疾患解説
フリガナ | Bガタカンエン |
別名 | |
臓器区分 | 消化器疾患 |
英疾患名 | Hepatitis B |
ICD10 |
急性B型肝炎:B16.2 B型肝炎:B16.9 |
疾患の概念 | DNAウイルスであるヘパドナウイルスが原因ウイルスで、A~Hの8種類の遺伝子型が同定されている。感染様式は非経口的で、汚染された血液の輸血、血液透析、針刺し事故、薬物の常用、性交渉、母児感染である。30~160日の潜伏期で発症し、急性型と慢性型に分けられる。人口10万人対1500人が感染している。無症候性のキャリア状態から劇症肝炎まで幅広い肝疾患を引き起こし、高齢者では致死率が高い。母児感染は、90%以上の確率で持続感染に移行し、慢性肝炎、肝硬変、肝癌を引き起こす可能性がある。出生後の初期に感染が成立し、ウイルス増殖が持続している患者は、肝硬変や肝癌になる危険性が25~40%あると考えられ、男性はより危険性が高い。世界中の肝細胞癌の60~80%は、HBVが原因とされている。臨床像は急性肝炎、慢性肝炎、免疫寛容期、免疫的活動期、低複製キャリア状態、慢性HBe抗原陰性に分類される。1.急性肝炎:小児や若年者は自覚症状が無い潜在性のことがある。慢性への伸展は感染した年齢に影響され、成人感染の大部分は慢性化しない。2.慢性肝炎:無症状に経過し、時に数十年に及ぶことがある。末期肝障害に特有の症状で慢性肝炎が明らかになることがある。3.免疫寛容期:ウイルスの複製が非常に盛んなことが特徴である。しかし、肝酵素は正常で、炎症や線維化は軽度である。4.免疫的活動期:強い免疫応答の結果として肝酵素が上昇する。ウイルスの複製が活発で、HBV DNA、HBe抗原が高値になる。5.低複製キャリア期:HBV DNAが低濃度または検出感度以下であることが特徴で、肝酵素は正常、HBe抗原からHBe抗体へのセロコンバージョンを呈する。6.慢性HBe抗原陰性:これらの患者はHBe抗原を産生出来ないかHBV変異株を持つ。HBV DNAは高値で、しばしば高齢患者の進行例に見られる。 |
診断の手掛 | 消化器症状、発熱、感冒様症状などの非特異的な前駆症状で発症するが、時に蕁麻疹、関節痛を訴えることもある。小児や若年者では、自覚症状を認めないこともある。暗色尿に引き続き黄疸が現れると同時に、全身症状はしばしば消褪し患者は気分が良くなる。黄疸期には肝腫大と15~20%の患者に脾腫が認められる。HBVは結節性多発動脈炎、結合織疾患、膜性糸球体腎炎、本態性混合クリオグロブリン血症などとの関連が知られているが理由は不明である。 |
主訴 |
暗色尿|Dark urine 咽頭痛|Pharyngodynia 黄疸|Jaundice 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 肝腫大|Hepatomegaly 関節痛|Arthralgia 感冒様症状|Symptomes of common cold 食欲不振|Anorexia 頭痛|Headache/Cephalalgia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 着色尿|Chromaturia 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 脾腫|Splenomegaly 腹痛|Abdominal pain 右季肋部痛|Pain in the right hypochondrium/Right Hypochondralgia |
鑑別疾患 |
アルコール依存症|Alcoholism 肝硬変|Cirrhosis of Liver 肝性昏睡 高尿酸血症 そう痒症 低コレステロール血症|Hypocholesterolemia 無月経 薬物依存症 溶血性貧血 閉塞性黄疸 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Hepatitis B Surface Antigen|HBs抗原 [/S] Iron|鉄/血清鉄 [/S] Prothrombin Time|プロトロンビン時間 [/P] Rheumatoid Factor|リウマチ因子測定/RAゼラチン凝集反応/リウマチ因子定量 [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
2-5AS|2-5A合成酵素/2-5オリゴアデニレートシンターゼ [/S] 5'-Nucleotidase|5'-ヌクレオチダーゼ [/S] Acid Ribonuclease|酸性リボヌクレアーゼ [/S] Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S] Alkaline Ribonuclease|アルカリ性リボヌクレアーゼ [/S] Anti-Hepatitis B Core Antibodies|HBc抗体/抗HBc抗体 [/S] Anti-Hepatitis B Surface Antibodies|HBs抗体/抗HBs抗体 [/S] Anti-Hepatitis C Antibodies|C型肝炎ウイルス抗体/C100-3抗体/抗C型肝炎ウイルス抗体 [/S] CA 15-3|CA15-3 [/S] CD8+ Lymphocytes [/B] Hepatitis B Virus DNA|HBウイルスDNA定量/B型肝炎ウイルスDNA定量 [/S] Hepatitis B Virus Core-Related Antigen|HBVコア関連抗原 [/S] Hepatitis Be Antigen|HBe抗原 [/S] Hepatitis B Virus DNA-Polymerase|HBV関連DNAポリメラーゼ [/S] Hepatocyte Growth Factor|肝細胞増殖因子 [/S] Intercellular Adhesion Molecule-1|CD54 [/S] Interferon-α|インターフェロン-α [/S] Interferon-γ|インターフェロン-γ [/S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Neopterin|ネオプテリン [/S, /U] Procollagen Type III Peptide|プロコラーゲンIIIペプチド [/S] Tissue Inhibitor of Metalloproteinase-1|組織メタプロテアーゼインヒビター/コラゲナーゼインヒビター1 [/S] Tissue Polypeptide Antigen|組織ポリペプチド抗原 [/S] Urobilinogen|ウロビリノゲン定性(尿) [/U] |
関連する検査の読み方 |
【HBs抗原】 HBs抗原はウイルスのヌクレオカプシドの外殻を形成する蛋白で、発現は感染の最初の証拠である。生化学所見が現れる前に発現し、臨牀経過の始めから終わりまで持続する。感染が終息すると消失し、HBs抗体が出現する。5~10%の患者では,HBs抗原が持続し,抗体は産生されないため、HBs抗原が感染から6ヶ月以上持続的に検出された場合は、慢性化を考える。これらの患者は無症状のウイルスキャリアとなるか、慢性肝炎を発症する。 【HBs抗体】 HBs抗原が排除された後に出現し感染の自然終息を意味する。 【HBc抗体】【HBc-IgM抗体】【HBc-IgG抗体】 HBc抗体の存在はB型急性肝炎の持続感染を示唆し、HBs抗原は排除されたが、HBs抗体がまだ検出されない患者の血清学的ギャップを埋める。IgM型とIgG型があり、IgM型HBc抗体陽性は通常HBVの初感染を意味する。IgG型はHBV感染で最も持続する抗体で、HBs抗体が検出感度以下に低下しても血清中に存在する。 【HBe抗原】 HBs抗原検出直後の潜伏期間に現れるHBc抗原の分泌型で、活動的なウイルス増殖を意味し、ウイルス複製が活発で、感染性が高い。3ヶ月を超えて持続する場合は慢性化の可能性が高い。HBe抗原は診断よりも予後の予測に有用である。 【HBe抗体】 HBe抗原が消失し、HBe抗体が出現してくることは、急性感染の終息したか、非活動性のキャリア状態を意味する。HBe抗体が存在すれば感染性はより低いと考えてよい。 【HBウイルスDNA】 HBe抗原の存在と同義であるが、増殖と感染性に関しては感度が高く、より正確なマーカーである。HBV DNAはHBVのコア部分のHBc抗体内に存在し、測定により血清中のHBVのウイルス量(copy数)が判るため、体内でのHBV増殖の動態が推定できる。臨床的にはHBs抗原陽性者やHBc抗体陽性者のHBVウイルス量の測定、経過観察、インターフェロン療法の適応選択の評価、治療効果判定などに用いる。測定法には分岐DNAプローブ法、TMA法とPCR法の3種があるが、それぞれ定量範囲が異なるので各測定法の特性を理解したうえで選択する。 【HBV関連DNAポリメラーゼ】 HBV-DNAは二本鎖であるが、通常はその半分程度は一本鎖として存在し、増殖期や活動期に入ると二本鎖に修復される。HBV関連DNAポリメラーゼはこの修復に当たる酵素で、その活性はHBV-DNAの量を反映し、増殖力や感染力の指標となる。臨床的にはHBVの活動性の評価に使われ、HB肝炎の治療法の適応や治療効果判定に有用である。 【Prothrombin Time】 PTが20秒以上延長した場合は急性肝不全の発症の可能性があるので、PTは初診時に測定しておく。PT延長、多核白血球増加、肝蝕知不能の3徴は肝壊死の前兆である。 【5'-ヌクレオチダーゼ】 4U/L以上に増加する。高度喫煙者でも増加するが3.8U/L以下である。 【2-5A合成酵素】 ウイルス感染時に内因性のIFNが産生されることで高値になる。2-5ASはインターフェロンが細胞膜に結合した際に誘導される酵素で、mRNAを分解し蛋白質合成を低下させる作用があり細胞やウイルスの蛋白合成を阻害する。また、ウイルス感染により免疫担当細胞で産生されるためウイルス感染初期の生体防御機構としても働いている。臨床的にこの酵素はインターフェロン療法をする際の生体反応の指標としてHBV-DNAと共に測定される。 【AFP】 10~1,000ng/mL程度に増加することがある。 【B型肝炎ウイルスコア関連抗原】 3.0logU/mL以上である。 【HBVプレコア・コアプロモーター変異】 プレコアあるいはコアプロモーター変異を認める。この検査は劇症型に移行しやすい遺伝子変異を伴ったHBVを同定する検査である。急性肝炎、慢性肝炎ではプレコア/コアプロモーターを検出することで肝炎の劇症化と組織障害の大きさが予測できる。1.コアプロモーター変異型/プレコア野生型(M/W)及びコアプロモーター変異型/プレコア変異型(M/M):肝炎が重症化する可能性がある。2.コアプロモーター野生型/プレコア野生型(W/W)、コアプロモーター野生型/プレコア変異型(W/M):自然治癒する可能性が高い。但し、検体中のウイルス量が2,000コピー/mL未満では正確な結果が得られない場合がある。 【HBc-IgM抗体】【HBs抗原】 両者が陽性なら診断は確定する。 【急性期 AST:ALT比】 10以上に増加する。 【急性期 HBs抗原】 潜伏期(臨床的、生化学的異常出現の1~6週前)に出現し、徐々に高力価になり持続し、HBe抗原も出現する。 【急性期IgM型HBc抗体】 肝炎の発症、ALT、ASTの上昇と共に出現し、平均6ヶ月間は持続的に陽性である。 【急性期 ビリルビン】 基準範囲内かわずかに増加する。 【慢性肝炎期 AST・ALT】 6ヶ月以上にわたって50%以上の増加を持続し、以後基準範囲の2~10倍まで低下する。 【慢性肝炎期 HBs抗原】 高力価を持続する。HBe抗原も消失しない。 【慢性キャリア期 AST・ALT】 基準範囲内か2倍以下である。 【慢性キャリア期 HBc抗体】 高力価で存在する。 【慢性キャリア期 HBe抗原】 消失し、HBe抗体が出現する。 【慢性キャリア期 HBs抗原】 力価が低下し、HBs抗体が出現しキャリア期の終わりを示す。 【胆汁うっ滞の評価】 ALP、γ-GT、総ビリルビンの測定が有用である。 【肝の合成能評価】 アルブミン、PT-INRを用いる。 【肝生検】 炎症の程度(グレード)、線維化の程度(ステージ)の評価に有用である。 【遺伝子型】 A、Bはインターフェロン療法に対する反応性が高い。Bは早期のHBeのセロコンバージョンと関連し、重症化しにくく、肝細胞癌の発症率も低い。 【潜伏期間】 肝炎発症前からIgG型HBc抗体は陽性化し、HBs抗原、HBe抗原、HBV-DNAなどが検出される。 【ウイルス学的治癒】 HBs抗原の消失が治癒の重要な判定基準であるので、臨床症状が安定していても必ず確認する。 |
検体検査以外の検査計画 |