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疾患解説

フリガナ カスイタイゼンヨウキノウテイカショウ
別名
臓器区分 内分泌疾患
英疾患名 Anterior Pituitary Hypofunction
ICD10 E23.0
疾患の概念 部分的または完全な下垂体前葉機能の欠損により、下垂体前葉から分泌されるプロラクチン、成長ホルモン、ゴナドトロピン、ACTH、TSHのいずれか、もしくは、複数のホルモンの分泌低下により引き起こされる病態である。自己免疫、腫瘍、手術、遺伝子異常などが原因で、下垂体腺腫と特発性で50%を占める。一般的には、最初に成長ホルモンが欠乏し、次にゴナドトロピン、最後に甲状腺刺激ホルモンおよびACTHが欠乏する。全てのホルモンが欠乏すると、あらゆる標的内分泌腺の機能が低下し、汎下垂体機能低下症を発症する。
診断の手掛 全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、不活発などの非特異的症状で始まるが、典型的な症状と徴候は、下垂体前葉から分泌されるホルモンの分泌異常の組み合わせによる。一般的には、まずゴナドトロピンが欠乏し、次にGH、最後にTSHとACTHが欠乏する。
【ゴナドトロピン分泌低下症 診断基準:2015年厚労省】
1.主要項目:(1)主症候:①二次性徴の欠如(男子15歳以上、女子13歳以上)または二次性徴の進行停止 ②月経異常(無月経、無排卵周期症、既発月経など) ③性欲低下、勃起障害、不妊 ④陰毛・腋毛の脱落、性器萎縮、乳房萎縮 ⑤小陰茎、停留精巣、尿道下裂、無臭症(Kallmann症候群)を伴うことがある。 (2)検査所見:①血中ゴナドトロピンは高値ではない。②ゴナドトロピン分泌刺激試験に対して血中ゴナドトロピンは低ないし無反応。ただし、視床下部性ゴナドトロピン分泌低下症の場合は、GnRH(LHRH)の1回または連続投与で正常反応を示すことがある。③血中・尿中性ステロイド低値 ④ゴナドトロピン負荷に対して性ホルモン分泌増加反応がある。
2.除外規定:ゴナドトロピン分泌を低下させる薬剤投与や高度肥満・神経性食欲不振症を除く。
3.診断基準:確実例:(1)の1項目以上と(2)の全項目を満たす。
【ACTH分泌低下症 診断基準:2015年厚労省】
1.主要項目:(1)主症候:①全身倦怠感 ②易疲労性 ③食欲不振 ④意識消失(低血糖や低Na血症による) ⑤低血圧  (2)検査所見:①血中コルチゾール低値 ②尿中遊離コルチゾール低値 ③血中ACTHは高値ではない。④ACTH分泌刺激試験に対して血中コルチゾール低反応を示す。 ⑤迅速ACTH負荷に対して血中コルチゾールは低反応を示す。ただし、ACTH-Z連続負荷に対しては増加反応がある。
2.除外規定:ACTH分泌を低下させる薬剤投与を除く。
3.診断基準:確実例:(1)の1項目以上と(2)の①~③を満たし、④あるいは④および⑤を満たす。
【TSH分泌低下症 診断基準:2015年厚労省】
1.主要項目:(1)主症候:①耐寒能の低下 ②不活発 ③皮膚乾燥 ④徐脈 ⑤脱毛 ⑥発育障害  (2)検査所見:①血中TSHは高値ではない。②TSH分泌刺激試験に対して、血中TSHは低反応ないし無反応。ただし視床下部性の場合は、TRHの1回または連続投与で正常反応を示すことがある。
2.除外規定:TSH分泌を低下させる薬剤投与を除く。
3.診断基準:確実例:(1)の1項目以上と(2)の全項目を満たす。
主訴 易疲労感|Fatigue
インポテンツ|Impotence
嘔吐|Vomiting
悪心|Nausea
筋力低下|Weakness
嗄声|Hoarseness
食欲不振|Anorexia
身体機能低下|Physical deconditioning
徐脈|Bradycardia
精神機能低下|Hyponoia
全身倦怠感|General malaise/Fatigue
耐寒能低下|Decrease in cold function
体重増加|Obesity
脱毛|Alopecia
低血糖|Hypoglycemia
低血圧|Hypotension/Hypotonia
二次性徴欠如|Absence of secondary sex characteristics
発汗異常|Dyshidrosis/Paridrosis
発育障害|Developmental disability/Disorder of growth and development
皮膚乾燥|Xeroderma
肥満|Obesity/Adiposity
不活発|Inactivity
浮腫様顔貌|Edematous face
無月経|Amenorrhea
鑑別疾患 下垂体炎
下垂体腫瘍|Pituitary Tumor
頭蓋咽頭腫
ホルモン不応症
脳腫瘍|Cerebral Tumor
コルチコステロイド離脱症候群
クッシング症候群|Cushing's Syndrome
潜在性甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症|Hypothyroidism
中枢性尿崩症|Diabetes Insipidus,Central(CDI)
神経性食欲不振症
全身性消耗性疾患
視床下部症候群
低血糖症|Hypoglycemia, Unspecified
アジソン病/急性副腎不全|Addison's Disease/Adrenal Crisis
スクリーニング検査 C-Peptide|C-ペプチド [/P]
Chloride|クロール [/U]
Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S]
Eosinophils|好酸球 [/B]
Follicle-stimulating Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P]
Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S]
HDL-Cholesterol|HDL-コレステロール/高比重リポ蛋白コレステロール [/S, /S]
Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B]
Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B]
LDL-Cholesterol|LDL-コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール [/S]
Leukocytes|白血球数 [/B]
Lymphocytes|リンパ球 [/B]
Phosphate|無機リン [/S]
Sodium|ナトリウム [/S, /U]
Thyroxine (T4)|総サイロキシン/総T4/サイロキシン/チロキシン [/S]
Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S]
Thyroid Stimulating Hormone|甲状腺刺激ホルモン [/S]
Thyroxine(T4)|総サイロキシン/総T4/サイロキシン/チロキシン [/S]
異常値を示す検査 17-Ketogenic Steroids|17-ケトジェニックステロイド [/U]
17-Ketosteroids|17-ケトステロイド [/U]
Androgens|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/P]
Angiotensin|アンギオテンシンI [/P]
Anti-Anterior Pituitary Cell Antibody|抗下垂体細胞質抗体/抗下垂体抗体-1 [Positive/S]
Apolipoprotein B|アポリポ蛋白B [/S]
Basal Metabolic Rate [/Patient]
C-Peptide|C-ペプチド [/P]
Chylomicrons [/S]
Corticotropin|副腎皮質刺激ホルモン/コルチコトロピン [/P]
Cortisol|コルチゾール [/P]
Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S]
Gonadotropin, Pituitary|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P, /U]
Growth Hormone|成長ホルモン [/P]
Growth Hormone-releasing Hormone Test|GH-RH負荷試験/成長ホルモン放出ホルモン負荷試験 [/S]
Insulin|インスリン [/P, /P]
Insulin-Like Growth Factor Binding Protein-3|インスリン様成長因子結合蛋白-3型/IGF結合蛋白-3 [/S]
Insulin-Like Growth Factor-I|インスリン様成長因子-1/ソマトメジンC [/P, /S]
Insulin-Like Growth Factor-II|インスリン様成長因子-2 [/S]
Leptin|レプチン [/S]
Lipoprotein Lp (a)|リポ蛋白(a)/リポプロテイン(a) [/S]
Luteinizing Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P]
Osteocalcin|オステオカルシン [/S]
Pregnanetriol|プレグナントリオール [/U]
Progesterone|プロゲステロン/プロジェステロン [/P]
Proinsulin|プロインスリン [/P]
Prolactin|プロラクチン/乳汁分泌ホルモン [/P]
Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [/P]
Rapid ACTH Test|迅速ACTH試験 [/P]
Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B]
Testosterone|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/S]
Thyrotropin-releasing Hormone Test|甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン負荷試験/TRH負荷試験 [/S]
Volume [/U]
関連する検査の読み方 【Na】
低Na血症が見られるが、高K血症は生じない。
【ACTH】
副腎皮質機能低下症なら低値である。ACTHは下垂体前葉から分泌されるポリペプチドで、副腎皮質からのコルチゾール分泌を調節している。分泌はパルス状のためコルチゾールの分泌もパルス状になる。ACTHの分泌は副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンとコルチゾールによるネガティブフィードバックで調節されている。臨床的には視床下部-下垂体-副腎皮質系疾患の診断、病態解明に用いるほか、副腎皮質機能低下症の原因究明に用いる。
【迅速ACTH試験】
低反応か無反応である。副腎皮質のACTH受容体を介したステロイド合成分泌刺激作用を利用した刺激試験である。合成ACTHを0.25mg静注し採血前、30分、60分後に採血しコルチゾールを測定する。正常反応は、負荷後30分または60分値が負荷前の値の2~4倍になる。副腎皮質機能低下症では反応が低下する。
【FT4】【TSH】
甲状腺機能低下症ならいずれも低値である。
【TRH負荷試験】
低ないし無反応である。健常者ではTRH投与にGHは反応しないが、先端巨大症の約2/3はGHの上昇がみられ奇異反応とされている。また、TRHは下垂体前葉のPRL産生細胞に作用し、PRLの分泌を促進する。このため、TRHに対するPRLの反応低下は、視床下部障害ではなく、下垂体自体に原因がある下垂体機能低下症であることが分かる。TRHに対するTSHの反応低下は甲状腺機能亢進状態や下垂体機能低下症で見られる。
【アンドロステンジオン】
基準範囲下限以下になることがある。
【コルチゾール】
低下する。ACTHと同時測定しACTHの値で疾患を判断する。コルチゾールは副腎皮質束状層から分泌されるグルココルチコイドの主成分で、下垂体性ACTHによって分泌が調節されている。肝と腎で代謝され尿中に排泄されるが、コルチゾール分泌量の20~30%は尿中17-OHCSとして測定される。生理作用は糖代謝、脂肪代謝、蛋白代謝、水・電解質代謝と免疫機構への関与で生命維持に欠くことのできないホルモンである。臨床的には下垂体-副腎機能異常、副腎機能亢進症・低下症、下垂体機能低下症を疑う症状のある患者に測定が必要となる。
【GH-RH負荷試験】
低反応か無反応である。GHRHは下垂体前葉のGH産生細胞に直接作用し、GH分泌を促進するため、視床下部を介するインスリン負荷試験などとは作用機序が異なる。このため、視床下部障害によるGHRH分泌低下では、GH分泌がみられるが、下垂体のGH産生細胞障害ではGHの分泌が低下する。
【ソマトメジン-C】
下垂体性小人症の殆どで基準範囲の5~15%、活動性の先端巨大症では全て基準範囲の4~12倍である。
【デヒドロエピアンドロステロン】
基準範囲下限以下になることがある。
【プロラクチン】
低下し、刺激試験に反応しない。
【抗下垂体細胞質抗体】
抗下垂体細胞質抗体は下垂体に対する自己抗体と考えられている。臨床的には自己免疫性下垂体炎で陽性になるため、この疾患の発症機序に関与しているとされている。臨床的には自己免疫性下垂体炎、ACTH欠損症、1型糖尿病、橋本病、Basedow病で陽性を示す。陽性の場合は下垂体前葉機能検査、甲状腺機能検査、副腎皮質機能検査、糖代謝などの検査を行う。
【複数ホルモンの評価】
下垂体機能の最も効率的な方法で、GH放出ホルモン、CRH、GRH、GnRHをまとめて靜注し、グルコース、GH、コルチゾール、プロラクチン、TSH、LH/FSH及びACTHを頻回測定する。
検体検査以外の検査計画 頭蓋骨単純X線検査、トルコ鞍単純X線検査、高分解能CT検査、MRI検査、脳血管造影検査、ポジトロンCT検査、視野検査

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