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疾患解説

フリガナ ジコメンエキセイヨウケツセイヒンケツ
別名 後天性自己免疫性溶血性貧血
臓器区分 血液・造血器疾患
英疾患名 Autoimmune Hemolytic Anemia(AIHA)
ICD10 D59.1
疾患の概念 赤血球膜上の抗原に対し産生された自己抗体により、赤血球が傷害され溶血を起こす疾患で、抗体の至適温度で温式抗体による溶血性貧血(37℃以上)と寒冷凝集素症による冷式(37℃未満)に分けられる。温式抗体による溶血性貧血は、女性に多くみられ、37℃以上の温度で自己抗体が反応するが、1.自然発生的、2.SLE、リンパ腫、慢性リンパ性白血病に合併して発症 3.αメチルドパ、レボドパ―などの特定の薬剤の使用後に自己抗体が生じることがあり、自己抗体の殆どがIgGである。温式抗体による溶血性貧血は、溶血が主に脾臓で起こり、重度となることが多く、死に至ることもある。寒冷凝集素症は37℃未満の温度で反応する自己抗体により発症し、原因は、1.マイコプラズマ肺炎または伝染性単核球症などの感染症 2.リンパ増殖性疾患 3.特発性が挙げられる。発作性寒冷血色素尿症(ドナート-ランドシュタイナー症候群)は、寒冷凝集素症の稀な型で、寒冷曝露で溶血し、冷水を飲んだり、冷水で手を洗うなどの行為でも発症することがある。この疾患は、IgG自己溶血素が、低温で赤血球と結合し、復温後に血管内溶血を起こす。非特異的なウイルス性疾患の感染後、または健常人でも発症するが、先天性や後天性梅毒の患者に発症することがある。
診断の手掛 温式抗体溶血性貧血は、軽度の貧血と軽度の脾腫が、また寒冷凝集素症は先端チアノーゼ、レイノー現象、寒冷時の閉塞性変化、暗褐色尿が特徴的な初発症状である。温式抗体による溶血性貧血の症状は、貧血が原因の傾向があが、重症例では、発熱、胸痛、失神または心不全を発症することがある。また、軽度の脾腫が見られる。寒冷凝集素症は、急性または慢性の溶血性貧血として発症するが、肢端チアノーゼ、レイノー症状、寒冷に伴う閉塞性変化が認められることもある。また、背部および下肢の重度の疼痛、頭痛、嘔吐、下痢および暗褐色尿や肝・脾腫が見られることもある。
【診断基準:2015年厚労省】
1.臨床所見として、通常貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン症や胆石を伴うことがある。
2.以下の検査所見がみられる。
1)ヘモグロビン濃度低下 2)網赤血球増加 3)間接ビリルビン値上昇 4)尿中・便中ウロビリン体増加 5)ハプトグロビン値低下 6)骨髄赤芽球増加
3.貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、congenital dyserythropoietic anemia、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。
4.1,2によって溶血性貧血を疑い、3によって他の疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査で病型を確定する。
5.特異性の高い検査:広スペクトル抗血清による直接Coombs試験が陽性である。
主訴 息切れ|Shortness of breath/Breathlessness
易疲労感|Fatigue
黄疸|Jaundice
嘔吐|Vomiting
悪心|Nausea
肝腫大|Hepatomegaly
胸痛|Chest pain
下痢|Diarrhea
失神|Syncope
紫斑|Purpura
出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis
頭痛|Headache/Cephalalgia
チアノーゼ|Cyanosis/Cyanopathy
知覚障害|Esthesia disorder/Sensitivity disorder
着色尿|Chromaturia
動悸|Palpitations
発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever
脾腫|Splenomegaly
貧血症状|Anemic symptom
腹痛|Abdominal pain
ヘモグロビン尿|Hemoglobinuria
腰痛|Low back pain/Lumbago
レイノー現象|Raynaud phenomenon
鑑別疾患 巨赤芽球性貧血|Megaloblastic Anemia
血栓性血小板減少性紫斑病|Thrombotic Thrombocytopenic Purpura(TTP)
骨髄異形成症候群|Myelodysplastic Syndrome
発作性夜間血色素尿症|Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria(PNH)
薬剤性肝障害|Drug-induced Liver Injury(DILI)
溶血性尿毒症症候群|Hemolytic Uremic Syndrome(HUS)
薬剤性溶血性貧血
先天性溶血性貧血
母児血液不適合
血液型不適合輸血
遺伝性球状赤血球症|Hereditary Spherocytosis
スクリーニング検査 Basophils|好塩基球 [/B]
Bilirubin-Direct|直接ビリルビン/抱合型ビリルビン [/S]
Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S]
Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S]
Calcium|カルシウム [/RBC]
Creatinine|クレアチニン [/S]
Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B]
Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B, /P, /U]
Hemoglobin A1c|グリコヘモグロビン/糖化ヘモグロビン/ヘモグロビンA1c/HbA1c [/B]
Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/RBC]
Iron|鉄/血清鉄 [/U]
Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S]
Leukocytes|白血球数 [/B, /B]
MCV|平均赤血球容積 [/B]
Neutrophils|好中球 [/B, /B]
Platelets|血小板 [/B]
Thyroid Stimulating Hormone|甲状腺刺激ホルモン [/S]
Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S]
Uric Acid|尿酸 [/S]
異常値を示す検査 2,3-Diphosphoglycerate|2,3-ジホスホグリセレート/2,3-ジホスホグリセリン/2,3-ビスホスホグリセリン酸 [/RBC]
Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S]
Antinuclear Antibodies|抗核抗体 [/S]
Antithyroid Antibodies [/S]
Cold Agglutinins|寒冷凝集反応/寒冷血球凝集反応 [/S]
Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S, /RBC]
Complement C4|補体第4成分/β1Eグロブリン/C4 [/RBC]
Complement, Total|補体価/CH50 [/S]
Coombs' Test|クームス試験 [Positive/S]
Cryoglobulins|クリオグロブリン [/S]
Erythrocyte Survival|赤血球寿命 [/RBC]
Folate|葉酸/プテロイルモノグルタミル酸/ビタミンM/乳酸菌発育因子 [/S]
Hemoglobin A1c|グリコヘモグロビン/糖化ヘモグロビン/ヘモグロビンA1c/HbA1c [/B]
Haptoglobin|ハプトグロビン [/S]
Immunoglobulins|免疫グロブリン [/S]
Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S]
Methemalbumin|メトヘムアルブミン [/S]
Osmotic Fragility|赤血球浸透圧抵抗試験(サンフォード法)(パルパート法)/赤血球抵抗試験/赤血球浸透圧脆弱性試験/食塩水浸透圧抵抗試験 [/RBC]
Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B]
Soluble Transferrin Receptor [/S]
Urobilinogen|ウロビリノゲン定性(尿) [/U, /F]
関連する検査の読み方 【CBC】
正球性正色素性貧血、網状球は増加、白血球と血小板は正常。球状赤血球と多染性赤血球が見られる。
【LD】【LDアイソザイム】
LDは増加し、LD1と2が増加する。
【ビリルビン】
増加するが血管外溶血により目立たない場合がある。
【尿沈渣】
ビリルビン尿ではしばしば大量の黄染した尿細管上皮細胞を認める。また、ヘモジデリン円柱、ヘモジデリン顆粒も認められる。
【赤血球浸透圧抵抗試験】
亢進する。赤血球浸透圧抵抗試験は血液像で赤血球形態に異常が見られ、家族歴などから遺伝性の溶血性貧血が疑われる場合に、赤血球の浸透圧に対する抵抗性を見る検査で、サンフォード法とパルパート法の2法がある。サンフォード法は生理食塩液の希釈列を、パルパート法はリン酸緩衝液食塩液の系列を用いる。測定精度はパルパート法がサンフォード法より良いとされている。臨床的には溶血性貧血を鑑別診断する直接クームス検査、砂糖水試験、HAM試験などと共におこなう。
【赤血球酵素】
欠乏なら先天性赤血球酵素欠損症である。
【赤血球寿命】
短縮なら脾機能亢進症である。
【直接クームス試験】
診断に必須の検査で98%が陽性である。正常赤血球の場合は直接クームス試験が陰性でG6PDが欠乏ならG6PD欠損症である。温式抗体性:IgG+・C3+又はIgG+・C3- 冷式抗体:IgG-・C3+
【Donath-Landsteiner Test】
発作性寒冷血色素尿症との鑑別に用いる。発作性寒冷血色素尿症の患者は、血清中に自己の赤血球と反応する自己抗体であるDonath-Landsteiner抗体を持っている。この抗体は低温で赤血球と結合し、37℃で補体を活性化し溶血を起こす。患者は寒冷暴露後に悪寒戦慄、発熱、全身倦怠感などの症状を訴え、その後溶血を示す血色素尿が見られる。臨床的には溶血所見(AST、LD増加、ハプトグロビン減少、網赤血球増加)が認められる時、血色素尿が見られる時、寒冷暴露後の溶血発作、後天性溶血疾患が疑われクームス試験陰性、寒冷凝集素陰性の時に測定する。
【HAM Test】
陽性なら発作性夜間血色素尿症である。HAM試験は溶血性貧血のスクリーニング検査でシュガーウォーターテストが陽性の場合と臨床症状から発作性夜間血色素尿症が疑われるときに行う。臨床的には発作性夜間血色素尿症に特異性を持つ検査で、診断的有用性が高い。測定の結果、発作性夜間ヘモグロビン尿症が疑われるときはフローサイトメトリーのtwo-color解析を行い、DAF(CD55)およびMIRL(CD59)が欠損した血球を確認する。
【ヘモジデリン】
尿中にヘモジデリンは認めない。ヘモジデリンはヘモグロビンの崩壊産物で脂質、蛋白、多糖類に結合している。体内で溶血が起こるとヘモジデリンが黄色の顆粒として尿中に出現する。この顆粒をPrussian blueで染色すると青藍色の尿沈渣が認められる。また、尿細管上皮細胞でも同様の染色所見がみられる。
【ハプトグロビン】
溶血したヘモグロビンと結合し消費されて低下する。ハプトグロビンが無くなるとヘモグロビンはヘモペキシンと結合する。
【ヘモペキシン】
赤血球から遊離したヘモグロビンはハプトグロビンと結合するが、ヘモグロビンの分解産物であるヘムはHxとアルブミンに結合する。ヘムとの結合能はHxはアルブミンより強く、ヘモペキシン・ヘム結合体を作り肝に運ばれ処理される。このため、血管内溶血が起こるとHx量が減少する。
【骨髄像】
赤芽球の過形成を認める。
【血液像】
球状赤血球がみられたら遺伝性球状赤血球症、免疫性溶血性貧血を考える。有棘赤血球がみられたら肝疾患、腎疾患、遺伝性有棘赤血球増加症を考える。分裂赤血球は機械的溶血による。Heinz小体が陽性なら不安定ヘモグロビン症である。
【フローサイトメトリー】
発作性夜間血色素尿症を除外する。
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