疾患解説
フリガナ | キョセキガキュウセイヒンケツ |
別名 | 巨赤芽球性大球性貧血 |
臓器区分 | 血液・造血器疾患 |
英疾患名 | Megaloblastic Anemia |
ICD10 | D53.1 |
疾患の概念 | ビタミンB12または葉酸の欠乏や利用障害により、骨髄細胞のDNA合成に障害が起り、巨赤芽球が出現する大球性貧血(MCVが100fLを超える)で、好中球過分葉、巨大後骨髄球も見られる。無効造血は全ての血球系に影響するが、特に赤血球への影響が強い。また、亜急性連合性脊髄変性症を合併することもある。巨赤芽球性貧血の原因は、ビタミンB12または葉酸の欠乏か利用障害が多いが、抗腫瘍薬または免疫抑制薬によるDNA合成阻害薬剤や遺伝性オロチン酸尿症などもある。血球が成熟障害を起こすと、細胞質の成熟が核の成熟を上回り、これにより骨髄で巨赤芽球が産生され末梢血中に現れる。 |
診断の手掛 | 貧血は潜行性に進行するので、重症になるまで症状が出現しないことがある。ビタミンB12欠乏は、末梢神経障害を引き起こし、葉酸欠乏では筋萎縮、下痢、舌炎が見られる。また、年齢に相当しない白髪の出現も診断の一助になる。健診などで偶然MCVやLDの高値で見つかることもある。ダイエット食摂取者、慢性アルコール中毒者、高齢者、精神疾患患者などは栄養性葉酸欠乏になりやすいので注意する。妊娠と授乳は葉酸の一日必要量が3~4倍に増加する。 |
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 易疲労感|Fatigue 胃部不快感|Epigastric discomfort 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 感覚障害|Sensory disturbance 筋萎縮|Muscle atrophy 下痢|Diarrhea 四肢のしびれ|Sensory disturbance of Extremities 食欲不振|Anorexia 睡眠障害|Sleep disorder 精神障害|Mental disorder 舌発赤|Flare of tongue 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 動悸|Palpitations 認知障害|Cognitive impaorment/Dementia 白髪|Canities/Poliosis 貧血症状|Anemic symptom 便秘|Constipation 歩行障害|Gait disturbance |
鑑別疾患 |
アルコール依存症|Alcoholism 胃切除後症候群|Postgastrectomy Syndrome 骨髄異形成症候群|Myelodysplastic Syndrome 妊娠 熱帯性スプルー 剥脱性皮膚炎 溶血性貧血 悪性貧血|Pernicious Anemia 再生不良性貧血|Aplastic Anemia 自己免疫性溶血性貧血|Autoimmune Hemolytic Anemia(AIHA) 特発性血小板減少性紫斑病|Idiopathic Thrombocytopenic Purpura(ITP) ビタミンB12欠乏症|Vitamin B12 Deficiency 葉酸欠乏症|Folic Acid Deficiency |
スクリーニング検査 |
Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Cholinesterase|コリンエステラーゼ/ブチルコリンエステラーゼ/偽コリンエステラーゼ [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/B] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Iron|鉄/血清鉄 [/Bone Marrow, /S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/RBC, /S] Leukocytes|白血球数 [/B] MCH|平均赤血球ヘモグロビン量 [/B] MCV|平均赤血球容積 [/B] Neutrophils|好中球 [/B] Platelets|血小板 [/B] Potassium|カリウム [/S] TIBC|総鉄結合能 [/S] Uric Acid|尿酸 [/S, /U] |
異常値を示す検査 |
Acetylcholinesterase|アセチルコリンエステラーゼ/赤血球コリンエステラーゼ/真性コリンエステラーゼ [/RBC] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Amino Acids|アミノ酸分析/アミノ酸41分画 [/U] Anti-Intrinsic Factor Antibody|抗内因子抗体/抗胃抗体 [Positive/S] Anti-Parietal Cell Antibody|抗胃壁細胞抗体/胃壁細胞抗体 [Positive/S] Bleeding Time|出血時間 [/Patient] Cells [/Bone Marrow] Clot Retraction|血餅退縮能 [/B] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S] Copper|銅 [/S] Erythrocyte Survival|赤血球寿命 [/RBC] Folate|葉酸/プテロイルモノグルタミル酸/ビタミンM/乳酸菌発育因子 [/RBC, /S] Glucose-6-Phosphate Dehydrogenase|グルコース-6-リン酸脱水素酵素/ブドウ糖-6-リン酸脱水素酵素 [/RBC, /S] Hemoglobin F|ヘモグロビンF/胎児性ヘモグロビン/胎性ヘモグロビン [/B] Homocysteine|ホモシステイン/ホモシスチン/総ホモシステイン [/P, /U] Isocitrate Dehydrogenase|イソクエン酸脱水素酵素/イソクエン酸デヒドロゲナーゼ [/RBC, /S] Lactate|乳酸/ラクテート [/B] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lysozyme|リゾチーム/ムラミダーゼ/ムコペプタイド/グリコヒドロラーゼ [/S] Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/RBC, /S] Methylmalonate|メチルマロン酸 [/S, /U] N-Formiminoglutamic Acid [/U] Osmotic Fragility|赤血球浸透圧抵抗試験(サンフォード法)(パルパート法)/赤血球抵抗試験/赤血球浸透圧脆弱性試験/食塩水浸透圧抵抗試験 [/RBC] Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B] Taurine|タウリン/アミノエチルスルホン酸 [/U] Vitamin B12|ビタミンB12/コバラミン/シアノコバラミン [/S] Vitamin B12 Binding Capacity|ビタミンB12結合能 [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 正色素性大球性貧血が後期に起こり、赤血球は50万/μLまで低下することがある。貧血の程度は神経学的徴候や症状の重症度に比例しない。MCHは中等度の貧血で33~38pg、高度の貧血では56pg程度である。MCVは貧血や臨床症状出現前に95~110fLに増加し、貧血が進むと110~150fL程度になる。120fLを超えたら巨赤芽球性貧血の可能性が高い。白血球減少、血小板減少を伴うことがある。 【血液像】 大型の5分葉以上の好中球が最も早期にみられる。5分葉の大型好中球が2つ以上あれば強く疑われ、6分葉以上のものがみられれば診断は確定的。赤血球では大赤血球症、赤血球大小不同、変形赤血球とHowell-Jolly小体がみられる。赤血球分布幅(RDW)は増加する。 【網赤血球】 通常は減少、血小板と白血球も減少することがある。 【骨髄像】 巨赤芽球と赤芽球の過形成を認める。また、巨大な後骨髄球が特徴的である。骨髄生検はMDSや急性白血病との鑑別に有用である。 【赤血球鉄染色】 異常鉄芽球が増加する。 【パス染色】 赤白血病に出現する巨赤芽球様細胞との鑑別に有用である。 【血小板寿命・回転】 血小板無効造血により寿命が正常で回転が低下する。 【抗胃壁細胞抗体】 悪性貧血では診断上、内因子抗体より特異度は高い。巨赤芽球性貧血でも見られることがある。壁細胞はガストリン、ヒスタミン、アセチルコリンの刺激を受け胃酸分泌を行う細胞で、胃主細胞に次いで多い細胞である。この胃壁細胞に対する自己抗体がPCAで悪性貧血と萎縮性胃炎が疑われる場合に測定される。特に悪性貧血では、この抗体と内因子抗体が産生され、抗胃壁細胞抗体の陽性率は75~100%と高いが健常者でも10%以下、高齢者では10~15%程度が陽性となる。この抗体が陰性で、かつ血清ペプシノゲン値が低値の場合は胃癌のリスクが高いという報告があるので注意する。 【抗甲状腺抗体】 悪性貧血患者の50%は抗甲状腺抗体を持つ。 【抗内因子抗体】 悪性貧血患者の75%に存在するのでビタミンB12と抗内因子抗体陽性で診断が確定する。疾患特異的な検査である。内因子は胃壁細胞から分泌され、ビタミンB12と結合し回腸で吸収されるため、ビタミンB12吸収に必須の物質である。IF-ABは内因子に対する自己抗体でビタミンB12と内因子の結合を阻害するI型抗体と内因子と回腸の内因子受容体との結合を阻害するII型抗体に分けられる。臨床的には悪性貧血の診断に高い有用性がある。悪性貧血の診断では抗胃壁細胞抗体も用いられているが、抗内因子抗体のほうが特異性が高く、I型抗体の陽性率は70%程度とされているが、II型抗体の陽性率は40%程度である。また、悪性貧血でも30%程度は抗内因子抗体が陰性である。悪性貧血の確認は1.大球性貧血と好中球過分葉。2.骨髄塗抹標本での巨赤芽球の検出。3.ビタミンB12と葉酸の測定。4.抗胃壁細胞抗体の検出。5.L-バリン負荷試験による尿中メチルマロン酸の高値。6.Schilling試験による。 【シリング試験】 ビタミンB12の吸収低下を認めが、治療方針を左右することは無いので殆ど実施されなくなった。 【ビタミンB12】 通常100pg/mL以下に低下する。欠乏患者の30%は神経症状を伴う。 【葉酸】 低値で、特に赤血球葉酸値の測定は重要である。赤血球葉酸値は、全身の葉酸貯蔵量を示す指標として血清葉酸値よりも正確であり、治療開始後に測定すると有用である。葉酸はビタミンB複合体の一つで、緑色野菜、小麦、大豆、肝、牛肉、キノコなどに含まれ、体内では核酸合成の基質として生命の維持に大切なビタミンである。葉酸欠乏は細胞の分裂・増殖に大きな影響を与える。臨床的には末梢血中に過分葉好中球が出現し大球性貧血を呈する巨赤芽球性貧血を疑う場合に測定する。 【LD】【間接ビリルビン】 LD-1と2が増加するが、1>2である。LDと間接ビリルビンの上昇は生成途中の異常赤血球系細胞の髄内破壊を反映している。 【メチルマロン酸】【ホモシステイン】 ビタミンB12欠乏症では両者が高値になる。葉酸欠乏症はホモシステインは高値になるがメチルマロン酸は増加しない。この検査は組織中のビタミン貯蔵量が測定できる。 |
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