疾患解説
フリガナ | α1アンチトリプシンケッソンショウ |
別名 | |
臓器区分 | 呼吸器疾患 |
英疾患名 | α1-Antitrypsin Deficiency |
ICD10 | E88.0 |
疾患の概念 | α1-アンチトリプシンは、肺の主要な抗蛋白分解酵素であり、その先天的欠損が原因の常染色体劣性遺伝性疾患で、関連遺伝子は14番染色体にある。α1-ATの欠損により、異常なα1-ATが、肝細胞の小胞体に蓄積する。臨床的に問題となる欠損レベルは、11μmol/L以下で、この酵素の不足は慢性気管支炎、気管支拡張症の早期発症、重症の肺気腫と関連している。また、α1-アンチトリプシンの肝への蓄積は、肝硬変を引き起こす。表現型がPiZZの患者の10~15%は、20歳までに慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌を発症する可能性がある。 |
診断の手掛 |
45歳前後で、肺気腫を発症する喫煙者、肺下部に肺気腫が見られる患者、肺気腫または原因不明の肝硬変の家族歴がある患者や、原因不明のあらゆる肝疾患を有する患者を診たら本症を疑う。ただし、同一患者に有意な肝疾患と肺疾患が両方発症することは稀である。 【診断基準:2015年厚労省】 A.症状:1.労作時息切れ 2.喫煙の影響を、その発症要因からほぼ外すことが可能であり、55歳未満で発症・診断 B.検査所見:1.気管支拡張薬吸入後でもFEV₁/FVC<70% 2.胸部画像所見:閉塞性換気障害の発症に関与すると推定される気腫病変、気道病変 3.血清α1-アンチトリプシン濃度:AATDはα1-アンチトリプシン濃度<90mg/dLと定義され、軽症(AAT 50~90mg/dL)、重症(AAT<50mg/dL)の二つに分類される。 C.鑑別診断:COPD、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎、閉塞性細気管支炎、肺結核後遺症、塵肺症、リンパ脈管筋腫症、ランゲルハンス細胞組織球症 D.遺伝学的検査:1.α1-Pi(SERPINA1)遺伝子 2.閉塞性換気障害の発症に関与しているとされる遺伝子変異 診断:Definite:A-1、2+B-1、2、3を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外しえたものであり、B-3の血清α1アンチトリプシン<50mg/dL Probable:A-1、2+B-1、2、3を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外しえたものであり、B-3のATT 50~90mg/dL Possible:A-1、2+B-1、2、3を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外しえたもの |
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 気道感染|Airway infection 呼吸困難|Dyspnea 食欲不振|Anorexia 頭痛|Headache/Cephalalgia 咳|Cough 喘鳴|Wheeze/Stridor 痰|Sputum 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever |
鑑別疾患 |
ウィルソン病/肝レンズ核変性症|Wilson's disease/Hepatolenticular Degeneration ヘモクロマトーシス|Hemochromatosis 新生児呼吸窮迫症候群 劇症肝炎|Fulminant Hepatitis 蛋白漏出性胃腸症 低栄養 慢性閉塞性肺疾患|Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD) |
スクリーニング検査 |
Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Calcium|カルシウム [/S] Chloride|クロール [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S, /S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B, /B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B, /B] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Platelets|血小板 [/B] Potassium|カリウム [/S] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] α1-Globulin|α1-グロブリン [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
Apolipoprotein A-I|アポリポ蛋白A-I [/S] Apolipoprotein A-II|アポリポ蛋白A-II [/S] Apolipoprotein B|アポリポ蛋白B [/S] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S] Bile Acids|総胆汁酸 [/F, /S, /U] Chenodeoxycholic Acid|ケノデオキシコール酸 [/S] Cholesterol Esters|エステル型コレステロール/コレステロールエステル [/S] Cholic Acid [/S] Euglobulin Lysis Time|ユーグロブリン溶解時間 [/B] Hyaluronic Acid|ヒアルロン酸 [/S] Lipoprotein X|リポ蛋白X定性/リポプロテインX [/S] Lipoproteins|リポ蛋白脂質分画 [/S] Neopterin|ネオプテリン [/S] Protein Fractionation|蛋白分画/血清蛋白電気泳動/セア膜電気泳動/血清蛋白分画検査 [/α1 Globulin] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/S] α2-Macroglobulin|α2-マクログロブリン [/S] |
関連する検査の読み方 |
【蛋白分画】 α1グロブリンは欠損または1.5%以下になる。 【α1-アンチトリプシン】 α1-ATはα1グロブリン分画に属する膵酵素トリプシンの阻害物質で、α1-アンチキモトリプシンと同じ機序で産生され、感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患、組織壊死などで測定される。欠損症では血中濃度は低下するが、細胞内に異常蓄積が見られ、若年性肺気腫や小児肝硬変の原因となることもある。蛋白分画で本症を疑い、α1-ATが80mg/dL未満又は基準値の10~15%であれば診断は確定する。この検査は次のような患者には積極的に測定する必要がある。1.45歳以前に肺気腫を発症する喫煙者 2.職業曝露がなく、肺気腫を発症する非喫煙者(発症年齢は問わない)3.胸部X線で主に下肺に肺気腫がみられる患者 4.肺気腫または説明のつかない肝硬変の家族歴を有する患者 5.脂肪織炎のある患者6.黄疸または肝酵素上昇のある新生児 7.説明のつかない気管支拡張症または肝疾患のある患者 【遺伝子】 α1-ATが低値であれば遺伝子型を調べる。対立遺伝子は表現型(PiSS,PiSZ,PiZZ)である。PiZZの患者の10%は、20歳までに慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌が発症する可能性がある。 【肝生検】 門脈域周辺の肝細胞にPAS染色陽性、ジアスターゼ抵抗性の顆粒を認める。 |
検体検査以外の検査計画 | 呼吸機能検査、胸部X線検査、胸部CT検査 |