疾患解説
フリガナ | ハイエン |
別名 | |
臓器区分 | 呼吸器疾患 |
英疾患名 | Pneumonia |
ICD10 | J18.9 |
疾患の概念 | 病原微生物により、肺実質に急性炎症を起こした状態で、市中肺炎、院内肺炎、医療ケア関連肺炎、 易感染性患者における肺炎と誤嚥性肺炎に分けられる。市中肺炎は、基礎疾患を持たない健常者が、生活環境の中で罹患するものである。また、院内肺炎は、基礎疾患を持つ患者が入院中に罹患する肺炎である。成人の肺炎で頻度の高い原因は、細菌、真菌、ウイルス、防御機構の障害であるが、肺炎球菌による感染は、全ての年齢層、環境、地域で最多の原因である。肺炎は、市中肺炎は、医療環境との接触が限られているか皆無の場合に発症する肺炎で、病原体は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、肺炎クラミジア、肺炎マイコプラズマ、Legionella属、およびウイルスである。院内肺炎は、入院から48時間以上経過後に発症し、病原体は、グラム陰性桿菌と黄色ブドウ球菌である。医療ケア関連肺炎は、介護施設に居住し、過去30日以内に点滴静注療法または創傷ケアを受けたことがある、過去90日以内に急性期病院に2日以上入院したことがある、または過去30日以内に病院または透析センターを受診したことのある、非入院患者に発症する。病原体は、通常の市中肺炎の病原体に加え、グラム陰性桿菌および黄色ブドウ球菌などである。易感染性患者における肺炎は、稀な病原体により引き起こされるが、市中肺炎と同じ病原体によって引き起こされることもある。誤嚥性肺炎は、毒性物質や胃内容物を肺に誤嚥することで引き起こされる肺炎である。 |
診断の手掛 | 成人と児童に湿性の咳、高齢者と乳幼児に乾性の咳、全身倦怠感、呼吸困難、胸痛が見られたら本症を疑う。定型的肺炎症候群では、発熱、膿性痰を伴う咳嗽、息切れ、胸膜痛などが突然発症するのが特徴的である。非定型的な肺炎症候群は、発症が緩徐で、乾性咳嗽、息切れ、全身倦怠感などの所見が少ない。市中肺炎の症状は、全身倦怠感、悪寒,振戦、発熱,咳嗽、呼吸困難、胸痛などで、咳嗽は年長の小児と成人は湿性、乳児、幼児、高齢者では乾性である。呼吸困難は軽度で、労作時に認められる。胸痛は胸膜性で、感染領域に隣接している。院内肺炎の症状は、市中肺炎と同じである。医療ケア関連肺炎の症状は、市中肺炎や院内肺炎と類似するが、咳嗽および精神状態の変化が一般的に見られ、食欲不振、筋力低下、不穏、興奮、転倒、失禁などの非特異的症状もよく見られる。易感染性患者における肺炎の症状は、市中肺炎や院内肺炎と同じであるが、易感染性患者では発熱または呼吸器徴候を欠くことがあり、また、好中球が減少している場合は膿性痰が見られない場合があり、一部の患者では、発熱が唯一の徴候である。 |
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 意識障害|Memory impaiment 乾性咳|Dry cough 胸痛|Chest pain 呼吸困難|Dyspnea 湿性咳|Wet cough 食欲不振|Anorexia 自発性低下|Reduced spontaneity 上腹部痛|Upper abdominal pain 咳|Cough 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 痰|Sputum 脱水|Dehydration チアノーゼ|Cyanosis/Cyanopathy 膿性痰|Purulent sputum 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 頻呼吸|Tachypnea 頻脈|Tachycardia |
鑑別疾患 |
肺癌|Lung Cancer エイズ/HIV感染症|Acquired Immune Deficiency Syndrome(AIDS) 間質性肺炎 急性呼吸促迫症候群|Acute Respiratory Distress Syndrome(ARDS) 重症急性呼吸器症候群|Severe Acute Respiratory Syndrome(SARS) 心筋炎|Myocarditis 心不全|Heart Failure 肺水腫|Pulmonary Edema 肺塞栓症|Pulmonary Embolism(PE) 敗血症|Sepsis 肺胞出血 肺胞蛋白症|Pulmonary Alveolar Proteinosis 貧血 慢性閉塞性肺疾患|Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD) 無気肺 免疫不全症 薬剤性肺炎 オウム病|Psittacosis |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S, /U] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Amylase|アミラーゼ [/S] Anti-Streptolysin O|抗ストレプトリジンO価/抗ストレプトリジン抗体 [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] CEA|癌胎児性抗原 [/PlF, /S] Chloride|クロール [/U] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Eosinophils|好酸球 [/B, /PlF] Erythrocytes|赤血球数 [/Sputum] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/PlF, /S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/PlF] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/PlF] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/PlF, /S] Leukocytes|白血球数 [/B, /B, /PlF, /Sputum, /U] Neutrophils|好中球 [/B, /PlF] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/PlF, /U] Rheumatoid Factor|リウマチ因子測定/RAゼラチン凝集反応/リウマチ因子定量 [/PlF, /S] |
異常値を示す検査 |
Amyloid A Protein|血清アミロイドA蛋白/アポSAA/アミロイドA蛋白 [/S] Anti-Entactin Antibodies [/S] Anti-Streptolysin-O Antibody|抗ストレプトリジンO価/抗ストレプトリジン抗体 [/S] Anti-Trichosporon Asahii Antibody|トリコスポロン・アサヒ抗体/抗トリコスポロン・アサヒ抗体 [/S] Arginine Vasopressin|アルギニンバゾプレッシン/抗利尿ホルモン/バゾプレシン [/P] Carbon Dioxide Partial Pressure|動脈血CO2分圧/炭酸ガス分圧/CO2分圧/PCO2/PaCO2 [/B] Carcinoembryonic Antigen|癌胎児性抗原 [/PlF, /S] Cells [/Sputum] Cold Agglutination|寒冷凝集反応/寒冷血球凝集反応 [Positive/S] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S] Copper|銅 [/S] Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [/P] Granular Casts|円柱 [/U] Hyaline Casts|円柱 [/U] Immunoglobulin E|免疫グロブリンE/非特異的IgE/レアギン抗体 [/PlF, /S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Ketones|ケトン体定性 [/U] Lipoproteins|リポ蛋白脂質分画 [/PlF] Neuron-specific Enolase|神経特異エノラーゼ [/S] Nitroblue Tetrazolium Test|ニトロブルー・テトラゾリウム試験/白血球殺菌能試験 [/B] Oxygen Partial Pressure|動脈血O2分圧/酸素分圧/O2分圧/PO2 [/B] pH|尿pH [/PlF, /B] Phospholipase A2 Type II [/S] Procalcitonin|プロカルシトニン [/P] Retinol|ビタミンA/レチノール [/U] Retinol-binding Protein|レチノール結合蛋白 [/U] Soluble Tumor Necrosis Factor Receptor-p55 [/S] Soluble Tumor Necrosis Factor Receptor-p75 [/S] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/PlF] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] Urinary Antigen of Legionella|レジオネラ尿中抗原/レジオネラ尿中特異抗原 [positive/U] Urinary Antigen of Streptococcus Pneumoniae|肺炎球菌尿中抗原/尿中肺炎球菌抗原 [Positive/U] Very Low Density Lipoprotein|超低密度リポ蛋白 [/PlF] Vitamin A|ビタミンA/レチノール [/U] Zinc|亜鉛 [/S] α1-Acid Glycoprotein|α1-酸性糖蛋白/オロソムコイド/α1アシドグリコプロテイン [/S] α1-Antichymotrypsin|α1-アンチキモトリプシン [/S] β-D-Glucan|β-D-グルカン [/B] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 白血球は高値、低値、基準範囲内と様々。白血球で細菌性と非細菌性の鑑別は困難である。 【UN】【クレアチニン】 水分補給状態の把握に有用である。 【喀痰一般検査】 細菌性では多数の白血球を認める。 【喀痰細菌培養】 起炎菌の60~70%は肺炎球菌。インフルエンザ流行後にはブドウ球菌性が増える。6ヶ月~2歳までの小児はインフルエンザ菌が重要である。 【血液培養】 肺炎入院患者の約12%は菌血症を有しているので、2セットの血液培養を行う。 【嫌気培養】 誤嚥性肺炎では必須の検査である。 【気管支肺胞洗浄液一般検査】 間質性肺炎、過敏性肺炎その他のびまん性肺炎の診断に有用である。 【β-D-グルカン】 ニューモシスチス肺炎の補助診断に用いる。β-D-グルカンは真菌の主要な細胞膜構成成分でカブトガニ血球を凝集させる。この性質を利用し深在性真菌症やニューモシスチス・カリニ肺炎の血液診断に使われる。ただし菌種は同定できない。 【寒冷凝集反応】 マイコプラズマ肺炎で基準範囲上限以上である。寒冷凝集素は0~4℃の低温でABO式血液型と関係なく自己赤血球、O型赤血球を凝集する抗体で、血清中の寒冷凝集素を検出する検査を寒冷凝集反応と呼ぶ。この凝集素は成人赤血球の血液型I抗原に対する抗体で、マイコプラズマ肺炎で出現するため、マイコプラズマ肺炎の診断に用いる。 【肺炎球菌抗原】 髄液中と尿中の肺炎球菌抗原は陽性である。 【レジオネラ抗原】 尿中のレジオネラ抗原はレジオネラ肺炎で陽性である。レジオネラ尿中抗原は尿中の可溶性の特異抗原を検出するもので、レジオネラ症の迅速診断に用いる。臨床的には1.明らかに肺炎像を呈するが、グラム染色、一般細菌培養で起炎菌が検出されない 2.進行性の高度な低酸素血症を発症している 3.Β-ラクタム剤やアミノ配糖体系抗菌剤が無効 4.肝機能障害、高LD値、高CK値が見られるなどのレジオネラ肺炎を疑う症状を見た場合に測定する。 【PCR】 マイコプラズマ、クラミジアを疑えば検査する。 【RSV感染】 感染の可能性のある乳児や幼児は、鼻スワブまたは咽頭スワブの迅速抗原検査が必要である。 【抗核抗体】 間質性肺炎で高頻度に弱陽性を示す。 【シアル化糖鎖抗原KL-6】 間質性肺炎の活動期には100%高値である。 【サーファクタントプロテインA】【サーファクタントプロテインD】 ともに特発性間質性肺炎で高率に高値である。SP-AはⅡ型肺胞上皮で産生されるリン脂質・蛋白質の複合体で、肺胞内に分泌され表面張力を打ち消すことで肺胞の含気を保持している。欠乏や機能低下は肺の含気を低下させ、呼吸困難をきたす。臨床的には肺野にびまん性の線維化陰影が認められた場合に測定する。また、間質性肺炎の検査基準では、LD、KL-6、SP-A、SP-Dのうちいずれか1項目以上陽性の場合は診断確定とされている。サーファクタントプロテインは肺胞II型細胞で産生され分泌される表面活性部質でA、B、C、Dの4種が同定されている。SP-Dは親水性が強く約70%が肺胞被覆層の可溶性分画に分布している。肺胞上皮細胞が損傷を受けると、この細胞に強く発現しているSP-Dが血中に増加する。臨床的には肺にびまん性の線維化陰影が見られた時に、肺損傷の程度を把握するために測定する。 【IL-2レセプター】 間質性肺炎で中等度に増加する。 【尿沈渣】 白血球、硝子円柱、顆粒円柱がみられる。 【尿検査】 蛋白、グルコースが陽性になる。 【肺炎球菌細胞壁抗原】 肺炎球菌感染症で陽性である。 |
検体検査以外の検査計画 | 胸部X線検査、CT検査、ヘリカルCT検査、気管支鏡検査、呼吸機能検査 |