疾患解説
フリガナ | マンセイスイエン |
別名 | |
臓器区分 | 消化器疾患 |
英疾患名 | Chronic Pancreatitis |
ICD10 | K86.1 |
疾患の概念 | 膵実質の破壊、線維化、石灰化を主体とした病変により、膵の内・外分泌機能障害を来す難治性の疾患で、成因としてはアルコール(アルコール性68%)が代表的であるが、遺伝性膵炎、自己免疫性膵炎、副甲状腺機能亢進症、狭窄、結石または癌による主膵管閉塞なども原因となる。発症の機序は、蛋白栓による膵管の閉塞と考えられ、蛋白栓は、糖タンパク2の過剰分泌またはCa沈着を阻害する膵液中の蛋白であるリソスタシンの欠乏の結果と考えられる。発症して数年後に進行性の線維化により、膵の内外分泌機能が喪失し、10~15年以内に20~30%の患者は、糖尿病を発症する。患者は、40~50歳代で飲酒期間10年以上、エタノール換算で一日80g以上摂取するものに発症する可能性が高い。 |
診断の手掛 |
長期に亘る大量のアルコール摂取者が、再発性の腹痛(激しい心窩部痛)や消化吸収不良による大量の排便を訴えたら本症を疑う。大半の患者は、発作性の腹痛で受診するが、約10~15%の患者は疼痛がなく消化不良のみが認められる。疼痛は、重度の心窩部痛で、長時間ないし数日間続くことがある。便中に油滴が混じる脂肪便のほかに未消化の筋線維が存在する筋線維便が見られるので、慎重に観察する。 【診断基準:2009年厚労省】 ①特徴的な画像所見。 ②特徴的な組織所見。 ③反復する上腹部発作。 ④血中または尿中膵酵素値の異常。 ⑤膵外分泌障害。 ⑥1日80g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴。 慢性膵炎確診:a、bのいずれかが認められる。 a.①または②の確診所見。 b.①または②の準確診所見と、③、④、⑤のうちの2項目以上。 慢性膵炎準確診:①または②の準確診所見が認められる。 早期慢性膵炎:③~⑥のいずれか2項目以上と早期慢性膵炎の画像所見が認められる。 |
主訴 |
黄疸|Jaundice 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 下痢|Diarrhea 消化不良|Dyspepsia 心窩部痛|Epigastralgia/Epigastric pain/Upper abdominal pein 上腹部圧痛|Upper abdominal tenderness 上腹部殴打痛|Percussion tenderness of epigastrium 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 体重減少|Weight loss 腹痛|Abdominal pain 腹部膨満感|Sense of Abdominal fullness やせ|Weight loss |
鑑別疾患 |
膵臓癌|Cancer of Pancreas 仮性嚢胞 自己免疫性膵炎 腫瘤形成型膵炎 膵管内乳頭粘液性腫瘍 慢性閉塞性膵炎 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S, /AsF] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Amylase|アミラーゼ [/Saliva, /AsF, /PlF, /S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Calcium|カルシウム [/S] CEA|癌胎児性抗原 [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Eosinophils|好酸球 [/B, /PlF] Erythrocytes|赤血球数 [/PlF] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/PlF, /S] Hemoglobin A1c|グリコヘモグロビン/糖化ヘモグロビン/ヘモグロビンA1c/HbA1c [/B] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/PlF] Leukocytes|白血球数 [/B, /PlF] Magnesium|マグネシウム [/S] Neutrophils|好中球 [/B, /PlF] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/AsF, /F, /PeF, /PlF] Sodium|ナトリウム [/Sweat] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/Saliva] CA 19-9|CA19-9 [/S] CA 242 [/S] Carnitine|カルニチン分画/ビタミンBT [/S] Carnitine, Free|カルニチン分画/ビタミンBT [/S] Carotene|カロチン/プロビタミンA/カロチノイド [/S] Chymotrypsin|キモトリプシン(便) [/F] Dihydrotestosterone|ジヒドロテストステロン [/S] EL-1|エラスターゼ-1 [/S] Elastase 1|エラスターゼ-1 [/F] Epidermal Growth Factor|上皮細胞増殖因子/上皮細胞成長因子 [/S] Fat|脂肪(糞便) [/F] Fibronectin Fragment [/U] Glucagon|グルカゴン/膵グルカゴン [/P] Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S] Hyaluronic Acid|ヒアルロン酸 [/S] Hydroxyproline|総ヒドロキシプロリン/ヒドロキシプロリン [/U] Insulin-like Growth Factor-I|インスリン様成長因子-1/ソマトメジンC [/S] Laminin|ラミニン [/S] Lipase|リパーゼ/膵リパーゼ [/S] Lipids|総脂質 [/F, /S] Nitrogen [/F] Occult Blood|潜血反応(便)/グアヤック法/o-トリジン法/ラテックス凝集法 [/F] Pancreatic Functional Diagnostant Test|PFDテスト/Bentiromide試験/BT-PABA試験 [/U] pH|尿pH [/PlF] Phospholipids|リン脂質 [/S] Procollagen Type III Peptide|プロコラーゲンIIIペプチド [/S] Scan1 [/S] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S] Somatostatin|ソマトスタチン [/P] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/PlF] Testosterone|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/S] Thiobarbituric Acid-reacting Substances [/S] Triolein 131I Test [Positive/F] Trypsin|トリプシン [/S] Trypsin-like Immunoreactivity [/S, /S] Trypsinogen-2|トリプシノゲン2 [/U] Vitamin A|ビタミンA/レチノール [/S] Xylose Tolerance Test [Abnormal/U] α2-Macroglobulin|α2-マクログロブリン [/S] β2-Microglobulin|β2-ミクログロブリン/β2-マイクログロブリン [/S] |
関連する検査の読み方 |
【アミラーゼ】【リパーゼ】 しばしば、疾患の後期には、基準範囲内で診断が困難なことがあるが、10%の患者では増加する。アミラーゼは膵型が急性増悪で高値である。尿アミラーゼは活動期に高値を示す。 【エラスターゼ-1】 再燃期には高値を示す。 【トリプシノーゲン】 低下は高度の膵外分泌機能不全を示唆する。トリプシノゲンはヒトでは3種のアイソザイムが知られているが、Trypsinogen-2は1/3を占める陰イオン性のトリプシノゲンで、急性膵炎、慢性膵炎では血中・尿中ともに増加する。 【ビタミンB12】 約40%の患者に吸収不良が見られる。ビタミンB12はビタミンB複合体の一種でDNA合成に関与している他、抗貧血因子として重要な働きを持っている。肝、卵黄、牛乳などに多量に含まれ、胃壁細胞から分泌される内因子と結合し小腸で吸収される。 【BT-PABA試験】 70%以下である。PFD試験に用いられる合成基質BT-PABAは、膵外分泌酵素のキモトリプシンで分解されPABAになり、小腸で吸収され肝で抱合を受けた後尿中に排泄される。この検査は膵外分泌機能検査用試薬(ベンチロミド)を経口投与し、キモトリプシンで分解されたPABAの6時間後の尿中排泄率を求めるもので、膵外分泌機能検査として広く使われている。ただし、軽度~中等度の障害では陽性にならないので、アミラーゼ、トリプシンなど 【グルコース負荷試験】 65%が糖尿病型で慢性再発性膵炎患者の10%以上は、明らかな糖尿病型である。 【セクレチン試験】 膵外分泌能の機能低下が60%以上消失したときに異常値が認められる。セクレチン試験はセクレチンを負荷し流出する膵液を採取して液量、アミラーゼ排出量、重炭酸塩最高濃度、重炭酸塩排出量を測定することで膵外分泌能を評価する検査である。 【糞便中脂肪量】 脂肪便が診断できるが、原因は確認できない。糞便中の脂肪は食物由来の不消化、非吸収脂肪から成り、主成分は中性脂肪と脂肪酸である。検査は糞便中の脂肪滴をズダンIII色素で染め、顕微鏡でその数を数える。一視野(400倍)中に脂肪球がなければ陰性、1~3個を弱陽性、4個以上を陽性とする。また、定量法としてvan de Kamer法がある。 【キモトリプシン】 低下することがある。キモトリプシンは膵で産生される蛋白を分解する消化酵素で、トリプシンで分解され活性化される。臨床的には慢性膵炎、膵癌、膵嚢胞線維症など膵実質障害性の疾患で産生量が低下するため膵機能のスクリーニング検査として有用である。また、慢性膵炎の診断、経過観察にはPFD試験(PA-PABA試験)と便中キモトリプシン活性の同時検査が診断基準で定められている。膵癌についてはCA19-9、CEA、DU-PAN-2などの腫瘍マーカーも同時に測定する。 |
検体検査以外の検査計画 | 腹部単純X線検査、腹部CT検査、腹部超音波検査、超音波内視鏡検査、内視鏡的逆行性胆膵管造影、MRI胆管膵管造影検査 |