動態の異常が認められる。下後壁梗塞の患者に頸静脈圧上昇と低血圧またはショックが見られる場合は、右室機能障害を考える。左室梗塞を合併した右室梗塞では、死亡リスクが有意に上昇する。前壁梗塞は下後壁梗塞に比べて広範で、予後不良の傾向がある。通常は左冠動脈、特に前下行枝の閉塞によるもので、下後壁梗塞は右冠動脈または優位な左回旋枝の閉塞を反映する。非ST上昇型心筋梗塞は、急性のST上昇やQ波を伴わない心筋壊死で、トロポニンIまたはトロポニンTとCKが上昇する。ST低下、T波逆転、またはその両方の心電図変化を見ることがある。ST上型昇心筋梗塞は、心電図変化としてニトログリセリンで速やかに解消されないST上昇、または新たな左脚ブロックを伴う心筋壊死で、Q波が現れることがある。心筋マーカーはトロポニンI、トロポニンTとCKが上昇する。 |
診断の手掛 | 30歳を超える男性、40歳を超える女性が急激に発症する呼吸困難、悪心、嘔吐、発汗、胸痛や胸部不快感を訴えたら本症を疑う。発症は覚醒後数時間の朝に多い。AMIの最初の症状は、疼痛または圧迫感として表現される胸骨下深部の内臓痛で、しばしば背部、下顎、左腕、右腕、肩、またはこれら全ての領域に放散する。疼痛は狭心症と類似するが、より重度で長時間持続し、しばしば呼吸困難、発汗、悪心、嘔吐を伴い、安静やニトログリセリンで殆ど軽快しない。しかし、不快感が軽度のこともあり、AMIの約20%は無症候性で、この傾向は糖尿病患者でより多く見られる。しばしば患者自身で不快感を消化不良と解釈することがあるが、これは自然な軽快がげっぷや制酸薬の服用によるものと誤解するためである。女性では非典型的な胸部不快感を呈する可能性が高く、高齢患者では虚血性胸痛よりも呼吸困難を訴えることが多い。右室梗塞は、右室充満圧の上昇、クスマウル徴候を伴う頸静脈怒張、低血圧などが認められる。 |
主訴 |
意識障害|Memory impaiment 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 胸痛|Chest pain 胸部不快感|Cest discomfort クスマウル徴候|Kussmaul sign 血圧低下|Blood pressure decreased 胸部絞扼感|Zonesthesia of chest 呼吸困難|Dyspnea 失神|Syncope ショック|Shock 動悸|Palpitations 発汗異常|Dyshidrosis/Paridrosis 頻脈|Tachycardia 不安|Anxiety 冷汗|Cold sweat |
鑑別疾患 |
急性心膜炎|Acute Pericarditis 労作狭心症 胸部外傷 胸部大動脈解離 筋挫傷 血管炎症候群|Vasculitic Syndrome 血栓症 高血圧症|Hypertension 高コレステロール血症|Hypercholesterolemia 高トリグリセリド血症 高尿酸血症 十二指腸潰瘍 消化性潰瘍|Peptic Ulcer 食道炎|Esophagitis 食道痙攣 食道裂孔ヘルニア ショック|Shock 心不全|Heart Failure ストレス 僧帽弁逸脱症 代謝性アシドーシス|Metabolic Acidosis 大動脈弁狭窄症 大動脈瘤破裂 たこつぼ型心筋症 胆嚢疾患 糖尿病|Diabetes Mellitus 動脈硬化症|Arteriosclerosis 肺塞栓症|Pulmonary Embolism(PE) 急性心筋炎|Acute Myocarditis 肥大型心筋症|Hypertrophic Cardiomyopathy(HCM) 拡張型心筋症 胸膜炎 緊張性気胸 肺炎|Pneumonia 急性腹症 くも膜下出血|Subarachnoid Hemorrhage |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S, /S, /U] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Basophils|好塩基球 [/B] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Cholinesterase|コリンエステラーゼ/ブチルコリンエステラーゼ/偽コリンエステラーゼ [/S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Ferritin|フェリチン [/Monocytes, /S] Fibrinogen|フィブリノゲン/凝固第I因子 [/P] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S, /U] HDL-Cholesterol|HDL-コレステロール/高比重リポ蛋白コレステロール [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B, /B] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S] Iron|鉄/血清鉄 [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] LDL-Cholesterol|LDL-コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Magnesium|マグネシウム [/S] MCHC|平均赤血球ヘモグロビン濃度 [/B] Neutrophils|好中球 [/B] Potassium|カリウム [/CSF] PSA|前立腺特異抗原 [/S] Rheumatoid Factor|リウマチ因子測定/RAゼラチン凝集反応/リウマチ因子定量 [/S] Sodium|ナトリウム [/S] Transferrin|トランスフェリン [/S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] Uric Acid|尿酸 [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
17-Hydroxycorticosteroids|17-ヒドロキシコルチコステロイド [/U] Adrenomedullin|アドレノメデュリン [/P] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Aldosterone|アルドステロン [/P] Amino-terminal Propeptide of Type III Procollagen [/S] Amyloid A Protein|血清アミロイドA蛋白/アポSAA/アミロイドA蛋白 [/S] Anti-Chlamydia pneumoniae Antibodies|クラミジア・ニューモニエ抗体/抗クラミジア・ニューモニエ抗体 [/S] Anti-Heart Mitochondrial Antibodies [/S] Antithrombin III|アンチトロンビンIII/アンチトロンビン [/P, /P] Apolipoprotein A-I|アポリポ蛋白A-I [/S] Apolipoprotein A-I:Apolipoprotein B Ratio [/S] Apolipoprotein A-II|アポリポ蛋白A-II [/S] Apolipoprotein B|アポリポ蛋白B [/S] Apolipoproteins|アポリポ蛋白 [/S, /S] Arginine Vasopressin|アルギニンバゾプレッシン/抗利尿ホルモン/バゾプレシン [/P] Atrial Natriuretic Peptide|心房性Na利尿ペプチド [/P, /S] Brain Natriuretic Peptide|脳性Na利尿ペプチド [/P] C1-Esterase Inhibitor|C1インアクチベーター活性/C1エステラーゼインヒビター/C1インヒビター [/S] Cardiac Antibody|抗心筋抗体 [/S] Catecholamines|カテコールアミン総 [/P, /U] Cholesterol Esters|エステル型コレステロール/コレステロールエステル [/S] Copper|銅 [/S, /S] Cortisol|コルチゾール [/P] Creatine Kinase Isoenzyme|CKアイソザイム/CPKアイソザイム [/S] Creatine Kinase MB-Isoenzyme|CK-MB [/S] Cytomegalovirus Antibodies|サイトメガロウイルス抗体/抗サイトメガロウイルス抗体 [/S] D-Dimer|Dダイマー/フィブリン分解産物Dダイマー [/P] Dehydroepiandrosterone Sulfate|デヒドロエピアンドロステロンサルフェート [/P] Endothelial Cell Adhesion Molecule-1 [/Platelets] Endothelin|エンドセリン [/P] Endothelin-1|エンドセリン [/P] Epinephrine|カテコールアミン総 [/P, /P, /U] Estrogens|総エストロゲン(非妊婦)/エストロゲン(非妊婦) [/P] Factor IV|第IV因子活性/フリーCaイオン [/P] Factor VII Coagulant|第VII因子活性/安定因子/プロコンバーチン [/P] Factor XIII|第XIII因子活性/フィブリン安定化因子 [/P] Fatty Acid-binding Protein [/S] Fatty Acid-binding Protein, Cytoplasmic Heart Type [/S] Free Fatty Acids|遊離脂肪酸/非エステル型脂肪酸/FFA [/S] Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [/P] Fibrinopeptide A|フィブリノペプタイドA [/P] Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S] Glycogen Phosphorylase BB Isoenzyme [/S] Haptoglobin|ハプトグロビン [/S] HBD|ヒドロキシ酪酸脱水素酵素 [/S] Helicobacter pylori Antibodies|ヘリコバクター・ピロリ抗体/抗ヘリコバクター・ピロリ抗体 [/S] Hemagglutination Inhibition [/S] H-FABP|ヒト心臓型脂肪酸結合蛋白 [/S] Homocysteine|ホモシステイン/ホモシスチン/総ホモシステイン [/P] Hypoxanthine|ヒポキサンチン [/S] Immunoglobulin E|免疫グロブリンE/非特異的IgE/レアギン抗体 [/S] Insulin-like Growth Factor Binding Protein-1 [/S] Insulin-like Growth Factor Binding Protein-3|インスリン様成長因子結合蛋白-3型/IGF結合蛋白-3 [/S] Insulin-like Growth Factor-I, Free [/S] Insulin-like Growth Factor-I|インスリン様成長因子-1/ソマトメジンC [/S] Interleukin-1 Receptor Antagonist [/S] Interleukin-1β|インターロイキン-1β [/S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Interleukin-8|インターロイキン-8 [/S] Kallikrein-like Activity [/P] Kininogen [/P] Lactate|乳酸/ラクテート [/B] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-1|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lipoprotein Lp (a)|リポ蛋白(a)/リポプロテイン(a) [/S, /S] Low Density Lipoprotein|低密度リポ蛋白質 [/S] Low Density Lipoprotein-3 [/S] Lysophosphatidylcholine|リゾレシチン [/S, /S] Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/S] Manganese Superoxide Dismutase [/S] Mean Platelet Volume|平均血小板容積 [/Platelets] Myoglobin|ミオグロビン [/S, /U] Myoglobin:Fatty Acid-binding Protein Ratio [/S] Myosin Light Chain I|ミオシン軽鎖I/心室筋ミオシン軽鎖I [/S] Neopterin|ネオプテリン [/U] Neuropeptide Y|ニューロペプチドY [/P] Nickel|ニッケル [/S, /S] Norepinephrine|カテコールアミン総 [/P, /U] Osteocalcin|オステオカルシン [/S] Oxidase [/P] Oxygen Partial Pressure|動脈血O2分圧/酸素分圧/O2分圧/PO2 [/B] Oxygen Saturation|酸素飽和度/O2飽和度 [/B] P-Selectin|P-セレクチン [/S] pH|尿pH [/B, /CSF] Phosphoglycerate Mutase [/P] Phospholipase A|ホスホリパーゼA [/S] Phospholipase A2 [/S] Phospholipids|リン脂質 [/S] Platelet Aggregation|血小板凝集能 [/B] Platelet-derived Growth Factor|血小板由来成長因子/血小板由来増殖因子 [/P] Pro-Atrial Natriuretic Peptide (1-98) [/S] Prothrombin Fragment 1,2|プロトロンビンフラグメント1+2 [/P] Pyridoxal Phosphate|ビタミンB6/ピリドキサールリン酸 [/S] Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [/P] Retinol-binding Protein|レチノール結合蛋白 [/U] S-100ao Protein [/S] Serine|セリン [/S] Sex-Hormone Binding Globulin|性ホルモン結合グロブリン [/S] Soluble E-Selectin|可溶性E-セレクチン/可溶性CD62E/可溶性ELAM-1 [/S] Soluble Intercellular Adhesion Molecule-1|可溶性ICAM-1/可溶性CD54/細胞接着分子-1 [/S] Soluble P-Selectin|可溶性P-セレクチン/可溶性CD62P/可溶性GMP-140 [/S] Soluble Tumor Necrosis Factor Receptor-I|可溶性腫瘍壊死因子レセプター-I [/S] Soluble Vascular Cell Adhesion Molecule-1|可溶性VCAM-1/可溶性CD106/可溶性血管細胞接着分子-1 [/S] Testosterone|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/S] Testosterone, Free|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/S] Tetranectin [/S] Thrombin Antithrombin III Complex|トロンビン・アンチトロンビンIII複合体/トロンビン・アンチトロンビン複合体/TATテスト [/P] Thromboxane A2|トロンボキサンA2 [/P] Tissue Plasminogen Activator:Plasminogen Activator Inhibitor-1 Antigen Ratio [/P] Troponin I|心筋トロポニンI/トロポニンI [/S] Troponin T|心筋トロポニンT/トロポニンT [/S] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] Vascular Endothelial Growth Factor|血管内皮増殖因子 [/S] Vasoactive Intestinal Polypeptide|バゾアクティブ腸管ペプチド/血管作動性腸管ポリペプチド [/S] Viscosity|血液粘稠度/血液流体特性検査/血液流体変動能検査 [/S] Volume [/P, /P] von Willebrand Factor|フォンウィルブランド因子活性/リストセチン・コファクター活性 [/P] Zinc|亜鉛 [/S, /RBC] Zinc, Unexchangeable [/S] α-Lipoproteins|α-リポ蛋白質 [/S] α1-Acid Glycoprotein|α1-酸性糖蛋白/オロソムコイド/α1アシドグリコプロテイン [/S] α1-Antichymotrypsin|α1-アンチキモトリプシン [/S] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/S] β-Endorphin|β-エンドルフィン [/WBC] β-Hexosaminidase|β-ヘキソサミニダーゼ [/S] β-Thromboglobulin|β-トロンボグロブリン [/P] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 白血球は殆どの症例で12,000~20,000/μLに増加し、好中球が70~80%を占める。 【ESR】 2~3病日で亢進し始め、4~5日でピーク、2~6ヶ月持続。亢進の程度は重症度や予後と関連はない。 【AST】 発病後6~8時間以内に上昇開始し、24時間までにピーク、基準範囲の5倍程度増加。増加が7日以上遷延する場合は予後不良。 【CK】 連続測定で初期梗塞の診断感度は98%。3~6時間で増加、24~36時間でピーク、最大で基準範囲の6~12倍である。CKは筋肉注射でも基準範囲の2~3倍上昇することがあるので注意する。 【CK-MBアイソザイム】 連続測定は発症24時間以内の診断の標準検査で特異度が高い。4~8時間で増加、15~24時間でピーク、最大で基準範囲の16倍程度である。CK-MBは主として心筋と骨格筋に多く含まれ、これら筋肉の障害時に血中に流出する。臨床的には急性心筋梗塞の発症後4~6時間で血中に増加し始め、18~24時間で最高値に達し梗塞の進展がなければ72時間後には減少し始め、1週間程度で元の値に戻る。臨床的には発症後速やかに上昇するので、急性心筋梗塞の診断と経過観察に有用である。ただし、発症4時間以内の陽性率は20%程度であるので、H-FABPやトロポニン-Tに比べやや劣るといわれている。 【LD】 発病後10~12時間で上昇開始し、48~72時間でピーク、10~14日間は異常値が持続するので発症後診断に有用である。アイソザイムはLD1:2比が1以上の「跳ね上がり」現象が発症48時間以内の80%の患者に認められる。 【ヒドロキシ酪酸脱水素酵素】 HBDはLD1に類似している酵素で、脳、心筋、腎や赤血球に含まれている。急性心筋梗塞では梗塞8~10時間で血中に出現し、48~96時間でピークとなり、16~18日後も異常値を示す。 【ミオグロビン】 85%以上の患者で発症後2~6時間以内に上昇、8~12時間でピーク、基準範囲の10倍程度、CK-MBより2~5時間早く増加するが、尿から排泄されるため24時間以内に基準範囲に戻る。 【アルドラーゼ】 30IU/L以上に増加する。循環不全を伴うとより高値になる。A型アイソザイムが優位である。ALDは嫌気性解糖系酵素の一つで、A、B、Cの3種のアイソザイムがあり、A型は骨格筋、心筋、脳、赤血球に、B型は肝、腎に、またC型は脳に分布している。血中の半減期は4時間と短いので組織障害を良く反映するとされている。血中の活性増加はこれら組織の代謝障害、壊死・変性、膜透過性亢進、血液中での処理障害の際に見られる。臨床的にはCKと併用することで、筋疾患の早期発見に有用である。 【トロポニンI】 発病後6~8時間の感度と特異性はCK-MB以上。5~9日間値が低下しないことがある。トロポニンは心筋の構成成分の一つでトロポニンI、T、Cの3種がある。cTnIはトロポニンCと結合して血中に存在する。臨床的には急性心筋梗塞の急性期から発症後2週程度まで高値であること、微小な梗塞でも血中濃度が上がることから心筋の損傷を疑う場合に測定する。異常値を認めたらミオグロビン、CK-MMアイソザイム、CK-MB、LD1、ミオシン軽鎖を測定する。 【トロポニンT】 発症後48時間以内と5~7日までの間の感度はCK-MBと同程度。発病~4時間は感度が低い。cTnTは骨格筋のトロポニンのアイソフォームで心筋梗塞だけでなくDuchenne型筋ジストロフィーでも血中に出現する。cTnTもcTnIも臨床的有用性はほぼ同じであるが、cTnIは心筋以外の筋疾患で出現しないので、急性心筋梗塞の際はIを測定する。 【脳性Na利尿ペプチド】 100pg/mL以上に著しく増加する。BNPは心室から分泌されるホルモンで、強力な水・Na利尿作用、血管弛緩作用、交感神経系とレニン・アンジオテンシン系の抑制作用、心不全の病態改善作用などがある。健常者の血中濃度は極めて低値であるが、心筋虚血、心筋肥大や心負荷により産生量が増え血中濃度は高値となる。臨床的には心室負荷を表す指標として有用であり、心不全特に慢性心不全の重症度評価、治療効果判定や経過観察に用いる。臨床的にはANPと同時に測定されるが、重症心不全ではANP濃度をはるかに超えて上昇する。このため心不全の指標としてはANPよりも優れている。 【ハプトグロビン】 増加する。遺伝子型はHp2-2である。 【ヒト心臓型脂肪酸結合蛋白】 12μg/L以上である。H-FABPは心筋細胞内の遊離脂肪酸の輸送に関与している低分子蛋白で、心筋が障害を受けると0.5~3時間で血中に現れ5~10時間でピークに達する。また、疾患特異性が高く、血中濃度と心筋の梗塞量が相関することから臨床的には心筋障害の迅速診断、梗塞量の評価、不安定狭心症の予後推定に用いる。異常値を見た場合はCK-MM、CK-MB、LD1、ミオグロビン、ミオシン軽鎖Iを測定する。 【抗心筋抗体】 陽性である。AMAは心筋各成分に対する自己抗体の総称で心筋特異的α-ミオシン、ミトコンドリア酵素群、筋細胞膜などに対する抗体を含んでいる。臨床的には特発性心筋症、リウマチ熱、膠原病の心合併症などで測定する。ただし、本検査は健常者でも8~20%で陽性となる可能性があるが、健常者の抗体はIgM型で心筋疾患のIgG型と異なる。 【耐糖能】 低下し、尿糖や高血糖が50%の患者に認められる。 |
検体検査以外の検査計画 | 胸部X線検査、心電図検査、心筋シンチグラフィー、心超音波検査、循環動態検査、冠動脈血管造影検査、右心カテーテル検査 |