疾患解説
フリガナ | キュウセイコキュウソクハクショウコウグン |
別名 |
急性呼吸窮迫症候群 急性低酸素血症性呼吸不全 |
臓器区分 | 呼吸器疾患 |
英疾患名 | Acute Respiratory Distress Syndrome(ARDS) |
ICD10 | J80 |
疾患の概念 | 酸素投与に反応しない重症の動脈血低酸素血症で、気腔への体液貯留または虚脱により生じる血液の肺内シャントによって引き起こされ、重症肺炎、敗血症、外傷や誤嚥などを誘因として発症する。肺の微小血管の透過性亢進による非心原性の肺水腫で、血管内皮の損傷と血管透過性の亢進が特徴的で死亡率は高い。気腔への体液貯留は1.毛細血管静水圧の上昇、左室不全または循環血液量増加時 2.毛細血管透過性の亢進、急性呼吸窮迫症候群の原因となる病態がある時 3.びまん性肺胞出血、肺炎、炎症性肺疾患で見られる血液と炎症性滲出液が原因である。肺または全身性の炎症がサイトカインや炎症性分子を放出すると、サイトカインが肺胞マクロファージを活性化し、好中球を肺に遊走させ、この好中球がロイコトリエン、オキシダント、血小板活性化因子およびプロテアーゼを放出し、毛細血管内皮および肺胞上皮を傷害し、毛細血管と気腔間の壁を破壊することにより発症する。 |
診断の手掛 |
肺炎、敗血症、誤嚥、外傷などを持つ患者が呼吸困難、咳、痰、胸痛、頻呼吸や頻脈を訴えたら本症を疑う。大多数の患者ではARDSに発展するリスクのある疾患が生じてから5日以内にARDSを発症するが、50%は最初の24時間以内に起こる。初発症状の呼吸数増加を慎重に観察する。 【診断基準:米国胸部疾患学会、欧州集中治療学会合同カンファランス】 1.急性発症 2.PaO2/F1O2≦220 3.胸部X線で両側性浸潤影 4.肺動脈 楔入圧<18mmHg |
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 易疲労感|Fatigue 胸痛|Chest pain 血圧低下|Blood pressure decreased 呼吸困難|Dyspnea 咳|Cough 痰|Sputum チアノーゼ|Cyanosis/Cyanopathy 努力呼吸|Labored respiration/Labored breathing 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 頻呼吸|Tachypnea 頻脈|Tachycardia 泡沫状痰|Foamy sputum 乏尿|Oliguria 無尿|Anuria |
鑑別疾患 |
インフルエンザ|Influenza 外傷 重症急性呼吸器症候群|Severe Acute Respiratory Syndrome(SARS) 膵炎 低酸素血症|Hypoxia 肺炎|Pneumonia 敗血症|Sepsis 慢性閉塞性肺疾患|Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD) 心原性肺水腫 急性間質性肺炎 急性好酸球性肺炎 びまん性肺胞出血症候群 粟粒結核 癌性リンパ管症 肺水腫|Pulmonary Edema 薬剤(サリチル酸) 気道熱傷 熱帯熱マラリア 膠原病随伴性肺疾患 レジオネラ症/在郷軍人病|Legionnaires' Disease |
スクリーニング検査 |
Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Eosinophils|好酸球 [/B] Ferritin|フェリチン [/S] Neutrophils|好中球 [/BAL Fluid] Phosphate|無機リン [/S] Potassium|カリウム [/S] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/BAL Fluid, /Pulmonary Edema Fluid, /S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] Uric Acid|尿酸 [/S, /U] |
異常値を示す検査 |
2,3-Diphosphoglycerate|2,3-ジホスホグリセレート/2,3-ジホスホグリセリン/2,3-ビスホスホグリセリン酸 [/RBC] Angiotensin-converting Enzyme|アンギオテンシン変換酵素 [/S] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S] Carbon Dioxide Partial Pressure|動脈血CO2分圧/炭酸ガス分圧/CO2分圧/PCO2/PaCO2 [/B] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S] Cortisol|コルチゾール [/P] Elastase|エラスターゼ [/Neutrophils] Endothelin-1|エンドセリン [/P] Epithelial Cell-derived Neutrophil Activator-78 [/BAL Fluid] Estrogens|総エストロゲン(非妊婦)/エストロゲン(非妊婦) [/P] Hyaluronic Acid|ヒアルロン酸 [/S] Immunoglobulin E|免疫グロブリンE/非特異的IgE/レアギン抗体 [/S] Interleukin-1 Receptor Antagonist Protein|インターロイキン-1 レセプターアンタゴニスト [/BAL Fluid] Interleukin-1β|インターロイキン-1β [/BAL Fluid] Interleukin-1β:Interleukin-1 Receptor Antagonist Protein Ratio [/BAL Fluid] Interleukin-8|インターロイキン-8 [/BAL Fluid, /Pulmonary Edema Fluid, /S] Laminin|ラミニン [/S] Lipids|総脂質 [/S] Macrophage Inflammatory Protein-1α [/BAL Fluid] Monocyte Chemotactic Protein-1 [/BAL Fluid] Mucin-associated Antigen|ムチン様癌関連抗原 [/S] Neutrophils|好中球 [/BAL Fluid] Oxygen Partial Pressure|動脈血O2分圧/酸素分圧/O2分圧/PO2 [/B] Oxygen Saturation|酸素飽和度/O2飽和度 [/B] pH|尿pH [/B] Phospholipase A|ホスホリパーゼA [/S] Phospholipids|リン脂質 [/S] Procollagen Type III Peptide|プロコラーゲンIIIペプチド [/S] Prostaglandins|プロスタグランジンD2 [/P] SARS Coronavirus|重症急性呼吸器症候群診断(SARS)/SARSコロナウイルス [Positive/Sputum] SARS Coronavirus Antibody|SARSコロナウイルス抗体/抗SARSコロナウイルス抗体 [/S] Thromboxane A2|トロンボキサンA2 [/P] Type IV Collagen 7S Domain [/S] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/S] |
関連する検査の読み方 |
【AST】【ALT】【LD】 いずれも低酸素血症のため増加することがある。 【CBC】 細菌感染を合併すると好中球が増加する。血小板の減少がみられたらDIC発症を疑う。 【SARSコロナウイルス】 ウイルス検出に有用である。重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスであるSARSコロナウイルスの検出に有用な遺伝子診断検査である。臨床的には38℃以上の高熱が3日以上続き、頭痛、悪寒戦慄、筋肉痛、全身倦怠感、咳などの症状を訴える患者を診た場合、またSARS流行地への渡航歴を持つ患者が同様の症状を訴えた場合に測定する。陽性の場合は2類感染症の取り扱いに準じ、直ちに患者を隔離する。 【SARSコロナウイルス抗体】 陽性である。抗体はIFAの場合は感染後10日頃から、ELAISAでは20日を過ぎてから検出され始め、殆どの患者が抗体陽性になるのは3~4週後になる。 【アシドーシス】 呼吸性アシドーシスに注意する。 【動脈血ガス分析】 著しい低酸素血症を呈しPaO2:FiO2比が200以下が本症の定義である。低換気によりPaCO2が40Torr以上になる。 【PaO2:FiO2比】 呼吸終末陽圧に関係なく200mmHg以下である。 【トロンボモジュリン】 高値になることがある。 |
検体検査以外の検査計画 | 胸部X線検査、CT検査、心超音波検査、右心カテーテル検査、呼吸機能検査 |