疾患解説
フリガナ | テツケツボウセイヒンケツ |
別名 | 萎黄病 |
臓器区分 | 血液・造血器疾患 |
英疾患名 | Iron Deficiency Anemia |
ICD10 | D50.9 |
疾患の概念 | 骨髄中に鉄の貯蔵が無くなることにより、ヘモグロビン合成が低下して発症する貧血で、貧血の中で最も頻度が高い。小球性低色素性貧血、トランスフェリン高値、フェリチン低値(12μg/L以下)、血清鉄低値、総鉄結合能高値が特徴である。成人女性の約20%、男性の2%に発症する。女性は思春期、妊娠、出産、育児期に多い。鉄欠乏は段階的に起こり、最初は、鉄所要量が摂取量を上回るために骨髄の貯蔵鉄量が欠乏する。さらに進むと、鉄欠乏症により赤血球の合成が妨げられ、最終的に貧血を引き起こす。鉄欠乏症の原因は、殆どの場合が失血で、男性では慢性の消化管からの出血が最も多い。閉経前の女性では、月経による累積失血(平均で鉄0.5mg/日)が一般的な原因である。妊娠中は、胎児の鉄需要によって平均0.5~0.8mg/日母体の鉄所要量が増加する。また、授乳は平均0.4mg/日鉄所要量を増加させる。ビタミンC欠乏症は、毛細血管脆弱化、溶血および出血を引き起こすことで、鉄欠乏性貧血の一因となることがある。 |
診断の手掛 | 初期は通常の貧血症状だが、血液検査により診断は容易である。重症になると舌炎、口角症、匙状爪が認められる。赤血球産生低下による小球性貧血を見たら、鉄欠乏、鉄輸送障害、鉄芽球性鉄利用障害、鉄再利用障害を念頭に置き検査を進める。臨床的には段階1:ヘモグロビン、血清鉄は基準範囲内、フェリチンは20ng/mL未満に低下、鉄結合能は増加。段階2:鉄結合能は増加、血清鉄は50μg/dL未満に減少、トランスフェリン飽和度が16%未満になり赤血球産生が障害される。段階3:正常な赤血球形態及び正常な赤血球指数を伴った貧血が起こる。段階4:小球性低色素性貧血が発症する。段階5:鉄欠乏が組織に影響し舌炎、口角症、匙状爪、食道ウェブによる嚥下困難(プラマー-ビンソン症候群)などがみられる。 |
主訴 |
易疲労感|Fatigue 嚥下障害|Dysphagia 結膜蒼白|Conjunctival pallor 月経過多|Menorragia 匙状爪|Spoon nail 失神|Syncope 食欲不振|Anorexia 頭痛|Headache/Cephalalgia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 立ちくらみ|Faintness 低血圧|Hypotension/Hypotonia 動悸|Palpitations 貧血症状|Anemic symptom 頻呼吸|Tachypnea 頻脈|Tachycardia 浮腫|Edema/Dropsy 耳鳴り|Tinnitus めまい|Dizziness 労作時息切れ|Dyspnea on exertion |
鑑別疾患 |
悪性腫瘍 潰瘍性大腸炎|Ulcerative Colitis 関節リウマチ|Rheumatoid Arthritis クローン病|Crohn's Disease 慢性感染症 子宮筋腫 機能性ディスペプシア 胃切除後症候群|Postgastrectomy Syndrome 本態性血小板血症|Essential Thrombocythemia(ET) 鉛中毒|Toxic Effects of Lead and Its Compounds サラセミア|Thalassemia 慢性腎不全|Chronic Renal Failure |
スクリーニング検査 |
Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/B, /B] Ferritin|フェリチン [/Bone Marrow, /S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Hemoglobin A1c|グリコヘモグロビン/糖化ヘモグロビン/ヘモグロビンA1c/HbA1c [/B] Iron|鉄/血清鉄 [/Bone Marrow, /Liver, /S] Leukocytes|白血球数 [/B] MCH|平均赤血球ヘモグロビン量 [/B] MCHC|平均赤血球ヘモグロビン濃度 [/B] MCV|平均赤血球容積 [/B] Neutrophils|好中球 [/B] Platelets|血小板 [/B, /B] TIBC|総鉄結合能 [/S, /S] Transferrin|トランスフェリン [/S] |
異常値を示す検査 |
2,3-Diphosphoglycerate|2,3-ジホスホグリセレート/2,3-ジホスホグリセリン/2,3-ビスホスホグリセリン酸 [/RBC] Anisocytes|赤血球大小不同 [/B] Atrial Natriuretic Peptide|心房性Na利尿ペプチド [/P] Catalase|カタラーゼ [/RBC] Cells [/Bone Marrow] Chylomicrons [/S] Copper|銅 [/S] Erythrocyte Survival|赤血球寿命 [/RBC] Ferritin Iron|フェリチン [/S] Ferritin Protein [/S] Glutamic Acid|グルタミン酸 [/RBC] Hemoglobin A1c|グリコヘモグロビン/糖化ヘモグロビン/ヘモグロビンA1c/HbA1c [/B] Hydrochloric Acid [/Gastric Fluid] Iron Saturation|鉄飽和度 [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Mean Platelet Volume|平均血小板容積 [/Platelets] Osmotic Fragility|赤血球浸透圧抵抗試験(サンフォード法)(パルパート法)/赤血球抵抗試験/赤血球浸透圧脆弱性試験/食塩水浸透圧抵抗試験 [/RBC] Parietal Cell Antibodies|抗胃壁細胞抗体/胃壁細胞抗体 [/S] Protoporphyrin|プロトポルフィリン [/RBC] Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B, /B] Selenium|セレン/セレニウム [/S] Sideroblasts [/B] Soluble Transferrin Receptor [/S] Transferrin Saturation|トランスフェリン飽和度 [/S] Uropepsinogen [/U] Vitamin B12|ビタミンB12/コバラミン/シアノコバラミン [/S] Zinc Protoporphyrin [/RBC] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 ヘモグロビンは通常は6~10g/dLで、赤血球の減少と乖離する。MCVは低下し、80fL以下なら感度の高い指標。MCHは30pg以下に低下、MCHCは貧血が高度になるまで低下しない。白血球は基準範囲内だが10%の患者でわずかに増加する。 【血液像】 赤血球は大小不同、菲薄赤血球、楕円(細長い)赤血球を認める。 【骨髄像】 正赤芽球性過形成を示し、鉄染色では鉄は減少ないし欠如する。鉄染色が陰性であれば、確定診断となる。 【UIBC】 男性で280μg/dL、女性で310μg/dL以上に増加する。トランスフェリンの約1/3に結合している鉄を血清鉄と呼び、残り2/3の鉄に結合しうる部分が不飽和鉄結合能(UIBC)である。血清鉄(Fe)と不飽和鉄結合能の和が総鉄結合能(TIBC)でTIBC=UIBC+Feの関係が成立している。臨床的には鉄不足、鉄過剰の状態が疑われたときに、FeとUIBCを同時に測定し鉄代謝異常をきたす病態を明らかにする。 【TIBC】 男性で370μg/dL、女性で410μg/dL以上に増加する。血清中の鉄は鉄結合蛋白トランスフェリンの約1/3と結合して血清鉄(Fe)を形成しており、トランスフェリンの残り2/3 が鉄と結合可能な部分で不飽和鉄結合能(UIBC)と呼ばれている。総鉄結合能(TIBC)とは血清鉄と不飽和鉄結合能の和であり、TIBC=UIBC+Fe(μg/dL)の関係が成立している。臨床的には鉄欠乏あるいは鉄過剰を疑う場合に測定されるが、特に小球性低色素性貧血の鑑別診断に有用である。 【血清鉄】 30μg/dL未満に低下する。鉄量と鉄結合能(またはトランスフェリン値)との関係が重要なため、通常は両方とも測定する。 【トランスフェリン飽和度】 15%以下に低下する。 【フェリチン】 低下は鉄欠乏性貧血の診断で最も感度、特異度が高い所見である。30μg/L以下になれば診断は確実である。フェリチン値は全身の総貯蔵鉄量と密接に相関するので、低値(12ng/mL未満)は鉄欠乏症に特異的である。ただし、フェリチンは急性期反応物質であり、炎症性疾患および腫瘍性疾患で値が高くなるため、肝炎、急性白血病、ホジキンリンパ腫、消化管腫瘍で値が上昇することもある。 【プロトポルフィイン】 ヘム合成障害でプロトポルフィリンが赤血球に蓄積し、100μg/dLを超えることもある。ポルフィリンはヘムの前駆物質で、主として肝と造血細胞でグリシン+サクシニルCo→δ-アミノレブリン酸(ALA)→ポルフォビリノゲン(PBG)→ウロポルフィリン(UP)→コプロポルフィリン(CP)→プロトポルフィリン(PP)→ヘムの順に合成される。このうちALAとPBGを前駆物質、UP、CP、PPを合わせてポルフィリン体と呼んでいる。このうちUPは尿中に、CPは尿と胆汁中に、PPは胆汁中に排泄される。ヘム合成経路に障害があると、ALA、UP、CP、PPがさまざまな組み合わせで尿中に排泄される。 【経口鉄剤治療の反応】 網赤血球:3~7日以内に増加し、5~10日がピークで8~10%になる。最初の7~10日間にヘモグロビン増加(平均0.25~0.4g/dL/日)、ヘマトクリットは平均1%/日増加。 【鉄欠乏症のステージ分類】 ステージ1:骨髄貯蔵鉄の減少が特徴で、ヘモグロビンと血清鉄は基準範囲内であるが、血清フェリチン濃度は20ng/mL未満に低下する。鉄吸収の代償性増加により鉄結合能(トランスフェリン値)が増加する。 ステージ2:赤血球産生が障害され、トランスフェリン値は上昇するが、血清鉄は低下し、トランスフェリン飽和度も低下する。血清鉄が50μg/dL(9μmol/L)未満に低下し、トランスフェリン飽和度が16%未満になると、赤血球産生が障害される。 ステージ3:赤血球形態および赤血球指数が正常な貧血が生じる。 ステージ5:鉄欠乏症により組織が影響を受け症状および徴候が出現する。 ステージ4:小球性、続いて低色素性がみられる。 |
検体検査以外の検査計画 | 消化管検査、婦人科的検査 |