疾患解説
フリガナ | イデンセイキュウジョウセッケッキュウショウ |
別名 |
慢性家族性黄疸 先天性溶血性黄疸 家族性球状赤血球症 球状赤血球貧血 |
臓器区分 | 血液・造血器疾患 |
英疾患名 | Hereditary Spherocytosis |
ICD10 | 遺伝性球状赤血球症:D58.0 |
疾患の概念 | 赤血球膜の細胞骨格蛋白に分子レベルの欠損がある先天性の赤血球膜異常で、多くは常染色体優性遺伝形式をとる。赤血球膜表面積が、赤血球内容物に対して不釣合に減少している。赤血球表面積の減少により、赤血球が脾臓の微小循環を通過するのに必要な柔軟性が損なわれ、脾臓で細網内皮系細胞により貪食され溶血が起こり貧血を来す。 |
診断の手掛 | 黄疸(間接型ビリルビン増加)、貧血(溶血)、脾腫が見られる患者で、末梢血に小型の球状赤血球を認めたら本症の可能性が高い。既往歴に胆石がある場合、家族歴に胆石や貧血がある場合は注意する。赤血球が球状で、MCVは基準範囲内のため、平均赤血球直径は基準値を下回り、赤血球は微小球状赤血球に類似し、MCHCは高値である。網状赤血球増多および白血球増多が見られる。 |
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 黄疸|Jaundice 結膜黄染|Conjunctival xanthosis 動悸|Palpitations 脾腫|Splenomegaly 皮膚黄染|Xanthoderma 貧血症状|Anemic symptom 腹痛|Abdominal pain |
鑑別疾患 |
自己免疫性溶血性貧血|Autoimmune Hemolytic Anemia(AIHA) 非球状赤血球性溶血性貧血 胆石症|Cholecystolithiasis 脾腫|Splenomegaly |
スクリーニング検査 |
Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Basophils|好塩基球 [/B] Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Calcium|カルシウム [/RBC] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/B] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B, /P] Hemoglobin A1c|グリコヘモグロビン/糖化ヘモグロビン/ヘモグロビンA1c/HbA1c [/B] Iron|鉄/血清鉄 [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B, /B] Lymphocytes|リンパ球 [/B] MCH|平均赤血球ヘモグロビン量 [/B] MCHC|平均赤血球ヘモグロビン濃度 [/B] MCV|平均赤血球容積 [/B, /B] Phosphate|無機リン [/S] Platelets|血小板 [/B, /B] TIBC|総鉄結合能 [/S] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] Uric Acid|尿酸 [/S] |
異常値を示す検査 |
2,3-DPG|2,3-ジホスホグリセレート/2,3-ジホスホグリセリン/2,3-ビスホスホグリセリン酸 [/B] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Anisocytes|赤血球大小不同 [/B] Coombs' Test|クームス試験 [Negative/S] Coproporphyrin|コプロポルフィリン [/U] Hemoglobin A1c|グリコヘモグロビン/糖化ヘモグロビン/ヘモグロビンA1c/HbA1c [/B] Hemopexin|ヘモペキシン [/S] Haptoglobin|ハプトグロビン [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-1|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-2|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lipids|総脂質 [/RBC] Lipoproteins|リポ蛋白脂質分画 [/S] N-Formiminoglutamic Acid [/U] Osmotic Fragility|赤血球浸透圧抵抗試験(サンフォード法)(パルパート法)/赤血球抵抗試験/赤血球浸透圧脆弱性試験/食塩水浸透圧抵抗試験 [/RBC] Phospholipids|リン脂質 [/S] Poikilocytes|赤血球大小不同 [/B] Pyruvate Kinase|ピルビン酸キナーゼ [/RBC] Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B] Soluble Transferrin Receptor [/S] Urobilinogen|ウロビリノゲン定性(尿) [/U, /F] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 貧血の程度は様々で、ヘマトクリット値は基準値範囲内のことがある。白血球は増加する。 【血液像】 小型球状赤血球を確認する。 【網赤血球】 全ての症例で15~30%の増加が見られる。網赤血球は大型の幼若赤血球で、細胞質内に超生体染色で染まる網状構造を持つ。末梢血液中では約1日で網状構造が取れ成熟赤血球になる。数の増加は骨髄での赤血球産生増加を、また減少は産生低下を示す。臨床的には骨髄での赤血球産生の指標、特に再生不良性貧血と溶血性貧血の診断、治療効果判定に有用である。また、鉄欠乏性貧血の鉄剤投与のモニタリングとしても用いる。 【クームス試験】 陰性である。自己免疫性溶血性貧血との鑑別に必要な検査である。 【赤血球浸透圧抵抗試験】 減弱している。赤血球浸透圧抵抗試験は血液像で赤血球形態に異常が見られ、家族歴などから遺伝性の溶血性貧血が疑われる場合に、赤血球の浸透圧に対する抵抗性を見る検査で、サンフォード法とパルパート法の2法がある。サンフォード法は生理食塩液の希釈列を、パルパート法はリン酸緩衝液食塩液の系列を用いる。測定精度はパルパート法がサンフォード法より良いとされている。臨床的には溶血性貧血を鑑別診断する直接クームス検査、砂糖水試験、HAM試験などと共におこなう。 【MCV】 赤血球は球状でMCVは基準値範囲内であるため、平均赤血球直径は基準値を下回る。 【MCHC】 しばしば36%を上回る高値になる。 【骨髄像】 赤芽球系細胞の過形成が見られる。 【2,3-ジホスグリセリン酸】 低下する。2,3-DPGは解糖系の中間代謝産物で赤血球内に存在し1:1のモル比でヘモグロビンと結合し、ヘモグロビンの酸素解離曲線を左右にシフトして組織への酸素供給を調節している。増加するとBohr効果によりヘモグロビンの酸素解離曲線が右にシフトしヘモグロビンから酸素が解離し易くなり、この生理作用により組織への酸素供給が調節される。 【ピルビン酸キナーゼ】 低値となる。PKはL型、R型、M1型、M2型の4種のアイソザイムが存在し赤血球にはR型が存在する。臨床的にはPK欠損症による溶血性貧血の確定診断に用いるほか、M1型が分布している急性心筋梗塞、筋肉疾患を疑う場合に測定する。異常値を見た場合は赤血球内酵素測定、ヘモグロビン還元試験、色素還元試験、Heinz小体形成試験やビリルビン、LD、ハプトグロビンを測定する。 【ヘモペキシン】 低値になる。赤血球から遊離したヘモグロビンはハプトグロビンと結合するが、ヘモグロビンの分解産物であるヘムはHxとアルブミンに結合する。ヘムとの結合能はHxはアルブミンより強く、ヘモペキシン・ヘム結合体を作り肝に運ばれ処理される。このため、血管内溶血が起こるとHx量が減少する。 【ビリルビン】 間接ビリルビン優位の高ビリルビン血症を認める。 |
検体検査以外の検査計画 | 腹部超音波検査 |