疾患解説
フリガナ | サラセミア |
別名 |
遺伝性標的赤血球症 地中海貧血 サラセミア症候群 αサラセミア症候群 βサラセミア症候群 |
臓器区分 | 血液・造血器疾患 |
英疾患名 | Thalassemia |
ICD10 | D56.9 |
疾患の概念 | 特定のグロビン鎖合成が、選択的に抑制され、α鎖と非α鎖(β、γ、δ鎖)の産生に不均衡が生じ、結果として小球性低色素性の先天的溶血性貧血を来す疾患で、αサラセミアとβサラセミアに分けられる。βサラセミアは軽症型(サラセミアマイナー、サラセミア素因)、中間型、重症型(サラセミアメジャー、Cooley貧血)に分けられる。わが国では1,000人に1人の割合でβサラセミアが見られる。αサラセミアは頻度は低いが、我が国にも存在する。βサラセミアは、βポリペプチド鎖の産生低下により生じる常染色体遺伝で、ヘテロ接合体は保因者となり、無症状の軽度から中等度の小球性貧血を呈する軽症型サラセミアとなる。ホモ接合体は重症型βサラセミアまたはCooley貧血となり、重度の貧血と骨髄で造血が亢進する。αサラセミアは、αポリペプチド鎖の産生低下によって発症するが、α鎖合成の遺伝子制御は2対、4つの遺伝子が関係している。遺伝子欠損が1つのヘテロ接合体は臨床的に正常である。2つに欠損があるヘテロ接合体は軽度から中等度の小球性貧血を引き起こすが、無症状である。3つに欠損があると、α鎖産生障害がより重度になるため、ヘモグロビンH、乳児ではヘモグロビンBartがみられる。4つ全ての遺伝子が欠損すると、α鎖を欠いたヘモグロビンが産生され、このヘモグロビンは酸素を運ばないため胎児は子宮内で死亡する。 |
診断の手掛 | 重症型は、流死産や出生数ヶ月後から発症する無効造血、溶血性貧血、感染症などで、成人に達するまでに死亡することが多い。軽症型は軽度~中等度の低色素性貧血を認めるだけで臨床症状は軽い。妊娠や感染症などで貧血や溶血症状が増悪することがある。家族歴、小球性溶血性貧血と黄疸、下肢潰瘍、胆石症、脾腫を訴える患者を診たら本症を疑う。脾腫のみが唯一の所見である場合もあるので注意する。 |
主訴 |
黄疸|Jaundice 肝腫大|Hepatomegaly 骨折|Fracture サラセミア顔貌|Thalassemia face 色素沈着|Pigmentation/Chromatosis 精神発達遅滞|Mental retardation 成長障害|Growth disorder 粘膜蒼白|Pallor of mucosa 脾腫|Splenomegaly 皮膚蒼白|Paling of skin 貧血症状|Anemic symptom 病的骨折|Pathological fracture |
鑑別疾患 |
鉄欠乏性貧血|Iron Deficiency Anemia 鉄芽球性貧血|Sideroblastic Anemia 無トランスフェリン血症 続発性貧血 悪性腫瘍 慢性感染症 関節リウマチ|Rheumatoid Arthritis 胆石症|Cholecystolithiasis |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S, /CSF] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S, /S] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Amylase|アミラーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/B, /B] Ferritin|フェリチン [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B, /P] Iron|鉄/血清鉄 [/Bone Marrow, /Liver, /S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B, /B] Lymphocytes|リンパ球 [/B] MCH|平均赤血球ヘモグロビン量 [/B] MCHC|平均赤血球ヘモグロビン濃度 [/B] MCV|平均赤血球容積 [/B] Monocytes|単球 [/B] Phosphate|無機リン [/S, /U] Platelets|血小板 [/B, /B] TIBC|総鉄結合能 [/S] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] |
異常値を示す検査 |
Activated T Lymphocytes [/B] Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S] Adenosine Diphosphate|アデノシンジホスフェート/アデノシン二リン酸 [/RBC] Adenosine Triphosphate|アデノシントリホスフェート/アデノシン三リン酸 [/RBC] Alanine|アラニン [/P] Alkaline Phosphatase Band-10 Isoenzyme [/S] Amino Acids|アミノ酸分析/アミノ酸41分画 [/U] Amylase, Pancreatic Isoenzyme|膵アミラーゼ/膵型アミラーゼ [/S] Amylase, Salivary Isoenzyme [/S] Anisocytes|赤血球大小不同 [/B] Cells [/Bone Marrow] Copper|銅 [/S] Erythrocyte Survival|赤血球寿命 [/RBC] Erythropoietin|エリスロポエチン [/S] Folate|葉酸/プテロイルモノグルタミル酸/ビタミンM/乳酸菌発育因子 [/S] Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S] Gonadotropin, Pituitary|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] Haptoglobin|ハプトグロビン [/S] Hemoglobin A2|ヘモグロビンA2 [/B] Hemoglobin F|ヘモグロビンF/胎児性ヘモグロビン/胎性ヘモグロビン [/B] Interleukin-8|インターロイキン-8 [/S] Iron Saturation|鉄飽和度 [/S] Lipids|総脂質 [/RBC] Lipoproteins, Pre-β [/S] Osmotic Fragility|赤血球浸透圧抵抗試験(サンフォード法)(パルパート法)/赤血球抵抗試験/赤血球浸透圧脆弱性試験/食塩水浸透圧抵抗試験 [/RBC] Poikilocytes|赤血球大小不同 [/B] Protoporphyrin|プロトポルフィリン [/RBC] Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B] Soluble Intercellular Adhesion Molecule-1|可溶性ICAM-1/可溶性CD54/細胞接着分子-1 [/S] Soluble Transferrin Receptor [/S] Target Cells|標的赤血球 [/B] Transferrin Saturation|トランスフェリン飽和度 [/S] Urobilinogen|ウロビリノゲン定性(尿) [/U] Zinc|亜鉛 [/S] Zinc Protoporphyrin [/RBC] Zinc Protoporphyrin:Heme Ratio [/B] β-Aminobutyric Acid [/P, /P] δ-Aminolevulinic Acid|δ-アミノレブリン酸(尿)/5-アミノレブリン酸 [/U] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 重症型βサラセミアは、ヘモグロビンは6g/dL以下になることが多い。赤血球が極めて小球性になるので、赤血球数はヘモグロビンと比べて相対的に上昇する 【血液像】 血液塗抹標本でほぼ診断可能であり、小球性低色素性赤血球とともに、変形赤血球、有核赤血球、標的赤血球がみられる。鉄染色で鉄芽球を認める。 【骨髄像】 著明な赤血球過形成がみられる。 【血清鉄】 骨髄、肝、血清で増加するが基準範囲内を示す事もある。 【赤血球浸透圧抵抗試験】 抵抗が増大する。 【ヘモグロビン電気泳動】 確定診断に用いる。HbA2とHbFの割合が増加していれば、βサラセミアと診断できる。重症型βサラセミアは、ヘモグロビンFが増加し、ときに90%に達することもある。また、ヘモグロビンA2も3%を超える増加を示す。αサラセミアは、ヘモグロビンFとヘモグロビンA2の割合が概ね正常である。α鎖遺伝子単欠損の潜在保因者では電気泳動像は正常である。ヘモグロビンH症は、電気泳動でヘモグロビンHまたはヘモグロビンBart分画を証明することにより診断可能である。 【αサラセミア形質】 ヘマトクリットが28~40%の間の軽度の貧血を示す。MCVは軽度の貧血にもかかわらず60~75fLと著明に低くなる。末梢血塗抹標本では小赤血球、標的細胞、有棘赤血球が見られる。 【ヘモグロビンH病】 顕著な溶血性貧血を呈し、ヘマトクリットは22~32%、MCVは60~70fLになる。末梢血スメアは小赤血球、標的細胞、奇形赤血球が見られ、著しく異常な所見を呈する。末梢血を超生体染色すると、ヘモグロビンHの存在が見られる。診断確定はαグロビン遺伝子の解析による。 【サラセミアマイナー】 ヘマトクリットは28~40%、MCVは55~75fLで赤血球は正常化増加する。末梢血スメアは低色素、小赤血球、標的細胞が見られるが、異常は軽度である。時に好塩基性斑点が見られる。 【サラセミアメジャー】 重症貧血を生じ、ヘマトクリットは10%未満に低下する。末梢血スメアには重症の奇形赤血球、低色素、小赤血球、標的細胞、好塩基性斑点、有核赤血球が認められる。ヘモグロビン電気泳動ではヘモグロビンAは殆ど見られず、ヘモグロビンA2とFが見られる。 |
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